ホグワーツの司書   作:影尾カヨ

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賢者の石
ほんの小さなプロローグ


 ホグワーツ魔法学校。夜も遅くなり静まり返った薄暗い部屋に、僕とマクゴナガルが向かい合って座っている。目の前のチェス盤の駒を動かしながら、僕は口を開く。最近はまた老いを実感するようになった。生徒たちから裏で老人扱いされているという噂も聞いたことがある。なんとか誤魔化せないだろうか。

 

「そういえば、そろそろ学校が始まる時期ですね」

 

 黒のルークを動かし、相手のビショップを追い詰める。ここまでの戦況は五分と五分と言ったところ。互いにナイトを1つずつ堕とし、攻めの中核は僕がルーク。彼女がビショップだ。

 マクゴナガルは手堅くビショップを逃がし、逆にその一手で僕のナイトを取る。杖を振りかぶった僧侶が、馬上の騎士を粉々に砕いた。

 

「ええ。また新しい生徒達がやって来ます」

 

 彼女は眉ひとつ動かさないで僕の問いかけに答える。

 

「なんでも今年は()()()()がやってくるとか。巷はその噂で持ちきりですよ」

「誰が来ようと来まいと、我々は教師として彼らを導く事が使命です」

「相変わらず、真面目なお方だ」

 

 少し悩み、僕は全く別のポーンを動かした。これは賭けに近い。彼女が対処するならルークを動かせるし、放っておくならそのままプロモーションを狙える。だがそれだけ手が掛かり、相手の自由を許してしまう事にもなる。

 

「ダンブルドア校長からのお達しでは、少年に合わせて『石』を動かすとか」

 

 故に盤外戦術でこうやって動揺を誘い、相手の判断力を鈍らせる。声を落として『石』の話題を出すと、彼女の指が止まった。マクゴナガルは普段は手堅い人だが、こうやって動揺がわかりやすいタイプの人でもある。

 

「そのような話題を公の場で口にするのは、あまりに迂闊なのではありませんか?」

「ええ。確かに。しかし有効な戦術でもあります」

 

 実際、彼女の手は彼女らしからぬ迂闊な物だった。そのままルークを目眩しにポーンを進め、クイーンに昇格させた後は容易く彼女を追い詰める事ができたのだった。

 

「…チェックメイト」

 

 そう告げると彼女は敗北を受け入れ、息を吐きながら肩の力を抜いた。今回の戦法は卑怯と言われるかもしれないが、それでも彼女に勝つ事は嬉しいものだ。僕は久々の勝利の余韻に浸りながら、チェス盤を片付ける。

 

「どうせ貴方も『石』の護りを命じられたのでしょう?」

「おや、話題にするのは迂闊なのでは?」

 

 負けたからか少し疲れたような声色での問いかけに、少し意地悪に返す。

 

「校長からの要望は『熟練者が10回に9回は間違い、そしてそれは死に繋がる』という物。そう易々と思いつくものではありません。出題者に求められるのは、それ相応以上の知識と技能。そして何より、校長からの信頼。その全てを持つ貴方が、声を掛けられない筈がありません」

「はは。お褒めにあずかり、光栄の至り」

 

 大袈裟に拝謁の礼をする。そういう彼女も護りを命じられたのならば、石はかなり厳重に護られるだろう。

 

「通常の教師とは立場が少し異なりますが、より一層の協力と尽力を期待していますよ。スコープ司書」

「ええ。もちろん。マクゴナガル先生」

 

 僕はライアス・スコープ。ここ、ホグワーツ魔法魔術学校の司書。肩書きは詳細に言えばもう少しあるが、意外とつまらない男だ。

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