英雄譚   作:繊細なゆりの花

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第4話

エイスは思う。

こんなに雷光虫が集まるのはおかしいと。

直後、エイスの体に殺気が伝わる。

激しい咆哮と共に大気が震えた。

 

「旦那・・・」

 

間違いない。雷狼竜だ。

 

道具もない。

装備も破損。

回復薬も切れている。

 

大猪との戦いで全て使い切ってしまった。

残っているのは気力だけ。

気力だけではこの化け物は倒せない。

 

「逃げるぞ。勝ち目がない」

 

「はいな」

 

だが、タダで逃げることはできない。

 

高さ約4メートル、全長(頭から尻尾)10メートル。狼を数倍逞しくしたような外見で、

背中を見せれば人間の走るスピードを遥かに凌駕した脚力で追ってくる。

 

幸いまだ目視されていないが、匂いで既に、存在は気づかれている。

 

エイスは急いで近くの爆散している猪の遺骸の破片を乱雑に掴み、その匂いを身体中に塗りたくった。

 

息を潜めゆっくり後ずさる。

エイスは木に隠れながら次の手を考えた。

時間が経てば経つほど死ぬ確率が上がってくる。

 

とにかく雷狼竜との距離を取り、川を利用し逃げようと頭で考えながら村への道のりを急いだ。

 

小さかった足音がだんだん大きくなってくる。

 

(もうすぐ川だ!間に合え!!)

 

間一髪。水に飛び込んだエイスは川の中で武器を構えながら後ろ向きに進み向こう岸にたどり着いた。

 

川幅9メートル。深さ80センチ。雷狼竜は帯電している為、幅の大きい川の中に入ることはできない。

 

そしてもう一つエイスにとって運が良かったのは、短刀を持つ反対の手で岩を掴みながら渡れた事である。

 

対岸に着いてまだ雷狼竜が低く唸っているのを見てエイスは驚きと共に少量のアドレナリンが身体中を駆け巡った。

 

「馬鹿がっ」

 

持っていた短刀を即座に投げつけそれが右目に命中したのを確認すると、踵を返し村へと急いだ。

 

走りながらマイムは言った。

 

「旦那、上手くやりましたね」と。

 

しかし、エイスは思った。

討伐部位は回収していないし雷狼竜は生きている。

村に帰ったらなんて言い訳しようかと・・・

 

静寂な森の闇が、疲れて傷だらけのエイスの体を包んでいる。

村までの道のりがやけに長く感じた。

とても長い夜だった。

 

村に着くなり、エイスは再出血した箇所だけを処置し、痛み止めを飲んで横になった。

幸い、大きな裂傷は無かったので、エイスは浅いながらも眠りにつくことができた。

 

 

翌日、太陽の光が村全体を明るく照らした頃、エイスは村長の家の門を叩き、昨日起こった出来事を全て話した。

 

「そうでしたか・・・」

 

村長はそれだけ言うと何か考えている様だった。

 

「だから今日中に大猪とその群れの部位の回収と雷狼竜の縄張りの確認だけでもしたい」

 

村に直接被害が無くても事実上の依頼失敗でエイスが焦っていると思い、村長は止めたがエイスは頑なにそれを拒否した。

 

 

足取りは日が経つ事に無くなってくるし、目を潰された雷狼竜が匂いを辿りこの村までやって来ないと言う保証は無い。

 

自分で蒔いた種は、直ぐに自分で刈り取らなければエイスは気が済まなかった。

 

 

「解りました。では、早朝到着した増援のハンター様とご一緒くださいまし。村周辺の事情は説明してあります。今は村を一通り見終え、集会浴場で一杯呑んでいると思いますわ。しきりに、酒が飲める場所はどこか?と仰っていましたから」

 

「んー・・・あっそうそう。忘れていました。これを貴方様に」

 

村長がエイスに渡したのは首から下げることの出来る青いお守りだった。

 

「私の故郷で採掘された石を生成して作ったお守りですわ。魔除けのおまじないです」

 

「わかった。ありがとう。心遣い感謝する」

 

(やはり、やり手の村長だな。今昼時。昨日起きたことをあらかた予想し手を回している。それにしても真っ昼間から酒だと?いっぱいでは無く一杯だけならいいのだが・・・)

 

 

 

 

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