「「はぁぁぁぁぁぁぁ!!」」
炎を足に纏い、俺と豪炎寺が同時に回転しながら飛び上がる。だがタイミングが合わずに空振り、2人揃って雷門中のグラウンドに叩きつけられた。
「ハァ…ハァ……また失敗……」
既に50回以上は挑戦しているだろうか、いまだに成功する気配は無い。このままじゃダメだ…。脳裏によぎるのはアフロディの見下すような視線。まさに完敗。手も足も出なかった…ボールに触れることもかなわずただ遊ばれるだけ…
「……馬鹿に………しやがって……」
思わず悔しさで歯軋りを噛む。今のままじゃ勝てない…皆の役に立てない……そんな考えばかりが頭の中で繰り返し再生される。
「……やめだ」
「え?」
そう言ってその場を離れる豪炎寺。俺は理解できずに咄嗟に声をかけた。
「ちょっと待ってください!まだ完成してないのに…」
「今の集中できていないお前と特訓しても時間の無駄だ。何を迷ってるのか知らないが少し頭を冷やせ」
その言葉に何も言い返すことができなかった。豪炎寺の言うことは紛れもない事実なのだから。
その時、響木監督から集合がかかった。全員揃ったのを確認し、監督は口を開いた。
「合宿?」
「ああ、学校に泊まって皆で飯でも作ってな」
「許可は私が取っておきました」
それを聞いて喜ぶ1年生組。だけど俺は納得できなかった。決勝戦はもうすぐなのにそんな合宿なんて遊んでいる場合じゃ…
「待ってください監督。決勝戦は明後日なんですよ?そんな呑気に飯でも作ろうなんて。それまでにマジン・ザ・ハンドを完成させないと…」
「守君の言う通りです!監督も見たでしょう?あのアフロディの強さを。今は少しでも特訓しないと世宇子には…」
「勝てるのか?」
「……。」
「それは……やってみなくちゃ……!」
「無理だ!今のお前達では世宇子に勝つこともマジン・ザ・ハンドを完成させることも不可能だ!」
監督は反論する俺と円堂の言葉をバッサリと遮り否定する。そんなことわかってる……今のままでは世宇子に勝てないことくらい…
「確かに一度マジン・ザ・ハンドのことを忘れてしまうのもいいかもしれない」
「俺も賛成だな。アメリカでも言うしさ、ゴキブリを取る時以外急ぐなって」
「ゴキブリ?それってノミじゃなかった?」
「あはは、そうとも言うね」
結局俺と円堂以外の満場一致で合宿を行うことが決定した。一旦帰宅し、準備を整えてから集合ということでその場は解散となった。帰り道、俺達は終始無言で一言も話さず帰宅した。
♦♦♦♦♦
夕方5時、少しずつ光が色褪せていく空を眺めながら俺は歩いていた。向かっているのは学校ではなく河川敷。結局合宿には行かなかった。そんなことをしていても時間の無駄だと思ったし、何より少しでも特訓しておきたかった。円堂はなんだかんだ言って合宿に向かったようだ。キャプテンとしての責任か、はたまた珍しく日本人特有の同調圧力にでも負けたのか。
河川敷の階段をゆっくりと降りる。そして見えてきたのは、ベンチに腰掛けた緑色の髪をした少年の姿。
「やぁ、来たね羽花。早速始めようか」
「フェイ…やっぱりここにいたんですね」
フェイはボールを手に携えながら無邪気に笑った。その笑みが今の自分には眩しくて思わず顔を逸らしてしまいそうになる。
「……フェイ、特訓の前に一つ教えてください。あなたはいつもここにいる……いえ、正確には私が望んだ時に必ずここにいる。どうしてですか?」
ずっと疑問に思っていたことだ。彼とは別に会う約束をかわしている訳では無い。特訓がしたいと思った時、河川敷を訪れると必ず彼はいた。最初は偶然かと思ったが何度も続くのでさすがに不審感を抱いた。
「……僕は君とサッカーがしたい。それだけだよ」
「………!それじゃ答えに…」
「そんなことより早く始めようよ。時間がないんでしょ?」
フェイはそう言うと俺に背を向けグラウンドの中に歩いていく。これ以上追求しても時間の無駄だと思い、渋々それに続いた。確かに今は時間が無い。この件はまた後日尋ねることにしよう。
「羽花!だいぶ僕の動きに着いこれるようになったじゃないか!」
「……ちっとも本気を出してないのによく言います……ね!」
フェイの足元にあるボールに向けて足を伸ばすが紙一重でかわされた。確かに動きには着いていけないこともないが今まで一度として彼が汗をかいているのを見たことがなかった。つまりそれは彼が本気ではないのを物語っている。
「ハァ…ハァ…………全然強くなれない……どうしたら……」
決勝戦は明後日、特訓できる時間は限られているというのにまったく強くなれない…いや、一応強くはなってるのだろうがアフロディとの差に比べたら微々たるものだ。このままじゃ木戸川戦の時と同じ…皆の足を引っ張るだけで終わってしまう……
「ねぇ羽花。君は今サッカーしてて楽しい?」
「……?今は楽しんでる暇なんて…」
「僕は楽しいよ。ボールを蹴ってるだけで生きてるって感じがするんだ。だからもっと強くなりたいって思う。サッカーってそういうものだろ?」
フェイの突然の言葉の意味が理解できずに困惑していると、彼はゴール前に立ち俺に視線を向けた。
「今日最後の特訓だ。僕に向けてシュートを撃ってきて。もちろん手加減はなしだよ」
「……さっきからまったく意図が読めないんですけど?」
「いいからほら撃ってみなよ」
彼の考えていることはわからないが、特訓と言われればやらないわけにはいかない。ボールと共に何度も跳躍し、そして最高地点で月を背景にオーバーヘッドキック。
「バウンサーラビット!!」
ボールは地面に落ちると跳躍を繰り返しフェイ目掛けて突き進む。彼はその場から動くことも止めるような動作をすることもなかった。そしてシュートが彼は顔のすぐ横を通り過ぎてゴールに刺さる。彼はその間、まったく動じることもなく顔に微笑を浮かべていた。
「うん、いいシュートだね!これなら決勝戦も大丈夫だ!」
そう言って彼はその場を立ち去ってしまった。何が大丈夫だと言うのだろうか?今のままでは勝ち目なんてほとんどないのに……それからも一人特訓を続けたが、目立った成果が出せるわけでもなく時間ばかりが過ぎていってしまった。
…そしてあっという間に決勝戦当日がやってきた。
朝、珍しく自分で起きた円堂と共に準備していると温子さんが彼に何かを差し出した。
「これは?」
「おじいちゃんが使っていたグローブよ。決勝戦、一緒に連れて行ってあげて」
「母ちゃん…ああ、もちろんだぜ!」
「いってらっしゃい2人共!頑張るのよ!」
「おう!」
「いってきます!」
玄関のドアを開けて決戦の舞台へ向かう。途中聞いた話で円堂はまだマジン・ザ・ハンドを完成できていないらしい。惜しいところまではいったが後一つ何かが足りないようだ。そんな話をしているとフットボールフロンティアスタジアムに到着した。既に皆集まっているようだ。
「皆おはよう!」
「おはようございます」
「あ、キャプテン、羽花さん。これを……」
何故か皆の表現は浮かなかった。そんな様子に疑問を抱いていると音無が会場入口の方を指さした。
そこには張り紙がしてあり閉鎖と書かれていた。
「どういうことだ?」
「わからないんです。私達が来た時には既にこうなっていて」
そういえば決勝戦にも関わらず辺りには人の姿がほとんどなかった。全員が困惑を隠せないでいると、夏未の携帯に着信が入った。
「…はいそうです。え?どういうことですか?……でも今更そんな!?……はい、わかりました」
「どうかしたんですか?」
「大会本部から急遽決勝戦の会場が変わったって」
「変わったってどこへ?」
その時頭上から大きな音が聞こえてきた。見上げるとそこには巨大な建造物が空に浮かんでいた。女神のような彫像が飾られたそれはどこか神々しさを感じさせる。まるで神殿のようだ。
「会場ってまさか…」
「そのまさかよ」
恐る恐るその会場、ゼウススタジアムに足を踏み入れる。
「決勝当日になってゼウススタジアムに変更、どういうつもりかしら?」
「……!影山!」
円堂の言葉に視線を上げると、そこにはフィールドを見下ろす影山の姿があった。彼はこちらに気づいたのか不気味な笑みを浮かべると奥へと引っ込んでしまった。
「円堂、話がある」
「…?はい」
「お前のおじいさん。大介さんの死には影山が関わっているかもしれない」
それを聞いて全員が絶句した。円堂の方に目を向けると拳を握りしめ怒りを抑えるかのように震えている。そんな彼の肩に豪炎寺が手を置いた。彼も妹が影山の策略にあっている。それに気づいたのか円堂と豪炎寺の視線が絡み合う。
「監督…皆…こんなに俺を想ってくれる仲間に会えたのサッカーのおかげなんだ。影山が憎いなんて気持ちでプレーしたくない!サッカーは一つのボールに熱い気持ちをぶつけ合う最高のスポーツなんだ!だからこの試合は俺達のプレーをする!そして皆で優勝するんだ!サッカーが大好きだから!」
その言葉に皆が頷いた。そして響木監督の号令で試合の準備をするために控え室に向かう。
……そっか…皆サッカーへの純粋な想いでここにいるんだ。私だけだ、自分のためにここにいるのは。皆の役に立ちたいって想いも結局は自分の居場所を失いたくないから…自分本位な考えなんだ…
『さぁ40年振りの出場で決勝まで勝ち進んだ雷門中!対するは今大会最も注目されている世宇子イレブンだ!ここまで圧倒的な力を見せつけてきました!雷門中はどう戦うのか!』
「力の差は十分教えてあげたと思っていたが…まだ神に逆らおうとするその勇気だけは褒めてあげるよ」
「俺は皆を信じてる!俺達は絶対勝つ!」
整列し、握手とコイントス。アフロディがそんな言葉をかけていたが円堂は力強く返した。
そして両チームがポジションにつき、最終決戦のホイッスルが鳴り響いた。
化身は出した方がいい?
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出した方がいい
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出さない方がいい