ホグワーツの司書   作:影尾カヨ

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アルバス・ダンブルドア:1

 クリスマスの次の日。図書室では事件が起こった。閲覧禁止の棚に、誰かが侵入したというのだ。フィルチとスネイプから聞いた時には、僕はそれはそれは驚き、同時に怒りが込み上げた。

 

 僕の王国(図書館)へ僕の許可も無しに入ろうとするとは、なんという不届き者か。見つけ次第に僕の知る限りの全ての呪いをかけてやる。誰であろうと容赦はしない。

 

 だがいくら調べても、その侵入方法がわからない。棚は他の本棚と柵で仕切られ、入り口には見張りに『鳴き鳥の罠』を仕掛けている。鳥を模した人形が誰かが柵を越えるのを発見すると、けたたましい鳴き声をあげながら追跡する魔術だ。

 半端な透明呪文なら見破る事ができるように、僕自身が創り上げた。扉が開け放しになっていたので犯人はこの前を通ったはずだ。だが鳥は何の反応もしていない。

 

 生徒の腕では突破はできない。なら侵入者は教師か?少なくとも相当な透明魔法の使い手であることは確かだ。

 

 とにかく侵入した目的を確かめるために、閲覧禁止の棚にある本が盗まれていないかを調べることにした。この棚にある本はどれもとても危険な物だ。

 迂闊に触れば身を焼き尽くす本。読めばその中に囚われる本。開くと中に閉じ込められた悪霊や災厄が解き放たれる本。1冊でも盗めば、その人はアズカバンで終身刑を受けるだろう。

 

 棚の本は何百冊とあり、そのどれもが慎重に扱う必要がある。僕1人ではとても1日で終わらない。その間図書室は閉め切りになってしまうのが、生徒たちに申し訳なかった。

 

 

 その次の夜の事。僕が徹夜で棚を確認していると、小さな足音が図書室の外から聞こえた。こんな時間に出歩いている生徒がいるのか。

 まさか犯人が戻ってきたのか。そう思い図書室から出て足音の元を辿る。

 

 暗い廊下の奥から、微かに音が遠退いていくのが聞こえた。暗がりを見つめると、使われていない教室の扉が、半分開いているのが見えた。そこから出ていったのかもしれない。と、その中に入る。

 

 月光の差し込む教室には誰もいない。

 ただ、天井まで届くほどに大きな鏡があった。

 金色の装飾が施されたそれが何なのかを確かめるべく、僕は鏡を調べる。正面から覗き込んだ時、僕はコレが何なのかを理解した。

 そして何とか、必死の思いで鏡から目を逸らした。

 

 もう一度鏡を見たいという欲を抑えこみ、距離をとる。

 

「なんでこんなのが…ここに?」

「わしが運んだんじゃ」

 

 ただの呟きに応える声があった。この部屋には僕以外に誰もいないはず。警戒と共にその声の方向に杖を向ける。

 

「こんばんは、ライアス」

「ダンブルドア校長。…運んだとは?」

 

 長い髭をした半月メガネの老人。ここホグワーツの校長だ。

 そしてこれは『みぞの鏡』。覗く者の望みを映し出す…と聞こえは良いが、これはそんなに良い物ではない。

 むしろ呪いの鏡と言った方が的を射ている。人々は鏡の中の理想に囚われ、生きる事に無気力になったり、理想と現実の差に絶望して自殺してしまう。

 

 なぜそんな物がここにあるのか?それも校長が運んだのは何故だ。

 

「『石』の護りに使おうと思おてのう。まさか君にも見つかるとはの」

 

 ()()()…。他に誰か、ここを訪れたのか。気になるが、今はこの鏡から一刻も早く離れたい。さっき見た光景を忘れたかった。校長への挨拶もそこそこに退室しようとする。

 

「ライアス。君は鏡に何を見たのかね?」

 

 扉にかけた手が止まる。校長の言葉が鏡の誘惑に重なった。もう一度見たい。気づけば僕は鏡の前に立っていた。

 

「何が見える?」

 

 僕の両隣に、2人の男女。服装からして、彼らの結婚式だ。

 僕の姿は今よりもずっと若い。おおよそ20代前半か。礼装に身を包み、僕と同じ青い眼をした女性と手を組んでいる。

 男性は真っ黒な髪をして、鏡の僕に笑いかけている。

 

「…友人と、妹の、結婚式が」

 

 つっかえながら、校長に言う。まさかこんな形で彼女らをまた見るとは思わなかった。

 

 妹は既に死んで久しく、友人は今となっては行方不明だ。

 

「それが君の望みかね?」

 

 妹は体が弱く20歳まで生きられなかった。僕はそんな彼女に幸せになって欲しいと思っていたし、友人ならそれができると思っていた。

 だがらこの光景は、僕の望みであり、決して叶うことのない夢なのだ。

 

「ええ。僕の望みです」

 

 叶うはずないのに、望みを持ってしまう。

 

 それをこうして見せつけてくるこの鏡は、まさに呪いの鏡だろう。

 

「そうかそうか」

 

 興味深そうに頷くとダンブルドアは、一陣の風を起こして鏡と共に消えた。

 一体なぜあんな問いかけをしてきたのか分からなかったが、彼の行いは理解できる方が少ない。そう割り切って、僕は図書室に戻る。

 まだ確認できていない本は山ほどあるのだ。

 

「今日も徹夜かな」

 

 司書控室で紅茶を淹れる準備をしながら、僕は1人呟いた。

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