2番目は自殺。
3番目は老衰。
3番目の次を手に取りたまえ。
それを開けば、先は開かれる。
僕が事の顛末を知ったのは、全てが終わった後だった。
ダンブルドアが魔法省に呼ばれてホグワーツを留守にした夜のこと。警戒の為にクィレルの実験室を訪れ、もぬけの殻だと気づいた時には顔からサッと血の気が引くのを感じた。
急いでマクゴナガルやスネイプに声をかけ、例の廊下へと向かった。扉の前でグレンジャーとウィーズリー。そして気絶したポッターを抱いたダンブルドアを見つけた時には、驚くと共にとても安心した。
彼が言うには、クィレルは身を滅ぼし死んでしまった。『彼』は半死半生の魂だけでクィレルに取り憑き、肉体は未だに無いらしい。
だがポッターは再び、『彼』を撃ち破ったのだ。
■
それから3日程、経った頃。昼頃、僕はダンブルドアに呼ばれて医務室の前に立っていた。何故僕だけ呼ばれるのか皆目検討がつかない。そもそも何故医務室なんだ?
「すまんの、ライアス。待たせてしもうて」
戸が開いて、ようやく校長が出てくる。中にポッターの姿が見えた。どうやら目が覚めたようだ。
「ハリーが君と話したい事があるそうじゃ」
呼んだのは校長では無かったのか。だが彼の友人もまた話したいことがあるだろうに、僕だけが許可される理由は言ってくれなかった。
看護師のポンフリーに、面会は5分だけだと言われながら中に入る。僕は少年のベッドの近くに腰掛けた。
「こうして話すのは初めてかな。気分はどうだい?」
入学以来彼は何度も図書室を利用している。だが初めてその顔をじっくりと見た。なるほど。両親にそっくりだ。スネイプが嫌うのも頷ける。
「あの…ハーマイオニーが、御守りにってコレを持たせてくれたんです。トロールの時も守ってくれたから」
ポッターが傍の机から取り出したのは、いつか彼女に渡した『魔除けの羽』だった。黒く焼け焦げたそれは、もう効力を失っているだろう。
新しいのが欲しければ、後でも言ってくれば良い。あの羽は元々僕に生えていた物に、魔術的な紋様を施しただけだ。効果的だが量産可能。そういう仕掛けになっている。
「コレを見た時あいつが…
僕は驚いて目を開いた。彼は『彼』の事を
勇敢だからか、無知だからか。あるいは何らかの覚悟の上か。まあ僕は名前なんて好きに呼べば良いと思う。いちいち名前を呼んだだのなんだので、突っかかるのは面倒だ。
「その羽は僕のお手製で、なかなか強力な護りが掛けてある。『彼』の手を焼かせる程にね」
どうやら『彼』は覚えていたようだ。僕と彼は伊達に何度も戦っていない。流石に『死の呪文』を防ぐ事はできないが、闇の魔術に対する防衛術としては一級品だと自負している。
「クィレルは手が出せなかったけどヴォルデモートが力を込めたら、この羽は焼けちゃいました。ハーマイオニーのために、新しいのを貰うことってできますか?」
それは構わないが、僕の方からもいくつか質問がある。例えば『彼』の状態や、どうやってホグワーツの1年生が『石』の護りを突破したか。
「あいつは、クィレルの頭に寄生してました。ボロ布みたいな魂のかけらが取り憑いているんだって、校長先生は言ってました」
クィレルを器として肉体を得た。という訳か。似たような魔法を以前本で見た。確か非常に高度な魔術だったはずだが、闇の帝王を自称する者ともなればその程度は容易いか。
11年前、何かしらの方法で赤子のポッターを相手に敗れた『闇の帝王』は死んでいなかった。力の大部分を失いながらも、生きながらえ復活の機会を探っていたのだろう。
「なるほどね。じゃあ君たちはどうやって護りを破ったんだい?『彼』ならともかく、子供が突破できる代物じゃないだろう」
彼が語ったのは、驚きのあまり口が塞がらない様な事実だった。グレンジャー、ウィーズリーの知恵が、教師の掛けた護りを破ったのだ。
「へぇ。じゃあ僕の護りはどうやったんだい?あれでも自信作だったんだ」
僕が使ったのは、閲覧禁止の棚に保管されている本だ。
《1番目は…》という問題の答えになっている1冊だけが安全なただの本。他の本は触れるだけで永遠に中に幽閉されるものになっている。
「あれはロンが。『三人兄弟の物語』じゃないかって」
「ウィーズリーか。なるほど、彼は純血の家の出だったね」
『三人兄弟の物語』は有名な御伽話だ。魔法使いの中には聞いて育った人もいるだろう。だが石を狙う人間が、命を賭けた問題で童話を思い浮かべることは無いと僕は思っていた。
彼らのような子供故の純粋な考え方を持つ人が出てくるとは盲点だった。
「『三人兄弟の物語』はミスチョイスだったかな」
僕は少し微笑んだが、ポッターは笑わなかった。
死にかけたのだから当然か。
■
「もう時間です。病人は休むのが仕事なんですから」
そう言って追い立てるポンフリーによって、僕はポッターと別れた。
医務室を出たところで、校長がまだいた。
ちょうどいい。彼に聞きたいことがあったのだ。
「今回の件。どこまで知っていたのですか?」
僕の問いにダンブルドアは驚いた素振りすら見せない。どうせこの老人のことだ。予想の範疇なのだろう。気に入らない。
「わしはヴォルデモートか『石』を狙うじゃろうと思っとった。何か部下を送り込んでくるじゃろうとな」
まさかクィレル自身に取り憑いてホグワーツに侵入するとは思わなかったと、校長は言った。ポッターが首を突っ込んでくるのはどうだったのか、教えてはくれなかった。
「次の新任教師が、『彼』の部下でない事を祈ります。そうですね、少し無能そうな人なら大丈夫じゃないでしょうか」
『彼』はプライドが高い。今回は元々ホグワーツの教師という肩書きのあるクィレルに取り憑いたが、ならそんな物のない素人教師なら部下にしようとすら思わないだろう。
「ほう、確かにのう。いい目の付け所じゃ。早速、日刊予言者新聞に求人を出すとしよう。『未経験者大歓迎』とな」
ダンブルドアはそう言って去っていった。
来年の『闇の魔術に対する防衛術』の教師が、まともな人間である事を期待するばかりだ。