端的に言って、僕は苛立っている。僕は自分で言うのも何だが、感情を露にすることは少ない方だ。できる限り他人には公平でありたいし、感情を優先して偏見を持つのは愚かだと思っている。
では結論から言おう。僕は目の前の男、ギルデロイ・ロックハートが嫌いだ。正確には、たった今嫌いになった。
「全くここはカビ臭いね。僕の本は置いてないのかい?もっと置いておかないと、そのうち誰も来なくなるんじゃないか?むしろよく続いてるね」
新学期早々にやって来たかと思うと、僕の王国を貶した。
咄嗟に杖を抜かなかったのは、僕の精神力の賜物だ。頬はひくついていたし、額には青筋を浮かべていただろうが、なんとか平静を取り繕って受け流す事ができた。
「…何冊かは置いている。要望があれば取り寄せるが、個人的なものなら却下する」
無愛想な口ぶりになっているのを自覚するが、コイツの前で普段通りに振る舞うなど無理だ。そのふざけた顔をぶん殴ってやりたくなる。
「なら僕の本をもっと置いてくれよ。何百人もの少女達が心待ちにしてるんだからさ」
コイツはめざとく自分の著書を見つけると、僕の前に並べた。どの表紙にも描かれた顔が、自称チャーミングな笑顔を向けてくる。
燃やしてやろうか。
一瞬でもそう思ったのを戒める。感情に駆られて本を粗末に扱うなど言語道断。司書にあるまじき行為だし、僕の信条に反する。
「この『トロールとのとろい旅』なんてもう4、5冊ぐらいあっても良い。…なあ、君もそう思わないかい?」
「…えっ!あ、アタシですか⁉︎」
いきなり近くのハッフルパフ生に話を振った。本の表紙のコイツがキメ顔で彼女にウインクしている。
破いてやろうか。
「アタシは別に…教科書で買ったのがあるし…」
「そう遠慮しないで。変な古臭い本があるより、よっぽど素晴らしいに違いないんだから」
このゴミ野郎を図書室から出してくれた生徒には200点プレゼントしてあげよう。
そう思って周囲の子に視線を送るが、誰も反応しない。それどころか僕と目が合うとサッと伏せてしまう子ばかりだ。
さっさとゴミ野郎には出て行ってもらいたい。『服従の呪文』までなら黙認するが。
「なんなら君の本にサインしてあげようか?同級生へ自慢するといい」
「いや、結構だし。別に、いらないから。ホントに」
ゴミは嫌がる彼女の荷物に手を伸ばす。他人の本まで穢すつもりか。
もう我慢ならない。
杖を振ってゴミを少女から遠ざける。多少乱暴になってしまいゴミが地面を転がったが知ったことではない。ざまぁ見ろ。というやつである。
「1つ言っておこう」
地面に倒れたままの自称作家の前に立ち、そのアホ面を睨みつける。
「
普通なら本を貶すような事は言わないが、今回は別だ。あれは本というよりナルシストの宣伝冊子といったほうが正確だ。
「図書室は静かに利用し、他人に迷惑をかけない。5歳児でもわかる常識だ。ああ、君は常識が無いのか。すまない。気付かなかったよ」
「なっ⁉︎私はマーリン勲章を持つ一流作家だぞ!司書如きが僕にそんな口を――ッ!」
『口封じの呪文』で喧しいアホを黙らせる。もうこれ以上、コイツの声を聞きたくない。自分の口が開かない事に驚いたのか、慌てたように手を当てている。
優秀な魔法使いなら『無言呪文』で容易く反対呪文を唱える事ができる筈だが。暫定自伝の中で何度かやっていた記述があるにもかかわらず、コレは杖を振るだけで一向に魔法が発動する気配はない。
こんな無能に僕は怒っていたのかと、何だか馬鹿らしくなった。
「さっさと僕の前から消えてくれ。そして2度と
杖を振って座り込んだゴミを宙に浮かばせ、図書室から放り出す。壁にぶつかったアレは、転がるようにして逃げていった。
ようやく騒がしいのがいなくなったと、一息つく。
周囲を見ると、図書室全部の目が僕に向いている。騒ぎ過ぎたようだ。1つ咳払いをすると、彼らは慌てたように読書や自習に戻る。
こんな荒事をするつもりはなかったが、アレがここに居座るのよりずっとマシだ。さっさと辞めてくれないかな。と、僕は教師に対して初めて思った。