クリスマスの次の日。図書室では事件が起こった。閲覧禁止の棚に、誰かが侵入したというのだ。フィルチとスネイプから聞いた時には、僕はそれはそれは驚き、同時に怒りが込み上げた。
僕の
だがいくら調べても、その侵入方法がわからない。棚は他の本棚と柵で仕切られ、入り口には見張りに『鳴き鳥の罠』を仕掛けている。鳥を模した人形が誰かが柵を越えるのを発見すると、けたたましい鳴き声をあげながら追跡する魔術だ。
半端な透明呪文なら見破る事ができるように、僕自身が創り上げた。扉が開け放しになっていたので犯人はこの前を通ったはずだ。だが鳥は何の反応もしていない。
生徒の腕では突破はできない。なら侵入者は教師か?少なくとも相当な透明魔法の使い手であることは確かだ。
とにかく侵入した目的を確かめるために、閲覧禁止の棚にある本が盗まれていないかを調べることにした。この棚にある本はどれもとても危険な物だ。
迂闊に触れば身を焼き尽くす本。読めばその中に囚われる本。開くと中に閉じ込められた悪霊や災厄が解き放たれる本。1冊でも盗めば、その人はアズカバンで終身刑を受けるだろう。
棚の本は何百冊とあり、そのどれもが慎重に扱う必要がある。僕1人ではとても1日で終わらない。その間図書室は閉め切りになってしまうのが、生徒たちに申し訳なかった。
■
その次の夜の事。僕が徹夜で棚を確認していると、小さな足音が図書室の外から聞こえた。こんな時間に出歩いている生徒がいるのか。
まさか犯人が戻ってきたのか。そう思い図書室から出て足音の元を辿る。
暗い廊下の奥から、微かに音が遠退いていくのが聞こえた。暗がりを見つめると、使われていない教室の扉が、半分開いているのが見えた。そこから出ていったのかもしれない。と、その中に入る。
月光の差し込む教室には誰もいない。
ただ、天井まで届くほどに大きな鏡があった。
金色の装飾が施されたそれが何なのかを確かめるべく、僕は鏡を調べる。正面から覗き込んだ時、僕はコレが何なのかを理解した。
そして何とか、必死の思いで鏡から目を逸らした。
もう一度鏡を見たいという欲を抑えこみ、距離をとる。
「なんでこんなのが…ここに?」
「わしが運んだんじゃ」
ただの呟きに応える声があった。この部屋には僕以外に誰もいないはず。警戒と共にその声の方向に杖を向ける。
「こんばんは、ライアス」
「ダンブルドア校長。…運んだとは?」
長い髭をした半月メガネの老人。ここホグワーツの校長だ。
そしてこれは『みぞの鏡』。覗く者の望みを映し出す…と聞こえは良いが、これはそんなに良い物ではない。
むしろ呪いの鏡と言った方が的を射ている。人々は鏡の中の理想に囚われ、生きる事に無気力になったり、理想と現実の差に絶望して自殺してしまう。
なぜそんな物がここにあるのか?それも校長が運んだのは何故だ。
「『石』の護りに使おうと思おてのう。まさか君にも見つかるとはの」
「ライアス。君は鏡に何を見たのかね?」
扉にかけた手が止まる。校長の言葉が鏡の誘惑に重なった。もう一度見たい。気づけば僕は鏡の前に立っていた。
「何が見える?」
僕の両隣に、2人の男女。服装からして、彼らの結婚式だ。
僕の姿は今よりもずっと若い。おおよそ20代前半か。礼装に身を包み、僕と同じ青い眼をした女性と手を組んでいる。
男性は真っ黒な髪をして、鏡の僕に笑いかけている。
「…友人と、妹の、結婚式が」
つっかえながら、校長に言う。まさかこんな形で彼女らをまた見るとは思わなかった。
妹は既に死んで久しく、友人は今となっては行方不明だ。
「それが君の望みかね?」
妹は体が弱く20歳まで生きられなかった。僕はそんな彼女に幸せになって欲しいと思っていたし、友人ならそれができると思っていた。
だがらこの光景は、僕の望みであり、決して叶うことのない夢なのだ。
「ええ。僕の望みです」
叶うはずないのに、望みを持ってしまう。
それをこうして見せつけてくるこの鏡は、まさに呪いの鏡だろう。
「そうかそうか」
興味深そうに頷くとダンブルドアは、一陣の風を起こして鏡と共に消えた。
一体なぜあんな問いかけをしてきたのか分からなかったが、彼の行いは理解できる方が少ない。そう割り切って、僕は図書室に戻る。
まだ確認できていない本は山ほどあるのだ。
「今日も徹夜かな」
司書控室で紅茶を淹れる準備をしながら、僕は1人呟いた。