「攻撃パターン?」
「ああ、例えばあのミッドフィールダーが中盤でボールを取った時は一度ディフェンスに下げて体勢を立て直す。左のミッドフィールダーがライン際でボールを取った時は後ろのディフェンダーを通して女のミッドフィールダーに戻す」
ベンチにて鬼道君がさっきのパスカットのカラクリを話してくれた。さすが鬼道君、こんなに早く敵の攻撃パターンを見抜くなんて。
「これならいけるな!」
「奴らの攻撃パターンさえ分かればこっちのもんだ!」
突破口が見えてきて皆の顔に光が戻ってきた。だけど約2名、その雰囲気に乗り切れていない人がいた。豪炎寺君とアフロくんだ。
「アフロくん、具合でも悪いの?」
「…そういうわけではないんだ。ただ……力を出し切れないというか……プロトコル・オメガと戦った時には身体の底から力が湧き上がってくるのを感じた……でも今はそれがない」
確かにあの時のアフロくんは決勝戦の時とは比べ物にならないほど強くなっていた。……いや、それは私も同じ。本来プロトコル・オメガと私達ではどうしようもないくらい力の差があったはずだ。
私も初めて戦った時はまったく動きについていけなかった。私もアフロくんもプロトコル・オメガと戦った時はなんらかの原因で強くなっていたってこと?でもそうなると私にはなんの変化もないのはおかしいか…。
そんなことを考えていると空に穴が空いてタイムマシンが勢いよく飛び出してきた。フェイとワンダバだ。
「ごめん羽花、遅くなった!」
「ううん、来てくれたんだね。そっちは大丈夫だったの?」
「ああ、あの時空の乱れはザナークがこの時代にタイムジャンプしてきた時に発生したものだった」
ということはプロトコル・オメガではなかったんだ。安心……とはいかないね。現に別の敵が現れてるわけだから。
「ん?」
ふと視線を感じて振り向くと守君達一同がこちらを目を丸くして凝視していた。
「そ、空からバスが飛んできたぞ」
「どうなってるっスか!?」
ああ……まぁそういう反応になるよね。簡単に説明していたとはいえ、話に聞くのと実際に見るとじゃまったく違うだろうし。
「はじめまして、僕はフェイ・ルーン。そしてこっちが…」
「アマカワーズの大監督、クラーク・ワンダバット様だ!ワンダバと呼んでくれ!」
「クマが喋ってる……」
「誰がクマだ!」
「羽花、この2人が……」
「うん、フェイとワンダバ。私と一緒にサッカーを守ってくれたの」
皆に2人のことを紹介しているとタイムマシンからもう一人褐色肌の少年が降りてきた。…誰だろう?知らない人だ。
「フェイ、この人は?」
「紹介するよ。ゴッドエデンで知り合ったシュウだ」
「よろしく」
話を聞くと彼のいたゴッドエデンはザナークにめちゃくちゃにされてしまったらしい。で、その仇討ちをしに来たってわけだ。
「あの時の奴か。くく、まぁ雑魚が何人集まろうが結果は同じだがな」
あっち側のベンチは特に作戦を立てるわけでもなく後半開始を待っていた。その余裕ぶりに少しだけ苛立ってしまう。
「くぅぅぅ……」
「守君?どうしたの?」
「だってサッカーを守るためにこんなに仲間が来てくれたんだぜ!俺、感動した!」
涙を浮かべながら歓喜する守君。その様子を見た皆からも自然と笑みが零れた。
「監督、選手交代をお願いします」
「わかったわ。染岡君、あなたは下がって。まだ怪我が完治していないでしょう?」
「…気づいてたか」
「それから……豪炎寺君、あなたにもベンチに下がってもらいます」
「「「ええ!?」」」
確かに豪炎寺君はどこか様子がおかしいけど……だとしてもエースストライカーを下げるなんて……。
「待ってください!豪炎寺は雷門のエースストライカーなんですよ!なんで豪炎寺を下げるんですか!」
「今の彼では戦力にならない…それだけのことよ」
「しかし……!豪炎寺?」
監督の言葉に反論しようとした風丸君の肩に豪炎寺君がそっと手を置いた。そしてゆっくりと顔を横に振る。
「それと、ジェミニストームの弱点を伝えるわ。……スピードよ」
「スピード?…スピードが弱点ってどういうことですか?」
スピードが弱点?彼らのスピードはむしろ長所だと思うんだけど…。結局監督がその答えを教えてくれる前に笛が鳴り、後半が始まった。
豪炎寺君と染岡君のポジションにそれぞれフェイとシュウ君が入り試合が再開される。
ボールを持ったフェイは軽やかにジャンプして敵陣に攻め込んでいく。
「やるじゃねぇかあいつ!」
一気にゴール前まで到達した彼はそのままシュート体勢に入った。
「バウンサーラビット!!」
地面に何度も跳ねるシュート。それはジェミニストームゴールへと進んでいく。
「ブラックホール!!」
相手のキーパーが腕を前に突き出したかと思うとそこに黒い渦のようなものが発生。フェイのシュートはそれに吸い込まれて威力が完全に消滅してしまった。
「く、決まらないか…」
ボールは前線に送られる。そこから再び高速でパスが回される。しかし前半との違いは攻撃パターンがあることを理解していること。そこを突いて一之瀬君がパスをカットした。
「天川!」
「OK!」
彼からパスを受け取った私は目の前のディフェンダーの頭上に飛び上がりかわした。するとまた別のディフェンダーが猛スピードで突っ込んできた。
「ビビッドステップ!!」
必殺技でかわすと相手は勢いに耐えられずザザっとアスファルトの上を滑った。
ん?今のって……。
「行かせるか!」
さっきの人にも負けない速度でレーゼが取ろうとしてきた。私はそれに対し身体とボールを少し移動させることで回避した。
「なに!?」
それに対応できずレーゼは私の横を通り過ぎていく。アスファルトを擦って急ブレーキでもかけたような音が聞こえてきた。
やっぱりそうだ、彼ら自分のスピードを制御できてないんだ。だからさっきみたいにタイミングを見てボールを動かしてやれば簡単にかわせる。
スピードが弱点っていうのはこういうことだったんだね。多分ザナークとミキシマックスしたことが原因だ。強くなったのはいいけど本人達がその力を扱いきれてない。
鬼道君の方をチラッと見ると彼は頷いた。どうやら気づいたみたいだ。
「鬼道君!」
「皆!ダイレクトのショートパスでボールを繋ぐんだ!行くぞ!」
鬼道君の号令でボールは彼からアフロくん、一之瀬君、私へとどんどん移り変わっていく。絶え間なくボールの位置が変わっていくのでジェミニストームはその動きに着いてこれない。
あっという間にボールは前線のフェイ、そしてシュウ君へ。
「ブラックアッシュ!!」
シュウ君が黒色のオーラを纏ったと思うと、ボールにも同じ現象が起こる。そうして黒い塊と化したボールをシュウ君が蹴りつける。
放たれたシュートが着弾すると同時にゴールが暗黒に包まれた。時間が経つにつれてゆっくりとそれが晴れると、私達の視界に入ったのはゴールに突き刺さったボールだった。
『ゴォォォル!!シュウの必殺技で雷門が1点を返しました!』
わぁお、すごいシュートだ。正直彼の実力に不安があったんだけどとんでもない。さすがフェイが連れてきただけのことはあるね。
「ナイスシュート」
「ああ、ありがとう」
点を決めたというのにシュウ君はクールだった。なんかかっこいいな。
「いいシュートだったぞシュウ!皆、今度は俺達の番だ!点とってこうぜ!」
「「「おう!!!」」」
さあ、ここからが本番だ。試合が再開されレーゼが単身攻めてくる。それに対して私は飛び上がり背後に紅い月を出現させた。そしてそれを不気味に輝かせ、急降下してボールを奪い取る。
「ヴァーミリオンドロップ!!」
スライディングでレーゼを振り飛ばすとそのままフェイにパス。彼はボールを持って飛び上がるとまるで見えない床でもあるかのように空中を何度も飛び跳ねる。
「スカイウォーク!!」
そうして一気にペナルティエリア内に侵入した彼はキーパーと対峙する。
「ミキシトランスティラノ!!古代の牙!!」
ティラノの力を解放したフェイ。彼の背後に巨大な恐竜が出現し、バク転と共にボールを蹴りつける。恐竜の咆哮が聞こえ、ボールジェミニストームのゴールを強襲する。
「ブラックホール!!…うぐぁぁぁ!」
黒い渦は恐竜のパワーには適わずキーパーの顔面を弾いてゴールへとねじ込んだ。
「バカな……!?」
「ふふん、雷門を舐めてるからだよ!」
「く……絶対に許さん!潰す!」
明らかにイラついている様子のレーゼ、しかしベンチからザナークの舌打ちが聞こえてくるとその顔は青白く固まってしまった。見渡すとチーム全員同じ様子だ。額から嫌な汗を流している。そんな状態で巻き返すことなどできるはずもなく、試合はそこから私達のペースで進んでいく。
「イリュージョンボール改!!」
鬼道君がボールを踏みつける。するとボールがいくつにも分身して相手を惑わす。その隙に突破した鬼道君はこちらを見てアイコンタクトを送ってきた。……なるほどね。私がその場で思いっきり飛び上がると彼はボールを上に蹴り上げる。空中でそれを受け取った私は地面を見下ろしながら身を翻しボールをオーバーベッドで蹴り落とす。
「ムーンフォースラビットG4!!」
シュートした私の背後には黄緑色の月が現れる。私が蹴り落としたボールはいくつもの星屑となりゴールへと進んでいく。
「ブラックホール!!」
キーパーが黒い渦を発生させるけど星屑はそれに吸い寄せられつつも勢いは失わず彼を吹っ飛ばした。
『ゴォォォル!天川のシュートが炸裂!雷門3点目!』
なおも私達の攻撃は続く、試合再開早々にボールを奪い取り攻め上がる。
「シュウ!」
「ああ!」
アフロくんからシュウ君へのパス、連続して失点していることに同様しているからかジェミニストームの反応が遅れた。彼はその間にぐんぐん進むとペナルティエリア内に侵入する。
そこでシュート体勢に入る。だけどさっきの技とは違い、彼の背後に巨大な斧を持った黒い魔王が現れた。
「暗黒神ダークエクソダス!!」
「化身!?」
「なんだあれ!?」
シュウ君が出現させたのはなんと化身だった。初めて化身を見た皆はもちろん、私もアルファ以外の化身使いを初めて見たので驚愕した。
「魔王の斧!!」
だけどそんなことどうでもいいと言わんばかりにシュウ君はシュートに移る。シュウ君がかかと落としでボールを蹴り落とすと魔王がその斧で追撃する。ボールは紫色のオーラと共に地面を抉りながら突き進む。
「ブラック……ぐぉぉぉぉ!」
そのシュートに対しキーパーは無力だった。あっさり吹き飛ばしゴールネットを揺らす。
これであと1点で同点だ。
「奴らの力が我々を上回るというのか?そんなことが……有り得るかァァァ!!!」
試合が再開されるとレーゼが単身突っ込んできた。彼はこれまで以上のスピードで駆け上がってくる。確かに彼らはあまりのスピードに小回りがききにくくなってるけど直線で突っ込んでくるならそんなの関係ない。
「アストロォォォブレイクV2!!」
一瞬でゴール前に到達したレーゼがシュートを放つ。さっきよりも強力になったそれの前に壁山君と塔子ちゃんが立ち塞がる。
「ザ・タワー!!」
「ザ・ウォール!!」
2人が出現させたのは壁と塔。しかしそれは放たれたシュートを止めるほどの強度は無くしばらくの後粉砕された。
「俺だって……!」
守君はなおも強襲するシュートに対して背を向けてエネルギーを貯めるのではなく、手を前に向ける。すると心臓から気が飛びだし守君の周りを回転して右手に宿る。
「だぁぁぁぁ!マジン・ザ・ハンド改!!」
魔神の右手がシュートと激突する。一瞬で吹き飛ばされてしまった試合開始直後とは違い拮抗している。しかし次第にシュートが押すようになりついには魔神の消えてしまった。
「クソ……!」
「「まだだ!!」」
ゴールかと思われたがいつの間にか戻っていた一之瀬君と土門君が左右から同時に蹴りつけた。3つの必殺技で威力が激減していたシュートは徐々に威力を失い弾かれる。
「悪い…2人共」
「へへ、いいってことよ」
弾かれたボールは一之瀬君が拾った。
すると彼はそのまま走り出す。そこに守君と土門君も続いた。ザ・フェニックスの構えだ。
でもあそこは……!?
「ゴール前から撃つつもり!?」
「そういうことか……天川、アフロディ!ついてこい!」
そう言って鬼道君が走り出した。
アフロくんも意図を理解したのかそれに続く。……そういうことね!
私がその意味を察して走り出した時には既に上空に不死鳥が現れていた。
「「「ザ・フェニックス!!」」」
3人により押し出された不死鳥はゴール―――否、私達に向かってくる。
「行くぞ!!皇帝ペンギン――!!」
「「2号!!」」
シュートチェインだ。鬼道君がペンギンを呼び出し、ちょうど彼の足元に来たシュートをさらに蹴りこみ加速させる。それにペンギンも追随し、炎とペンギンのシュートに私とアフロくんがダメ押しの蹴りを入れる。
2つのシュートの相乗効果によって凄まじく勢いを増したシュートは、そのままゴールキーパーごとゴールネットを揺さぶった。
『ゴォォォル!!雷門5点目!同点です!』
「いいシュートだったぜ!鬼道、羽花、アフロディ!」
「守君達もナイスシュート!でもいきなりゴール前から撃ってきた時はびっくりしたよ」
「君達なら俺達の意図をわかってくれると信じてたからさ」
同点に追いついたことを喜び合う私達。それとは対極にあっち側のベンチには重苦しい空気が流れていた。
「こんな……ことが……」
「…力を与えてやってもこの程度とは、所詮雑魚は雑魚というわけか」
「お待ちくださいザナーク様!我々はまだ…!」
「まだやれるってか?こんな醜態を晒しておいてよくそんな口が聞けるもんだぜ。………!そうだ、くっくっく……いいことを思いついたぜ」
ザナークがベンチから立ち上がりライン際まで歩いてくる。そして身構えたかと思うと
「かぁぁぁぁぁぁ!!!」
口から緑色のビームのようなものが飛び出してきた。それはジェミニストームのメンバーへと吸い込まれていく。
「……!?何を!?」
「まさか……更に力を送り込んでいるのか!?」
ベンチから聞こえてくるワンダバの声に驚愕する。ただでさえ強化されてるのに更に強くなるっていうの?
「ぐ……がァァァァァァ!!」
そのビームの余波で突風が巻き起こり、私達は飛ばされないようにと踏ん張った。
そして、爆発が起こった。
砂煙が巻き起こり、辺り一面が砂景色に覆われる。突然のことに思わず目を瞑った。そのまましばらく静寂が流れ、数十秒後には砂煙が徐々に晴れ相手のフィールドが見えてきた。
「おい……なんだよアレ」
「あれが……ジェミニストーム?」
「がぁぁあああ…あ゛あ゛あ゛」
そこにいたのは、白目を剥いて獣のように唸るジェミニストームだった。
化身は出した方がいい?
-
出した方がいい
-
出さない方がいい