前半も残すところあと僅か。
しかしまったく反撃の兆しが見えてこない。
ボール支配率では多分私達の方が上だけど彼らはこちらの動きが全て見えているかのようにシュートギリギリのところでボールを奪ってきていた。
「俺達が遊ばれてるというのか……」
突破口を見いだせず鬼道君が苦言を漏らす。
そんな中ボールは私に渡った。
「アグレッシブビート改!!」
一気に加速してディフェンスの間をすり抜ける。よし、これならゴール前まで……。
「ディメンションカット!!」
「しまッッ!?」
必殺技を使った後のごく僅かな隙を突かれボールを奪われてしまった。
……ダメだ、もっと集中しないと。
「……所詮この程度か」
「この辺にしとくか?」
「ああ……終わらせよう」
シュウ君は飛び上がるとまるでシュートかと思うほどの速度でパスを出す。
「ザ・ウォール改!!……ぐぁぁぁ!!」
壁山君が岩壁で止めようとするがそのシュート並のパスを防ぐことはできず吹き飛ばされてしまった。
そしてボールはあっという間にゴール前に。
「これで終わりだ!ブラック……な!?」
「だぁぁぁぁ!!」
あわや2点目というところで守君がペナルティエリアから飛びだしてきた。
少しでもタイミングがズレれば無人のゴールにシュートされて終わりだ。それなのにも関わらず守君はまるでボールしか視界に入っていないのかのように一直線に突き進み、シュウ君が足を振るう直前でボールをラインの外に蹴り出した。
ボールが外に出ると長い笛が鳴った。ちょうど前半終了だ。
「へへ、危ないところだったぜ」
「……なんで君が前に出る?」
「キーパーが前に出ちゃいけないってことはないだろ?サッカーは自由にやるものだぜ!」
シュウ君に笑いかけると守君はベンチに戻っていった。
戦況は明らかに不利、だけど今の守君のプレーでみんなの目に闘志が戻ったようだ。
うん、これなら後半も戦えそうだ。
そんな頼もしさを感じつつ、私もベンチへと戻った。
♦♦♦♦♦
豪炎寺は凄い奴だ。いつだってチームの期待を背負い、それに答えてきた。最初こそ反発し認めようとしていなかった染岡も、今では彼に絶大な信頼を置いていた。豪炎寺こそが雷門のエースストライカーだと。
だが監督はどうだ?何故豪炎寺をあんなに簡単に追い出せた?
確かにあの試合での彼の様子はどこかおかしかった。あの場で彼を下げるのも納得できない訳ではない。
だがチームから追い出すのは明らかにおかしい。調子が悪い時なんて誰にだってある。それになんの説明もないのはどういうことだ?
大なり小なりチームのメンバーが瞳子監督に対して疑問を抱いている中、最もそれが大きいのは染岡だった。
「豪炎寺君のことが気になるの?」
彼がハーフタイム中に思考を巡らせていると、そんな風にフェイが染岡に声をかけた。
「お前には関係ねぇよ」
彼は図星を突かれぶっきらぼうに突き放すように答えた。だがフェイはお構い無しに続ける。
「彼がチームを去ってしまったのは残念だ、だけど――」
「お前に何がわかるってんだよ!!」
フェイの言葉を遮るように怒鳴りつけた彼は、拳を震わせ俯いた。フェイに当たるのは筋違いなただの八つ当たりだと彼も本心ではわかっていた。
「確かにチームに入ったばかりの僕にはわからないかもしれない。だけど彼がどんな気持ちでチームを去ったか、同じサッカープレイヤーとしてある程度はわかるつもりだ」
「…どんな気持ちで……」
「彼はきっと悔しかったんじゃないかな?雷門はいいチームだ。このチームを離れるのは寂しいし、悔しかったと思う。だからこそ、彼はこのチームに戻ってくるはずだ。必ずね」
「……!?」
そこまで聞いて染岡もフェイが言わんとしていることに気付いた。豪炎寺はこのまま終わるような奴じゃない。それは自分が一番知っているはずじゃないか。だったら自分の今やるべきことは―――。
「豪炎寺が戻ってくるまでチームを守る。あいつが戻ってくる場所を……」
染岡の返答を聞くと、フェイは満足したかのように微笑んだ。そこで笛が鳴り、後半開始が合図される。
染岡は自分のポジションに移動するフェイの背中に「ありがとよ」と誰にも聞こえないように呟くのだった。
♦♦♦♦♦
後半が始まった。試合の展開は依然エンシャントダークが優勢だけど私達も徐々に相手の動きについていけるようになってきた。それというのも
「ナイスディフェンス風丸!次は取れるぜ!」
「いいぞアフロディ!もうちょっとだったな!」
守君が絶えず選手に声をかけ続けているおかげだ。例えボールを奪えなくても、シュートが決まらなくても、守君はその都度励まし、鼓舞した。
それに答えるかのようにみんなの動きが良くなってきている、もちろん私も。
「はぁぁぁ!フレイムダンス!!」
一之瀬君が新必殺技でボールを奪った。そのままドリブルするもディフェンス二人が近づいてきた。彼は身を翻してアフロくんにパスを出す。
しかしこれは相手の選手によってカットされてしまった。
そこに土門君が迫る。彼が足を振るうと地面に亀裂が走った。
「ボルケイノカット!!」
亀裂からマグマの壁が吹き出してボールを弾いた。すかさず土門君は鬼道君へパス。それを鬼道君はダイレクトでフェイに繋いだ。
「ミキシトランスティラノ!!」
ティラノザウルスの力を解放したフェイがディフェンスを蹴散らし前進する。そして前方を走る染岡君を見据えた。
「染岡君!」
完全にフリーな状態でボールを受け取った染岡君はボールを天空へと打ち上げた。それに呼応するように地面から手足の生えた翼竜が現れる。
「決めてやる……俺が!!」
染岡君がシュートを放つと同時に翼竜の口から放出されたブレスがシュートの勢いを加速させる。
「キルブリッジ!!」
相手のキーパーが両手からアーチ状のエネルギーが出てきた。それ衝突したシュートと軌道を変えてキーパーの手元に誘導された。しかしシュートの威力までは殺しきれていなくてキーパーが弾かれてボールはそのままネットに突き刺さる。
『ゴォォォル!!染岡の新必殺技で雷門が同点に追いついたぁぁ!』
「名付けて…ドラゴンクラッシュを超えた、ワイバーンクラッシュ!!」
「やったじゃないか染岡!」
「凄い必殺技っス!」
みんながはしゃぎながら染岡君の元に駆け寄った。彼はフェイの方に視線を向けるとぐっと親指を立てた。
それを見たフェイも笑顔で返す。
ああそっか、これなんだ……私が守りたかったのは。
仲間と共に支え合って高め合う……失敗したとしても励まして次に繋げる、成功したらみんなでその喜びを分かち合う……そんなサッカー。
そこには強さなんて関係ない。
ただボールを蹴っているだけで楽しいんだ。
ふふ、当たり前のことなのに忘れちゃってたな。
「シュウ君、私わかったよ」
「……何が?」
「サッカーは強くないと意味が無い…それは別に間違ってないと思う。だけどそれ以上にサッカーは楽しいんだよ」
それを聞いたシュウ君は明らかに苛立った様子で私を睨みつけてきた。そして声を荒らげる。
「例えサッカーが楽しかったとしても……強くなれなければ意味なんて無い!大切な人を守ることさえできないんだ!」
「……楽しむことと強くなることって別なのかな?」
「…え?」
「シュウ君も見たでしょ?私達はサッカーが大好きだから、お互いに高め合って強くなってきた。強くなることへの一番の近道は楽しむことだと私は思うな」
「そんな楽観的な考えで強くなんか……」
確かに楽観的かもしれない。だけど実際雷門が今まで強くなれたのはいつもサッカーが好きで楽しいって気持ちがあったからだ。
「シュウ君は違うの?サッカーが楽しいって思ったことない?」
「………!?僕も…確かに最初はボールを蹴ってるだけで楽しかった…………。もしかしたら心のどこかで望んでいたのかもしれない。何にも縛られず楽しいサッカーをするのを」
「じゃあやろうよ、楽しいサッカー!」
「…でも今さら」
「やろうぜ!」
その声に振り返るといつの間にか守君を先頭にみんなが集まっていた。
「みんな聞いてたの?」
「へへ、まあな」
シュウ君の顔を見るとまだ渋っているようだ。そんな中、カイ君がシュウ君の肩を叩いた。
「やってみるか」
「……!……そうだね、楽しもっか。僕達のサッカーを!」
よかった、どうやら届いたみたいだ。ちょっと恥ずかしいセリフだった気もするけど。こういうことをサラッと言える守君の凄さを改めて実感した。
エンシャントダークのキックオフで試合が再開された。シュウ君がボールを持って私に一対一を仕掛けてきた。
お互い一歩も譲らない攻防、ふと彼と目が合った。その瞳の中にはさっきまではなかった灯が点っていた。
「さっきのお返しだよ!」
その言葉と同時にボールを奪い取った。
「やるね!」
だけどシュウ君も諦めずに追いかけてくる。そんな彼に気を取られて私はディフェンスが接近してきているのに気づかなかった。
「わ!いつの間に!?」
「お返しのお返しさ!」
私からボールを奪ったのはカイ君だった。彼はシュウ君と並列して攻め上がっていく。その前に塔子ちゃんと風丸君が立った。
「あんたらだけで楽しんでないであたし達も混ぜてよ!」
それを見た二人が飛び上がる。そして空中でクロスしたかと思うとそこに魔法陣のような模様が浮かび上がってきた。
「「ブリタニアクロス!!」」
魔法陣から赤いバツ印の形のエネルギーが飛び出し塔子ちゃん達を弾いた。そのままグングン上がっていきあっという間にゴール前へ。
「行くぞ!カイ!」
「おう!」
二人は再び飛び上がると回転しながらそれぞれ黒と白のエネルギーを纏った。そして空中でツインシュートを放つと二人のエネルギーが一体化し強烈なシュートとなった。
「「ゼロ……マグナム!!」」
そのシュートに対し守君は足を振り上げ拳に力を溜め込む。そのパワーは今までとは段違いに強烈なものだった。
「すっげえシュートだ!でも俺だって負けちゃいないぞ!」
守君が力強く地面を踏みつけ拳を前に突き出す。その衝撃は私のところまではっきりと伝わってきた。そして守君からエネルギーの塊でできた拳が発射される。
「正義の鉄拳!!」
拳とシュートが激突、その風圧でフィールド外周辺の木の葉が一斉に揺れ音を立てた。
「だぁぁぁぁぁぁぁ!!」
正義の鉄拳とゼロマグナムは完全に拮抗しているかのように譲らぬ勝負を繰り広げる。10秒ほどせめぎ合った後、勝ったのは拳の方だった。
ボールは真上に弾かれ守君はその衝撃で尻もちをついた。
「まだだ!」
ゴール上空で無防備になったボールにシュウ君が食らいつく。でもそれを狙うのは彼だけじゃなかった。
「行くぞ壁山!」
「はいっス!」
土門君と壁山君が同時に飛び上がり、壁山君のお腹を踏み台に土門君がジャンプ。一瞬早くシュウ君より先にボールにたどり着いた。
「鬼道!」
「反撃行くぞ!」
ボールを受け取った鬼道君の号令で一気にカウンター攻撃を仕掛ける。ボールは私に渡った。しかし警戒されているのかディフェンスが複数人集まってきた。
「真アグレッシブビート!!」
でも何人いようが関係ない。
一気に抜き去って後はキーパーただ一人のみ。
私がボールを天に向かって上げるとそこに染岡君が飛び込んできた。それを見た私も一緒に飛び上がる。そして二人で同時にボールを地面に叩きつける。
それが地面に着地する寸前、風を切るように加速した風丸が蹴りつけた。
「「「ザ・テンペストV2!!!」」」
螺旋状に黒と水色のオーラを纏ったシュート。その威力は世宇子戦の時の優に数倍の威力はあるはずだ。
「キルブリッジ!!」
キーパーも対抗しようとするけど無駄だと言わんばかりにシュートは彼の抵抗を許さずゴールに進撃する。
決まった……と思ったのも束の間、ゴール前に二人の影が侵入してきた。
「ゼロ―――」
「マグナム!!」
その正体はシュウ君とカイ君。二人は左右から同時にボールを蹴りつけた。
「なんとしても止める!」
「「ウォォォォォォ!!」」
二人の雄叫びが重なり合う。そしてシュートの威力は段々と削がれていき、ボールは弾かれ真上に飛ぶ。
ボールはバーを越えて外に出た。
二人は脱力して地面に倒れる。
そしてここで笛が鳴り試合終了、スコアは同点のままこの試合は幕を閉じた。
化身は出した方がいい?
-
出した方がいい
-
出さない方がいい