ホグワーツの司書   作:影尾カヨ

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秘密の部屋
葡萄の香るプロローグ


 まだ生徒達のいないホグワーツの夏休み。僕とマクゴナガルは司書控室で共にワインを飲んでいた。あまり酒は飲まない僕らだが、今日は質のいい物が手に入ったので、1人で飲むのも寂しいと彼女を誘ったのだ。

 

「本当に良い香りですね。どこでこれ程の物を?」

「知り合いが日頃の感謝をと送ってくれまして。貴女も気に入ってくれたようで、なによりです」

 

 送り主はノクターン横丁で古本屋をしている店主だ。違法な魔術本を仕入れる事も多いが扱っているのはどれも歴史的価値の高いもので、僕は時々足を運んでいる。

 何度か魔法省のガサ入れから庇ったこともあり、彼女は僕に恩義を感じているのだろう。

 

「そうそう、ロックハートの名前をダイアゴン横丁で見ましたよ」

 

 先日ノクターン横丁の隣、ダイアゴン横丁の本屋に立ち寄った時のことだ。なにならサイン会の催しがあるとか、ないとか。

 

「彼が新しい『闇の魔術に対する防衛術』の教師に就くのでしたね。期待できそうですか?」

「まだ軽い面接をしたに過ぎません。評価するには時期尚早でしょう」

 

 ギルデロイ・ロックハート。

 最近巷を賑やかす、勲三等のマーリン勲章をもつ作家だ。確かホグワーツの卒業生だったか。図書室を利用していた記憶はないが。

 

「ダンブルドア校長が選んだ人です。能力に問題はないでしょう」

 

 彼の出版した自伝には様々な英雄的行為が書かれている。何冊かは図書室にも置いているが、そこに書かれていることが全て真実なら、彼は非常に優れた魔法使いといえよう。

 

 夏休みに入る前に校長に言った『少し無能そうな人』とは違うが、それでも選んだという事は余程信頼できる人物に違いない。

 

「だと良いのですが。もう『彼』のスパイが入ってくるのはゴメンです」

 

 クィレルの件の二の舞はお断りだ。学校に危害が及べば、必然的に僕の王国(図書室)に余計な火の粉が降りかかるのは目に見えている。

 

「なら貴方が教師になればどうですか?その知識を十二分に活かすことができるでしょう」

 

 マクゴナガルの言った事に驚き、僕はむせた。一層強い葡萄の香りが鼻を抜ける。

 

「ゲホッ…。な、何を言うかと思えば。生憎、僕には誰かを指導する能力はありませんよ」

 

 それに、それでは司書でいられなくなってしまう。本末転倒もいいところだ。

 だがマクゴナガルは僕の思いを知ってか知らずか、こんな事を言った。

 

「ロングボトムやグレンジャーが言っていましたよ。貴方のおかげで成績が上がったと。どこの馬の骨ともわからぬ者に任せるより、貴方の方が信頼できます」

「お褒めに預かり光栄です。ですが、過大評価ですよ」

 

 僕は本を薦めただけだ。読書で上がるような成績なら、元から本人の能力でどうとでもなっただろう。

 

「私はそうは思いませんが…貴方に気がないのなら、無理にとは言いません」

「ではお断りします」

 

 僕は僕の王国以外に興味はない。

 ボトルを傾けてワインを注ぐ。グラスの赤紫を通してマクゴナガルを見る。酔って赤みの増した顔が、少しだけ笑っていた。

 

「フフ…。貴方ならそういうと思いました」

 

 どうやら冗談だったらしい。彼女がそんな事を言うとは思いもしなかったので、本気にしてしまった。普段なら彼女はむしろ冗談が嫌いな性格だが、酔っている今は少し違うのかもしれない。

 

「全く貴女の冗談は心臓に悪い。酒をあまり飲まない方がいいかもしれません」

「あら、貴方が教師に向いていると思っているのは本当ですよ」

 

 その言葉は聞かなかった事にして、僕はワインの最後の一口を飲み込んだ。

 

 今年のホグワーツはどうか、落ち着いた年になって欲しい。

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