ホグワーツの司書   作:影尾カヨ

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ジニー・ウィーズリー:1

 赤毛というのは魔法界でも目立つ。図書室のような狭い空間で目の前を行き来されると、どんなに手元に集中していても気になってしまう。しかも時々、こちらを窺うように視線を送ってくるなら尚更だ。

 

「…何か用かな、ウィーズリー?」

「い、いえ。何でも…」

 

 ジニー・ウィーズリーはそんな歯切れの悪い返事をして離れたかと思うと、また近づいてきてはウロウロするのを繰り返していた。

 

「…何か?」

「……何でもないです」

 

 絶対何かあるだろうと思うが、その時は僕も手元の作業に集中する必要があった。彼女も気を遣ってくれていたのだろうか。

 こんなやり取りをずっと続け、やがて図書室が閉まる時間が近づいた。

 誰もいなくなったのを見計らってか、ウィーズリーはようやくカウンターにやってきた。

 

 そんなに話しづらい内容なのか。恥ずかしい話か、罪悪感のある話か。とにかく周囲に聞かれたくないのだろう。

 

「あの、話し相手になる本ってどんなのがありますか?」

「…?本は読む物だ。話す物じゃないよ」

 

 何かのナゾナゾだろうか。僕の答えが的外れだったのか、ウィーズリーは首を振って言い直す。

 

「書いた言葉に答えてくれる日記…って、ありますか?」

 

 有るか無いかで言えば、もちろん有る。日記なので図書室には無いが、『エンダリンの独り日記』は書いた質問に答えてくれるようになっている。独り身の老人に大人気の商品で、ボケ防止や孤独が紛れると評判だ。

 

「…それって怖い日記ですか?」

「まさか。正当な魔術を使って作られたに決まってるじゃないか」

 

 いまいち彼女の真意がわからない。僕に何を聞きたいのだろう。

 彼女は何かに怯えているようにオドオドとしている。まるで去年のクィレルのようだ。彼の場合は『彼』が取り憑いていたのが原因だったが、この少女は何に怯えているのか。

 ウィーズリー家は純血の家系。『秘密の部屋』の怪物が伝説通りなら、襲われる心配はないだろうに。

 

「じゃあ、読む人を操る本はありますか」

 

 それこそ愚問。有るに決まっている。僕はカウンター横にある柵の向こう。『閲覧禁止の棚』へと視線を送る。あそこにはそんな本が何冊も封印してある。

 なぜ1年生がそんな事を気にしているのだろうか。あれは闇の魔術に分類されるものだ。授業で扱うことはないと思うが。

 

 そこで思い至るのはロックハート。彼がどんな授業をしているのか、僕は知らない。まさか1年生に危険な真似をさせていないだろうか。

 

「それは『闇の魔術に対する防衛術』の授業の調べ物かい?」

「え⁉︎…あー、そう…です。そう、そうなんです。ロックハート先生が調べなさいって」

 

 やっぱりそうか。彼が何を思って教えたのかは知らないが、魔法界への知識が充分でない生徒に闇の書を教えるのは不用心ではないだろうか。

 ウィーズリーが間違った事をしなければ良いのだが。

 

「読む人間を操る書はあるが、その方法は様々だ」

 

 例えば『欠けた心臓と裂けた脳』という本は、読み手を発狂させ周囲の人間を殺させる。とある魔女によって読まれ、マグルを27人殺害した事件を起こした。

 『夜の母の晩餐』は最悪だ。読み手は精神を操られ、無意識のうちに殺人を犯す。そしてそれを、存在しない『母の子』によるものと認識するのだ。

 

「殺人を怪物がやったと思い込む本…」

「タチが悪いのが、犯人は無意識だと言う点だ。どんなに酷い事をしても、覚えていない」

「覚えていない…」

 

 何やらウィーズリーの顔色がどんどん青くなっている。指先も震えているようだ。

 

「大丈夫かい?体調が悪いなら医務室へ行ったらいい」

「い、いえ。平気です。それより、そんな本って操られたらどうすればいいんですか?」

 

 性質は厄介だが、その分対処は簡単だ。どんなに悪質でも、相手は本に過ぎない。

 

「捨てればいい。燃やす、破く、水に流す。なんでも構わないさ」

 

 本の中に何かが封じられている場合でもない限り、燃やしてしまえば万事解決だ。無責任に処分するのは推奨しないが、難しいことではない。

 

「捨てる…そう、捨てればいいのよ」

 

 何かを決心したのか、ウィーズリーは図書室を出て行く。

 何を思ったのかは知らないが、彼女の助けになれたならそれでいい。

 

 面倒な事に巻き込まれるのはお断りだ。

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