復活祭の休みになると、一部の生徒たちは試験を意識し始める。図書室も熱心に勉強する生徒の数が増えた。そんな折、ハグリッドから手紙を貰った。
『今日の夜、俺の小屋へ来てください』
誰にも見られないように。と書かれているのが意味深だった。彼から手紙が来るのは珍しい。森番が司書に知らせる事など普通は無いからだ。
おそらくユニコーンに関する事だろう。何か進展があったのかもしれない。彼は定期的に森を見回っているはずだ。第一発見者である僕に発見したものを見せたいのだろう。それなら『誰にも見られないように』というのも分かる。どこにクィレル…もとい『彼』の仲間が潜んでいるか分からないのだから。
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「スコープさん!お待ちしとりました」
夜遅く、ローブをすっぽりと被り彼の所を訪れる。ハグリッドはなんだかソワソワとしていて、あまりシリアスな内容を話したい雰囲気ではない。
「何か話したいことがあるのかい?君が僕を呼ぶなんて珍しいじゃないか」
僕は早く要件について話したかったが、ハグリッドは落ち着かない様子で紅茶を淹れてきた。
「えー、それなんですがね。いや、なんちゅうか手が伸びちまったっていうかー。俺は全然、そんな気無かったのに仕方なく…って感じなんですがね?」
ハグリッドはもじもじと手を弄りながら、ようやく僕を呼んだ理由を言ってくれた。それはユニコーンの事なんて関係ない。だが確かに大事件だった。
「ドラゴンの卵だって⁉︎ハグリッド。君は正気かい⁉︎」
あまりの衝撃に椅子を蹴って立ち上がる。彼はドラゴンの卵を手に入れたらしい。そして、それを育てたいという。僕を呼んだのは、ドラゴンの飼育に関する本が欲しいからだ。
「お願いだ、スコープさん。俺の一生の夢だったんだ」
ハグリッドは僕を椅子に押し留めながら頭を下げる。そうは言ってもドラゴンの飼育は違法だ。そもそも彼がホグワーツを退学になったのは危険生物の飼育が原因であり、所謂前科持ちだ。
もし誰かに知られたらアズカバン送りは確定だろう。
「ダメだ。僕は協力できない。
「アラゴグは誰も殺してねぇ‼︎」
怒り立つ彼を宥める。今肝心なのは殺したかどうかではない。問題はその生物が危険生物として魔法省に指定されていると言う事だ。
もちろん、魔法省が決めた危険生物が全て本当に危険かどうかは疑問が残る。セストラルのように研究が進んでいないから『とりあえず危険生物扱い』という例もある。
だがアラゴグ…アクロマンチュラやドラゴンはその生態が詳細に研究され、その上で登録されているのだ。単なる知識で上から物を言うつもりは無いが、それらを安全安心だというのハグリッドには、とても賛同できない。
「みんな誤解しちょる。ドラゴンより美しい生き物はいねぇ。なあ、頼む、スコープさん。この通りだ」
セストラルの方が美しいと思う…というのは口に出さないが、僕の考えだ。
「残念だよ、ハグリッド。卵は早く捨てるべきだ。持っているだけで違法なんだから」
再びマントを纏い、小屋の扉に手を掛ける。彼とは良い友人でありたいが、友情を優先して法律を無視するのはもう沢山だった。
「セストラルの子供、見たくねえですか?」
その言葉に振り向きたいのを、グッと堪える。そう言えば最近生まれたと、以前言っていた。今の時期なら、丁度飛ぶ事を覚え始める頃だろうか。
見たい。
そういう欲がある。その硬直をハグリッドは見逃さず、僕に交渉を持ちかけた。
「頼みます。本を貸してくれるだけで良いんです」
彼は生徒でも先生でも無いが、ホグワーツの人間だ。本を借りる事に何の不思議があるのか。
そんな言い訳を自分にしてしまう。
本を貸しただけではドラゴンの卵が孵化するとは限らない。
本を貸す事は法律上なんの問題もない。
つまり本の貸し出しは、ドラゴンとはなんの関係もない。
そして、僕はセストラルの子供が見たい。
深く深く息を吸って、その全てを溜め息にして吐き出す。
まさかハグリッドに丸め込まれる日が来るとは思わなかった。
「本を燃やしたら君を呪うからね」
欲に負けた僕は、そう忠告するしかできなかった。