イナイレ世界に転生したら女子だったんですが   作:マルメロ

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恐るべき神の力

 今日の練習が終わった後、俺は必殺技の特訓の為に豪炎寺と共に河川敷に向かう予定だった。だが彼が少し寄り道をしたいと言うので俺もそれに付き合うことにした。学校を出て程なくして着いたのは病院だった。稲妻町総合病院、この町に来てから怪我も病気もしたことなかったのでお世話にはならなかったが存在は知っていた。

 

「あ、もしかして妹さんの」

「ああ、特訓の前に顔を見ておきたくてな。悪いな、付き合わせて」

 

 そう言って病院に入る俺達。受付でお見舞いの手続きを済ませて病室に向かう。病室に入るとベッドでぐっすりと眠っている少女の姿があった。いや、そう見えるだけで実際は昏睡状態なのだ。隣の豪炎寺の顔も妹の前だからか、なるべく明るく振るまおうとしているがどこか暗い表情だった。

 

「遅くなってすまない。今日はチームメイトも一緒なんだ」

「初めまして夕香ちゃん。天川羽花です」

 

 床に膝をついて座り、彼女の手をとって両手で握りしめた。その小さな手は少し冷たかった。こんな小さな女の子が事故にあうなんて、よっぽどの恐怖だっただろう。黒幕である影山への怒りよりも、彼女が不憫でならなくて胸が塞がるような気持ちだった。

 

「夕香ちゃんの為にも決勝戦、絶対勝たないとですね」

「……ああ」

 

 夕香ちゃんを見つめながら静かに、だが力強く言葉を交わす。

 

「……お…にい……ちゃん…」

「…!?夕香!!」

 

 俺達は目を見開いた。今、夕香ちゃんが喋ったのだ。消えてしまいそうな程か細い、弱々しい声だったが確かに。

 改めて夕香ちゃんを見つめるが、そこには目を閉じて喋るような気配もない少女が横たわっているだけだった。

 

「…行こう」

「いいんですか?」

「………ああ」

 

 背を向けて戸を開ける豪炎寺。彼の目元からは1粒の雫がこぼれ落ちていた。

 

 

 

「ファイアトルネード!!」

 

 俺が空中で蹴り出したボールは炎を纏い、河川敷のゴールに突き刺さった。フィールドの外で腕を組んでいた豪炎寺に視線をやると無言で頷いた。

 

「これでようやく次のステップにいけますね」

「…ファイアトルネードの習得自体にもっと時間がかかると思ったが……流石だな」

「目の前にお手本がいますからね。それもとびっきり参考になる人が」

 

 必殺技を習得する上でお手本があるかどうかは重要だ。技の原型が掴めれば後はひたすら練習あるのみ。円堂みたいに技の形から考えなければならない時はだいぶ苦労する。

 

「それで、この後はどうするんですか?」

「今度はお前だけじゃない、俺もシュートを撃つ。同時にな」

「……!つまり2人同時にファイアトルネードを撃つ技…ということですか?」

「ああ、できそうか?」

 

 2人同時に撃つ。言うのは簡単だがこれは難易度的には相当難しいはずだ。そもそも2人同時にシュートを撃つ事自体が難しい。少しでもタイミングがズレれば片方の足が触れた時点でボールが動いてしまう、つまり動きを完璧にシンクロさせないといけない。しかも今回の場合空中で、回転しながらだ。

 

「かなり難しいそうですね…でもそれで世宇子のゴールを破れるなら、やります!」

「ふ、その意気だ。早速始めるぞ」

 

 正直決勝戦までに完成するかはわからないがやる価値はある。現状ではまだ俺は力不足なのだから…

 

 ♦♦♦♦♦

 

 

 

 

 決勝戦が数日後まで迫り、俺達はより一層練習に励んでいた。円堂はマジン・ザ・ハンド、俺と豪炎寺は新たなシュート技の特訓を続けているが中々上手くいかない。だけどチームとしての力は格段に上がっているし、俺もフェイとの特訓を続けているのでかなりレベルアップしていると思う。これなら新必殺技がなくても世宇子に勝てるかもしれない。

 

「みんな〜!」

「おにぎりができました〜!」

「「「おお!!」」」

 

 聞こえてきた木野と音無の声に、練習中の皆の足が止まった。いないと思ってたらおにぎりを作ってくれてたのか。相変わらず気遣いができるマネージャー陣だ。

 円堂が我先にと手を伸ばすが、それを夏未がはたいて阻止した。先に手を洗ってきなさいとの事だ。まぁごもっともだね。

 ちなみに鬼道は既に手を洗ってきていた。さすが鬼道財閥の御曹司、マナーがしっかりしている。

 全員が手を洗い終わり、夏未からのチェックを受けてOKを貰うにいっせいにおにぎりに群がった。…特に壁山。

 余った分をもらおうと裏で待機していると夏未が何やら他のものと比べて数段大きいおにぎりを持ってきた。

 

「はいこれ。この前買い物を手伝ってくれたお礼よ。特別手を込めて作ったの」

「わぁ、ありがとうござい……」

 

 夏未の厚意を受け取ろうとした時、思い出した。彼女がとてつもなく料理音痴だってことを。バトラーさんに聞いたんだけどこの前はカレーを作っていたはずなのに何故か青い物体が出来上がったそうだ。

 これは食べていいものなのだろうか?でも米に塩をかけて握るだけの料理とも言えるか微妙なのがおにぎりだ。さすがにそこまで不味いものができるのだろうか?あるとして塩を付けすぎて塩辛くなるくらいだろう、大丈夫だ。

 

「いただきます……ん……んぐ!?……は……はらい!!」

「え?お塩付けすぎたのかしら?」

 

 意を決して食べてみたけどなにこれ!?塩辛いとかの次元じゃないんだけど!普通に唐辛子食べたみたいな辛さだよ!口の周りすごく痛いし……

 

「どれどれ?あ!夏未さん塩じゃなくて七味唐辛子入れてますよ!」

 

 塩の入れすぎですらないんかい!よく見たらおにぎりの中身所々赤いし……ていうかどう間違えたらそうなるの?

 

「ごめんなさいね、はいお水」

「あ、ありがとうございます…」

 

 まったく悪気がないのがタチの悪いところだ。これじゃ責めづらくてしょうがない。別に責めるつもりもないが。木野と音無は爆笑してるし…

 

「よし皆!練習再開だ!」

「「「おう!!」」」

 

 円堂の号令で練習が再開された。彼はマジン・ザ・ハンドの特訓を始めたがこれがシュート2本を同時に受けるというかなり無茶なものだった。

 

「ドラゴン…!!」

「トルネード!!」

 

「「ツインブースト!!」」

 

 豪炎寺と染岡、鬼道と一之瀬が放ったシュートが円堂に飛んでいくが途中で何かがシュートコースに入ったと思うと眩い光が辺りを包んだ。

 

「「「!?」」」

 

 そして見えてきたのはシュートされたはずのボールを2個とも受け止めている髪の長い少年の姿だった。

 

「ドラゴントルネードとツインブーストを止めるなんて!お前、すごいキーパーだな!」

「僕はキーパーではないよ。我がチームのキーパーならこんなもの指1本で止めてしまうだろうね」

 

 片方のボールを指先で回しながら答える少年。

 

「そのチームってのは世宇子中のことだろう?アフロディ!」

 

 鬼道の言葉に全員に衝撃が走った。この人が世宇子中の……

 

「円堂守君だね?君のことは影山総帥から聞いているよ。改めて自己紹介させてもらおう、世宇子中のアフロディだ」

 

 円堂の方に向き直り、アフロディと少年は名乗った。その表情から余裕綽々といった感じが読み取れる。そして影山総帥という発言。やはり世宇子中には影山がいるようだ。

 

「てめぇ!宣戦布告にきやがったな!」

「ふふ、それは違うよ。宣戦布告とは戦うためにするものだ。僕は君達と戦うつもりはない。君達も戦わない方がいい」

「何故だよ?」

「決まっているだろ?……負けるからさ

 

 染岡の発言を否定するアフロディ。一見穏やかそうだがその言葉からは挑発の意図な感じ取れた。一同の反応を見た後、彼はこちらに視線を向けてきた。

 

「君が天川羽花さんか…僕は君に用があって来たんだ」

 

 アフロディの言葉の意味がわからず困惑していると、彼は右手をゆっくりとこちらに差し出してきた。

 

「世宇子中に来ないかい?君の力はこんな弱小チームよりも、我が世宇子中で使うべきだ」

 

 突然の勧誘に戸惑ったが、すぐに考えをまとめた。答えなんて最初から決まっている。

 

「残念ですけど、お断りします。私はこのチームが好きですから。それに影山に加担する気もありません」

「…へぇ……ふふ、君はもう少し利口な人物だと思っていたがどうやら僕の勘違いだったようだね」

 

 彼は断られたというのに少しも動揺していなかった。それどころか笑みまで浮かべている。

 

「後悔することになるよ。神の申し出を断ったことを」

「…自分のことを神だなんて、随分自信があるんですね」

「自信?違うよ、これは事実だ。君達は絶対に勝てない。だから練習もやめたまえ、神と人の溝は練習で埋まるようなものじゃない」

 

 この…言わせておけば……。さすがに反論しようとするが、それより先に声を荒らげた人物がいた。

 

「うるさい!練習が無駄だなんて言わせない!練習はおにぎりだ!俺達の血となり、肉となるんだ!」

「ん?ははは、面白いこと言うね。なるほど、練習はおにぎりか」

 

 珍しく激高し、顔を怒りの表情に染めている円堂。そんな彼のことなんて意に返さないと言わんばかりにアフロディは挑発を続けた。

 

「ならばゲームをしようじゃないか。そうだね……僕がオフェンスで君達がディフェンス。一度でもボールを奪うことができたら君達の勝ち。シュートを決めたら僕の勝ちだ」

 

 俺と円堂の2人を指差して嘲笑うかのようにアフロディは言った。2対1、しかも一度でもボールを奪えばこちらの勝ちなんて明らかにこちらが有利だ。

 

「……明らかにこっちが有利ですけど?」

「神が人間と対等に戦っても結果は見えているからね。なんならチーム全員でかかってきてもいいんだよ?」

「…ッッ!結構です!私達2人で十分ですから!いいですよね?守君」

「ああ、練習が無駄じゃないって証明してやる!」

 

 どれだけ人をバカにすれば気が済むんだ…。こっちだって木戸川戦の時より強くなってるんだ。そう簡単にはやられない。

 そしてアフロディがセンターサークル、円堂がゴール前、俺がその中間にそれぞれ立つ。

 木野とホイッスルでゲームが始まった。しかしアフロディは一切動く気配がない。何故かその場でマネキン人形のように身動き一つせず立っている。

 

「どういうつもりですか?」

「ハンデだよ。僕はここから動かない。さぁ、来たまえ」

 

 その心底バカにしたような言動にイラッときてアフロディ目掛けて突進する。そしてスライディングするが彼は足の上にボールを乗せるとそれを蹴りあげ、自らも飛び上がりあっさりかわされてしまった。

 

「その程度かい?」

「く……!今度こそ」

 

 何度もボールを奪う事を試みるもその度に軽くかわされてしまう。しかも本当に彼はその場から1歩も動いていない。生半可なタックルやスライディングは通じない。だったら……

 

「ワンダートラップ!!」

 

 残像を生み出しながら接近し、一瞬で距離を縮めスライディング。これは決まったと誰もが思った。だが

 

「遅いね」

 

 その瞬間、彼の姿が消えた。俺は誰もいない空間をスライディングですり抜け、驚きのあまり体勢を崩してしまった。そして勢いのまま地面を転がった。

 

「ッッッ……!?」

「ふふ、神と人との力の差を少しは理解してくれたかな?後はそこでおとなしく見ているといい」

 

 アフロディはいつの間にか元の場所に立っていた。そしてその場からシュートを放つ。必殺技ですらないただのシュート、だがそれは赤黒いオーラを纏い円堂に向かっていく。彼はゴッドハンドで対抗するが、それはすぐにひび割れ、ボールは円堂ごとゴールにねじ込まれた。俺はその光景を地面に倒れ伏しながら見ているしかなかった。

 

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