渓流のあちこちに先日降った雨の溜まりがある。
猪達の沼田場(寄生虫や汚れを落とすために泥を浴びる場)を辿る。
一歩。
ニ歩。
木に体を擦った跡を確認しながらゆっくりと距離を詰める。
猪達の寝床は荷車の停車位置からそう遠くない距離にあった。
エイスは体に括り付けていた爆薬をいくつか適当に辺りに置いた。
(小さいのを爆殺と同時にデカイのをやるか)
大猪の頭に剣を突き立てようと腰のモノに手を掛ける。
その時殺気を感知した大猪。
大きく後ろに飛びのいた。
剣先が空を切り地面を叩く。
大猪は鼻息を荒くしてエイスを睨みつける。
点火。
爆発音が静寂の森に鳴り響いた。
20頭いる小猪のうち5頭は爆殺したが残りの15頭がボスである大猪の元へ集まってきた。
見事な統率である。
怒りを露わにした大猪はその巨体には似合わない突進力でエイスに向かってきた。
と同時に大猪に従う小猪も突っ込んできた。
小型を盾でいなし、大型に切りかかったが浅い傷しかつけられない。
睡眠時、大型を仕留められないとなると事がややこしくなった。
相手は計16頭。
大型に集中していたら小型に轢かれる。
小型に気を取られていたら大型に殺される。
持っている爆薬を全部使ってばら撒くしかない。
そう思ったエイスは、攻撃を避けながら爆薬を点火しながら辺りに撒いた。
身につけていた爆薬を全て使い切った時、辺りは肉の焦げた匂いと木々が燃えてその煙で視界は悪くなっていた。
幸い爆薬に燃焼力がなかったので炎が周りの木々に燃え移ることは無かったが、エイスはことが終わってからそれに気づき冷や汗を流した。
この場に残ったのは所々火傷の人間1人と5匹の小猪、そして片目が潰れ右牙が一本折れている大猪である。
勿論死んだものはそのうちに含まれていない。
(策はここまでだ。後をどうするか・・・)
小猪達を牽制しつつエイスは考えたが上手く考えが纏まらない。
幸い、何故だか猪達は攻撃を仕掛けて来なかったので、エイスはその間に鞄から応急薬を取り出し傷口に塗りたくった。
(数は減らした。小型は邪魔だが大型はもっと厄介だ。突進を避けることはできても深傷は負わせられない。小型を盾でいなしながら・・・!?)
考えている最中、全頭がエイス目掛けて突っ込んできた。
なりふり構わず土埃を上げ、目を血走らせ、自分達に害を成す者であろうエイスを殺しにかかってきたのだ。
『生きるか、死ぬか!!』
エイスはそう叫ぶと一番手、二番手の小猪を盾で流し三番目に来た大猪の頭に剣を突き立てた。
その勢いで剣を落としてしまったがそれより後続の小猪に轢かれては堪らないので、体勢を崩しながらも、横へ飛びのいた。
ボスを失ったはずの小猪達はエイスが剣を拾うのと同時にエイスに向かって更に怒りを露わにして攻撃をかけた。
エイスは満身創痍だったがこのままぼーっと立っていては永眠しかねない。
左手の盾を捨て短刀を逆手に持ち片手剣との二刀流にすると一、ニ、三、四頭と立て続けに切り捨てたが、最後の一頭の突進をモロに喰らいエイスは吹っ飛んだ。
近くにあった蜂の巣を掴み小猪に投げつけると、最後の力を振り絞り頭に刃を突き立てた。
『終わった・・・ようやく・・・』
上空の監視気球が恐らく狼煙玉を御者のマイムの元へ投下するであろう。
しばらくしてマイムが荷車を引いて来た。
エイスはようやく安堵した。
「それにしても危なかった。ざまぁ無いな。」
「何言ってるんですかニャ。20頭のちっちゃいのとボスを倒した旦那は凄いニャ。」
「ありがとう。マイム。・・・ん?」
雷光虫が辺りの暗緑を照らし始めた。