イナイレ世界に転生したら女子だったんですが   作:マルメロ

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覚醒する遺伝子

 

 

しばらくの時が経ち、2回戦当日がやってきた。相変わらず連携は取れていないが、個々人の力は格段に上がってる。後は今日来るはずの彼に期待しよう。

 

「そろそろ試合を始めませんか?」

 

 審判の人が試合を始めるよう催促してくるが、響監督は聞く耳を持たない。彼を待ってるからだ。

 当然、事情を知らないみんなは猛反発している。唯一円堂だけが監督の言うことならと信じて待機している。

 その瞬間、観客席からどよめきの声が聞こえてきた。どうやら間に合ったようだ。

 遅れてフィールドに入ってきたのは青色のマントにゴーグル、雷門ユニフォームを身に纏った鬼道だった。

 

「「うそぉぉぉぉ!?」」

 

『鬼道です!間違いありません、帝国のキャプテン鬼道有人です!』

 

 実況と味方ベンチからも驚きの声があがる。

 大会規定上では試合前までに転入手続きをしていればチームの移籍は可能だ。実況からもその説明が入った。

 

「このままでは引き下がれない!世宇子には必ずリベンジする!」

「鬼道!わかってたぜ!お前があのまま諦めるわけないって!」

「なんて執念だ…」

 

 そして鬼道を入れてのフォーメーションが発表された。

 

 FW 豪炎寺、染岡

 

 MF 半田、羽花、鬼道、松野

 

 DF 風丸、壁山、土門、栗松

 

 GK 円堂

 

 控え 少林寺、宍戸、影野、眼鏡

 

 鬼道が入ったことで中盤の層が厚くなり、攻撃力が上がった。さて、無限の壁とやらを破れるかどうか…

 

 雷門ボールでキックオフ、そのまま速攻で攻め上がるが

 

「染岡!」

「…!弱い」

 

 半田から染岡へのパスは通らずカットされてしまった。やはり連携が噛み合っていない。

 それからもボールは奪えるものの、パスが通らず攻めあぐねる時間が続いた。

 

「ワンダートラップ!!染岡君!」

 

 必殺技でボールを奪うも、このパスも通らずカットされてしまった。

 

「ランボールラン!!」

 

 千羽山の必殺技でどんどん自陣に入り込まれてしまった。壁山が間一髪でボールを弾くが、その先にはFWが待ち構えていた。

 

「シャインドライブ!!」

 

 ボールが眩い光で包まれ、円堂がたまらず目を瞑る。そしてシュートはゴールへと吸い込まれていった。

 痛恨の失点。この試合、1点勝負になる可能性が高いのでなるべく先取点はこちらがとりたいところだったが…

 すると鬼道が俺達を集め、指示を出し始めた。

 

「栗松、お前はいつもより2歩後ろを守れ」

「そして松野、豪炎寺にパスを出す時は3歩、染岡には2歩半、いつもより前に出せ。」

 

 その指示に一瞬困惑する2人だったが、すぐに飲み込みポジションに戻った。

 そして試合が再開されるが、鬼道の指示で格段に連携を取りやすくなった。さっきの2人以外にも即興で指示を出し、見事にゲームメイクしてみせた。

 

「豪炎寺君!」

「天川、3秒待て!…今だ!」

「は、はい!」

 

 今度はスムーズにパスが通った。そしてボールは豪炎寺から松野、そして染岡へ。

 

「2歩半先!」

「ドンピシャだ…!ドラゴンクラッシュ!!」

 

 今試合初のシュートが放たれた。龍の力が込められたシュートが千羽山ゴールを襲うが

 

「まき割りチョップ!!」

 

 このシュートはキーパーによってフィールドの外に弾かれてしまった。しかし、今までバラバラだったチームの力を1つにした攻撃に士気が高まる。

 

「鬼道!やっぱりお前は天才ゲームメーカーだな!」

「ふ、今のがゲームメイクと言えるのならな」

「え?」

「お前たちは自分の力に気づいていないんだ。キックや走力、どれをとっても格段にレベルアップしている。だがそれには個人差があり、当然いつものようにやっていてはズレが生じる。俺はそのズレを修正しただけだ」

 

 だけって……まだ試合開始から10分くらいしか経ってない。それなのにそれを見抜いて全員分修正するなんて…さすが元帝国キャプテン、天才ゲームメーカー鬼道有人は伊達じゃないってことか。

 

 雷門ボールで試合再開。フリーの染岡にボールが渡った。

 

「ドラゴン…!!」

「トルネード!!」

 

 雷門のストライカー2人により放たれる、ドラゴンクラッシュより数段上のパワーを持つシュート。同点かと思われたが

 

「「「無限の壁!!」」」

 

 キーパーとディフェンダー2人によって千羽山ゴール前に何重もの岩の壁が現れ、いとも簡単にドラゴントルネードを止めてしまった。これが噂の無限の壁か…

 ここで前半終了のホイッスルが鳴った。両チームの選手がグラウンドの外に出る。1点ビハインドな上シュートを止められた雷門の面々は浮かない表情、対照的に千羽山の選手は余裕そうな顔つきでそれぞれベンチに戻った。

 

「後半は天川をフォワードに上げて3トップでいこう」

「3トップ?」

「ああ、無限の壁の弱点は3人による連携技だという点だ。天川、ゴール前でボールを持ったらシュートを撃たずになるべくキープし続けてくれ。そうしてかき乱せば相手のディフェンスも崩れるはずだ」

 

 ハーフタイム、鬼道がみんなを集めて後半の作戦を説明しだした。

 そして俺の方に視線を向ける。

 

「できるか?」

「自信はないですけど…わかりました、やってみます」

 

 つまりこの作戦は俺がいかにボールをキープできるかにかかっているってことか。正直自信はない…けど、やるしかない。

 ちょうどホイッスルが聞こえてきた。俺達はそれぞれコートを入れ替え、ポジションについた。

 そして千羽山のキックオフで試合再開。鬼道が相手のフォワードにチャージをかけると彼はすぐにパスを出した。それを豪炎寺がカットする。

 

「天川!」

 

 

 早速ボールが渡ってきた。ペナルティエリア内めがけて前進する。

 

「せーの!かごめ、かごめ、かーごめかごめ」

 

 するとディフェンスの3人が俺を囲み、ぐるぐると歩きだした。

 

「え?」

「今だ!」

「ッッッ…!」

 

 ゆっくりとした動きが一変、同時に突っ込んできた。それをギリギリのところでボールと共にバク転してかわす。イナビカリ修練場とフェイの特訓のおかげでかなり身軽に動けるようになってきた。

 そのままペナルティエリア内に侵入、ただしシュートは撃たずにキープに徹する。相手ディフェンスの内2人は無限の壁のためにゴール前にいるのでボールをキープするのはそれほど難しくない。いつまでもシュートを撃たない俺に痺れを切らして5番のディフェンダーが飛び出してきた。

 

(かかった!)

 

「今だ天川!逆サイドにパスだ!」

 

 鬼道の合図で逆サイドにボールを放り込む、そこに走り込んでいるのは豪炎寺と壁山。イナズマ落としの体勢だ。

 豪炎寺が壁山を踏み台に天高く飛び上がりオーバーヘッド。電気を纏ったシュート進んでいく。

 5番は引き付けてあるから無限の壁は使えない。しかし…

 

「「「無限の壁!!」」」

 

 なんと他のディフェンダーが5番のポジションに入り無限の壁を発動、イナズマ落としが止められてしまった。作戦失敗、まさか他の選手でも発動できるなんて…

 

「「炎の風見鶏!!」」

 

 今度は風丸と共にシュートを放つがこれも無限の壁に阻まれてしまった。これでもダメか、となると後はイナズマ1号とライトニングジャベリンくらいしか…

 

「天川、豪炎寺、頼みがある」

 

 鬼道に話しかけられ、俺と豪炎寺が歩みを止める。そして話を聞き終わると同時に相槌を打ってポジションに戻った。

 相手のキーパーからのパスを鬼道がカットした。それを合図に俺と豪炎寺が走り出す。

 

「行くぞ!皇帝ペンギン…!!」

「「2号!!」」

 

 帝国の必殺技、皇帝ペンギン2号だ。鬼道が蹴り出したボールに俺と豪炎寺が同時に蹴りを入れて加速させる。5匹のペンギンがボールと共にゴールへ飛んでいく。

 

「「「無限の壁!!」」」

 

 壁とペンギンが激突、しかしさしものペンギンも何重にも連なった壁には敵わず消し飛ばされてしまった。

 

「皇帝ペンギン2号でも破れないなんて…」

「どうすれば……!円堂!」

 

 鬼道の声で円堂が上がってきた。そして松野からのバックパスを受けて

 

「「イナズマ1号!!」」

 

 シュートを放つが、これも無限の壁に阻まれて弾き返された。いや、まだだ…

 

「守君!」

「おう!行くぞ!」

「「ライトニングジャベリン!!」」

 

 弾かれたボールを空中で拾うとすぐさまたたき落とし、円堂と共にツインシュート

 

「「「無限の壁!!」」」

 

 だがこれも壁を破るには至らず再び弾かれる、するとそこに壁山が走り込んできた。

 

「キャプテン、豪炎寺さん!」

「よし、行くぞ!」

「「「イナズマ1号落とし!!」」」

 

 現時点での雷門の最強シュート、それも2連続で撃ち込んだ後なのでスキもできるだろう。決まった、誰もがそう思ったが無限の壁に突っ込んだボールは弾かれ、ピッチの外に出てしまった。

 

『止めたぞ千羽山!これが無限の壁の威力、鉄壁のディフェンスなのか!?』

 

 ライトニングジャベリンも炎の風見鶏も通用しない、当然バウンサーラビットも防がれてしまうだろう。さらにはイナズマ1号落としや皇帝ペンギン2号も止めてしまうなんて、もう打つ手がない。試合時間も後5分くらいしか残っていないのに…

 みんなも同じ考えなのか下をむいて俯いている。無限の壁を破るのは不可能だ、と。

 

「おい、みんなどうしたんだ?まさか諦めたなんて言うんじゃないだろうな?まだ試合は終わってないんだぞ!栗松、風丸、羽花!」

「でも、無限の壁を破れないんじゃ…」

「やっぱり新必殺技が必要なんだよ」

 

 円堂がいつも通りみんなを鼓舞するが今回ばかりは難しいかもしれない、そう思っていた矢先

 

「必殺技ならある!俺達の必殺技は炎の風見鶏でも、イナズマ1号落としでもない!俺達の必殺技は最後まで諦めない気持ちだ!」

 

 諦めない、気持ちか…

 

「帝国と戦った時からずっとそうだった!諦めなかったからここまで来れたんだろ!俺は諦めない!諦めたらそこで終わりなんだ!そんなの俺達のサッカーじゃないだろ!やろうぜ、俺達のサッカーを!」

 

 その言葉を聞いた瞬間、全身に雷が走ったような衝撃を感じた。この感じ、覚えがある。初めてゴットハンドを見た時と同じ…

 

「円堂!」

「キャプテン!」

 

 彼の言葉に今まで消沈していたチームの雰囲気がガラッと変わった。さっきまでの暗いムードとは正反対、チーム全体にバフがかかったような感覚に襲われる。

 

「よし、残り5分!全力でいくぞ!」

「「「おう!」」」

 

 円堂も上がり正真正銘の全員攻撃、細かくパスを繋いではシュートを撃つがやはり千羽山の守りは硬い。鬼道にボールが渡るがさっき俺がくらった技で囲まれてしまった。

 

「鬼道!」

 

 その時、円堂が鬼道の方へ声をあげて走り出した。それを見た鬼道はボールを空中へと蹴りあげる。するとそこに黒い雷雲が発生したかと思うとイナズマを纏い落下してくる。それを円堂、鬼道、豪炎寺が同時に蹴り飛ばす。

 

「「「無限の壁!!」」」

 

 放たれたシュートは正面から無限の壁を破壊し、ゴールに突き刺さった。

 数秒の静寂、そして我に返った実況が叫んだ。

 

『無限の壁が破られたぁぁ!千羽山ついに失点!無失点記録が途絶えたぞ!』

 

 …すごい。それしか言葉が出てこなかった。さっきまで諦めムードだったはずが円堂の言葉で全員が奮起、見たことも無い、それこそ次元の違う威力の必殺技でゴールを奪ってしまった。自然に口元が緩む。身体のそこから熱い何かが湧き上がってくるのを感じた。力がみなぎるような、そんな感覚。

 

「私だって、やってやるんだ…」

 

 ♦♦♦♦♦

 

 

 

 

 千羽山ボールで試合再開。1点取られたとはいえ、千羽山イレブンは諦めていなかった。慎重にパスを回そうと一旦後ろにボールを下げる。が、それに彼らが触れることはなかった。一筋の光がボールを掠め取っていったからだ。

 

「羽花?」

 

 ボールを足元に収め、羽花は微笑する。それに反応するように、彼女の身体から黄緑色のオーラが発せられた。次の瞬間、彼らの視界から羽花の姿が消え失せた。

 

「どこだ!?」

「消えた?」

 

 千羽山イレブンからどよめきの声があがる。だが、彼女はすぐに姿を現した。そう、上から

 

「ストームゾーン!!」

 

 着地した羽花の周囲にクレーターが出来あがる。そして彼女が手を振るうと突風が発生し、彼らを吹き飛ばした。

 オーラを纏ったまま羽花が直進していく。さっきまでとは比べ物にならないスピード、パワーに怯む千羽山イレブンだが果敢にボールを奪おうとする。

 

「「ハーヴェ…」」

「うしろのしょう…」

「デコイリリース!!」

 

 残ったディフェンスが必殺技を放つ。

 だが羽花が指を鳴らすと無数の分身が出現し、それら一人一人が超スピードで彼らをあっさり抜き去った。

 その速度にディフェンス陣は追うこともできない。

 

 羽花がボールを天高く高く蹴り上げた。そして自らも跳躍すると、ボールに眩いばかりの黄緑色の光を放つ月が重なる。それをオーバーヘッドで撃ち落とすと、月はいくつもの星屑となり地上に降り注ぐ。それは着地するや否やバウンドを繰り返し、やがて一つに融合し強力なシュートとなった。

 

「ムーンフォースラビット!!」

「「「無限の壁!!」」」

 

 これ以上得点されまいと抵抗する壁。しかしその思い虚しく壁はたちまち崩れ去り、キーパー諸共シュートはゴールを撃ち抜いた。

 そしてここで試合終了のホイッスルが鳴る。2対1、雷門の勝利でこの試合は幕を閉じた。

 

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