英雄譚   作:繊細なゆりの花

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第7話

 

(帯電してもその光を使わせなければいいって事よ)

 

マークは装填している弾の全てを雷狼竜の角に叩き込んだ。

 

生物というのは命の危険にさらされ、追い込まれると、なりふり構わず暴れるか逃げることを選択する。

 

この狼は前者だった。

 

甲高い声とともに体を軸に回転し跳んだ。

 

2人の攻撃を躱す為の行動なのだが、すぐ横にいたエイスの頬を深々と切り裂いた。

 

幸いなことにそれだけで済んだ。

 

尻尾を切っていなかったら首ごと持っていかれただろう。

 

その雷狼竜の着地点にマークがいた。

 

急ぎマークは半身を翻し、それを躱すと追撃の横殴りを武器で防いだが、粉砕された。

 

雷狼竜の太い腕がマークに振り下ろされようとした刹那

 

「うおぉぉぉおぉお!」

 

エイスは体を軸に、遠心力を利かせて雷狼竜の右目側から剣斧を投げた。

 

マークの目と鼻の先で頭をかち割られた雷狼竜は、微動だにする事なく絶命した。

 

「あっぶねぇ、俺を殺すつもりかよ。寿命が10年縮まっちまった」

 

「当たっても当たらなくても死んでいたろ?」

 

「ちげえねえ。それにしてもよく当たるな。武器を投げる戦法は木こり時代もやっていたのか?」

 

「いや・・・そういえばこの村に来てから投げまくっているな。偶然だろ?」

 

「まあそのおかげで俺は命拾いしたんだけどな。信号弾上げるぞ?テン達にも剥ぎ取ってもらわなくちゃな」

 

エイス達はすぐにその後やってきたマイムとテンと共に雷狼竜の遺骸から取れるものを全て剥ぎ取った。

 

エイス一行は渓流を後にした。

 

村に到着した頃には日が暮れていた。

 

「あーーー酒も風呂もやりてえがまずは村長のとこか」

 

大体の素材は2人で山分けしたが碧玉(雷狼竜の体から一つだけ取れる体内で生成された宝玉)はエイスが貰った。

 

その玉をエイスに渡した時のマークの目にエイスは少し違和感を覚えた。

 

 

          間話

 

ユクモ村より北北西約8里。

 

ジーナ村でエイスは生まれた。

 

彼が幼い頃、家は貧しかった。

物心つく頃、既に母親は居なかった。

 

父親と2人きりで幼少期を過ごし、その父親は真面目な男なのだが、酒を呑むとよくエイスに暴力を振るった。

 

その事が理由なのかエイスはやがて盗みの常習犯となり、村のガキ大将で手がつけられなくなった。

 

盗み癖はエイスが15の時完全に治ったが

事あるたびに父親はエイスを殴った。

 

エイスの強迫観念にすら近い生真面目な性格は、生来のものではなく、厳格な父親による暴力を受け続け、それが成長とともに自身の性質となり、盗みや暴力に対して敏感になった。

 

他人の暴力に対し、過度な暴力で対抗することもあったという。

 

父親は彼が18歳の時病死した。

 

父親の死後、彼は木こりの仕事を引き継ぎ生計を立てていた。

 

祖父の代から伝わる鉞〔まさかり〕一本で伐採中遭遇する牙獣種や、狗竜種を撃退してきた。

 

その姿を見たジーナ村に派遣されていたハンターがエイスを推薦し、ギルドがユクモ村周辺の調査を依頼したという。20歳の時である。

 

ハンターが常に人手不足だからなのか、何故彼が選ばれたのかは分からない。

 

これは筆者の憶測なのだが、ユクモ村の村長がジーナ村の彼の噂を聞き、ハンターを使ってスカウトしたのではないかと思う。

 

村長シーラ・ステルヴィア。

 

年齢は推定40くらいで龍神族。

 

元熟練ハンター、集会浴場の女将。

 

調べてもこのくらいしかわからない。

 

ただ、彼女がユクモ村村長として座してからは、みるみるうちに村が活気付き、衰退していた林業が利益を取り戻し、温泉も集会浴場の他に2箇所新に堀り、その効能と名は遠く砂漠の国ロックラックにも知られているという。

 

ベラード・ダイス著

嵐龍記 間話・手記より抜粋

 

 

 

 

 

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