「なに…………これ……………」
雷門中に着いた私を待ち受けていたのは、崩れ落ち瓦礫の山と化した雷門中の校舎だった。
「一体どうして……こんなことに………………」
まさかこれもプロトコル・オメガの仕業?だけど奴らは確かに倒したはずだし……それに奴らの目的はサッカーの消去、ここまでする必要は無いはずだ。
だったら私達がタイムジャンプして過去を変えてしまった……?いや、私達は修正された歴史を戻しただけだ。こんなことになるとは考えにくい。
震える手を抑えて必死に考えるが答えはわからない。
その時、ポケットに入れていた携帯が鳴った。この番号は……夏美ちゃん……?
「もしもし?」
「やっと繋がった!羽花、あなた今どこにいるの?」
「夏美ちゃん……私のことわかるの?」
「…どういうこと?当たり前でしょ!」
よかった、ひとまずサッカー部は元に戻っているようだ。それがわかって胸をおろして安堵していると夏美ちゃんは慌てた様子で続けた。
「とにかく今すぐに傘美野中に来て!」
「傘美野中?隣町の……なんで?」
「説明している暇はないわ。とにかく急いで!みんなもう戦ってるの!」
「戦ってる?誰と?」
「……宇宙人よ」
……はい?………宇宙人?………確かに雷門中の様子を見ても只事でないことはわかるけど……未来人がいたんだから宇宙人がいても不思議じゃない………のかな?でも電話越しにでも夏美ちゃんの慌てぶりは伝わってくるし、そもそもこんな冗談を言うようなキャラでもない。
「とにかく急いで!もう後半が始まるわ!」
「……わかった!すぐに行く!」
携帯をポケットしまうと、私は崩壊した校舎に背を向けて走り出した。もうすぐ後半が始まるって言ってたから今から急げば後半10分くらいには間に合うと思う。……未来人の次は宇宙人か……まったく…………次から次へと…………。
心の中で愚痴を零しつつ、私は傘美野中まで全速力で向かうのだった。
♦♦♦♦♦
傘美野中に着いた私が見たのは、地面に倒れ伏す雷門イレブンの姿だった。
「夏美ちゃん!これは………」
「羽花!来てくれたのね!」
ベンチに座っている夏美ちゃんに駆け寄ると、彼女は私の肩を縋るように掴んできた。
「アイツらが……宇宙人?」
「ええそうよ、エイリア学園のジェミニストーム……サッカーで勝負を挑んできたの」
力尽き倒れているみんなとは正反対に、宇宙人は涼しそうな顔をして見下していた。スコアボードには20対0と示されている。まさか……みんながここまでやられるなんて………
「天川、すぐに用意をしろ。半田と交代だ」
「はい!」
幸いさっきまでプロトコル・オメガと試合をしていたので準備はできている。ユニフォームに着替えてフィールドに出ようとしたところで
「羽花、本当に大丈夫なの?」
「そうですよ、もし羽花さんまで怪我をしちゃったら……」
夏美ちゃんと春奈ちゃんが心配そうにこちらを見つめてきた。確かにこの惨状を見れば奴らの実力の凄さがわかる。だけど逃げるわけにはいかない。せっかく歴史を元に戻したんだ、こんな奴らの好きにさせてたまるか……!
「大丈夫だよ、私を信じて!」
それだけ言うと、私はフィールドに入った。途中宇宙人の方を一瞥すると、リーダーらしき抹茶ソフトクリームみたいな髪型の人と目が合った。彼は私に向かって不気味に口元を緩ませた。
「羽花、来てくれたんだな!」
「まったく……待ちくたびれたぜ」
「遅くなってごめんね……」
ゴール前で倒れている守君と風丸君に駆け寄ると、2人とも起き上がり笑みを浮かべた。みんな元に戻ってる……だけど今は喜んでる場合じゃない。私がポジションに着くと、雷門のボールで試合が再開された。
豪炎寺君と染岡君が攻め上がるが、すぐにボールを奪われてしまった。確かにすごいスピードだ。みんながこれだけやられるのもわかる。だけどこんなのプロトコル・オメガに比べれば………
「遅い!」
奪われたボールをすぐにカットする。そしてそのままドリブルで攻めると、ディフェンスが2人、私の前に立ち塞がった。でもそれも対応できない程じゃない、私は2人の間の僅かな隙間を縫うように加速し、あっさり抜いてみせた。
「ほう……少しはやるようだな」
「すげぇぜ!行け、羽花!」
ゴール前にはディフェンス2人とキーパーを残すのみだ。全員余裕な表情を浮かべている。だけどそんなのはすぐに崩れることになる。
「ビビッドステップ!!」
私は一気に加速し、ディフェンスを抜き去る。あまりの動きに翻弄された彼らはバランスを崩して転倒した。私はがら空きとなったペナルティエリアに侵入する。そこでボールと共に跳躍、高度が最高になった瞬間に月を背景にオーバーヘッド。
「バウンサーラビット改!!」
放たれたシュートはトリッキーに何度も地面を跳躍しゴールを目指す。それは今までのものとは比較にならない速度と威力だ。
「……なに!?ぐぉぉぉぉ!」
その動きにキーパーは反応したものの手が届くことはなくゴールに突き刺さった。まさか点を決められるとは思っていなかったのか宇宙人達は信じられないものを見たような顔をしている。私は抹茶ソフトを指さして言い放つ。
「私の仲間を傷つけたことを後悔させてあげるから!覚悟してよね!」
ここまでの動きでわかった。彼らの実力はプロトコル・オメガと比べると大きく劣る。だったら3試合を経て大きく成長した私の敵ではないってことだ。
今フィールドで立っているのは私を除いて守君、豪炎寺君、鬼道君の3人だけだ。風丸君、染岡君、壁山君もかろうじて立っているもののもう限界に近いように見える。他のみんなは立ち上がることもできず倒れ伏している。
よくもみんなを…………顔には出てないだろうけどそんな怒りが溢れてくる。
「天川羽花……地球にはこんな言葉がある。虎を画きて狗に類す。調子に乗るのもここまでだ」
「その言葉、リボンでもつけて返してあげるよ」
抹茶ソフトが眉間に皺を寄せて私を睨んできた。その視線はまるで人でも殺すように鋭いものだった。だけど私は臆せず笑みを浮かべる。
ジェミニストームのキックオフで試合が再開。ピンク髪のミッドフィールダーが上がってくる。
「ワープドライ………」
「だから遅いよ…もらった!」
必殺技を繰り出そうとする一瞬の隙を突いてボールをかすめとる。前方を見ると染岡君がフリーだ。だけど彼はもうボロボロで立ち上がってるのも不思議なくらい。無理をさせることはできないと一人で攻める。
「グラビティション!!」
「アグレッシブビート改!!」
茶色の肌をしたディフェンスが地面に手をつけるとそこを中心に紫のドームのようなものが発生した。
だけどそれも触れなければいい話。鼓動を刻んだドリブルで一気に抜き去る。
そして彼が最終の防衛ライン。
つまりキーパーと1対1だ。
「ムーンフォースラビットG4!!」
ボールを蹴り上げ自らも飛び上がる。そしてボールに重なった黄緑色の月をオーバーヘッドで蹴り落とす。いくつもの星屑が降り注ぎ、それは強烈なシュートとなる。
「ブラック…………ぐぁぁぁぁ!!」
相手キーパーは必殺技を発動しようとするが弾速に対してその動作はあまりに遅かった。間に合わず彼はボールごとゴールにねじ込まれ、数秒の間ゴールに張り付いた。
試合再開後2分と経たずに2度目のゴール。
順調に得点を重ねてはいるが私は焦っていた。試合時間は多分残り10分もないだろう、今のペースじゃ点差を覆すことはできない。
だから相手もそこまで焦る必要はないのだけど敵の動揺の仕方は尋常じゃなかった。
このままなら勝てることくらい小学生でもわかりそうなものだけど…。
「潰せ!なんとしても奴を潰すのだ!」
試合再開直後、まだボールを持ってすらいないのに私には複数人のマークがついた。だけどそんなものは私には意味をなさないとわからないのかな?
彼らの頭上をあっという間に飛び越え私はボールを奪おうとする……いや、やめておこう。
私は自陣ゴールに背を向けて走り出した。
「……血迷ったか。奴では我々のシュートを止めることはできない」
……わかってないのはあなた達の方だよ…。
だって……今の守君の目にはまさに燃えるような闘志が宿っているのだから。
ゴール前に到達した抹茶ソフトによりシュートが放たれた。対する守君は手のひらを天にかかげる。そうして現れたら神の手は以前よりも色濃く大きいものだった。
「つぁぁぁぁぁぁぁ!ゴッドハンド改!!」
守君の右手にぶつかったシュートは徐々に勢いを失い最終的に停止した。
ふふ、やっぱり止めてくれるよね!守君はそういう人だ。
「鬼道!」
ボールは守君から鬼道君へ、しかしすぐにディフェンスに囲まれてしまった。
「イリュージョンボール改!!」
鬼道君がボールをいくつにも見せるトリッキーな技で突破した。その光景に抹茶ソフトはありえないものでも見たかのように驚いている。
「バカな……」
「わかってないようだから教えてあげるよ。雷門を舐めるな!」
「天川、豪炎寺!」
そう言い残して打ち上げられたボールめがけて豪炎寺君と並走する。そして射程圏内に入った瞬間飛び上がり、炎を纏いながら回転。同時にボールを蹴り出す。
「「ファイアトルネード
爆炎を纏ったシュートは敵キーパーを吹き飛ばしゴールに突き刺さった。これで3点目だ。
『ピーーーーー!』
………!?……試合終了?
…やっぱり時間が足りなかった………!最後はこっちが押してただけに感じる悔しさも大きい。
「ゲームセットだな、地球にはこんな言葉がある。雉も鳴かずば撃たれまい」
クソ……!私がもっと早く着いていれば………!
抹茶ソフトは黒いサッカーボールを持ち出すと飛び上がり傘美野の校舎に蹴りつけた。
…………!まさか雷門みたいにここも破壊するつもり!?
「させない…………よ!」
咄嗟に飛び上がりそのボールを蹴る。……!なにこのボール……重い!?
普通のボールとは思えない程の重量に少し怯んだけど構わずそれを蹴り返す。
弾いたボールは抹茶ソフトの元へと落ちていった。
「………なんのつもりだ?」
「私はまだまだ動けるよ。だったら学校が破壊されるのを黙って見てるわけないでしょ。それにサッカーを破壊の道具にするなんて許せない!」
試合で負けたからって目の前で行われようとしているテロリスト紛いの破壊活動を止めない理由にはならないからね。少しだけ身体に力を入れて黄緑色のオーラを放出して威嚇する。そのオーラの流れが私の髪をなびかせる。
「羽花の言う通りだ!サッカーは楽しいものだ!なにかを傷つける道具じゃないぞ!」
「……敗者のお前達がどう足掻こうがこの学校の破壊は決定事項だ」
抹茶ソフトが再度ボールを蹴ろうと足を振るう。それを防ごうと彼の前に出ようとしたところで他の宇宙人に囲まれてしまった。まずい……飛べば抜け出せるだろうけどこの一瞬の隙が命取りだ。間に合わない…………!
「そこまでだ、レーゼ!」
その瞬間、フィールドに青白い光が放たれた。そこには白いフードを深く被った人物が立っている。
「…支援者X………」
「……え!?」
支援者Xって……夕香ちゃんやアフロくんにタイムブレスレットを渡した……。
なんでそんな人がここに……。まさかエイリア学園の仲間!?
抹茶ソフト―――レーゼは彼を睨みつけると振りかぶっていた足を戻して口を開いた。
「なぜだ?我々は勝利した。破壊は当然のこと」
「エイリア皇帝陛下のご命令だ。黙って従え」
「あの御方が…!?…………命拾いしたな、雷門イレブンよ」
小物くさい捨て台詞を吐き捨ててジェミニストームは紫色の光に包まれて消えてしまった。
いや、そっちはどうでもいい。私は支援者Xの方に目をやる。
「支援者X、あなたに聞きたいことが……」
そう言い終わる前に彼は再び青白い光に包また。その眩しさに思わず目を細める。そして次に目を開けた時には彼の姿はどこにもなかった。
その時、サイレンの音と共に救急車が到着した。
そうだ……みんな!
私は気持ちを切り替えて動ける人と一緒に倒れているみんなを救急車に運んだ。
結局マックス君、半田君、少林君、影野くん、宍戸君、栗松君の6人は入院することになってしまい、他のみんなも動ける状態ではないので、病院で検査を受けた後それぞれ家で安静にすることになった。
私は守君に肩を貸して帰路についた。
「羽花、ありがとな。お前が来てくれなかったら俺達も入院してたかもしれないぜ」
「………でも…私がもっと早く着いていれば………マックス君達は入院しないですんだかもしれない……」
「気にすんなよ、あいつらだってわかってくれるさ。それよりお前のあの動き、凄かったな!昨日とはまるで別人だったぜ!なにがあったんだ?」
「…………ちょっと未来人から歴史を守ってただけだよ」
それを聞いてキョトンとした顔をする守君。そんな彼の顔がおかしくなって私はふふっと息をするように笑うのだった。
化身は出した方がいい?
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出した方がいい
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出さない方がいい