ホグワーツの司書   作:影尾カヨ

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リーマス・ルーピン:2

「…ふあぁ…眠い…」

 

 消灯時間をとうに過ぎ、明かりもなく誰もいない廊下を歩く。

 この所、魔術の研究に没頭していてまともに寝ていない日が続いている。そんな時に校長から命じられたのが、深夜の校内の見回りだ。1月になって再び授業が始まり、生徒たちも学校に戻ってきた。なんとしても彼らの安全を確保しなければならない。

 

「まさかミスター・フライトまでこんな事に駆り出されるとは。司書というのも案外大変なのですね」

「校長は人使いが荒くてね。近年はもう労働条件に反しているんじゃないかと思うくらいだよ」

 

 ルーピンの言葉に僕は気怠げに返す。特に一昨年の『賢者の石』の防衛や、去年の『秘密の部屋』の事件に関しては給料を上げてくれても良いんじゃないかと思う。

 一度労基に申し立ててみようか。などと適当な事を思う。まあそんな事はしないのだが。

 

「しかしシリウスが未だに校内に潜んでいるとは思い辛いです」

「でも彼の狙いがポッターである可能性が高い以上、目的を達さずに逃げる事は無いだろうね」

「…ですね。恐らくは郊外。そう遠くないところにいるでしょう」

 

 そう考えるのが自然だ。が、まだ捕まっていないということは普通ではない場所に潜伏しているのだろう。

 

「そういえば『忍びの地図』は今どこにあるのでしょう?あれがあれば、少なくとも校内にいるかどうかは分かります」

「…ああ、あれかい。あれは今、ウィーズリーの双子が持っているよ」

「なっ⁉︎…フィルチの所に無いと思ったら‼︎あれがシリウスの手に渡ればどんな危険があるか…分からない訳じゃないでしょう!」

 

 憤るルーピンに僕は手をヒラヒラ振って適当に声を抑えるように伝える。廊下の絵画達もうるさい声に抗議の目を向ける。それでも彼は何か言いたげだ。

 

「それについては僕も理解しているよ。でもどうだい?ある意味では1番の隠し場所だろう?君も僕に言われるまでは思いもしなかったじゃないか」

「そ、それは…まあ…確かに、そうかもしれません。シリウスがソレを求めるならフィルチの所に真っ先に行くでしょう。魔法が使えないフィルチが彼に対抗するすべはありません。もしそうなれば、彼は容易く地図を手にできる」

「もしブラックが双子が持っている事を知っても、あの子達は常に2人以上で行動しているからね。杖を持たないブラックは襲いたくても襲えないんじゃないかな?」

 

 そう考えると、それはとても最適な隠し場所に思える。あの双子が誰かに地図を渡す事も考えにくい。恐らくは大金を積まれても渡さないだろう。

 

「納得したかい?僕だって考え無しに行動はしないよ」

「…確かにそうです。…分かりました。しかし今現在も彼らが持っていると私も確かめようと思います。明日、彼らに聞いてみる事にしましょう」

「なら僕からも言っておこう。他ならぬミスター・フライトの頼みだ。彼らも拒絶はしまいよ」

「ミスター・フライトである事もバレているんですか⁉︎彼らがイタズラの方面では優秀なのは承知していましたが、まさかそれほどとは…」

「驚くよね」

 

 本当に驚く。初めて彼らが僕をミスター・フライトと呼んだのは、確か彼らが1年生の時だ。まだ入学して間もない頃だった筈なのに、僕がその名の人物であると確信を持って接触してきた。あの時の僕の慌てようと言ったら、これまでの人生でも5本の指に入るだろう。どこで知ったのやら、全く検討がつかない。

 

「君たちがあれを作る時に手を貸したのを、間違いだったと思ったことは無い。けどまぁ、よくも『ミスター・フライト』なんて名前にしてくれたね。もっとシンプルな物にして欲しかったよ」

「貴方を示すのにそれ以上の名前はありませんよ。『飛ぶ男(ミスター・フライト)』…これ以上ない、ピッタリな名前です」

「…変な名前じゃないだけマシか」

「ジェームズは『マスター・ウィング(羽の先生)』なんて考えてましたけどね」

「それよりは『ミスター・フライト』の方が良い」

 

 マスターなんて僕に合わない。司書ならライブラリアンだろう。そこまで直球なのも勘弁して欲しいが。

 

「そうそう、君の在学時代の話だけどね──」

「そんなこともありましたね。あの時は──」

 

 夜は深く、長い。退屈を紛らわすように僕らは昔話に花を咲かせて、見回りを続けた。ブラックも結局は見つからず、何もない夜だった。

 

 

 息を切らせながらルーピンが司書控室に飛び込んできたのは、次の日の事だった。

 

「ミ、ミスター・フライト‼︎大変です!」

 

 図書室は現在、本の整理ということで閉室中だ。と言ってもこれは数時間程度で終わるので扉は閉めていない。棚に戻す本を分ける作業をしている僕に、彼は掴みかかる程の勢いで駆け寄ってきた。

 

「ち…ち…ず……ちずが…」

「チーズかい?お腹が空いてるなら厨房に…」

「ふざけてる場合じゃありません!」

「…だろうね。地図がどうしたんだい?」

 

 普段とはあまりにも様子が違う。話を聞くために手を止めて、彼に水を飲む様に言う。喉を鳴らしてそれを飲み干した後、少し落ち着いた彼は要件を話し始めた。

 どうやら地図の所在が分からないという事らしい。

 

「あの双子は既に地図を他の子に渡してしまったようです」

「…それが誰かは?」

「教えてくれませんでした。…曰く、『俺たちは正しい事をしただけだ』と」

「それは…厄介極まるね」

 

 グリフィンドールの生徒というのは、ホグワーツの中で最も正義感に溢れている。が、度々その行動が暴走する事がある。本人は自分が悪いと思っていない…或いは思っても止めないのが、とても厄介だ。

 近年ではポッターが良い例だろう。

 ハッフルパフのような友愛も、レイブンクローのような聡明さも、スリザリンのような仲間意識もない、ある意味ではホグワーツで最も自己中心的な生徒が集うのがグリフィンドールだ。

 成長すれば勇敢な魔法使いになるが、未熟な子供ではそれが逆に無謀になる。

 

「ブラックに渡したという事は無いだろうけど、その誰かがブラックに盗まれる可能性はある」

「生徒自身が悪用する事も考えられます」

「良くないなぁ…そういうのは」

 

 首に手を当てて思案する。とにかく今は地図の所有者を突き止める事が優先だ。あの双子が渡しそうな相手が誰なのか。

 

「恐らくだけど、同じグリフィンドール生だろうね。彼らの性格からして親しい間柄。だけどいつも共にいる訳ではない人物」

 

 ジョーダンのような仲のいい相手なら、今更地図を渡す事はない。なら今年入学した新年生か?いや、それほどまでに彼らを信用したりはしないだろう。だが『正しい事』と言いながら渡したなら、相手も何か事情があるに違いない。

 

「…ある程度は絞り込めるでしょうが、まさか地図の事をいきなり訊く訳にもいきません」

 

 そもそもいきなり聞いて「自分が持っています」などと言う不用心な者に渡したりはしないだろう。その捜査は内密に進めるとして、今はできる対処を考える。

 

「あの地図に描かれている城の内外の出入り口を、可能な限り見張るんだ。僕も『鳴き鳥の罠』を仕掛けておこう。あれなら()()()()()()()()使()()()()以外を検知できる」

 

 一昨年の事だが、それは1度破られている。それでも確かな魔術だ。相手が生徒なら大丈夫なはずだ。

 

「特に叫びの屋敷に通じる道には厳重な警戒を。あそこはブラックがよく使っていたからね」

「分かりました。…この事は校長には…」

「…言えない。これは何としても、僕らだけて片付けなければならない」

 

 もし地図の存在が他の教師に知れたら。

 想像するだけで背筋が凍る。

 

「なるべく隠密に、迅速に地図を回収しましょう」

「それがいい」

 

 もっとも、誰が何処にいるか分かる地図を持っている相手に鬼ごっこなど、簡単に捕まる筈もない。この日から僕は、いつ地図が表沙汰になるかを怯えながら過ごす事になった。

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