イナイレ世界に転生したら女子だったんですが   作:マルメロ

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慈愛

『ゴォォォォォルッッッ!武方三兄弟の大技がゴッドハンドを粉砕!木戸川清修勝ち越しだァ!ここで前半終了、雷門は後半で巻き返すことができるのか!』

 

 ハーフタイム、2点目をとって意気揚々とベンチに戻る木戸川清修イレブン。それとは正反対に雷門イレブンの表情は暗かった。点を入れられたのだから当たり前なのだが円堂はその中でも群を抜いて落ち込んでいる様子の羽花が気になっていた。

 前半から彼女のプレーはどこかおかしかった。簡単に言えば独りよがりなプレーが多かったのだ。元々どちらかといえば個人技主体の選手ではあったが、今回の試合はそれがあまりにも目立っていた。加えていつもの彼女の様なプレーのキレも無かった。前回の千羽山戦以降練習で度々見せていた不思議な力も今日は発動しなかった。

 

「羽花、大丈夫か?どこか具合でも悪いのか?」

「…………大丈夫です……ごめんなさい」

 

 気になった彼は率直にそう問いかけた。ベンチに座って俯いている彼女はその問いに数秒の間を開けて俯いたまま答えた。

 明らかに普通ではない様子の彼女に疑問を抱くが、本人が大丈夫だと言っている以上追求することもできない。

 すると羽花の目の前に響木監督がやってきた。

 

「天川、後半は下がれ。少林寺と交代だ」

 

 その言葉を聞いた瞬間、羽花はハッと顔をあげた。その表情は焦燥に駆り立てられているかのようだ。

 

「……!待ってください……私、まだやれます!」

「ダメだ、今のお前は冷静さを欠いている。そんな状態で試合を続けてもチームの足を引っ張るだけだ」

 

 言葉を濁すようなことはせず、事実だけを淡々と述べる響木監督。一応の抗議をしたものの羽花は聞き終えるとまた俯いてしまった。

 

「羽花、大丈夫だ!俺達がお前の分も戦うさ!」

 

 羽花の肩に手を置き、励ます円堂。しかし彼女はその手を振り払ったと思うと両手を肩に回し、涙を流しながら震えてしまった。

 

「ぁぁ…ごめん………なさい…ちゃんとやるから…………役に……立ちますから……殴らないで……」

「……羽花!?どうした!大丈夫か?」

 

 まるで何かを怖がっているかのように顔を真っ青にして震える彼女を見て、ただ事じゃないと察した円堂が声をかけるが、彼女はただごめんなさいと呟くばかりで返答はなかった。

 異変に気づいたチームの面々が、彼女を中心に円を作った。皆心配そうな表情を浮かべているが、その中で夏未だけはなにか察したようだった。

 

「天川さん、しっかりして!大丈夫よ、ここにあなたを傷つける人はいないわ!」

「……!どういうことだ?夏美」

「詳しいことは後で。とにかく天川さんを医務室に連れていくわ。円堂君、手を貸して」

 

 原因はわからないが過去の記憶がフラッシュバックしてしまったのだろう、と夏未は推測する。担いだ肩が彼女には嫌に重く感じた。夏未が非力なのもあるが、今の羽花は体に力が入っていない状態だった。なんとか医務室までたどり着き、ベットに羽花を寝かせる。

 

「夏未、羽花のことなにか知ってるのか?」

 

 いつもは鈍い円堂だが、さすがに今回は勘づいたようだ。夏未は少し考えた後、もう隠すことはできないと判断した。

 

「ええ、本当は口止めされていたのだけれど…こうなった以上皆にも知っておいてもらった方がいいかもしれない…一旦皆のところに戻りましょう、そこで話すわ」

 

 ベットの羽花に視線を向ける、どうやら寝てしまったようだ。

 その寝顔は先程までの絶望したかのような顔とは打って変わって穏やかだった。それを見て少し安心した2人はゆっくりと医務室を出てベンチへと戻った。

 

「夏未さん、羽花ちゃんは?」

「だいぶ落ち着いたみたい、今は眠っているわ」

 

 ベンチに戻った夏未に質問した秋が安堵のため息をこぼす。気持ちは皆同じだったようで暗かった顔に少しだけ光が戻った。

 

「それにしても一体どうしたんでしょう?今日の羽花さん、なんだか様子がおかしかったですし…」

「……雷門夏未なら何か知ってるんじゃないか?」

 

 鬼道の言葉で、全員の視線が夏未に集中する。

 

「流石、鋭いわね……皆、天川財閥という企業を知ってるかしら?」

「日本でも有数の金融企業だな。俺の父の会社とも取引があったはずだ」

「でもそれがなにか……!天川ってまさか…」

「そう、天川さんのご両親の経営していた会社よ」

 

 風丸の疑問に夏未が肯定の言葉で返した。一同からどよめきの声が上がる中、夏未は淡々と続けた。

 

「でも10年以上前に交通事故でご両親は亡くなってしまったの。当時1歳だった天川さんを残してね。天川さんは会社の経営を引き継いだ親戚に引き取られたのだけれど……そこで酷い仕打ちを受けた…学校へは通わせてもらえず、隔離された小屋に閉じ込められて、毎日のように暴言を浴びせられ、時には暴力も振るわれていたそうよ」

 

 その事実にどよめきの声がより一層強くなる。

 

「それじゃあ、天川のあの様子は…」

「原因はわからないけど、恐らくその当時の記憶を思い出してしまったの。フラッシュバック…と言えばわかるかしら」

 

 羽花の様子は尋常ではなかった。あんなことになるまで辛い思いをしたのだろうと、いたたまれない気持ちになる。

 

「…!じゃあ、羽花が俺の家に居候してるのは…」

「生活費を出す代わりに二度と財閥には関わらない、そういう契約だそうよ。でも中学生が一人暮らしなんてできない。だから彼女の従者の方の知り合い、円堂君のお母様の家に住むことになった」

 

 羽花が円堂の家に住んでいることを知らない面々は驚愕した顔で円堂を見つめるが当の円堂は真剣な表情だ。羽花がなんで自分の家に来ることになったのか円堂は知らなかった。女子中学生が知り合いとはいえ赤の他人の家に住むなんて滅多にない。それとなく聞いたこともあるが、要領を得ない返事で流されてしまった。

 

「羽花…ずっと悩んでたのか……俺がもっと早く気づいてれば…!」

 

 同じ家に住んでいたのに気づいてやれなかった…そんな悔しさを円堂が口にした。

 

「円堂、お前のせいじゃない。俺達も気づけなかった、皆気持ちは同じなんだ」

「風丸…でも……」

「とにかく今は試合に集中だ、天川の為にも絶対勝とうぜ!」

「染岡……ああ、そうだな!」

 

 彼女の問題を解決する方法はわからない、だがこの試合は羽花の為にも絶対勝つ。チーム全体の気持ちが1つになるのを感じた。

 

「夏未、羽花についててやってくれ。頼んだぞ」

「ええ、元からそのつもりよ。そっちも頑張ってね」

 

 主審が後半開始を知らせる笛を鳴らした。木戸川清修は既に準備を終え、それぞれポジションについている。

 

「よし皆!羽花の為にも絶対勝つんだ!」

「「「おう!!!」」」

 

 ♦♦♦♦♦

 

 

 

 

 

 目を覚ますと、俺はベッドの上に横たわっていた。見慣れない場所だが察するに恐らくフットボールフロンティアスタジアムの医務室だろう。

 天井近くに取り付けられたテレビを見ると、試合はもう終了間際だった。3対3の同点、だが雷門の勝利は確実だろう。なぜなら今まさにフィールドでは、ペガサスから進化したフェニックスが羽ばたいているのだから。

 

「……私なんていなくても勝てる…か、」

 

 認めたくない現実、だがそれは紛れもない事実だった。自分は今日の試合足を引っ張っただけ……

 

「目が覚めたのね、よかった」

 

 扉が開く音がして、夏未が入ってきた。彼女は俺を見るなり安堵の表情を浮かべた。

 

「……ごめんなさい、迷惑かけちゃって…」

「いいのよ、仲間だもの。皆心配してたわよ」

 

 そう言って隣に座る夏未、するといきなり俺の手を握りしめた。その行動に戸惑い、顔を上げると彼女はこちらに寄り添うような、そんな優しい顔をしていた。

 

「ねぇ、教えて。あなたは何を考えているの?何を思っているの?」

「雷門さん……」

「辛いことや苦しいことを一緒に乗り越えるのが仲間よ、私にも一緒に背負わせて」

 

 慈愛に満ちたような目で真っ直ぐこちらを見つめる彼女。その目を見ていると、いつの間にか勝手に口が開いていた。

 

「…小さい頃からずっと言われてきた……お前は要らない、役立たずだって。だから怖い……皆にもそう思われるんじゃないかって…また独りになるじゃないかって…強くならなきゃいけない、皆に必要としてもらえるように。だけど……今日の試合、皆の足を引っ張るばかりで全然役に立てなかった……」

 

 そこまで言うと、目から涙が零れてくるのを感じた。体がガタガタ震える。ダメだ……また思い出してしまう。あの頃の記憶、まだ鮮明に覚えてる。

 

「…!?……え?」

「大丈夫、大丈夫よ。私が、皆がついてるから」

 

 次の瞬間、私は夏未の胸の中にいた。息が止まる程ギュッと抱きしめてくる彼女。気づけば、泣いていた。大粒の涙を流しながら、彼女の胸の中で溜まった感情を爆発させるかのように。悲しみと苦しみと、それと安心。そんな感情がグチャグチャになって自分でもわからなかった。彼女は何を言うでもなくただ抱きしめてくれた。たまに頭を撫でたりしながら…

 

化身は出した方がいい?

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