「フェイ、首尾よくいってるか?」
「う〜ん…ちょっと苦戦中」
前半終了後、突然何も無い空から現れた車から出てきた青い着ぐるみのような熊が当然のようにフェイに話しかける。フェイは頭に手を当ててちょっと困ったようにそう答えた。
「やはり…この大監督、クラーク・ワンダバット様がいないとダメみたいだな」
え……?この熊監督なの…?それになんだか声が鬼道君と似てるような…気のせいかな?
「監督……?この熊さんが…?」
「熊さんではない!私はクラーク・ワンダバット!ワンダバと呼んでくれたまえ!よろしく!」
「う…うん。よろしく?」
熊…ワンダバが手を差し出してきたので一応その手を取る。その時、フェイが指を鳴らした。すると私の後ろにいたはずの選手達が一瞬で消えてしまった。
「えぇぇ!?…消えた!?」
「あ、言ってなかったけ?彼らは僕が出しているデュプリと呼ばれる代行選手さ。彼らは実体がないんだ」
な…なるほど?戦国伊賀島の選手で分身する必殺技使ってる人がいたけどその一種なのかな?……ダメだ、意味わかんないことが多すぎて頭がショートしそう……
「それよりワンダバ、頼んでたやつ取ってきてくれた?」
「もちろんだ!このワンダバ様に不可能はない!」
「ホント?早く見せて見せて!」
私が頭の中で考えを整理している間に何やらあっちでは話が進んでたみたいだ。ワンダバが背中に背負ったリュックから伸びているおもちゃの銃のようなものを構えて何もない地面に向かって引き金を引いた。すると銃口からオレンジ色のオーラが飛び出し、地面に着地する。そしてそこに現れたのは……
「恐竜!?」
「ティラノザウルスだよ!」
「よしフェイ!ミキシマックスだ!」
も……もうなにがなんだか…。フェイは恐竜が現れた反対方向の空いたスペースに走り出し、OKと合図を送った。ワンダバが恐竜を出している方とは反対の手に持っていた銃をフェイに向けて引き金を引く。そっちからも同じようにオレンジ色のオーラが飛び出し、フェイを包んだ。
「はぁぁぁぁぁぁ!!」
「ミキシマックス、コンプリート!」
数秒経ちオーラが晴れると、フェイの姿が変わっていた。緑色だった髪は薄いピンクに。髪型もツインテール状から後ろで結んでいるように変化している。
「フェイ……?大丈夫?」
「ああ、これがミキシマックスだ!ミキシマックス・ガンによって、僕の個性とティラノザウルスの個性が合わさったのさ!それがこの姿!」
「そ…そう……?」
もう考えるのやめようかな……無駄な気がしてきた…
「そろそろ試合を…!四万十川〜」
「………」
フェイが指を鳴らすと再びデュプリ達が現れる。そして両チームポジションについたところでホイッスルの音が鳴り、試合再開。
ボールはフェイからキモロ、そしてチビットに回り再びフェイに。プロトコル・オメガが複数人でチャージを仕掛けてくるけど、フェイはさっきまでのトリッキーなプレーとは正反対の力技でディフェンスを全員なぎ倒して突破した。これが……ミキシマックス…。
「羽花!」
「え…!?私!?」
突然のパスに動揺するもそれを受け取る。しかしすぐにプロトコル・オメガのディフェンスが目で追えないくらいの超スピードで迫ってくる。
「速すぎる……!?これじゃあ……」
「羽花、集中するんだ!サッカー部を守るんだろ!大丈夫、君ならできるさ!」
…そうだ、私がサッカー部を…皆を守るんだ……。絶対負けられない!
精神を研ぎ澄ませて集中する。そうするとうっすらだけど相手の動きが見えてきた。
「ここだ!」
ディフェンスの間を縫って突破する。しかしすぐに別の相手にボールを奪われてしまった。
『ああっと天川ボールを奪われた!やはりプロトコル・オメガの動きについて行くのは無理なのか!?』
……私は………負けない!
私がジャンプし飛び上がると、背後に紅く光る月が出現する。その月が不気味な赤黒い光を発し、相手の目を眩ませる。
「ヴァーミリオンドロップ!!」
その瞬間、私の瞳が紅く輝いた。そして急降下しスライディングで相手を弾き飛ばしてボールを奪い取る。
「やった……できた!」
「行かせないよ!」
ボールを奪った私の前にすぐにディフェンス2人が立ち塞がった。やっぱりすごいスピードだ。だけど今度は……見える!
私は加速して相手ディフェンスに一気に詰め寄る。そしてディフェンスとの距離がほとんど0になった瞬間、一気に身を翻してボールと共に回転する。
「ビビッドステップ!!」
その速度に風圧が発生し、ディフェンスを吹き飛ばす。私が通った後には虹色に輝く光の軌跡が残っていた。
『なんと天川、いきなり新必殺技を連発だぁ!』
「なにこれ……身体が軽い!」
「すごいじゃん羽花!」
私は一気にゴール前まで到達する。でもシュートコースには既にディフェンスが待ち構えていた。だけどディフェンスの人数にだって限りがある。これだけ私に集中していれば他がフリーになるってわけだ。
「フェイ!」
完全にノーマークのフェイにパスを通す。彼がそれを受け取り、両腕を前にだし構えると同時に背後にティラノザウルスが現れた。バク転したフェイがシュートすると同時に獰猛な恐竜の咆哮が轟き、ボールは牙のようなオーラと共にゴールに突き進む。
「古代の牙!!」
「キーパーコマンド03!!」
相手キーパーのザノウが衝撃波でシュートに対抗するも歯が立たず、ボールはゴールネットに突き刺さった。
『決まったぁぁ!アマカワーズ同点に追いついた!』
「やった!すごいよフェイ!」
「羽花もナイスパスだったよ!」
フェイとハイタッチで喜びを分かち合う。こんな大変な時だけどやっぱりサッカーは楽しいってことを改めて再認識する。
「……こちらアルファ………それは事実ですか?」
「どうしました?」
「不測の事態だ。一時撤退する」
口元につけたインカムのようなもので誰かから連絡を受けたのか、アルファがグラウンドから出ていくと他のメンバーも後に続いた。
「どうしたアルファ?」
「この試合、中止とする」
審判のおじさんが静止しようとしたけど、どこかへ消えていってしまった。今さらだけどあの人どこから連れてこられたんだろ?
「じゃあ棄権ってことで僕らの勝ちだな」
ミキシマックスを解除したフェイが勝ち誇ったように手を腰に置いて言った。アルファ達は何も答えずに突然空に現れたUFOのような物体に吸い込まれるように消えてしまった。
「追い払えた……でいいのかな?」
「今のところはね」
「フェイ……教えて!サッカー部はどうなったの?あいつらは……あなたは……何者なの?」
私の質問を聞いたフェイはじっとこちらを見つめたと思うと、ゆっくり口を開いた。
「…僕らは200年後の未来からやってきた。サッカーを消そうとする者を阻止するために」
「未来……?」
これまでのやり取りで薄々わかってはいたけどやっぱり面と向かって言われるとまだ信じられない。でも今は信じるしかないか…
「パラレルワールドってわかる?」
「ドラマとかで聞いたことはあるけど…詳しくは…」
「これを見て」
そう言うとフェイは緑色の物体を取り出した。するとそれが光を発して私達の周りをプラネタリウムのようなドーム型のスクリーンが囲い、フェイはそれを使って話し始めた。そこから語られたのはにわかには信じられない話だった。
要約すると、パラレルワールドとは時間のある地点に変化が起きるとそれ以降の世界に違う流れができることを言う。それを利用してプロトコル・オメガは雷門中サッカー部に関する重要な出来事に影響を与えて、雷門中にサッカー部がない世界を作ろうとしている。しかもそれだけじゃなく彼らはサッカーそのものを消そうとしている。それを行っているのがプロトコル・オメガが所属する組織、200年後の世界全体の意思決定機関…『エルドラド』
彼らの目的はサッカーを消すこと、しかしそれには理由がある。200年後の未来では恐るべき強さと頭脳を持つ少年達『セカンドステージチルドレン』が戦争を起こしている。彼らは優秀なサッカー選手の遺伝子から生まれていて、その他の人類を古い人間とし淘汰しようとしている。彼らによって世界は危機的状況に陥っており、その打開策として彼らの発生源であるサッカーの消去が提案、実行された。これがエルドラドがサッカーを消そうとする理由。
「エルドラドはセカンドステージチルドレンを恐れている。だからサッカーを消すことで彼らが世界に生まれないようにするつもりなんだ」
「…でも、どんな理由があってもサッカーを消していい権利なんて誰にもないよ…それにサッカーを人を傷つけるのに使うのなんて許せない!」
彼らの言い分もわからないわけじゃない。だけどサッカーが消えることで悲しむ人だってたくさんいる。それにいくら世界を救うためだと言ってもあんなやり方許されていいわけがない。
「そう、サッカーは人を傷つけるための道具じゃない。楽しくて、人にとっても必要なものだ。だから僕らはやってきた。君達を救うために」
「……!もしかして、私を特訓してくれたのは…あいつらと戦うため…?」
「それもあるけど、僕は君とサッカーがしたかったんだ。僕にとってもサッカーは楽しくて必要なものだから。僕は羽花と一緒にサッカーを守りたいんだ」
彼の言葉からは本当にサッカーが好きなんだって気持ちが伝わってくる。そこまで話したフェイが右手を差し出してくる。私も包み込むようにその手を握った。
「それじゃあ行こうか」
「…え?どこに?」
「まずは雷門中サッカーを取り戻す。羽花の時代から50年以上前、円堂大介が雷門にやってきた日だ」
「それってもしかして…タイムスリップ?」
「そう、雷門からサッカー部が消えたのは円堂守がサッカーに出会わなかったから。奴らは円堂守のサッカーのルーツである円堂大介のインタラプトを修正して、彼からサッカーを奪ったんだ。」
「インタラプト?」
「インタラプトっていうのは歴史に介入できる分岐点みたいなものさ。奴らはそこに介入して、起きた出来事を作り替えているんだ。だからそれを僕らで元に戻す」
そうか、守君がサッカーを始めたのは大介さんの影響だ。その大介さんがサッカーを奪われたから守君はサッカーに出会わずサッカー部も作らなかった…
「よし、話は決まったな!乗ってくれ!」
ワンダバに言われて例の飛ぶ車…タイムマシンに乗り込んだ。中はパッと見普通のバスみたいだ。
「これで本当にタイムスリップできるの?」
「うん、ただしそれには道標…アーティファクトがいる」
「アーティファクト?」
「その時間、その場所にいる人物の強い想いがこもったものじゃないとダメなんだ。それがないとタイムジャンプは失敗する」
「羽花、なにか心当たりない?」
大介さんの想いがこもったもの………あった!ピッタリなものが。
「大介さんの特訓ノート!あれなら多分大丈夫だと思うよ!」
「それはどこにある?」
「えっと……守君は大晦日に大掃除してる時に物置で見つけたって言ってたと思う…」
「ならまずはそれを取りに行こう。円堂守の家に」
私の言葉に2人とも納得してくれて、まずは円堂家に向かうことになった。どうやらこのタイムマシンには時間移動だけじゃなくて、場所を移動できる機能もあるみたいで、そのおかげで一瞬で円堂家についた。
「この中だと思うけど……」
庭にある物置を開けると、中はそこそこ整頓されていた。だけど大介さんのノートはかなり古いものだ。多分奥の方に眠ってるはず…
「ゴホッゴホッ…奥の方は結構埃っぽいね…」
「本当にここにあるのか?」
「あ、待って…見つけた!」
一番奥のダンボールの中で見つけたのはボロボロのノート、大介さんの特訓ノートだ。それを持って私達は再びタイムマシンに乗り込んだ。
「アーティファクトセット完了!」
「上手く行くといいけど…」
「大丈夫、なんとかなるよきっと!」
「さぁ行くぞ…タイムジャンプ!」
タイムマシンは加速したと思うと辺り一面虹色の空間に入った。本当に過去に行くんだ……待ってて皆!必ずサッカー部を取り戻してみせる!
もう展開がサッカーアニメじゃない…今に始まったことじゃないけど…
♢ヴァーミリオンドロップ
オリジナル技、ネーミングセンスはお察し。威力は結構高いので終盤まで使える。ワンダートラップの強化版みたいなイメージ。
♢ビビッドステップ
オリジナル技、ネーミングセンスは以下略…そよかぜステップの強化版。
化身は出した方がいい?
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出した方がいい
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出さない方がいい