ホグワーツの司書   作:影尾カヨ

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ネビル・ロングボトム:1

 図書室というのは本を借りる以外にも用途はある。その1つが自習室としての役割だ。そして望みの学習書を求めて、僕に頼る生徒も多い。

 

 多い…のだが。

 

 目の前のヒキガエルを持った少年は、少し事情が異なる。

 

「ロングボトム。申し訳ないけど、君がこの本を借りる事はできないんだ」

「ええー‼︎な、なんでですか!」

 

 図書室に似つかわしくない大声をあげる少年を宥める。周囲の注目する視線を恥じたロングボトムは、肩を縮ませて顔を赤くする。

 

「次に大声を出したら、減点するよ」

「はいぃ、ごめんなさいぃ」

 

 消えていくような震えた声で話すロングボトム。僕としては図書室の利用者に制限するような事はしたくないのだが。彼の場合は少し難しい。

 

「君が前に借りた魔法界の植物に関する本。アレをまだ返却してもらってないから。もう期限は過ぎてるんだよ」

「で、でもボク、あの本が無いとスネイプ先生の授業で減点されちゃうんです」

 

 彼に貸し出した本『腐った脳に草を生やせ』は、スネイプが教鞭を取る魔法薬学の教科書ではない。あの本が無いからと言う理由で減点などはされないはずだ。

 

「ロングボトム、スネイプは厳しい人かもしれないが理不尽な人じゃない。あの本の有無は授業には関係ないんじゃないかな?」

「僕は薬の調合はあの本を見ながらじゃないと、ちゃんとできる気がしなくて。貸し出し期間の延長とか、できないんですか?」

 

 縋り付く彼には申し訳ないが、他の生徒が貸し出しの希望をしている。彼のためだけに期間を延ばすことはできない。

 だが貸し出し希望の生徒も、ロングボトムと同じ1年生だったはずだ。もしかしたら同じスネイプの授業を受けているのかもしれない。あの本は挿絵や丁寧な解説が多く、魔法薬学の参考書としては申し分ない。

 

「つまり君は薬の調合が苦手なんだね」

「苦手なんてものじゃないんです。あの本を借りる前は失敗ばかりで、授業に出るたびにグリフィンドールの点数が下がるばっかりでした」

 

 余程、魔法薬学に自信がないらしい。スネイプのグリフィンドール嫌いは彼がここの生徒の頃から知っている。教師の立場としてはあまり褒められたものではないが、かと言って完璧に公平であれとは言えない。

 

「そう言われても、君のわがままで他の子を待たせる訳にもいかない」

「うう…。そうですよね」

 

 本を返した後のことを想像しているのか、ロングボトムの顔はみるみるうちに青くなってゆく。なんだかこの少年が可哀想に見えてきた。

 

「わかった。代わりにいくつか、魔法薬学の参考になりそうな本を探してみよう」

「ホントですか。わあ、ありがとうございます」

 

 席を外す事を示すボードをカウンターに置き、僕は彼と共に魔法生物について書かれた書物の棚へと向かった。

 

「スネイプの授業はかなり実践的だ。教科書を開いて読むんじゃなくて、実際に作ることに重きをおいている。その内容は主に、ある程度以上の危険性を持った薬品の作製」

 

 それは1年生でも7年生でも変わらない。これは彼の恩師であり先代の魔法薬学の教師にあたる、スラグホーンのスタイルを踏襲しているのだろう。彼なりのリスペクトかもしれない。

 

「この辺りが目安かな」

 

 魔法薬学には魔法界の植物の知識が欠かせない。食べてはいけない物、触ってはいけない物、鳴き声を聞いてはいけない物など、間違えば死ぬような危険性がある植物も多い。いくつかは学校の植物園で栽培しているはずだ。

 

「『マンドレイク(アンド)(レイク)』。主に水辺で育つ植物について書かれてる。肝心のマンドレイクに関する記述はほとんど無いのが笑えるね」

 

 少し大きい分厚い本を、ロングボトムの手に乗せる。

 

「『深い不快』。毒性の強い植物がまとめられてる。入門書としては悪くない」

 

 スネイプが1年生の授業で使う薬品の材料なら、この2冊にほとんど載っている。彼はよく嫌がらせ気味な難題を出すが、それは解けなくても大きな減点はないはずだ。

 

「あとは魔法生物の本だ。薬学は植物だけでは成り立たない」

 

 そう言って彼に渡したのは『動物はどうぶつ?』。危険生物の取り扱いが書かれた、主に魔法生物学で用いられる本だ。生物の取り扱いが詳細に書かれ、その体の部位の用法も添えられている。

 ただ薬の材料として覚えるのは暗記でしかないが、その元となった生物がどんな生態をしているのか知るのは、なかなかに楽しい。

 ロングボトムも薬学の話をしている時は死んでしまいそうな暗い顔だったが、今こうやって生物の分野の本を見る目は忌避のない好奇のものだ。

 

「この3冊があれば…まあ君の頑張り次第だが…スネイプの機嫌を損ねる事は減ると思うよ」

 

 共にカウンターに戻り、本を裏に置く。今の状況では彼は本が借りられないからだ。

 

「君はこれから部屋に戻って、あの本を取ってくるんだ。そうしたら、この3冊は問題なく借りられる」

「やった!ありがとうスコープさん!すぐ取ってきます!」

 

 嬉しそうに図書室を飛び出していくロングボトムに、僕はやれやれとため息をつく。

 

「図書室で大声を出してはいけない。グリフィンドール、5点減点」

 

 そして置いていかれたであろう彼のペットのヒキガエルを見て、3冊の本の上にそっと『蛙を従える本』を加えた。

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