イナイレ世界に転生したら女子だったんですが   作:マルメロ

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未知なる強敵

 帝国学園が10-0で完敗した。

 俺達がその知らせを聞いたのは2回戦にむけてイナビカリ修練場で特訓している時だった。音無が修練場に酷く慌てた様子で入ってきたので事情を聞くと。

 

「帝国学園が…10-0で……世宇子中に完敗しました…」

 

 それを聞いて驚きの声をあげる一同。

 

「ガセじゃないのか!?」

「あの帝国が…1点も取れないなんて…」

 

 あの帝国が……世宇子中っていうと特別推薦枠?で参加が認められた学校だったはずだ。帝国が一番の強敵だと思ってたけどまさかそんな伏兵が潜んでいたとは。

 

「そんなわけないだろ!あいつらが負けるなんて…鬼道がいるんだぞ!」

 

 珍しく取り乱した様子で音無に詰め寄る円堂。一番帝国との再戦を楽しみにしていたのは彼だ。まだ現実を受け止められていないのだろう。

 

「…お兄ちゃん、試合には出なかったんです。うちとの試合で怪我してたから…大事をとって控えに回って。そしたら相手が圧倒的で…お兄ちゃんが傷をおして出ようとした時にはもう…」

 

 …今の雷門と帝国は恐らくほぼ互角、その帝国がそこまで大敗したということは…

 

「今の私達では、世宇子には勝てない…」

 

 頭の中で考えていたつもりだったが思わず口に出てしまっていたらしい。全員の視線がこちらに集まる。

 

「羽花!何言って……俺、鬼道のとこ行ってくる!」

「おい、円堂!」

 

 俺達の静止を振り切り、円堂が飛び出して行ってしまった。恐らく向かった先は帝国学園だろう。

 

「とにかく練習に戻ろう。ここで考えていても仕方ない」

 

 豪炎寺の言葉で練習を再開するがやはりみんな動揺が隠せないようで集中できていなかった。

 

 ♦♦♦♦♦

 

 

 

 

「世宇子…そんなに強いチームなんだね」

 

 沈みかけた夕陽を浴びて、茜色に染まった顔でフェイが呟いた。

 この時間ならいるかもしれない、そんな期待を見透かしていたかのように彼は河川敷の土手に腰掛けていた。まるで俺を待っていたかのように。

 

「フェイ、私を強くしてください!今のままじゃ、世宇子には勝てない…」

 

 俺がここに来た目的はそれだ。世宇子に勝つためには普通に特訓していても無理だ。だからこそ彼の力を借りることに決めた。

 頭を下げて必死に懇願する。みんなの役に立てる力が欲しい。でないとまた…

 それを聞いて一瞬口元が緩んだと思うと、彼は微笑みを浮かべた。

 

「もちろん!僕も君とサッカーがしたかったんだ!」

 

 その答えに俺が唇をほころばせると「ただし」と彼は続けた。

 

「僕の特訓は厳しいよ。覚悟してね」

「はい!望むところです!」

 

 そうして始まったフェイとの特訓。内容自体はとてもシンプルでフェイからボールを奪い、そして奪われないようにドリブルするだけ。だけどこれがものすごく難しい。

 そもそも彼のスピードや技術は俺とは比べ物にならない程高く、ついていくことすらできないので体力をどんどん削られてしまう。特訓を始めて1時間経つ頃には俺は立ち上がることのできない程に消耗していた。

 

「ハァ…ハァ…全然ついていけない…」

「まだ始めたばかりだし、焦らないでいこうよ」

 

 フェイはそう言うがさすがにここまで自分のサッカーが通じないと焦らずにはいられない。肩で息をする俺とは対照的に彼はほとんど息を切らしていない。 それが俺達の実力差を物語っていた。

 

 すると、炎が燃え盛るような轟音が鳴り響いた。音のした方を見ると3人の人影があった。あれは…豪炎寺と鬼道、そして音無、どういう組み合わせだ?

 音無が豪炎寺になにか話したと思うと彼は鬼道と共にグラウンドの方に降りてくる。その時、俺と目が合った。

 

「天川、1人で何してるんだ?特訓か?」

「あ、はい特訓を…え?1人?」

 

 辺りを見渡すといつの間にかフェイの姿が消えていた。さっきまでここにいたはずなのに…

 

「誰かいたのか?まぁいい、少し場所借りるぞ」

 

 そう言うと彼らはパス交換…いや、もはやシュートじみたボールを何度も蹴りあっていた。

 

「鬼道そんなに悔しいか!」

「悔しいさ!世宇子中を、俺は倒したい!」

 

 そんな2人を俺と音無は土手に腰掛けて眺めていた。

 

「羽花さん、止めなくていいんですか?」

「多分止めても無駄ですよ。それに…止めない方がいいかもしれません」

 

 思い出すのは帝国戦、いつもの調子が出せなかった円堂に豪炎寺がファイアトルネードをぶち込んだ。

 恐らくあれが彼なりの説教なのだろう。ならば止めるのは余計なお世話だ。

 

「自分から負けを認めるのか!鬼道!」

 

 豪炎寺がファイアトルネードを放つと、それは鬼道の顔面すれすれを通り過ぎた。シュートによって土手にクレーターを作られ、ボールが破裂してしまった。

 

「一つだけ方法がある。お前は円堂を、正面からしか見たことがないだろ。あいつに背中を任せる気はないか?」

 

 なるほど、彼が言いたいことがわかった。でもそんなこと、本当にできるのだろうか…?

 

 ♦♦♦♦♦

 

 

 

 

 次の日、練習の前に部室でミーティングが行われた。

 

「みんな!全国大会2回戦の相手は千羽山中だ!」

「彼らは無限の壁と呼ばれる鉄壁のディフェンスを誇っています。全国大会まで1点も許してません」

 

 部室内の空気が静まり返る。全国大会まで無失点なんて相当強力なディフェンスだと予想できる。2回戦も甘くはなさそうだ。

 

「わかった!その無限の壁って鉄壁のディフェンスを破ればいいんだな!」

「そんな簡単に言われても…」

 

 円堂のその発言に破れないから鉄壁なのだろうとみんな苦笑する。まぁらしいといえばらしいけど。珍しく豪炎寺も笑ってる。

 

「鉄壁って鉄の壁だろ?」

「意味はそうですね」

「なら、こっちはダイヤモンドの攻めをすればいいんだ!」

「…はい?」

 

 意味不明すぎる…というか

 

「衝撃に対する硬度だったら鉄の方が上なので、多分ダイヤモンドの方が先に砕けますよ」

 

 あららと円堂がずっこけた。まずいこと言っちゃったかな…

 

「と、とにかく特訓だ!無限の壁なんてぶち破ってやろうぜ!」

「「「おぉぉぉーーー?」」」

 

 そんなこんなで練習が始まったのだが、なにか様子が変だった。タイミングがバラバラというか、パスも繋がらなければ壁山はヘディングを失敗していたし、染岡と豪炎寺のドラゴントルネードも何回撃っても成功しなかった。

 別にみんながなまってるわけじゃい、むしろ個人個人のレベルは格段に上がってるように見える。他の人たちも原因がわからず困惑している。

 

「一体どうなってるの…」

 

 結局今日の練習でまともに連携が決まることはなかった。

 そしてその後、俺は理事長室で夏美の手伝いをしている。理事長が入院している間にかなり書類が溜まっているようで、机の上には大量の山ができていた。

 夏美がそれを確認し、俺が判子を押す。単純作業だがこれだけの量があるとさすがにきつい。

 

「ごめんなさい、手伝ってもらっちゃって」

「いいえ、これくらい大丈夫ですよ」

 

 なにせ夏美には服を買ってもらった借りがある。あれいくらしたんだろうか…多分相当タダ働きしないと返せないと思う。

 

「ねぇ、天川さん」

「はい?」

 

 夏美の方を見るとさっきまでとは違い真剣な表情。そのまま彼女は続けた。

 

「あなたはどうしてサッカーをしているの?」

 

 動かしていた手を止めて夏美を見つめる。今、俺の表情は険しくなっているだろう、がすぐに笑顔に切り替えて答える。

 

「サッカーが好きだからですよ」

 

 当たり障りのない回答。それを聞いた彼女はなにか考え込んで

 

「私はあなたの事情を知ってる…だから隠さなくていいのよ」

 

 思いもよらぬ言葉を口にした。知ってる?なんで?どこで聞いて…

 

「あなたが転校してくる前日に従者の女性が教えてくれたわ」

「ッッッ!お願い!そのことはみんなには言わないで!」

 

 知られてしまったらみんな俺を軽蔑するに決まってる。やっと見つけた居場所…絶対に失いたくない。そのためにも知られるわけには…

 

「みんなに言うつもりはないわ。その代わり、あなたの本心を教えて」

「本心…」

「あなたはなぜ、サッカーをするの?」

「……サッカーは私の全て…私からサッカーをとったら、もう何も残らない。だから私は…」

 

 そう、サッカーこそ俺の存在意義。サッカーをしている俺をみんなは必要としてくれる。だからそこに好きとか嫌いとか、そんな感情はない。

 それを聞くと、夏美は立ち上がり、扉の方に向かった。

 

「ちょっと職員室に行ってくるわね。仕事はだいぶ片付いたわ、ありがとう。もう遅いし先に帰ってて」

 

 そして扉を半分だけ開けるとこちらにふりむいて呟いた。

 

「でも、あなたは楽しそうにサッカーをしてると、私は思ってたんだけどな」

 

 そう言い残すと少し悲しそうに微笑みながら、夏美は部屋を出ていった。

 

 ♦♦♦♦♦

 

 

 

 

 俺が理事長室から出る頃には辺りはすっかり暗くなっていて、校舎の光も職員室以外灯っていなかった。

 校門の方に歩いていると体育館の方から光が零れているのが見えた。あっちは…イナビカリ修練場?

 気になって中に入ってみると、そこで1人特訓をしてる人物がいた。

 

「染岡君?」

「おお、天川か。こんな時間にどうした?」

「染岡君こそ、こんな時間まで特訓を?もう19時半ですよ」

 

 練習は2時間前に終わったはず、てことはそれからずっと特訓していたということになる。

 

「ああ。俺、このままじゃダメなんだ。帝国戦も戦国伊賀島戦も、ゴールを決められなかった」

 

 そう言ってシュートを放つが、枠の外に飛び出してしまった。それを見て染岡は強く歯ぎしりする。

 

「俺も豪炎寺やお前みたいに1人で点を決められるようにならなきゃならないんだ。」

「私?私なんてそんな大したものでは…」

「謙遜するなよ。とにかく、俺はもっと強くならなきゃならないんだ!」

 

 何度もシュートを撃つ染岡だが明らかに集中力を欠いている。その証拠にシュートはゴールに収まらずあらぬ方向に飛んでいっている。

 

「くそ!なんで上手くいかねぇんだ!」

 

 …彼のシュートが豪炎寺にパワーで劣っているのは間違っていないと思う。実際、ファイアトルネードとドラゴンクラッシュでは前者の方が強力だ。でも、染岡は染岡で豪炎寺にない長所を持っている。

 

「あの、無理に1人でゴールを決めなくてもいいんじゃないですか?」

「え?」

「だって、サッカーは11人でやるものですよ?確かに染岡君はシュート力では豪炎寺君に敵わないかもしれませんけど、パスの精度やシュートの速度は染岡君の方が上だと思います」

 

 そう、尾狩斗戦がわかりやすいが彼のシュートは速度が速い。ゆえにゴール隅を狙ったシュートやシュートに見せかけたパスなら、彼の右に出る者はこのチームにいないのだ。

 

「シュートの速度か…確かにパワーに集中しすぎて思いつかなかった」

「無理に豪炎寺君を越えようとしなくても、染岡君は十分強力なストライカーだと思いますよ」

「ふ、お前円堂と同じようなこと言うな」

「守君と?」

「ああ、前に円堂に言われたんだ。豪炎寺になろうとするな。お前は染岡竜吾だ、お前にはお前のサッカーがあるってな」

 

 なるほど、円堂が言いそうなことだ。彼にそういうことをやらせたら下手したら日本一だと思う。

 

「ありがとな、お前のおかげでなにか掴めた気がする」

「いえ、別に大したことは…」

 

 そう言った時、染岡がこっちにボールを投げ渡してきた。

 

「少し付き合え、お前のシュートも参考にしたいしな」

「私なんかで良ければ喜んで」

 

 その日、俺と染岡の秘密の特訓は夜更けになるまで続いた。

 

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