校長が解任されてから、しばらくして。『秘密の部屋』の被害者はパタリといなくなった。
ハグリッドが犯人だった。なんて事は無いだろう。恐らく校長という最大の障害が無くなったことで、黒幕は最後の準備に入ったのだ。次の犠牲者が、最後の、そして最大の狙いだろう。
期末試験が近づいていることもあったが、僕は校内の見回りの為にしばらくの間図書室を完全に閉め切る事にした。唯一幸いだったのは、グレンジャーらが近くで襲われたので利用者が元々居なかった点だろう。
マートルにも協力を仰ぎ、何とかしてバジリスクを食い止めなければならい。
とても嫌な予感がする。
そして同時に、懐かしい気配が感じられた気がした。
■
ジニー・ウィーズリーが拐われた。配管に仕掛けた感知魔術に一切の反応は無かった。気づいたのは彼に書かれた犯行文が発見されたから。またしても僕らは後手になった。
「生徒を家に帰さなくては。…ホグワーツは終わりです」
マクゴナガルが暗く言う。仕方がないのかもしれない。ロックハートが何やら気の抜けた顔で遅れてやってきた。相変わらずのマヌケ面だ。見ていて腹が立つ。
「僕は部屋に戻ります」
とにかく1回落ち着こうと、司書控室に戻った。『部屋』の場所を調べようと散乱した書物を漁る。既に目を通した箇所をもう一度調べ、見落としが無いかを探る。
「『秘密の部屋』…バジリスク…スリザリン…。考えるんだ。部屋の入り口を」
最も有力なのはスリザリンの談話室だが、トムがあそこには無いと言っていた。第一、人通りの多い所に作れば誰かに見つかってしまう。ならあそこには無いだろう。
「人通りの少ない…配管に繋がっている場所か?…浴場か…調理場とか」
バジリスクは巨大な蛇だ。その体が通れるほど太い配管となると、ある程度は絞れる。
テーブルの上に地図を広げて、事件の起きた場所を繋いでいく。だがそれはまばらで、何より4件しか発生していない。もっと情報がいる。
「…50年前にも『部屋』は開かれた」
その時の事件の場所を合わせる。あの時と同じバジリスクなら、移動方法も同じ配管のはずだ。事件の数は27件。調べるには十分だ。
事件は1つの配管に集中している。蛇の出現はそこから枝分かれした場所で起きている。それは50年前に唯一
「…マートル」
「呼んだ?」
「っ⁉︎」
驚いて振り返ると、彼女が後ろに浮かんでいた。
「な、何の用だい。マートル?」
彼女には「部屋』の捜索を協力してもらっている。何か情報を掴んだか。
「私のトイレにハリー達が来たから、貴方に教えようと思って。『秘密の部屋』の入り口、見つかったわよ」
ポッターらが動いていたらしい。この前、もう危ない事には関わらないように言ったばかりなのに。だがロン・ウィーズリーも一緒だと聞くと、僕は納得した。彼も妹が心配なのだろう。その気持ちは痛いほどよくわかる。
僕だってエリシアのためなら何だってしたかった。兄というのは。家族というのは、そういうものだ。自分の事など二の次で、無茶をしてしまう。
「案内してくれるかい」
だが彼らだけで『部屋』へ行くのは危険すぎる。本当ならマクゴナガル達にも応援を要請するべきなのだろうが、その時間すら惜しい。
■
「よりによって…ここか」
もしスリザリン本人と話す機会があるなら、何故わざわざ
目の前では手洗い台が展開して、大きな穴が地面に空いている。マートルが言うにはポッター達はここに飛び込んで行った。中を覗くと、生温かい風が吹いてきた。
「…怖いね」
少しだけ足がすくむ。中にいるのは、バジリスク…そして、スリザリンの継承者。今からでも応援を呼ぼうか。僕が行く必要は無いんじゃないか。そんな恐怖を感じてしまう。
「ライアス、鳥がいるわ」
マートルが上を指さした。窓枠に止まっているのは、赤い不死鳥。彼の事はよく知っている。
「鳥?…フォークスか」
ダンブルドアが学校を追い出された時にいなくなったと思ったが、こんな所にいたのか。そう思っていると、フォークスは僕の眼を見つめてくる。
その黒い眼差しに、ダンブルドアの声が思い出される。
『信頼しておるぞ』
「…まったく。校長も人使いの荒い人だ」
彼はこうなる事を予期していたのか?なら性格が悪いなんてものじゃない。だが行くしかないだろう。僕に止められるのなら。もう逃げない。眼は晒さない。…後悔しない選択を。もう2度と、エリシアやトムの時のような間違いは犯さない。
ひとつ大きく深呼吸をして、穴から数歩離れる。こう言うのは勢いが大切だ。うじうじしていては進めない。
「マートル。マクゴナガルの部屋へ行って、ダンブルドアが学校に戻れるように手配してもらってくれ。これは僕らの手には負えない」
「貴方はどうするの?」
「…やれるだけやってみるさ」
ふいに手洗い台が動き出した。穴が閉じようとしている。もう行くしかない。フォークスが飛び立ち、穴の中へ消えた。なら、僕も続こう。
「…行ってくるよ」
「ちゃんと戻ってきなさいよ。死んだら呪ってあげるんだから」
その物騒な励ましに、彼女らしいと少し笑う。睨むような、心配するような視線を背に受け、僕は駆け出す。
願わくば、生きて帰って来られますように。