図書室はさまざまな利用方法がある。というのは以前から言っている。だがもちろん、許されない行為というのもある。大声で話す。本を粗末に扱う。飲食をする。…これらの行為は、
そして、いびきをかきながら机に突っ伏して眠るのは、図書室でなくとも咎められる行為だろう。故に僕の行動はシンプルだ。
「クラッブ、ゴイル。それぞれ10点減点」
杖を一振りして2人の髪を引っ張り、その目を覚まさせる。寝ぼけ眼の彼らも、減点という言葉が聞こえたのか顔を振って意識を覚醒させた。
「寝不足なら談話室に戻るんだ。ここにベッドはない」
「でも俺たち、ここで待ってろって言われてて」
「誰に?」
「僕に、だ」
キザったらしい声に振り向くと、金髪の少年。ドラコ・マルフォイが立っている。
「やあ、マルフォイ。君が彼らを待たせていたのかい?」
「そうだ。本を探しててな。こいつらは頭が悪いから何の手伝いにもならない。字も読めるかあやしいものだ」
マルフォイの言う事に2人は気不味そうにする。どうにも友人というより、舎弟とか家来とかと似たような関係らしい。彼らの父親を知っている身としては、ある程度察することができる。
「なるほど。ならしっかりと言い含めておいてくれないか。図書室は寝る場所じゃないってさ」
「なんでわざわざ、僕が説教しなきゃいけないんだ?司書の貴方がやればいい」
随分と生意気な子だ。父親か、母親。或いは両方が、余程甘やかして育てたとみえる。マルフォイ家は魔法界の名家であり、裕福だ。
つまりドラコ・マルフォイというのは、典型的な『おぼっちゃま』だと結論づける。
「どうやら君は、上に立つという意味を知らないらしい」
「何?」
少しからかうと、眉間にシワを寄せて睨んでくる。実にわかりやすいタイプの直情家だ。悪くない。彼には見えないようにほくそ笑む。
「君たちの関係はおおよそ察しがつく。どうせ常に3人で連んでいるんだろう」
よく物語で出てくる単語を用いるなら、トリオ、或いは三馬鹿。と言うのだろう。だがそれは口にする必要はない。
「この2人の素行が悪い事が噂になれば、一緒にいる君の評判がどうなるか予想がつく」
「…それはそうかもしれない。けど、上に立つ事とは関係ない」
意地になっているのか、マルフォイは退がる気はない。そういうところがますます、プライドだけ高いおぼっちゃまだ。
「よく言うだろ?己が民を統制せよ。たった2人の子分すら従えることができないなら、操り人形の方がお似合いだ」
「ーッ!父上に言いつけてやる!僕を馬鹿にするとどんな目にあうか、思い知らせてやる‼︎」
あまりにも型に嵌ったセリフに、うっかり吹き出してしまう。形勢が悪いと見るや自分の使える
杖を振って、1冊の本を手繰り寄せる。
「古い国の王様の話だ。帝王学を学べる。暇な時にでも読むと良い」
僕が差し出すと、マルフォイはひったくるように受け取った。いらないと拒絶されると思ったが、彼なりに心にくるものがあったのか。
ついでに1冊ずつ、クラッブとゴイルに渡す。
「図書室に来て眠るなんて勿体ない。本が読めるなら、貴方達の世界は無限に広がるよ」
「はあ…。どうも」
簡単なABCの本だ。挿絵も多く絵本としての趣が強いが、読書に拒否感があるのなら我慢して読むには合っている。
「貸し出し手続きならカウンターへどうぞ」
結果的に、マルフォイは探していた本と渡した本を合わせて2冊。クラッブとゴイルは1冊ずつ借りる事となった。
「マルフォイ」
去ろうとする3人のうち、マルフォイだけを呼び止める。
「何だ、いまさら父上が怖くなったか?謝るなら許してやる」
相変わらず生意気な事を言う。彼ぐらいの年齢なら、それもまた一興だろう。学校生活の中で変わるかも知れないし、変わらないかもしれない。そこに関してはどうでも良い。彼の人生に口を出すほど、司書というのは偉くない。
「いや。むしろルシウスに伝えてくれ。『司書は変わってない』って」
端的なメッセージを疑問に思いながらも、マルフォイは身を翻して去っていった。置いていかれそうになった取り巻きの2人も慌ててついて行く。
「…蛇の子は蛇か」
昔の父親とそっくりな振る舞いに、少しおかしく思いながら僕はカウンターに腰掛ける。