ホグワーツの司書   作:影尾カヨ

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ルシウス・マルフォイ:1

 グレンジャーが襲われた日の夜。生徒に対して新たな規則が設けられた。彼らの安全を守るためなら仕方のない事だ。最悪、ホグワーツを閉める事も視野に入れている。

 

 教師らも校内の見回りの厳重化を行う。僕の報告によって配管の入り口には防御魔法を張るようになった。これで被害を抑えることができれば良いのだが。

 

 相手がバジリスクと分かれば、その対処法もある程度導き出せる。グレンジャーの持っていた鏡も、その死の視線を弱めるのに効果的だった。

 そしてバジリスクを殺す最も容易な方法は、鶏の朝の声を聞かせればいい。

 

 僕はハグリッドの所へ行く事にした。彼なら鶏を扱っている。

 諸事情により夜遅くなってしまったが、まだ起きているだろう。僕は首元から手足の先までローブで覆うと、彼の小屋を訪ねた。

 

 中から話し声が聞こえる。どうやら先客がいるようだ。扉をノックしようとした時、ちょうど中から人が出てきた。

 

「おっと…。スコープ司書。お久しぶりですな」

「マルフォイ?何で君が?」

 

 ルシウス・マルフォイ。

 ホグワーツの卒業生で、ドラコ・マルフォイの父親。

 今はホグワーツの理事を務めているのだったか。ハグリッドの小屋にいる理由は分からない。こんなところにいるのは何故だ。

 

「校長に用がありまして。…もう済みましたが」

「ライアス。君もハグリッドに要件かの」

 

 奥にダンブルドアと、魔法省大臣ファッジの姿があった。

 

「校長。それにファッジまで…。ハグリッド、今日は客が多いみたいだね」

 

 ハグリッドは何やら意気消沈している。いつもはうるさい程に大きい声で話すのに、小声でボソボソと呟いているだけだ。嫌なことでもあったのか。

 

「校長というのは正確ではありません。元…と付けていただかないと」

「何だって?マルフォイ、どういう事だい?」

「つい先ほど、理事12人の署名により解任しました」

 

 正気じゃない。学校で事件が起こっている最中で校長を空席にするなど。ファッジも納得していないような目でマルフォイを見る。

 

「理事会の決定です。意味はお分かりでしょうな」

「随分と手が早いね。まるで最初から準備していたみたいだ」

 

 マグル生まれというのは魔法界でも扱いは低い。それが4人…昨日までなら2人襲われた程度で理事会が動くなど、普段の腰の重い様からは考えられない。

 

「これは人聞きの悪い。今回の事態を重く見ていると言っていただきたいですな」

「…だといいけどね」

 

 裏で仕組んだ人間がいる。僕はそう確信した。そもそもこの事件のタイミングが妙なのだ。去年トム…いや、ヴォルデモートというべきか。『彼』の復活が失敗したかと思うと、『彼』が在学中に閉じたはずの『秘密の部屋』が開くというのは。

 

「前科者としてこの森番をアズカバンに収容する事も決まりました。事件の解決も恐らく遠くないでしょう」

「なっ!?ハグリッドをアズカバンにだって?ハグリッド、本当なのかい?」

 

 慌てて彼に寄ると、ハグリッドは大泣きしながら僕に抱きついてきた。その巨体で締め付けられ、肺の空気が空になる。

 

「スコォォォプさぁん!お、俺、俺は関係ねぇんです!アンタからも言ってくだせぇ‼︎」

「ハ、ハグ…ハグリッド…!くる…苦しい…‼︎」

 

 大鷲に身を変えて、腕の隙間をすり抜ける。ローブが乱れてしまった。

 

「ハァ…ハァ…。ファッジ、本当なのかい?」

 

 ハグリッドはショックでまともに会話できない。アズカバンに収容するなら大臣が知らないわけがないと、彼に質問の矛先を変える。

 

「…そうだ。彼は前回の事件の被疑者だ。()()()()だよ」

 

 どうやら本当らしい。なんて事だ。

 彼は無実だと言いたいが、何の証拠もない。それに彼が危険生物を飼育していたのは事実だ。

 

 哀れだが僕には彼を救う事ができない。だがアズカバン送りを黙って見ているのも嫌だ。彼は友人なのだから。

 

「これを御守りにするといい」

 

 『魔除けの羽』を彼に渡す。あそこの看守に対しても少しなら効果を発揮する。彼らは一応、闇の生き物に分類される。

 

「あー、スコープ。アズカバンへの私物の持ち込みは…」

「裁判も無しに収容しておいて友人からの贈り物まで取り上げる、なんて事はないですよね、大臣閣下?」

「そ、そうだな!羽ペンとして扱うなら何の問題もない」

 

 少し威圧すればファッジは怖気付いて要求を飲んだ。せめてこれぐらいはハグリッドの助けをしてあげたい。

 

「あ、ありがとうございます…スコープさん」

「すぐに戻って来られるさ。少しの間の辛抱だよ」

 

 ようやく落ち着いた彼に、本題を言う事ができる。

 だがその答えは芳しくないものだった。なんと最初の事件が起こって間もなく、鶏は1羽残さず殺されていたのだ。

 よく考えれば当然だろう。黒幕がバジリスクを殺す手段を放置しておくはずがない。

 

 対抗策は最初から打ち砕かれていたわけだ。

 

 僕は力無く項垂れ、マルフォイらと共にハグリッドの護送に付き合う。別の対策を考えるにも、バジリスクは強力だ。打つ手はない。

 

 

「ハグリッド…。大丈夫だ。またすぐに会えるよ」

「ファングの世話を頼みます。…あいつらだけじゃ頼りねぇ」

 

 あいつら。というのが誰かは分からないが、他にも頼んでいたのだろう。僕が快諾すると、ようやくハグリッドは落ち着いてくれた。

 馬車に着くまで、彼はずっと啜り泣いていた。強く握られた羽は乱れているが、効力は無くなっていない。

 まずマルフォイが乗り、続いてファッジ。ハグリッドが乗った後、校長が僕に振り返った。

 

「いいタトゥーじゃのう、ライアス」

「…おっと、これは失礼」

 

 どうやらハグリッドに抱きつかれた時にローブが乱れ、肌が覗いていた。作ったばかりで頭から抜けていた。見られないようにしたかったのだが。

 

「『護りの魔術』かね。綺麗な腕じゃ」

「ははっ。用心に越したことはありませんので」

 

 グレンジャーらが襲われた時、鏡は1つなのに2人が石になった。調べるとグレンジャーに渡した『魔除けの羽』が焼け焦げていた。

 バジリスクの死の目から護ったのだろう。仮説に過ぎないので頼りないが、無駄ではないはずだ。

 

「わしがおらん間、学校を頼む。信頼しておるぞ」

「マクゴナガルに言ってください。僕は司書に過ぎませんから」

 

 僕の言葉にダンブルドアは意味深に沈黙した後、馬車に乗って去っていった。司書に何を期待しているのやら。

 それとも、『彼』の友人として期待しているのか。

 

 

 馬車を見送った後、僕はハグリッドの小屋へ戻った。ファングの様子を見るためだ。

 

 だが小屋はもぬけの殻だった。彼の姿は見えない。どこかに散歩にでも出かけているのかと、出直そうとした時だった。

 

 森の中から光と共に1匹の獣が…いや、1()()()()が飛び出してきた。

 

 あまりに想定外の事態に言葉を失っていると、車は2人の子供とファングを吐き出して森へ戻っていった。

 

「…何が何だかわからない」

 

 第一、ホグワーツにマグルの車があるのがありえない。あんな物がどうして森に。

 あっけに取られていると、出てきた子どもが言い争いを始めた。ポッターとウィーズリーだ。ハグリッドの蜘蛛がどうのこうの言っている。

 アラゴグに会いに行ったのか?随分と無謀な事をする。

 

 ウィーズリーがこちらを向いて震え出した。どうやら気付かれたようだ。

 

「やあ、ウィーズリー、ポッター。生徒は寮にいる時間じゃないかな?グリフィンドール、20点減点だよ」

 

 そういえば彼らは今学期が始まる時にも問題を起こしたのだったか。退学にされるかもと怯えている。僕にはそんな気がないのを教えて、寮に戻るように言った。

 

「もうこの件には首を突っ込まないほうがいい」

 

 生徒の手に負える問題ではないのだ。

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