ホグワーツの司書   作:影尾カヨ

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緩く焦げつくエピローグ

「痛ッ!…もっと優しくしてください」

「無茶の代償です。これぐらい我慢なさい」

 

 また1年が過ぎた。今年は『秘密の部屋』の事件があって緊張したものとなった。結果的に解決されたが、生徒たちに被害が及んだ。

 この事件の真相は非常にデリケートだ。トム…すなわちヴォルデモートが生徒を操ったなどと公開すれば魔法界に小さくない混乱を起こすのは明らか。

 

「ぅぐッ!そ、そこは…!」

「うるさいですよ、スコープ司書」

 

 故にロックハートの記憶喪失を利用する事にした。外部から入り込んだ無法者を彼が討ち破り、無法者は『部屋』の呪いで身を残さず死亡。ロックハートは敵の最期の足掻きで記憶を失ってしまった。

 という筋書きだ。一から十まで全て作り話だが、彼には今までの輝かしい自伝という実績があるので受け入れられるだろう。

 

 真の犯人が死んだという事で、ハグリッドも戻ってきた。

 

「ぉぉぉお゛お゛お゛‼︎」

「子供みたいに叫くんじゃありません」

 

 以前よりは幾分かやつれていたが、それでも自分の足で歩ける程には元気があった。彼に渡した羽は所々が焦げていたが、十分に効果を発揮してくれたのだろう。ありがとうとお礼を言われた。

 僕は友人を助けることができたのだ。

 

「い゛っづぁ‼︎」

「おっと、ごめんなさい」

 

 羽といえば、それに書かれている『守護紋様の魔術』。あれは改良の必要があると、『部屋』での決闘を経て思うようになった。直接身体に描くことで効力が増すのは確認済みだが、同時にそれを発揮した時に強い熱を持つのは欠点だ。受ける呪文によっては火傷にまでなってしまう。

 それは単なる外傷ではなく呪いに分類される物のためハナハッカのような薬が使えず、治療が面倒になる。

 

「まだ終わらないんですか」

「後少しですよ」

 

 故にこうして先程から、魔術を施した包帯を定期的に交換する事で治癒を促している。ただでさえ全身に広がっているのに、触るだけで激痛が走る。

 いつもなら医務室でポンフリーに診てもらうのだが、あいにく彼女は今休暇中だ。新学期まで帰ってこない。腕や足なら自分で巻けるが、胴体は背中まで手を回す必要があるので代わりにマクゴナガルに手伝ってもらっている。

 

「…少し涙が」

「知りませんよ。勝手に泣いていてください」

「…よよよー」

 

 ただ彼女の手つきは非常に荒っぽい。絶対にわざとだ。『部屋』の件で僕が独自に動いていたのがいけないのだろう。責任感の強い彼女は、頼ってくれなかった事に怒っているのかもしれない。

 古い包帯を取り終わると軟膏を塗る。少しひんやりとした感触が、熱を持つ肌に心地よい。

 

「この火傷、いつになったら消えるのですか?」

「ポンフリーが言うには、夏休み中には消えるだろうと。()()に行ければすぐなんでしょうが、事情が事情ですので」

 

 『部屋』に関する事を不用意に周囲に広めるわけにはいかない。特に癒者は治療のスペシャリストだ。火傷から『磔の呪文』を防いだと悟られると面倒だ。

 

「しばらくはこの痛みと付き合う必要がありそうです」

「自業自得です。貴方はもっと思慮深い人だと思っていましたよ」

「それを言われたら弱いです。短絡的だった自覚はあります」

「面倒な事に首を突っ込むなんて短絡的極まりない。貴方らしくありませんね」

 

 彼女の言葉に閉口する。

 今回の事件は、トムと本当に親友だったなら防げたかもしれない事件だ。僕が深く関わるのを避けたから、起こってしまった。

 過去に戻ってやり直せられればと、思わずにはいられない。

 

「そういえば、グレンジャー。彼女の3年生で取る授業について、あれは本気ですか?」

 

 過去に戻るというので思い出した。話題を変えるのにもちょうどいい。

 

「ええ。既に逆転時計(タイムターナー)の申請を魔法省に出しました。彼女なら有効活用してくれるでしょう」

「随分と彼女を高く評価してい゛っだぁい‼︎」

 

 少し揶揄いを込めて言うと、彼女の爪が火傷に刺さった。この状況で下手な事を言うのはやめよう。あまりに形勢が不利すぎる。

 

「何か不満でも?」

「ぐすっ…。いえ、ありません。ありませんとも」

 

 後ろにいる彼女の顔は見えないが、それで良かった。きっと怒っているに違いない。

 実際、グレンジャーなら正しく使うだろう。ただ問題があるとすれば、その周りの人間だ。特にポッターは去年も今年も、トラブルに巻き込まれている。何も無いと良いのだが。

 

「さあ、終わりましたよ」

「ありがとうございます。お手数をおかけしました」

「この程度ならいつでも呼んでください」

 

 マクゴナガルは優しく肩を叩いてくれた後、帰り支度を始めた。

 

「貴女も、何かあれば言ってください。僕にできることなら、いつでも手伝いますよ」

「本当に貴方らしくありませんね。何かあったのですか?」

「ははっ。…昔の友人と会って、僕も変わらなければと思っただけです」

 

 簡単に変われたなら苦労は無い。だが少しずつでも変わろうとしなければ、いつまで経っても変われないのだ。

 僕の言葉に彼女は少し考えた後、言った。

 

「では今度、どこかへ飲みに行きませんか。前のように美味しいものを」

 

 きっと友人とはそういうものだ。なんでもない時に、1人で飲むより美味しい酒を飲んで笑い合う。

 そして一歩ずつ、近づいていくのだろう。

 

「ええ。いつでもご一緒します。良い店を探しておきましょう」

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