ホグワーツの司書   作:影尾カヨ

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ハーマイオニー・グレンジャー:3

 『秘密の部屋』による被害者が2人になってから、しばらくして。

 それはクィディッチのグリフィンドールとハッフルパフの試合がある日の事だった。離れた図書室にも競技場の声が聞こえるほどに盛り上がっている。

 確か、今日グリフィンドールが勝てば優勝確実なのだったか。

 

 多くの生徒がそっちに観戦に行っていることもあり、ここにはほんの数名の生徒しかいない。『秘密の部屋』について調べる子も減り、久々の閑散とした空気に、僕はゆっくり雑誌を読むことにした。

 クィディッチの試合に興味が無いわけではないが、僕は箒に乗るのが苦手で選手の姿を見てもあまり興奮できないタチだ。

 

 今月号の『ザ・クィブラー』は、あまり面白い話は載っていない。体が水で出来たユニコーンなど、どうせケルピーの見間違いだろう。白いセストラルは恐らくペガサスだ。馬のような生物の話題が増えたのは、編集長の意向だろうか。娘の好みに合わせようとしているのかもしれない。

 白いセストラルが本当だとすると、是非とも見てみたいものだ。アルビノだったりするのだろうか。

 なんとなく目が滑るように読んでいると、グレンジャーが図書室に駆け込んできた。

 

「図書室では走らないように」

「あ、すみません」

 

 それでも気持ちが逸っているのか、早足で魔法生物の棚へと向かっていく。そういえば彼女は『部屋』の調査に熱心な生徒だった。何か手がかりでも見つけたのだろうか。

 

「すみません。これの貸し出しをお願いします」

「ん、ああ」

 

 だが司書の仕事を放棄するわけにいかず、彼女に近づくのは諦めた。怪物の正体が分かったなら、後で教えてもらおう。

 

 

 その後、望みの本の捜索や本の棚戻しやらをしているとグレンジャーが図書室を出て行くのが見えた。やはりきた時と同じように、急いでいるようだった。

 何やらこちらを窺うような眼をしていたが、何か後ろめたい事でもしたのだろうか。まさか本のページを破ったわけでもないだろうに。他の生徒ならともかく、彼女はそんな事をしないだろう。

 

 以前、彼女から3年生で受ける授業について相談を受けた事があった。普通の生徒では考えられないほど沢山の授業に出るつもりらしいので、マクゴナガルに相談するように言っておいたが、どうなったのか聞きたかった。まあ、後でいくらでも話せるだろう。

 

 再び暇になり、僕はまたカウンターに座り込む。こんな日が続けばいいのに。

 そろそろクィディッチの試合が始まる頃だろうか。歓声が一際大きくなったような気がする。

 

 そう思い欠伸をした時、壁の中から音がした。

 何か大きな物が這いずるような音。

 

 妖精かなにかのいたずらだろうかと思ったが、どうにも違うようだ。

 そこで思い出したのが、以前マートルが言っていたこと。

 ミセス・ノリスが襲われた時、似たような事を言っていなかったか。

 

『気持ち悪い気配がしたの。配管の中。何かが動いてたの』

 

 まさか。

 その気配が怪物のものだとしたら。この近くにいるマグル生まれを狙っているのか。

 

「グレンジャー…!」

 

 ゾワリとする寒気を覚え、僕は駆け出す。的外れな予感であってくれと願いながら。

 

 

 遅かった。

 廊下に倒れていたのはグレンジャーと、レイブンクローのマグル生まれ、ペネロピー・クリアウォーター。2人とも石になったかのように動かない。

 

 駆けつけた時に僅かに見えた、鱗に覆われた怪物の尾。『失神呪文』を撃ったが弾かれてしまった。魔法生物なら高い魔法耐性を持っているのだろう。

 怪物は配管の中へと消えていった。やはりマートルの言っていた気配は怪物のものだったのだ。

 

「…なんで気づかなかったんだ」

 

 よく考えれば分かる事だ。怪物が配管の中を移動している事は、マートルの言ったことから充分に推察することができた。面倒だからと考えるのを後回しにした結果がこれか。

 

 図書室に…僕の王国に犠牲者を出した。馬鹿じゃないか。他人事を気取って、手遅れになってから後悔するなど。

 

 ふざけるな。許さない。僕の王国に手を出してどうなるか、思い知らせてやる。

 

 何か怪物の正体を掴む手がかりになる物はないかと探っていると、手鏡が落ちていた。少女が使うような小さな物で、恐らくグレンジャーかクリアウォーターの私物だろう。魔術的な仕掛けのない、普通の鏡だ。

 倒れた時に転げ落ちたのかと考えたが、その程度でローブの中の物が飛び出ることはない。なら手に持っていたのか。

 

「何のために?」

 

 グレンジャーは怪物を警戒していた。つまりこの鏡は怪物の対策になるということ。

 

 鏡と蛇の怪物というと、とある神話を思い出す。

 勇者ペルセウスがメデューサを討ち取った物語。石化する眼を鏡を通して見ることで無効化し、剣でその首を落とした。

 だが『部屋』の怪物はメデューサでは無いだろう。尾があり配管の中を行き来できるのだから、純粋な蛇の体をしているはずだ。

 

 鏡を見るが、自分の顔があるだけだ。その青い瞳と目が合う。

 

 …目が合う?

 

 彼女が怪物を警戒していたなら、今回襲われた時も鏡を使って対策したはずだ。その上で石になった。鏡で対策できる事など、たかが知れている。相手を直接見ることを防いだ。

 鏡を通して見ると石になるなら、直接見たら死ぬという事。

 

 今までの特徴から合わせて考えると、怪物の正体は。

 

「バジリスク…か」

 

 眼を見ると死に至る大蛇。恐らく50年前の事件もこいつが犯人だろう。そんなものがホグワーツにいるなど信じたくないが、残したのはスリザリンだ。なんでもあり得る。

 

 ふとグレンジャーの手を見ると、紙が握られている。本のページのようだ。さっき破いたのだろうか。取り出そうと思ったが、固く握られていて難しい。無理にやるとページがさらに傷んでしまう。

 

「…起きたら減点だな」

 

 それに今は怪物を操る『スリザリンの継承者』を探すことが優先だ。

 噂ではポッターがそうではないかと言われている。だがありえないだろう。彼はグリフィンドールだ。50年前のハグリッドと同じように、誤認だと思う。

 

 とにかくその人物が誰であれ、僕を敵に回したのだ。絶対にただでは済まさない。

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