夜、私は寝つけないでいた。特訓で疲れているはずなのにいくら目を瞑っても夢の世界に入る事ができない。
さっきのシュウ君の言葉が頭の中で何度も再生されている。
サッカーは強くないと意味が無い……それは別に間違ってないと思う。サッカーをやってて一番の喜びは試合で勝つこと、試合に勝つためには相手よりも強くなければいけない。
だけどサッカーはそれだけじゃない。みんなと練習している時だってすごく楽しい時間だ。
……でも、今はそんなことを言っている場合じゃない。エイリア学園やエルドラドを倒すためにはもっと強くならなければならない。楽しいかどうかは二の次だ。
……結局シュウ君の言う通りなのかもしれないな。
……ダメだ。
このところ色々なことがありすぎて少しナーバスになってるのかもしれない。私は気分を変えようと女子組の寝床になっているテントを出ることにした。
特に目的地を決めるでもなくフラフラ歩いていると、廃墟になった塔のような建物を見つけた。なんとなく景色が綺麗そうだと思い登ることにした。
階段を登って屋上が見えてきた。
だけどどうやら先客がいるようだ。
屋上では守君が両腕を枕にして寝そべり星を眺めていた。
「羽花? どうした、眠れないのか?」
「うん、そんなところ。……隣いいかな?」
「ああ、もちろんだ」
それじゃあ失礼して、守君の隣に寝転ぶ。
……綺麗な空だな。至る所にキラキラと光る星々が散りばめられている。街灯や建物の灯りがないので当たり前だけど東京の空とは大違いだ。
「俺さ……」
「うん?」
「ジェミニストームとの試合でマジン・ザ・ハンドが完璧に破られて、少し不安なんだ。この先俺の力が通用するのかって……それを考えてたら、いつの間にかここに来てた」
「……私と同じだね、私も考え事してたらここを見つけた」
守君は話しながらずっと空を見つめていた。その声はいつになく細々としている。
「エイリア学園にマジン・ザ・ハンドは通用しない……こんな時、じいちゃんならもっとすごい技を考えるんだろうな」
「マジン・ザ・ハンドよりすごい技……か」
マジン・ザ・ハンド自体完成度の高い強力な技だからね、それを超えるとなると並大抵の技ではダメだ。……うん?
「……正義の鉄拳」
「え?」
「正義の鉄拳ならもしかして……」
「なんだそれ?」
私は50年前にタイムジャンプした時に見た、正義の鉄拳について説明した。話が進むにつれて、守君はだんだん顔を輝かせて食い入るように聞いていた。
「さすがじいちゃんだ! そんなすごい技を考えてたなんて!」
「大介さん曰く究極奥義なんだって」
「究極奥義……よし、絶対正義の鉄拳をものにしてやる! そうと決まれば特訓だ!」
「え? 今から!?」
守君は勢いよく立ち上がると階段を駆け下りて行ってしまった。今何時だと思ってるんだろう? いや、サッカーバカに時間制はないってことか。
なんて思ってると階段から守君が顔を覗かせてきた。
「で、正義の鉄拳ってどうやるんだ?」
「……ハァ、しょうがないな。私も見ただけだからあんまり期待しないでね?」
なんか悩むのも馬鹿らしくなっちゃった。でも確かに守君があの技を習得できればこれからの戦いで有効なのは間違いない。しょうがない、付き合ってあげますか。
♦♦♦♦♦
「正義の鉄拳!! ……く、ダメか」
エネルギーを右手に集中させて、それを前に突き出す。その瞬間、拳が形成されるがそれは私の放ったシュートに当たるや否や消え去ってしまった。
やっぱり私のアドバイスだけじゃ無理があるか。
そもそも私だって見ただけなんだから技のモーションなんかは教えれても、具体的にどうやって力を込めるのかなんてさっぱりわからないし。
見た感じはグーのゴッドハンドで熱血パンチや爆裂パンチのように弾き返す技なんだけど……そんな単純なら究極奥義なんて呼ばれないよね。
……そういえば
「大介さんは正義の鉄拳を出す時に足を上げて大きく振りかぶってた……もしかしてそこがポイントなのかも」
「踏み込みが大事ってことか……よし、やってみる!」
守君がゴール前で構えるのを確認して、私はペナルティエリアの側に立つ。いきなりムーンフォースラビットを撃つのは危ないだろうからまずはこの技だね。ボールを打ち上げると私自らも跳躍する。そして空中で叩きつけるようにオーバーヘッドキック。
「バウンサーラビット改!!」
守君は私が言った通り左足を大きく振り上げ、そして地面に叩きつけた。拳を前に突き出すと、エネルギーの塊で形成された拳が現れる。
「正義の鉄拳!! ……どわぁ!」
拳はシュートをなんとか跳ね返したものの、その瞬間に消滅して守君は後方に大きく弾かれた。
形はできてた、なのに失敗したってことは単純なエネルギー不足。正義の鉄拳を出すためには守君自体の力量が足りてないってことだ。
「やっぱりダメなのか……」
「技の形はできてたけど……やっぱりあの時の大介さんと同じくらいの実力を守君自身が身につけないとダメみたいだね」
でもアルノ博士の話からするとあの時、大介さんはパラレルワールドの共鳴現象によって本来の実力以上の力を発揮してたわけで、それに素で追いつくのはかなり大変だよね。
「よし、どんどん撃ってきてくれ! 必ず正義の鉄拳を完成させてやる!」
「……うん、わかった! いくよ!」
それから私は守君に何百本とシュートを放った。特訓は夜が明けて朝日が昇るまで続いたけれど、結局正義の鉄拳を完成させることはできなかった。
♦♦♦♦♦
「ふわぁぁ……眠い…………。やっぱり徹夜で特訓はするもんじゃないよね」
次の日、特訓も一段落して私は島でも一番高い木の上で昨日のことを思い出しながら大きくあくびをした。正義の鉄拳は完成までには至らなかった。でもこのまま特訓を重ねていればきっとできる、そんな確証も得られた。
沈みゆく夕陽を眺めながら比較的大きな枝に座り込み足をぶらぶらさせる。
ちなみになんで木の上なんかにいるかっていうと、今日の特訓は木の上をジャンプでどんどん飛び移っていくというものだったから。
傍から見たらなんの特訓かわからないだろうけどバランス感覚が鍛えられるし割と理にかなってるんだよね。
「そろそろ晩御飯の時間だろうしみんなのところに戻ろうかな……ん? あれって……」
ふと下を見ると夏美ちゃんがなにやらカゴのような物を持って歩いていた。こんな森の中でなにしてるんだろう? 行ってみようかな。
枝から飛び降りて近くにあった木の上に着地する。そして付近の木に飛び移りながら夏美ちゃんがいた方角へ進んでいく。
「確かこの辺り……あ、いたいた。夏美ちゃ〜ん!」
「え? ひゃあ!?」
夏美ちゃんの横に着地した瞬間、夏美ちゃんの手からカゴがフルスイングされてきた。あっぶな! 私じゃなかったら顔面強打だよ。
「ちょっと! あなたどこから降りてきてるのよ! びっくりしたじゃない!」
「あはは、ごめんごめん。こんな所でなにしてるの?」
「まったく……晩御飯に使うキノコを取ってたのよ。ほら」
夏美ちゃんがカゴの中身を見せてきた。わぁ、確かに色鮮やかなキノコがたくさん入ってる……うん? 色鮮やか?
「ねぇ……一応聞いておくけどこれ食べられるの?」
「……? 食べられないキノコがあるの?」
「私もそんなに詳しくないけどこれ多分毒キノコだよね?」
「そんなことないと思うけど……こんなに綺麗なんだもの」
いや絶対毒キノコだって! これとか赤と青のシマシマ模様だよ? ぼく毒キノコですって自己紹介してるようなものだよ!
……でももしかしたら本当に食べられるキノコなのかも。いくら夏美ちゃんの料理センスが壊滅的だといっても成績は超優秀なんだから毒キノコの見分けくらいつくでしょ。うん、そう信じたい。確かめてみるか……。
カゴの中から適当にキノコを一つ手に取って舐めてみた。……舌がビリビリするんだけど…………。しかもなんか気持ち悪いし。
「……夏美ちゃん、今すぐカゴの中身捨ててきて。下手したら死人が出るよこれ」
「羽花がそう言うなら……せっかくたくさん取ったのに」
あぶないあぶない、エイリア学園と戦う前に毒キノコで全滅してたら洒落にならないからね。
半ば強引にカゴの中身を捨てさせて私達はみんなの元へと戻っていった。
そろそろ夏美ちゃんには本格的に料理を教えてあげた方がいいかもしれない。将来夏美ちゃんの旦那さんになる人の為にも。……中々骨が折れそうだなぁ。
「……ねぇ羽花」
「ん?」
「羽花は……円堂君のことをどう思っているの?」
まだ見ぬ夏美ちゃんの未来の旦那さんに思いを馳せていると彼女は唐突にそんなことを聞いてきた。あまりに突然だったので数秒フリーズしてしまった。
これは……そういうことだよね。私もそこまで鈍くない、夏美ちゃんが聞きたいのは私が守君を異性として好きかどうかってことだ。
これは……どう答えればいいんだろう。守君のことは好き……だけどこれは多分恋愛的なそれじゃない。友情とか尊敬に近いと思う。
「守君のことは好きだよ」
「……!」
「でも、この好きは尊敬に近いかな。だから夏美ちゃんが心配してるようなことはないよ」
「べ、別に心配なんてしてないわよ……」
この子可愛いかよ。顔を真っ赤にして照れている彼女を見て思わず抱きしめたくなった。
それにしても薄々気づいてはいたけどやっぱり夏美ちゃんは守君のこと好きなんだね。こんな可愛い子に好かれるなんてうちのキャプテンも隅に置けないね。
なんて考えてたらいつの間にかTMキャラバンの前に到着していた。みんな既に晩御飯の用意を始めている。
「お、羽花、夏美! どこ行ってたんだ?」
「ちょっとお散歩だよ。ガールズトークをしながらね」
守君はキョトンとした顔をしたけどすぐに誰かに呼ばれてその場を去った。というか夏美ちゃんまだ顔真っ赤だけど守君もよく気づかないよね。
「あんまりグズグズしてると私が取っちゃうかもよ……なんてね」
片目でウィンクそう言うと守君の後を追った。振り向きざまにに口をパクパクさせてる夏美ちゃんが視界に入ってきた。この分だと二人の関係が進展するのはずっと先になりそうだなぁ。
♦♦♦♦♦
ゴッドエデンで特訓を開始してから2週間が経過した。私は毎日シュウ君のしごきとも言えるようなメニューをこなしたおかげでだいぶ力が上がったように思える。他のみんなもそれぞれかなりレベルアップしているようだ。特に守君は正義の鉄拳の完成にこそ至らなかったもののマジン・ザ・ハンドの強化に成功していた。
そして私達はシュウ君に集められて島の中心にあるサッカーグラウンドに集合している。
「君達はこの島でかなりレベルアップした。その成果を見せてもらうよ」
「ここで試合するってことか?」
「そう、僕のチーム……エンシャントダークとね」
シュウ君がそう言うや否や、彼の背中から紫色のオーラが流れ出た。それは段々と人の形に変化していく。
「……!? デュプリを使えるの!?」
「ふふ、さぁ始めようか」
フェイの問いかけをはぐらかすようにシュウ君が笑うと、彼とそのデュプリ達はそれぞれポジションへと移動していった。
『さぁ始まります! 雷門vsエンシャントダークの一戦! 実況はおなじみ、角馬圭太でお送りします!』
私達もそれぞれポジションについたところでそんな声が聞こえてきた。その方向を見るとどうやって来たのか角馬君が実況を始めていた。というかここ無人島なんだけど本当にどうやって来たの?
FW 染岡、フェイ
MF 一之瀬、鬼道、羽花、アフロディ
DF 風丸、壁山、土門、塔子
GK 円堂
雷門ボールから試合開始、フェイからボールを受けた染岡君が突っ込んでいく。
「行くぜ! 特訓の成果を見せてやる!」
染岡君は監督が豪炎寺君を追い出したことに人一倍腹を立てていた。それを原動力に特訓していたみたいだけど、確かにドリブルのキレが以前と段違いだ。
そんな彼の前にエンシャントダークの選手が立ち塞がる。染岡君はフェイントでかわそうとするけどピッタリ張り付かれて抜けないでいた。
「染岡君、こっち!」
「おう!」
染岡君からパスを受け取って攻め上がる。でも相手の選手が誰一人としてボールを奪いに来ない。……どういうつもり?
「やぁ」
「……!? いつの間に!?」
いつの間に移動したのかシュウ君がいきなり私の目の前に現れた。さっきまで私の後ろにいたはずなのに。
「へぇ、特訓の成果出てるじゃないか」
「余裕綽々でそう言われてもね……」
さっきからかわそうとしてるのにまるで磁石でもついてるかのようにくっついてきて離れられない。ボールを取ろうと思えば取れるはずなのにただ私の進路を塞ぎ続けてる。
「……そろそろかな、カイ!」
「あいよ!」
「……!?」
いきなりシュウ君が進路を開けてきた。これみよがしにそこを抜けると目の前に緑髪の選手が立っていた。まさか誘導された!?
「ストロングタワー!!」
「……!? きゃあ!」
カイと呼ばれた選手の背後に出現した巨兵が地面を叩きつけた瞬間、私の足元から光の柱が出現して吹き飛ばされてしまった。
「僕達エンシャントダークは相手の動きを見切り、力を奪うことを得意とする。いわばマイナスの力を持ったチームさ」
私が起き上がってディフェンスに戻ろうとした時には、既にシュウ君とカイは雷門ゴール前まで進行していた。そしてそのままシュート体勢に入った。
「いくよ! ブラック……アッシュ!!」
暗黒を纏ったボールをシュウ君が蹴りつける。だけどその行く手を壁山君と塔子ちゃんが塞いだ。
「行くよ、壁山!」
「はいっス!」
「ザ・タワーV2!! / ザ・ウォール改!!」
特訓によりパワーアップした塔と壁がシュートをブロックする。しかし塔が破壊され、そして突き破った先にある壁を勢いのままに粉砕し、シュートはなおゴールへ向かう。だけど明らかに威力は弱まっていた。
「ナイスディフェンスだ二人とも!! いくぜ、じいちゃん……正義の鉄拳!!」
守君は拳にエネルギーを溜めて前に突き出した。だけどやっぱりダメみたいでエネルギーは分散してシュートが直に彼の拳に直撃した。ボールはなんとか弾かれて風丸君の足元へと転がった。
やっぱりまだ正義の鉄拳を出すにはエネルギーが不足してるか……。それにしても相手のチームの攻撃速度は凄まじかった。とてもシュウ君以外がデュプリだとは思えない。
それからもエンシャントダークのトリッキーな動きに翻弄される時間が続いた。点差こそ0だけどこのままじゃ失点するのは時間の問題だ。
「ふざけやがって、俺が決めてやる!」
均衡を破ったのは染岡君だった。彼は強引なドリブルで敵のディフェンスを吹き飛ばすとドラゴンクラッシュの体勢に……ボールを上にあげた!?
『染岡のこの動き!? まさか新必殺技か!?』
染岡君がボールを蹴りあげたと思うと、地面から翼の生えたドラゴンが飛び出してきた。それはドラゴンクラッシュのものと比べて数段大きい、染岡君がシュートすると同時にドラゴンは咆哮を上げてゴールに進む。
「どうだ……!」
しかしゴール手前でドラゴンは消滅してシュートの威力も激減してしまった。どうやら失敗みたいだ。威力の低下したボールではゴールを破ることは叶わずボールはキーパーの手にすっぽり収まった。
「クソ!」
「染岡君、今のは?」
「ああ、新必殺技を考えてたんだけどよ。上手くいかねぇな」
そんな会話をしてるうちにボールはキーパーから前線に投げられた。今は話してる場合じゃなさそうだ。
「スプリントワープ!!」
ディフェンスが突破されてシュウ君と守君の1対1、シュウ君が魔王を呼び出し、巨大な斧を振りかざす。ボールを空中で撃ち落とすと同時に魔王が斧を振り下ろした。
「暗黒神ダークエクソダス……!!魔王の斧!!」
凄まじい力を持ったシュートがゴールを襲う。未完成の正義の鉄拳では防げないと判断したのか、守君は魔王に対して魔神を呼び出した。
「真マジン・ザ・ハンド!!」
魔神対魔王、その対決を制したのは魔王だった。マジン・ザ・ハンドはシュートに触れた瞬間、まるでガラスが割れるかのように砕け散った。
『マジン・ザ・ハンド敗れる! エンシャントダークが先制です』
「やっぱりマジン・ザ・ハンドじゃ通じないのか……」
守君は震える手を眺めている。
シュートを決めたシュウ君は守君には目もくれずこっち向かって歩いてくる。
「これでわかっただろ? サッカーは強くないと意味がないんだよ」
「…………!?」
すれ違いざまに呟かれたその言葉に、私は反論することができなかった。
今作ではエンシャントダークのメンバーはシュウのデュプリという設定にしてます。原作ではシュウとカイ以外はフィフスセクターが連れてきたシードって設定だったと思うんですけど、そうなると時系列的におかしなことになるので。
化身は出した方がいい?
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出した方がいい
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出さない方がいい