「……この者は?」
「ザナーク・アバロニク、ムゲン牢獄にS級の危険人物として収監されていた男です」
羽花達の時代より200年後、世界意思決定機関エルドラド本部にて、ことの顛末を監視する者たちがいた。エルドラドの議長、トウドウ・ヘイキチとその他の議員達だ。彼らはとある事情により、一旦サッカーの消去を中止しているものの監視だけは続けていた。
「おいエルドラドのジジイ共、俺を監視しているんだろう?」
「「「!?」」」
唐突なザナークのモニター越しの問いかけに彼らの間に緊張が走る。一瞬の静寂の後、ザナークが口を開いた。
「提案だ、お前らが手を焼いてる連中を俺が倒してやる。その代わり俺の罪は帳消しとなる。どうだ?どうせそっちは手一杯なんだろう?」
「……取引というわけか」
「まぁそうなるな」
「なりません!犯罪者からの取引など…!」
「いいだろう、取引に応じる」
「くっくっく…そう言うと思ったぜ」
期待通りの返答に満足したザナークは倒れているレーゼ達の方に振り向いた。
「まずはこいつらに働いてもらうか…さあ、お目覚めの時間だ!かァァァァァ!」
ザナークの口から青白いビームのような光が放出され、それは11個に分かれるとレーゼ達の体へと吸い込まれていく。
すると倒れていたはずのジェミニストームのメンバーがゆっくりと起き上がった。彼らは全員髪の毛が青緑色に変色しておりユニフォームも灰色から青緑色に変わっていた。
「どうだ?凄いパワーを感じるか?感じるな?」
「はい、ザナーク様」
「じゃあ雷門とかいう雑魚共は軽く叩き潰せるな?」
「もちろんです。北に近づければ南に遠い、ザナーク様のパワーを賜った我々が勝利するのは当然のこと」
「…そう言うと思ったぜ」
♦♦♦♦♦
ジェミニストームが倒された、その知らせを聞いた私達はその現場である奈良シカTVへと向かっていた。
皆の反応はとても信じられないという感じだった。それもそうだろう、今や全国でも最強クラスのチームになった雷門ですら手も足も出なかった相手だ。他で互角に渡り合えそうなのは世宇子中くらいだけどアフロくんがここにいる以上ありえない。
春奈ちゃんがジェミニストームを倒したというチームの情報を集めてくれているが現状成果はない。
「パパ……」
「塔子、大丈夫か?」
「ああ、ありがとう円堂」
塔子ちゃんはお父さんのことで気が気ではないようだ。ジェミニストームが倒されたことでお父さんも帰ってくるといいんだけど…。
「うおっっ!」
古株さんのうめき声が聞こえたと思ったらキャラバンは急停止してしまった。
私はその時の衝撃で前に突き出て座席で頭を撃ってしまった。痛みでおでこを抑えるけどシートベルトをきちんとしていたのでまだ大丈夫だった。やっぱりシートベルトって大事だね……って今はそんなのどうでもよくて。
「古株さん、どうしたんですか?」
守君の問いかけに古株さんは無言で震える手を前方に向けた。そっちに視線を持っていくと誰かがそこに立っているのが見えた。
褐色肌に緑の髪の毛、そしてなにより服装。明らかに一般人じゃない……私達はキャラバンから降りてその人物と対峙する。
「お前は誰だ?」
「そう言うと思ったぜ。俺はザナーク・アバロニク、名もなき小市民だ」
名前あるじゃん……
ザナークと名乗った男は私達に一通り視線を向け、最後に私がいる方に顔を合わせた。
「お前か、エルドラドのジジイ共を手こずらせた天川羽花ってのは。くく、少しは楽しませてくれよ」
「……エルドラド!?」
ということはこいつもプロトコル・オメガの仲間?どうして今このタイミングで……。
「私達になんの用?」
「なぁに…俺の遊び相手になってくれるやつを探してな」
するとザナークの背後に11人の人影が現れた。その人物達に私達は見覚えがあった。
「ジェミニストーム!?」
そいつらの正体は倒されたはずのジェミニストーム、てことは彼らを倒したのはこのザナークって人なのか。
「お前らに選択肢はない。さぁスタンバイしてもらうぜ」
『フィールドメイクモード』
アルファの使用していたものとは色違いの赤いスフィアデバイスによって道路の真ん中にサッカーフィールドが形成された。そしてそれを囲うように紫色のバリアのようなものが張り巡らされている。
「ここからは試合が終わるまで出られない。単純だろ?」
「どど、どうなってるっスか?」
突然現れたフィールドに皆は戸惑っているようだ。まぁこんなの見せられたら普通驚くよね。
「…く、監督……」
守君が監督に指示を仰ぐと、彼女は少し考えて無言で頷いた。やるしかないってことね。それにしてもまさかこんなタイミングでエルドラドの刺客が襲ってくるなんて。
「天川、あの男のこと何か知っているのか?」
ベンチで試合の準備をしていると鬼道君が尋ねてきた。今まで歴史改変やエルドラドのことは言っても混乱を招くだけだと思って黙ってたけど、そういうわけにもいかなさそうだ。
「あのザナークって人のことは私も知らないけど……多分あいつを送り込んできたのは200年後の未来のエルドラドっていう組織だよ」
それから私はこれまでの出来事を手短に掻い摘んで皆に話した。できるだけわかりやすくしたつもりだけど理解してくれるかな。
「……つまり、俺達は一度サッカーを奪われてるってことか」
「未来がどうとか俺全然わからないぞ」
鬼道君や一之瀬君は理解してくれたみたいだけど守君は話が飲み込めていないのか頭を抱えてしまっている。
「まぁとにかく!羽花とアフロディが俺達のサッカーを守ってくれたんだろ?ありがとな!」
なんかちょっと強引にまとめてきた気がするけどまぁいいか。詳しいことは試合の後にしよう。今はあいつらを倒すことに集中しないと。
「ザナーク様とミキシマックスした我らに歯向かうとは……愚かな奴らだ」
「全員がミキシマックスしてるっていうの!?」
前の時と様子が違うと思ったけどそういうことか……あのザナークって人がどれくらいの実力なのかわからないけど、全員がミキシマックスしてるっていうのはかなり厄介だ。
FW 豪炎寺 染岡
MF 一之瀬 鬼道 羽花 アフロディ
DF 風丸 土門 壁山 塔子
GK 円堂
新メンバーの塔子ちゃんはディフェンスに入ってもらうようだ。確かSPフィクサーズではミッドフィールダーの位置にいたけどディフェンス能力も高そうだったので適任だろう。
ちなみに実況席には前回同様角間くん、あの人ホントどこにでも現れるよね……
私は相手ベンチの方をちらりと見る、ザナークはどうやら自分で戦わないらしい。自分が出るまでもないとか思ってるのか……
豪炎寺君からのキックオフで試合が始まった。ボールは染岡君に渡りパスを回しながら攻め上がる。
「一之瀬!」
「アフロディ!!」
素早いパス回しでボールはアフロくんへ、彼はディフェンスが立ち塞がったのを確認すると指をパチンと鳴らした。
「ヘブンズタイム!!」
世界が静止する。そして次の瞬間私の目に飛び込んできたのは―――ボールを奪われるアフロくんの姿だった。
「な!?」
「ヘブンズタイムが破られた!?」
私達は何が起こったか理解できず数秒動けないでいた。その間にジェミニストームは以前とは比べ物にならない速度で前進してくる。
「くっっ、皆戻れ!」
鬼道君の声で我に帰った壁山君がボールを持ったレーゼの進路を塞ぐが瞬きするまに加速したレーゼに抜かれてしまった。
「前とはスピードが……!」
ミキシマックスしてるとはいえこれは予想外だ。11人に力を分け与えてこれならザナーク本人はどれほどの実力を…?
ディフェンス全員が抜かれてしまいゴール前でレーゼと守君の1対1になった。
そして急停止したレーゼが足を振るってボールを回転させる。
「くらえ!アストロブレイク!!」
回転は勢いを増し巨大な紫色のエネルギーを纏った。それをレーゼが蹴り込むと地面を抉りながら突き進む。
「来い!マジン・ザ・ハンド!!」
それに対し守君は魔神を形成し立ち向かうも、シュートの威力に押されてあっさり消滅してしまった。遮るものがなくなったシュートは無常にもゴールに突き刺さる。
『ゴォォォル!!開始早々ジェミニストーム先制です!!』
「なんてパワーなんだ……」
今の守君では相手のシュートは防げない……か。こんなことなら大介さんが使っていた正義の鉄拳のことを教えてあげておけばよかった。実際に使えるかどうかは置いておいて解決策の一つにはなったはずだ。
また雷門のキックオフで試合再開、豪炎寺君からのパスを受け取った私が駆け上がる。
「グラビティション!!」
「ッッ!アフロくん!」
この技…この前より範囲が広くなってる!?咄嗟にアフロくんにボールを預けて回避する。パワーアップしてるのは必殺技も同じってことか。
「今度こそ…ヘブンズタイム!!」
再び時を止めようと試みるアフロくん、だけど結果はさっきと同じでボールを奪われてしまった。
ヘブンズタイムが2度も破られるなんて……!それだけ相手が強く……いや、確かに強くはなってる。だけどまだプロトコル・オメガの方が実力は上に見える。まさか……アフロくんの動きが鈍くなってる?
ボールはレーゼに回された。そしてシュート。
「爆裂パンチ!!……ぐぁぁ!」
守君の拳はいとも簡単に弾かれゴールネットが揺れる。
これで2失点。早くなんとかしないと皆がもたない……!
そこから終始ジェミニストームのペースで試合は続いた。私は常に複数人でマークにつかれていて思うように動けない。そしてボールを奪われてはシュートを撃たれ気づけば5点もの失点を許していた。
「クソっ、このままじゃ円堂がもたないぞ……!」
染岡君が悲痛な声を漏らした。守君は何度も相手のシュートを受けてもうボロボロだ。だけどそんなことで相手が遠慮してくれるわけもなくボールは無慈悲にもゴール前のレーゼに渡った。
「トドメを刺してやる!アストロブレイク!!」
「やらせない!!」
少しでもシュートの威力を削ごうとエネルギーの塊を蹴り込む、だけどさすがに必殺技の威力を完全に殺すことはできず吹き飛ばされた。
「く……ダメか!」
「後は私達に任せろ!」
「塔子ちゃん!?」
気づけばゴール前で塔子と壁山君がボールの進路を遮っていた。
「ザ・タワー!!」
「ザ・ウォール!!」
二人が形成した塔と壁がシュートを止めようと立ち塞がる。だけどボールの威力の方が遥かに上で瞬く間に二つの必殺技は突破されてしまった。でも威力はかなり削げたはず。
「ナイスディフェンスだ!だぁぁぁぁぁ!マジン・ザ・ハンド!!」
シュートは魔神の手に激突すると徐々に回転が衰え、守君の手の中に収まった。
「ほう、止めたか。1寸の虫にも五分の魂」
ボールは守君から一之瀬君、そして染岡君へ。そしてゴール前に豪炎寺君が上がったのを確認するとシュートを放つ。
「ドラゴン―――!!」
「トルネード―――!!」
染岡君が蹴りあげた龍を追随させたシュートを豪炎寺君が炎を纏って蹴り落とす。―――だけどシュートはゴールの枠を大きく外れてあらぬ方向へ飛んでいった。
「……豪炎寺君が外した?」
シュートが決まらなかったことより豪炎寺君が外したという事実に皆驚いていた。彼がシュートを外すところのんて初めて見た。未完成の必殺技ならまだしも何度も撃っているドラゴントルネードを外すなんて……。
「どんまいどんまい!次は決めていこうぜ!」
守君が励ましの声をかけるが豪炎寺君の表情は暗い。相手のキーパーのスローで試合が再開される。そこから再び高速のパス回しでボールはどんどんゴール前まで繋がれていく。が、そこで鬼道君が相手のパスの間を縫うようにカットした。
「…な!?」
そのプレーに敵味方共に驚愕するがそんなこと気にもとめないように鬼道君はボールを上げる。
「行け!豪炎寺、天川!!」
そこに走り込むのは私と豪炎寺君、私達は炎を纏って飛び上がると同時にボールに蹴り込んだ。
「「ファイアトルネードDD!!」」
……なにこの感じ!?ボールを蹴った瞬間、私は違和感を感じた。豪炎寺君……まさかわざと弱く蹴ってる?
当然シュートはまたゴールの外に飛んでいく。豪炎寺君は着地に失敗して地面に叩きつけられた。
「豪炎寺君……大丈夫?」
「ああ、すまない……」
そこで長いホイッスルが鳴り前半が終了した。
アフロくんの不調、様子がおかしい豪炎寺君。そんな不安を抱えながら私達はベンチに戻っていた。
化身は出した方がいい?
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出した方がいい
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出さない方がいい