新入生の歓迎会が終わった後、僕は『闇の魔術に対する防衛術』の教室を訪れた。彼に会うのは、彼が卒業して以来だ。元グリフィンドールの監督生で、図書室を熱心に利用してくれた生徒だった。
歓迎会の席で見た時には、とても驚いた。彼がまさか、ホグワーツの教師になるとは。彼の
「ルーピン、いるかい?」
「ミスター・フライト!お久しぶりです」
教室の奥にある私室の扉を叩くと、ツギハギだらけのやつれたローブに身を包んだ男が出てきた。
リーマス・ルーピン。
かつてはジェームズ・ポッターらと共に『マローダーズ』なる友人グループを作っていた。在学中はかなり教師の手を焼かせていた。マクゴナガルが苦労していたのを覚えている。
「久しぶり。元気そうだね」
「今しがた荷を解いたばかりなんです。よかったら紅茶でもいかがですか?」
「いいね。貰うよ」
チョコレートを茶請けにルーピンと茶飲み話をする。
「まずはホグワーツへの就職、おめでとう。君が僕の同僚になるなんて考えた事も無かったよ」
「私もですよ。『狼人間』である僕を雇ってくれたダンブルドアには感謝しきれません」
狼人間は満月の光を浴びると身体が怪物へと変化してしまう。昔から魔法界には強い差別があり、ルーピンも苦労しただろう。現在は症状を抑える薬が開発されている。
「薬はセブルスが作ってくれる事になっています」
「へぇ、スネイプがかい。驚いたね」
学生時代の彼らの関係はお世辞にも良好とは言えなかった。2人とも図書室の利用者だったため顔を合わせる機会は多かったが。
「大人になれば僕らも変わりますよ。いつまでも昔の関係を引きずるような男じゃありませんから」
「ははっ。…確かにそうだ」
彼らよりずっと年上の僕は引きずっている。過去の因縁というのは簡単に消えてくれるものではない。消えて欲しくない。
「そう言えば、ブラックのことは聞いたかい?」
「…ええ。彼の事は一度たりとも忘れた事はありません」
なんだ。君も過去を引きずっているじゃないか。そう思うが口には出さない。友人関係とはそういうものだ。
『マローダーズ』はとても仲が良かった。その1人が闇の魔法使いになったとなれば、忘れる事などできないだろう。
「彼が脱獄できたのは動物もどきだったから。僕はそう見ているが、君はどうだい?」
「私もそう思います」
ルーピンは心苦しそうに僕の推理を肯定した。吸魂鬼の影響を受けないなら、アズカバンなど大した場所ではない。もちろん全く影響がないわけではないので、何かしら別の方法で身を守っていたのだろう。
「校長にはその事を話しましたか?」
「いや、まだだよ。正直に言って、話すべきかどうか迷ってる」
話さなければならないのだろうが、彼が動物もどきだと告発すれば責められるのは彼だけではない。未認定の動物もどきは違法だ。ジェームズ・ポッター。ピーター・ペティグリュー。彼らも同罪になる。
そして彼らと親しかったルーピンにも疑いの目が向けられ、狼人間だということが周囲に拡散すれば彼は職を追われるだろう。
僕の独断で言っていいことではない。
「…どうか、待ってくれませんか。校長に伝えるのは、私がしますので」
「何故だい?」
「……学生時代に『叫びの屋敷』から抜け出していたとあの人が知れば、私は失望されてしまう。あの人の信頼を裏切るような事は…どうか、お願いします」
ダンブルドアとの約束を破っていた事への後ろめたさ。それがあるのは彼自身が誠実な人間だからだろう。だが誠実なだけでは間違っている。
「ならブラックが学校に入ってきたらどうする?あの通路は叫びの屋敷と繋がっている。校長に言って見張りを立ててもらうべきだろう」
手遅れになってからでは遅い。というのは僕が言えた事ではない。
だがルーピンに同じ後悔をして欲しくない。
「…もしその時が来たら、私が彼を捕らえます。友人として、もう罪を犯さないように」
「犠牲者が出てからじゃ遅い。今のうちに手を尽くすべきだ」
これもどの口がいうのか。去年グレンジャーらが被害にあったのは僕の怠慢のくせに。それに友人というのは、簡単に殺せるなら苦労はないのだ。
「どうか言わないでください。…この通りです」
「頭を下げられたって…。いや、分かった。
信頼を裏切りたくないという気持ちは分かる。
それにルーピンはここまで頼んでいるのだ。彼が僕と同じになるかどうかは分からない。もしかしたら、彼は成し遂げるかもしれない。
「ただし、今だけだ。もし君ができないと僕が判断したら、すぐに校長に報告させてもらうよ」
「ありがとう、ミスター・フライト」
これは期待だ。
僕ができなかった事を、彼にはできるかもしれない。
かつての友人を殺すのは、とても難しいことだが。