12月のクリスマス休暇が近づいてきた頃。スネイプが図書室に訪れた。前と同じように閉室時間ギリギリに。
そしてその時以上に不機嫌な顔だった。眉間のシワが深過ぎて、一生取れないのではないかと心配になったぐらいだ。
「…機嫌が悪そうだね。お腹でも壊したのかい?」
僕のジョークに反応することなく、彼は司書控室へ入っていった。僕の許可なく入らないでほしい。あそこは一応、プライベートな空間なのだ。
「…誰かが私個人の保管倉庫から、薬の材料を盗みました」
「知らないよ、そんなの。なんで僕に聞くんだい?」
そもそもそんな事で閉室時間に来ないでくれ。と、抗議の視線を送る。スネイプは気にすることなく、また僕に質問をする。
「生徒が盗むなら、強力で複雑な薬を作るためです。心当たりは?」
「…だから知らないってば。知る訳ないだろう」
ずかずかと無断で入ってきて居座るのなら、僕にも考えがある。
「晩酌に付き合ってもらうよ」
シングル・モルトがいくらか残っていたのを思い出した。1人で少しずつ飲んでいたが、今日は2人で空けてしまおう。
2つのグラスを並べて、それぞれにウィスキーを注ぐ。一口飲むと冬の寒さを打ち消すような熱が体に広がった。
「さあ、どうぞ。…で、何の話かな?」
「バイコーンの角、ドクツルヘビの皮。これらが盗まれていました」
スネイプもウィスキーを飲んで言う。2つともメジャーな材料だ。扱いは難しいが、知識のある生徒なら使うことはできる。
「盗まれたのは恐らく、2年生のグリフィンドールとスリザリンの合同授業の時でしょう。ゴイルの大鍋に花火が投げ込まれておりました。私が対処に気を取られている隙にやったのでしょう」
「ははっ。君の授業で騒ぎを起こしたのかい。随分と無謀な生徒だ」
犯人を見つけたら、彼は必ず退学にするだろう。そのしかめ面に書いてある。僕にとっては酒の肴にちょうどいい話だ。
「不審に思い生徒用の材料棚を調べたところ、申請よりも減っているものが幾つか見つかりました」
つまり生徒が薬を作るために材料を盗み出した訳か。その推理は理に叶う。
減っていた材料はクサカゲロウ、ヒル、満月草、ニワヤナギ。
「ポリジュース薬か、骨溶かし薬か」
「どちらにせよ、生徒がレシピを見ずに作れる代物でないことはお分かりでしょう」
誰かが図書室で本を借り、それに従って薬を作ろうとしている。と、彼は言いたいらしい。
「んー。まあそうかもね」
何でもないように答えるが、内心では僕は焦っていた。
魔法薬に関する本を借り、薬を作る知識のあるグリフィンドールの2年生に心当たりがある。
グレンジャー。
ロックハートのサインがされた許可証で『最も強力な魔法薬』を借りていった。彼女だけなら、授業で騒ぎを起こしたりしないと確信を持って言えるのだが、ポッターとウィーズリーも一緒だったところを考えると、何か企んでいるのかもしれないと、今になって思い至る。
彼らは去年、独自に『賢者の石』について詮索し、『彼』の凶行を防いだ。その成功体験から、今回も何か動き回っているのかも。
とくにグレンジャーは『秘密の部屋』に対して関心がある。ポリジュース薬で誰かに化け、探るつもりなのか。
「でもまあ、ゴーストの仕業かもしれないよ」
彼女に知恵を貸した者として、庇っておこう。
「ピーブスなんかがいかにもやりそうなイタズラじゃないか」
「…確かにそうですが。貴方は誰かを庇おうとしているのではありますまいな?」
勘がいい。他人を疑うことにかけては学生時代から変わらない。用心深いのか、陰湿なのか。恐らく後者だが。
顔が強張っていないか睨んでくるスネイプを誤魔化すようにウィスキーを呷る。喉が熱くなり、鼻からアルコールが抜けていく。
「…知らないね。僕が庇う理由があるかい?」
「貴方は昔から王国の利用者を贔屓しております。お忘れですか?」
学生時代よく図書室に匿ってあげていたのを、彼は覚えているらしい。
「…なら分かるだろ?僕は犯人を知らないし、知っていたとしても答えない」
「…でしょうな。不躾なことを言って申し訳ありません」
スネイプはウィスキーを飲み込むと、席を立った。
「今日は無作法な真似をしてすみませんでした。失礼します」
もう少し飲んでいかないかと引き止めるが、彼は謝罪をして帰っていく。
「そうそう、ロックハートが決闘クラブをするそうです。貴方もいかがですか」
決闘クラブ。
懐かしい響きだが、わざわざ司書が参加する理由はない。それにロックハートは顔も見たくない。
「昔は強かったけどね。今はやる気は無いよ」
「…そうですか」
彼が図書室を去り、鍵を閉める。
待て。彼は
彼がロックハートに協力するのか。意外だ。仲が良かったりするのだろうか。
ロックハートとスネイプが仲良く談笑している様子など、想像する事ができないが。まあ他人の交友関係に口を出すつもりはない。僕はウィスキーを飲み干した。