ホグワーツの司書   作:影尾カヨ

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マダム・ロスメルタ:1

 11月の最後の週。

 僕はマルゴナガルやハグリッドと共に、ホグズミードにある『三本の箒』という小さな居酒屋へとやってきた。魔法省大臣ファッジが、ブラックが侵入した件について話をしたいというのだ。

 ホグワーツからここに来るまで吸魂鬼とすれ違ったが、彼らは非常に苛立っていた。ダンブルドアが校内に入れてくれないからだ。ハグリッドは彼らを見た時、去年アズカバンに入れられた時のことを思い出したのだろう。彼らの近くにいる間、見ていていたたましい程に気分が落ち込んでいた。

 

 雪降る寒さに耐えるためかコートを着込んだ大臣と共に、居酒屋に入る。奥にグレンジャーとウィーズリーの姿がチラリと見えた。バタービールでも飲みに来たのだろう。ポッターも一緒ならより楽しめただろうに。

 

 女将ロスメルタに案内され、僕らは奥の個室へと入る。ここなら他人に話を聞かれることもない。扉のたてつけが荒いのか風で不自然に開いたのが気になったが、それぐらいだ。

 

「ブラックの件、魔法省は何か掴んでいないのですか?」

「我々は総力を上げてアヤツの捜索をしております。捕まるのも時間の問題かと」

「しかし、彼が何処に潜んでいるかも分かっていないではありませんか」

「まあまあ、マクゴナガル。そう責められたらファッジも話せない」

 

 怒り立つ彼女を諌め、ロスメルタにそれぞれ飲み物を注文する。僕が頼んだのは『熟成杏の水割り』だ。程よい甘味に隠れて僅かな酸味がキレのいい後味を残す。

 

「…で、ファッジ。君はまだこの辺りにいると考えているのかい?」

「ああ。間違いない」

 

 気弱な彼にしては珍しく、きっぱりと言った。よほど確信があるのだろう。僕も同じ考えだ。

 

「大臣、吸魂鬼が私のパブの中を2度も探し回ったのですよ。客は怖がって出て行くし、商売あがったりですのよ」

「私も連中が好きなわけじゃない。だが用心に越したことはないんでね。彼らはダンブルドアに対して怒っていたよ。城の校内に入れないから」

 

 ロスメルタの嫌味にバツが悪そうにファッジが返す。だが仕方ないだろう。彼らが城内をうろつけば、とても生徒たちにマトモな教育ができるとは思えない。

 

 会話はやがて、ブラックの悪行へと内容を変える。

 学生時代の彼は、特にポッターと仲が良かった。2人とも非常に賢く、そして非常に手を焼かせたものだ。マクゴナガルは当時を振り返っているのか少し懐かしそうな声色だった。

 

「ポッターは他の誰よりもブラックを信用していました。…それがまさか…あんなことに」

「『秘密の守人』としてポッター夫妻が彼を選んだのは、最大のミスと言っても過言ではない」

 

 『秘密の守人』は『忠誠の術』に起因する複雑な魔術だ。守人が口を割らない限り、隠された秘密は決して見つかることはない。ポッターは自分たちの居場所をブラックの中に隠した。だが彼は『彼』の手下となり、ポッター夫妻がどうなったかは知る所だ。

 ブラックは守人に選ばれた時、喜んだに違いない。それから1週間と経たない内に、ポッター夫妻は殺されたのだ。

 

 ポッター夫妻は、友人の中にある闇を見つけることができなかった。そういう意味では僕と同じかもしれない。

 

「ブラックは『例のあの人』の支持を公言しようとしたとたん、ハリーによって旗頭が折られ、逃げ出した」

「あのくそったれの裏切り者め‼︎」

 

 ハグリッドの罵声が部屋に轟く。外に聞こえてはいけないと、マクゴナガルが諌めるが彼は止まらない。

 ブラックに最後に会ったのは自分で、ポッターらが死んだのを慰めようとしたという後悔を歯噛みながら話した。

 

「でも逃げきれなかった。次の日、ヤツを追い詰めた人間がいたのだ」

 

 その名はピーター・ペティグリュー。

 『マローダーズ』の中で1番小さな、ポッターとブラックを英雄のように崇めていた子だ。だが彼の能力はお世辞にも高いとは言えず、ブラックと相対したが魔法省が駆けつける頃には既に死んでいた。

 残された肉片の中で最も大きな物は、指だった。

 

 僕は杯を握る手に力が入るのを自覚する。

 ブラックは友人殺しを成した。ある意味では闇の魔法使いらしいとも言えるだろう。いや、或いは最初から友人とも思っていなかったのだろうか。いったいいつから彼は闇の帝王の配下にあったのか。

 

 卒業した後か。『忍びの地図』を作った頃か。動物もどきになった頃か。入学した頃か。

 …或いは、もっと前からか。

 

『最初からさ』

 

 うるさい。君は関係ない。

 

 去年の会話を顔を振って払う。いけない。余計な思考で集中が乱れる。酒のアルコールが良くない。さっさと飲み干して、ロスメルタに冷たい水を頼んだ。

 

「しかし、我々は程なく彼を捕まえるだろう。もし『例のあの人』に忠実な家来が戻ったとなると、どんなにあっという間に彼が蘇るか。考えただけでも身の毛がよだつ」

 

 ファッジは空になった杯をテーブルに置くと、席を立った。これから校長と食事があるらしい。マクゴナガル達も共に学校へ向かうとのことで、僕はロスメルタが水を持ってくるまで1人で部屋にいた。

 

「…あら、他の方々は?」

「もう帰ったよ。君によろしくと言っていた」

 

 代金はそれぞれ置いていったので問題は無い。

 痛い程に冷えた水を呷り、酔いに火照った体を冷ます。

 

「それにしても、本当にあの子がねぇ。大人になるとどうなるか、分からないもんだ」

 

 彼女の呟きに首肯する。ブラックは確かに正義感が強いとは言えないし、むしろ野蛮と言った方が正しい少年だった。スリザリン…特にスネイプとは同世代という事もあって非常に仲が悪く、互いに呪いを掛け合うような関係だった。

 だが決して、友人を裏切るような子では無かった。僕とトムの関係とは違う、真に親友と呼べる関係だと思っていた。

 

 だがこうなってしまった今、過去の印象は余分な迷いを生むだけ。もし相対した時にその迷いが出れば死ぬのはこっちだ。

 

 友人殺しという実績は、軽く見てはいけない。

 もしブラックが…ヴォルデモートの元へ帰れば、彼の復活に尽力するだろう。『彼』が力を取り戻すのは、何としても防がなければならない。

 

 もしかしたらそれもまた、僕の『友人殺し』になるかもしれない。

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