ホグワーツの司書   作:影尾カヨ

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リーマス・ルーピン:1

 新入生の歓迎会が終わった後、僕は『闇の魔術に対する防衛術』の教室を訪れた。彼に会うのは、彼が卒業して以来だ。元グリフィンドールの監督生で、図書室を熱心に利用してくれた生徒だった。

 歓迎会の席で見た時には、とても驚いた。彼がまさか、ホグワーツの教師になるとは。彼の()()は解決していないだろうが、それでも校長が任命するのは彼に期待しているからか。

 

「ルーピン、いるかい?」

「ミスター・フライト!お久しぶりです」

 

 教室の奥にある私室の扉を叩くと、ツギハギだらけのやつれたローブに身を包んだ男が出てきた。

 

 リーマス・ルーピン。

 かつてはジェームズ・ポッターらと共に『マローダーズ』なる友人グループを作っていた。在学中はかなり教師の手を焼かせていた。マクゴナガルが苦労していたのを覚えている。

 

「久しぶり。元気そうだね」

「今しがた荷を解いたばかりなんです。よかったら紅茶でもいかがですか?」

「いいね。貰うよ」

 

 チョコレートを茶請けにルーピンと茶飲み話をする。

 

「まずはホグワーツへの就職、おめでとう。君が僕の同僚になるなんて考えた事も無かったよ」

「私もですよ。『狼人間』である僕を雇ってくれたダンブルドアには感謝しきれません」

 

 狼人間は満月の光を浴びると身体が怪物へと変化してしまう。昔から魔法界には強い差別があり、ルーピンも苦労しただろう。現在は症状を抑える薬が開発されている。

 

「薬はセブルスが作ってくれる事になっています」

「へぇ、スネイプがかい。驚いたね」

 

 学生時代の彼らの関係はお世辞にも良好とは言えなかった。2人とも図書室の利用者だったため顔を合わせる機会は多かったが。

 

「大人になれば僕らも変わりますよ。いつまでも昔の関係を引きずるような男じゃありませんから」

「ははっ。…確かにそうだ」

 

 彼らよりずっと年上の僕は引きずっている。過去の因縁というのは簡単に消えてくれるものではない。消えて欲しくない。

 

「そう言えば、ブラックのことは聞いたかい?」

「…ええ。彼の事は一度たりとも忘れた事はありません」

 

 なんだ。君も過去を引きずっているじゃないか。そう思うが口には出さない。友人関係とはそういうものだ。

 『マローダーズ』はとても仲が良かった。その1人が闇の魔法使いになったとなれば、忘れる事などできないだろう。

 

「彼が脱獄できたのは動物もどきだったから。僕はそう見ているが、君はどうだい?」

「私もそう思います」

 

 ルーピンは心苦しそうに僕の推理を肯定した。吸魂鬼の影響を受けないなら、アズカバンなど大した場所ではない。もちろん全く影響がないわけではないので、何かしら別の方法で身を守っていたのだろう。

 

「校長にはその事を話しましたか?」

「いや、まだだよ。正直に言って、話すべきかどうか迷ってる」

 

 話さなければならないのだろうが、彼が動物もどきだと告発すれば責められるのは彼だけではない。未認定の動物もどきは違法だ。ジェームズ・ポッター。ピーター・ペティグリュー。彼らも同罪になる。

 そして彼らと親しかったルーピンにも疑いの目が向けられ、狼人間だということが周囲に拡散すれば彼は職を追われるだろう。

 

 僕の独断で言っていいことではない。

 

「…どうか、待ってくれませんか。校長に伝えるのは、私がしますので」

「何故だい?」

「……学生時代に『叫びの屋敷』から抜け出していたとあの人が知れば、私は失望されてしまう。あの人の信頼を裏切るような事は…どうか、お願いします」

 

 ダンブルドアとの約束を破っていた事への後ろめたさ。それがあるのは彼自身が誠実な人間だからだろう。だが誠実なだけでは間違っている。

 

「ならブラックが学校に入ってきたらどうする?あの通路は叫びの屋敷と繋がっている。校長に言って見張りを立ててもらうべきだろう」

 

 手遅れになってからでは遅い。というのは僕が言えた事ではない。

 だがルーピンに同じ後悔をして欲しくない。

 

「…もしその時が来たら、私が彼を捕らえます。友人として、もう罪を犯さないように」

「犠牲者が出てからじゃ遅い。今のうちに手を尽くすべきだ」

 

 これもどの口がいうのか。去年グレンジャーらが被害にあったのは僕の怠慢のくせに。それに友人というのは、簡単に殺せるなら苦労はないのだ。

 

「どうか言わないでください。…この通りです」

「頭を下げられたって…。いや、分かった。()()()()、君に任せるよ」

 

 信頼を裏切りたくないという気持ちは分かる。

 それにルーピンはここまで頼んでいるのだ。彼が僕と同じになるかどうかは分からない。もしかしたら、彼は成し遂げるかもしれない。

 

「ただし、今だけだ。もし君ができないと僕が判断したら、すぐに校長に報告させてもらうよ」

「ありがとう、ミスター・フライト」

 

 これは期待だ。

 僕ができなかった事を、彼にはできるかもしれない。

 

 かつての友人を殺すのは、とても難しいことだが。

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