ホグワーツの司書   作:影尾カヨ

4 / 44
ドラコ・マルフォイ:1

 図書室はさまざまな利用方法がある。というのは以前から言っている。だがもちろん、許されない行為というのもある。大声で話す。本を粗末に扱う。飲食をする。…これらの行為は、僕の王国(図書室)では許されない。

 

 そして、いびきをかきながら机に突っ伏して眠るのは、図書室でなくとも咎められる行為だろう。故に僕の行動はシンプルだ。

 

「クラッブ、ゴイル。それぞれ10点減点」

 

 杖を一振りして2人の髪を引っ張り、その目を覚まさせる。寝ぼけ眼の彼らも、減点という言葉が聞こえたのか顔を振って意識を覚醒させた。

 

「寝不足なら談話室に戻るんだ。ここにベッドはない」

「でも俺たち、ここで待ってろって言われてて」

「誰に?」

「僕に、だ」

 

 キザったらしい声に振り向くと、金髪の少年。ドラコ・マルフォイが立っている。

 

「やあ、マルフォイ。君が彼らを待たせていたのかい?」

「そうだ。本を探しててな。こいつらは頭が悪いから何の手伝いにもならない。字も読めるかあやしいものだ」

 

 マルフォイの言う事に2人は気不味そうにする。どうにも友人というより、舎弟とか家来とかと似たような関係らしい。彼らの父親を知っている身としては、ある程度察することができる。

 

「なるほど。ならしっかりと言い含めておいてくれないか。図書室は寝る場所じゃないってさ」

「なんでわざわざ、僕が説教しなきゃいけないんだ?司書の貴方がやればいい」

 

 随分と生意気な子だ。父親か、母親。或いは両方が、余程甘やかして育てたとみえる。マルフォイ家は魔法界の名家であり、裕福だ。

 つまりドラコ・マルフォイというのは、典型的な『おぼっちゃま』だと結論づける。

 

「どうやら君は、上に立つという意味を知らないらしい」

「何?」

 

 少しからかうと、眉間にシワを寄せて睨んでくる。実にわかりやすいタイプの直情家だ。悪くない。彼には見えないようにほくそ笑む。

 

「君たちの関係はおおよそ察しがつく。どうせ常に3人で連んでいるんだろう」

 

 よく物語で出てくる単語を用いるなら、トリオ、或いは三馬鹿。と言うのだろう。だがそれは口にする必要はない。

 

「この2人の素行が悪い事が噂になれば、一緒にいる君の評判がどうなるか予想がつく」

「…それはそうかもしれない。けど、上に立つ事とは関係ない」

 

 意地になっているのか、マルフォイは退がる気はない。そういうところがますます、プライドだけ高いおぼっちゃまだ。

 

「よく言うだろ?己が民を統制せよ。たった2人の子分すら従えることができないなら、操り人形の方がお似合いだ」

「ーッ!父上に言いつけてやる!僕を馬鹿にするとどんな目にあうか、思い知らせてやる‼︎」

 

 あまりにも型に嵌ったセリフに、うっかり吹き出してしまう。形勢が悪いと見るや自分の使える最高の権力(父親)を引き合いに出す。やはりわかりやすく、御しやすい。操り人形という適当な例えは、案外的を射ているのかもしれない。

 杖を振って、1冊の本を手繰り寄せる。

 

「古い国の王様の話だ。帝王学を学べる。暇な時にでも読むと良い」

 

 僕が差し出すと、マルフォイはひったくるように受け取った。いらないと拒絶されると思ったが、彼なりに心にくるものがあったのか。

 ついでに1冊ずつ、クラッブとゴイルに渡す。

 

「図書室に来て眠るなんて勿体ない。本が読めるなら、貴方達の世界は無限に広がるよ」

「はあ…。どうも」

 

 簡単なABCの本だ。挿絵も多く絵本としての趣が強いが、読書に拒否感があるのなら我慢して読むには合っている。

 

「貸し出し手続きならカウンターへどうぞ」

 

 結果的に、マルフォイは探していた本と渡した本を合わせて2冊。クラッブとゴイルは1冊ずつ借りる事となった。

 

「マルフォイ」

 

 去ろうとする3人のうち、マルフォイだけを呼び止める。

 

「何だ、いまさら父上が怖くなったか?謝るなら許してやる」

 

 相変わらず生意気な事を言う。彼ぐらいの年齢なら、それもまた一興だろう。学校生活の中で変わるかも知れないし、変わらないかもしれない。そこに関してはどうでも良い。彼の人生に口を出すほど、司書というのは偉くない。

 

「いや。むしろルシウスに伝えてくれ。『司書は変わってない』って」

 

 端的なメッセージを疑問に思いながらも、マルフォイは身を翻して去っていった。置いていかれそうになった取り巻きの2人も慌ててついて行く。

 

「…蛇の子は蛇か」

 

 昔の父親とそっくりな振る舞いに、少しおかしく思いながら僕はカウンターに腰掛ける。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。