イナイレ世界に転生したら女子だったんですが   作:マルメロ

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新たな必殺技を求めて

 準決勝の翌日、放課後に俺達は部室であることに頭を悩ませていた。それは

 

「ハァ…」

 

 机に頭をうずめてため息をついている円堂の事についてだった。朝からずっとこの調子だ。いつもは少しやかましいと思う程元気な彼だが今回ばかりはそうもいかないらしい。

 なんでそんなに思い詰めているのか聞いたところ、世宇子のシュートを止める自信がないらしい。昨日の試合でゴッドハンドが完璧に破られてたのを気にしているようだ。

 

「鬼道、雷門で世宇子の力を目の当たりにしてるのはお前だけだ。ゴッドハンドは通用すると思うか?」

「わからない…だが奴らのシュートは武方三兄弟のトライアングルZよりも遥かに強力で恐ろしいのは確かだ」

 

 鬼道はわからない、と言うがそれはもう答えと同じだった。円堂も彼の言葉の意味に気づいたようだ。手元にあった大介さんの特訓ノートをじっと見つめている。

 

「おじいさんのノートになにか書いてないんですか?ゴッドハンドよりも強いキーパー技とか」

「……これだ、マジン・ザ・ハンド。じいちゃんによるとゴッドハンドよりも強い最強のキーパー技を編み出したんだって」

 

 円堂が指さしたページを見ると、相変わらず汚い字が目に入った。どうやら文字と絵で技の解説が書いてあるようだが俺にはまったく理解できなかった。

 

「ここ、ポイントって書いてあるんだ」

 

 円堂が示したのは人型の絵の胸の部分、そこは赤いペンで何重にも塗りつぶされていて、読めなくとも重要性は伝わってきた。

 

「胸……心臓ってことですか?」

「他にはなにか書いてないのか?」

「書いてない…」

 

 室内に重苦しい空気か流れる。と、その時部室の扉が勢いよく開いた。

 

「羽花さん!ちょっと来てください!」

 

 入ってきたのは音無だった。走ってきたのか息を切らしているがその顔には満面の笑みが浮かんでいた。

 

「どうしたんですか?」

「女子用の更衣室が完成したんです!すぐに来て欲しいって夏未さんが!」

 

 彼女の言葉でそういえば作るって言ってたなと思い出す。工事をしていたのは知っていたが色んなことがあってすっかり忘れていた。

 興味本位でついてきた円堂達や練習を一段落させた風丸達も一緒にグラウンドを挟んで部室の反対側の工事現場に向かう。

 

「来たわね、遅くってよ」

 

 腕を組んで待っていたのは夏未。彼女の背後には白と青を基調としたドーム型の建物が建っていた。というか……

 

「大きくないですか?」

 

 その建物は更衣室にしては大きかった、部室の優に5倍程の大きさはありそうだ。なんならこれが部室でも通りそうだ。

 

「元々の部室が小さすぎたのよ、全国大会決勝進出チームのなんだからこれくらいは当然よ」

 

 まぁ使いやすいだろうから大きい分にはいいけど…問題はそこじゃない、隣の男子勢に目を向けるとあからさまに複雑な表情をしていた。

 

「なんか不公平でやんす」

「俺達もこんな綺麗で大きい部室が使いたいっス」

 

 男子勢、特に1年生組から不満の声が漏れる。当然といえば当然だ、今の部室はあまりに小さくオンボロなのだから。

 

「あら、文句ならキャプテンに言ってくださる?新しい部室の話を断ったのは円堂君よ」

 

 夏未の鋭い正論を突きつけられて彼らはバツが悪そうに黙ってしまった。一方、名指しされた円堂は会話に参加するでもなく大介さんノートをじっと眺めている。余程マジン・ザ・ハンドが気になるのだろうか?

 

「さ、皆練習に戻りなさい。次はいよいよ決勝戦なのよ」

 

 その後練習が再開された。皆決勝に向けて張り切っているが、いつもと違って空元気な円堂の姿が俺の目からは離れなかった。

 

 ♦♦♦♦♦

 

 

 

 

 練習が終わり、皆が帰路につこうとしている。空は赤く染まっていて、日が落ちるまで秒読みといった感じだ。

 

「あれ?守君帰らないんですか?」

 

 1人だけ着替えずにノートを見ている円堂に声をかける。結局今日の練習ではマジン・ザ・ハンドのヒントは何も得られなかった。

 

「ああ、ちょっとイナビカリ修練場で練習しようと思ってさ。先に帰っててくれ」

 

 その様子に少し心配になるが彼なら大丈夫だろうと部室から出て校門に向かう。

 

「天川、ちょっといいか?話があるんだが」

 

 校門を出ようとしたところで豪炎寺に話しかけられた。彼が2人きりで話なんて珍しい。

 

「どうしたんですか?」

「……俺達のシュートは世宇子に通用すると思うか?」

 

 その問いかけに一瞬目を見開くが、すぐに思考を回す。正直…通用しないと思う。帝国と世宇子の試合結果は10対0だった、大量得点に目が行きがちだかあの帝国を無失点で下している。それはつまり防御力もかなり高いということだ。

 それは豪炎寺もわかっているはず。つまりこの質問はただの確認、自分と相手の考えが同じあることの。故に下手に誤魔化さず正直に話すことにした。

 

「多分…通用しないと思います。少なくとも今のままでは」

「俺も同じ意見だ。そこで提案があるんだが」

 

 真剣な目で俺を見つめてくる彼はそこまで話すと一呼吸置いた。

 

「俺達で連携必殺技を作らないか?」

「連携必殺技?」

「ああ、円堂はマジン・ザ・ハンドを習得しようとしている。キーパーがシュートを防いだのなら今度は俺達の出番だろう?」

 

 微笑を浮かべる豪炎寺。まるで円堂がマジン・ザ・ハンドを完成させるのがわかっているような口ぶりだ。その言葉からは100%信頼が感じ取れた。

 

「でも、必殺技っていってもどんな?」

「それに関しては俺に考えがある。それを完成させるにはお前の力が必要なんだ」

 

 必要、か…そう言われて断る訳にはいかない。何よりやらない理由も見当たらなかった。だから俺は力強く頷き、こう言った。

 

「わかりました、やりましょう!」

 

 それから早速河川敷で練習を始めたのだが、河川敷に着くなり彼は突拍子もないことを言い始めた。

 

「まずお前にはファイアトルネードを習得してもらいたい」

 

「……!?ファイアトルネード!?」

 

 ♦♦♦♦♦

 

 

 

 

「羽花ちゃん、ケーキあるから食べましょう」

 

 その日の夜、夕飯の後に温子さんがお茶とケーキを用意してくれた。だが、こういう時に真っ先に飛びついてくる人物の姿が見当たらないのに気づいた。

 

「あれ?守君は?」

「それがノックしても全然反応がなくて…」

 

 もしかしてまだマジン・ザ・ハンドのことを考えているのだろうか?

 

「私、守君にケーキ持っていきますね」

 

 そう言って自分の分と円堂の分のケーキとお茶をトレイに乗せて2階への階段を登る。彼の部屋の前につき、扉を開けようとしたところで中から声が聞こえてきた。

 

「じいちゃん…マジン・ザ・ハンドってなんなんだよ…どうやったらできるんだ……?イナズマイレブンのおじさん達が叶えられなかった夢を俺は…俺達は叶えたいんだ…」

 

 ドアの隙間から見えたのは彼の見たこともないくらい真剣な顔だった。少し入るのを躊躇ったが、ノックして声をかけた。

 

「守君、入ってもいいですか?」

「羽花?ああ、いいぞ」

 

 許可を得たところで入室すると、彼は座り込んで大介さんの写真と向き合っていた。

 

「おじいさんと話してたんですか?」

「…ちょっと話したくなっちゃってさ」

「温子さんがケーキ用意してくれましたよ、一緒に食べましょう」

 

 そう言って床にトレイを置いて彼の隣に腰掛けた。いつもなら目を輝かせて喜ぶんだろうな、と少し思う。

 それからしばらく無言の時間が続いた。こういう時は大体円堂が話を振ってくれるんだが、今日はただ黙々とケーキを頬張っている。

 

「……昨日はごめんなさい。迷惑かけちゃって……」

「え?気にすんなって!誰にでも調子の悪い時はあるさ!」

 

 沈黙に耐えられなくなり昨日のことを謝罪するが、彼はまるで気にしてないようにニカッと笑った。

 それを見て自然に微笑が零れた。まったく…自分も悩んでる癖に人のことはこんなふうに励ますなんて。

 

「……守君、もし私が………いえ、なんでもないです」

「ん?そうか?」

 

 もし私が役に立たなくなったらどうしますか?そんな言葉が脳裏をよぎったがすんでのところで飲み込んだ。

 その返答を聞くのが怖かったからだ。だけど彼のことを信用していないわけじゃない、むしろ逆だ。彼なら、雷門の皆ならきっと見捨てるようなことはしないだろう。頭の中では分かってる。わかってるけど、万が一を考えるとやっぱり怖いんだ……

 

 結局、その質問を投げかけることはできなかった。

 

 ♦♦♦♦♦

 

 

 

 

 夕日に照らされあかね色に染まる階段を、俺達は登っていく。隣には豪炎寺と鬼道。

 俺達は鉄塔広場に向けて歩いていた。俺達以外に人気はなく、土を踏んだ際にの足音だけが一つ一つ木霊している。

 だからその音ははっきりと聞こえてきた。今や聞き慣れてしまったタイヤを受け止める音が。

 

「こんなことだろうと思ったよ」

「それでマジン・ザ・ハンドがマスターできるのか?」

 

 広場にいたのはタイヤを縄で背中に巻き付けた円堂。いつも通りタイヤを受け止めて特訓していた。

 

「豪炎寺、鬼道、羽花!」

「手伝いますよ、皆でやった方がきっと上手くいきます」

「ふ、サッカーバカになってみるか」

 

 そんなわけで俺達は円堂と一緒に特訓をした。木にタイヤを3つ程吊るして、それを振り子のように揺らす。その合間を縫うように俺達がシュートを放つ。止めるのは至難の業でシュートを撃つ事に円堂は弾き飛ばされてしまう。

 

 1時間が経つ頃には元々ボロボロだった円堂は見ているのも辛いほどに傷ついていた。

 

「身体がボロボロになるわ!今すぐやめなさい!」

 

 いつの間にいたのか木野と夏未が円堂の元へと駆け寄った。無理もないだろう、それほどまでに今の彼はボロボロなのだから。

 

「無駄だよ」

「やめろと言われてやめるような男か?」

 

 止めても無駄だと2人は言う。口には出さないが俺も同意見だ。これまで散々彼の諦めの悪さを見てきた。諦めるという言葉がこれ程似合わない人物もそうはいないだろう。

 

「俺なら大丈夫だ!絶対マジン・ザ・ハンドを完成させるんだ!皆で優勝したいじゃないか!」

 

 そう言うと彼は手を構えた。俺達はお互いの顔を見るとほとんど同時に頷いた。この心意気に答えてやろう、と。

 

「ファイアトルネード!!」

「「ツインブースト!!」」

 

 豪炎寺のファイアトルネード、俺と鬼道のツインブーストがそれぞれ円堂に襲いかかる。彼はゴッドハンドの姿勢をとるが間に合わずシュートを顔面にもろに受けてしまった。

 

「おい円堂!大丈夫か?」

 

 頭を打ったのか意識が朦朧としている彼を急いで雷々軒へと運び、響木監督に氷を貰って冷やした。

 

「いててて」

「随分と無茶をしたもんだな」

「違うよ、マジン・ザ・ハンドの特訓だ!」

「…!お前もついにあれに挑戦するか」

 

 その時扉がガラガラと音を立てて開いた。そして入ってきたのは鬼瓦刑事だった。

 

「おいおいどうした?お揃いで」

「刑事さん!」

 

 鬼瓦刑事は驚いた顔をしたが、すぐにカウンター席に座った。前も同じところに座っていたので恐らく定位置なのだろう。

 

「酷い格好だな」

「世宇子に勝つためだ、どうってことないよ」

「威勢がいいのは結構だが、勝つことに執念を燃やしすぎると影山みたいになるぞ」

 

 それから刑事さんは影山の過去を語り出した。父親が影山東吾というプロサッカー選手だったこと、だが円堂のおじいさんである大介さんらの台頭でサッカー生命を追われたこと、それから東吾は失踪、影山の母親も病死してしまったこと、そして自分の家族をめちゃくちゃにサッカーへの恨みと勝利への執念が膨れ上がったこと。

 

 そして刑事さんの最後の言葉に俺達は戦慄した。

 

「豪炎寺…お前の妹さんの事故にも影山が関わっている可能性がある」

「「「……!?え!」」」

 

 豪炎寺の妹、豪炎寺夕香は昨年のフットボールフロンティア決勝戦の日に事故にあったと前に聞いたことがある。その事が原因で豪炎寺が一時サッカーをやめていたことも。だが、それも影山の仕業とは…

 隣の豪炎寺を見ると胸元のペンダントをギュッと握りしめていた。

 

「…許せない!どんな理由があろうとサッカーを汚していいわけが無い!間違ってる!」

「影山は今どこに?」

「……わからない」

 

 そして鬼瓦刑事の口からある言葉が出てきた。それが”プロジェクトZ”そして”空” その言葉の意味を考えるが、帝国にいた鬼道を含め、誰もそれを当てることはできなかった。

 

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