「俺が行くべきだったんだ・・・あそこに」
穴の中でカールは独り言のように呟いた。
「行方不明になった先発隊員のことか?」
「ああ、奴の姿はここからでも稀に見える。俺もユクモ村出身だが、正直あの化け物は人間には無理だと思っている。あんたも見ればわかる。アレは人の手でどうこうできる存在じゃない。仲間さえ戻って来てくれりゃあ・・・」
「故郷は捨てられない。そうだろ?」
「ああ、確かにな・・・でも・・・」
「仲間は助ける。奴も倒す。あんたらは撤退の手助けをしてくれ。道中の雑魚は頼むぞ。それにあんたは皆の隊長だ。隊長がそんな弱気でどうするんだ?」
・・・
「そうだな。出来ることをするよ。でも情けないが我々は戦闘能力が殆どない。すまないが仲間の事を頼んだ」
「わかっている。任せておいてくれ」
「エイス!そろそろ行かねえと!!」
マークが下から叫んでいる。
エイスは手振りで答えた。
(マーク奴何を焦っているんだ?)
エイスは下に降りると菓子を口に放り込み、既に冷めている茶を一気飲みすると荷車に乗り込んだ。
「俺も行くぞ」
「ダメよ」
ランバート・ヒックスも続く。
「そうです。貴方は隊長ですよ?お気持ちはわかりますが、ここはジアースとシモンスキーに任せるべきです。それに・・・」
「おい!来るなら早くしてくれ!」
「マーク、会話は5分もかからない。何を焦っているんだ?」
「別に・・・何もねえよ」
カール・マクダウェルが続ける
「わかったよ。ランバート、マイラ、俺は隊長失格だな。ジアース、シモンスキー、頼んだぞ」
「仲間を必ず連れ帰るように。道中のハンターさんの援護もお願いします」
「はい」
「大丈夫っす。任せるっす」
ジアースがエイス。シモンスキーがマークの荷車にそれぞれ乗り込んだ。
「もし、嵐龍を倒したとしても大勢の飛竜が霊峰に戻ってくる可能性があるし、危険だから気球は飛ばせないわ。隊員を保護出来たとしたら衰弱している危険があるし5人以上乗せられないから地上の方が安全かも」
「わかった。積載道具もあるし帰りは全員荷車で定置点まで守るさ」
「お願いね。エイスさん、マークさん」
被害を少なくする為エイス達の荷車2台。
各荷車にガーグァを1頭ずつ増やし、速度を落としてゆっくり進んだ。
一行は定置点を後にした。
「ジアース君達が用意してくれた道具。助かったよ」
「・・・いえ、奴に効きそうなものを集めたんですがお気に召すかどうか」
「主に使うのは奴にではなくて倒した後の撤退戦時だな。ここら一帯が晴れて今隠れている奴らがうじゃうじゃ出てくるかもしれん。その時何も無いです。じゃ話にならないからな」
エイスはそう言いながら出発前シェラから貰ったユクモの秘薬4つのうち2つをマークに渡さないでいた。
シェラの手紙が気になる。
(マークさんにはお気をつけくださいまし)
エイスも何となくだがマークの本心に気付いていた。
せめて倒すまでは何事も無ければいいんだけどな・・・とエイスは心から思った。
例の岩山まで驚くほど何事もなく進むことが出来た。
観測隊員3名が行方不明になって19日目の夜になった。昼までの暴風雨が嘘のように空には星が見えている。
つまり、一帯は嵐龍の餌場ということだ。
道中は勿論の事、常に上を監視しながら慎重に進む。
荷車を草むらに隠し、ガーグァが上空から発見されないように木の葉で隠し、アイルー達に守らせた。
エイス達4人は慎重に身を隠しながら嵐の目の山、嵐目山(らんもくさん)の麓に辿り着いた。
「ハーケン、三点支持を簡単に説明するから俺の後に着いてきて欲しいっす。殿はジアース。君に頼んだよ。滑落注意、確認」
「了解。ハーネス各自点検・・・良し」
上を見上げれば、嵐目山は35m超ある大きい岩山だ。
エイス達のすぐ横を滝が落ちている。
このまま登っていけば滝の裏に横穴があるかもしれない。
かもしれないのでエイス達は崖をこのまま登ることにした。
無ければ足場に注意してそのまま登っていけばいい。
予想は的中した。
長い年月をかけて水が浸食し穴を広げていったのだろう。
「滝に濡れると足が滑るので気をつけて入って欲しいっす」
最後に入ったジアースを含めて全員が目にしたものは酷く痩せてこちらをじっと見ている2人の隊員だった。