「冬海先生!あなたのような教師は学校を去りなさい!これは理事長の言葉と思ってもらって結構です!」
人差し指を突きつけクビを宣告する雷門夏未。
その相手は雷門中サッカー部顧問の冬海。あろうことか遠征で使用するバスに細工をしていたのだ。
なんと彼は帝国学園のスパイで雷門を帝国との決勝戦に出場させないように命令されていた。
やる気のない人だとは思っていたがここまでクズだったとは…
「クビですか、そりゃあいい。いい加減こんなとこで教師をやるのも飽きてきたところです。」
悪びれる様子もなく言い放つ冬海。そして直後、とんでもないことを口にする。
「しかしこの雷門中に入り込んだ帝国のスパイが私だけとは思わないことだ。ねぇ?…土門くん?」
そう言い残し冬海は立ち去って行く。
そして今度は土門に皆の視線が集中する。
とんだ置き土産を残していってくれたものだ。
「円堂…皆…冬海の言う通りだよ、ごめん…!」
「おい待てよ土門!」
空気感に耐えきれなくなり走り去ってしまう土門。その後を円堂と秋が追いかける。大人数で行っても逆効果だろうとここは2人に任せることになった。
♦♦♦♦♦
その後、円堂達に連れ戻された土門が経緯の説明と謝罪をしてくれた。土門は雷門の情報を帝国に流していただけで直接的な被害は出ていないこと、夏美に冬海のことを密告していたこと、なにより円堂の言葉により彼は正式に雷門イレブンに迎えられた。
ただしここで新たな問題が発生する。
「あの、ちょっといいですか?」
「どうした、羽花?」
「フットボールフロンティアの大会規約書によると、監督のいないチームは試合に参加できないみたいですよ」
そこまで言うと皆固まってしまった。数秒の静寂の後、部室内に叫び声が響いた。
「「「えええぇぇっ!?」」」
「おい夏美、知ってたか?」
「と、当然よ!だからあなた達はすぐに代わりの監督を探しなさい!これは理事長の言葉と思ってもらってかまわないわ!」
顔を真っ赤にして無茶なことを言い出す夏美。
「こうなったら早く新監督を探すんだ!こんなことでフットボールフロンティアを諦めてたまるか!」
「でも帝国と戦うためにはサッカーに詳しい人じゃないと…」
「円堂、雷々軒の親父はどうだ?秘伝書のことも知っていた。ということは」
「それだよ豪炎寺!皆今すぐ頼みに行こうぜ!」
意気揚々と雷々軒に向かう円堂。そう簡単にいくとは思えないが今はそれしか手はない。
「帰れ!仕事の邪魔だ!」
案の定断られてしまった。それもそうだ、いきなり中学生の団体がやってきて監督をやってくれと頼んでも断るに決まってる。
「そこをなんとか!おじさん、じいちゃんの知り合いなんですよね?秘伝書のことも知ってた。サッカー、詳しいんじゃないんですか?」
「前にも言ったはずだ。イナズマイレブンは災いをもたらすと。恐ろしいことになるぞ」
「でも俺たちここまで来たんだ!引き下がるなんてできない!」
円堂の目をじっと見つめる店主。そしてメニュー表を叩きつけた。
「注文しないなら帰れ!」
「だったらラーメン一丁!」
「あいよ」
慣れた手つきでラーメンを作り始める店主。ふと横の円堂を見るとポケットを探ってみるみる顔が青ざめている。
「サイフ…部室の中だ」
「大丈夫だよ!カギはちゃんと閉めて来たから!」
…絶対そこじゃないと思う。
「あ、私サイフ持ってますよ。立て替えておきましょうか?」
「助かるぜ羽花!…あ、俺今300円しか小遣いなかった…」
「金を払わないやつは出てけ‼︎」
結局俺以外追い出されてしまった。
というかなんで俺が食べることになってるの?
「あのキーパーのボウズ、ゴッドハンドを使えるぞ」
端の席に座っていた男性がふと口を開いた。
「お詳しいんですね」
「なに、雷門の試合は欠かさずチェックしてるだけさ。嬢ちゃんも前回の尾刈斗戦、見事な活躍だったな」
不意に褒められ思わず赤面して俯く。知らない人に褒められるのはなんとも変な感じだ。
「ほらよ、ラーメンお待ち」
「…いただきます」
目の前に置かれたラーメンを1口すする。転生してから初めてラーメンを食べたのもあるがすごく美味しい。
「…お前は俺を勧誘しないのか?」
「嫌がってる人を無理やり説得する趣味はありませんから」
「アイツらの目は本気だった。本気でサッカーに情熱を注いでいる。だが、お前からはそれを感じない。お前はなんのためにサッカーをしている?」
店主からの問いかけに俺は一瞬手を止めるもすぐに麺をすすりだす。
食べ終えると同時にお金を置いて席を立つ。
「ご馳走様でした。美味しかったです」
一言言って戸に手をかける。
「うちのキャプテンの必殺技、ゴッドハンドの他にもありますよ。諦めの悪さです」
ニコッと笑い急いで店を出た。
♦♦♦♦♦
沈みゆく夕日を背に俺はボールを蹴り続けた。
現在時刻は18時、本来ならば帰らなければならないが今日はそんな気分になれなかった。
円堂には持っていた携帯で自主練をするから遅くなると連絡してあるので大丈夫だろう。
決定力を上げるためにシュート練習をしたいと言ったら俺も付き合うぜと言ってきたが今日は1人で練習したいと伝えると渋々了承してくれた。
河川敷にあるサッカーコート内のゴールには俺が蹴ったボールが数個入ったままになっている。
(なんでこんなにイライラしているんだろう)
決定力を上げたいというのは言い訳で本当はこのイライラをボールにぶつけているだけだ。
さっきの店主の言葉が頭の中にこびりついて離れない。
「お前はなんのためにサッカーをしている?」
…そんなのわからない。ただサッカーをするしかなかった。
「お前は玉蹴りに興じていればいい。元々不要な人間だ。動き回られるより余程マシだろう」
俺を引き取った親戚連中の言葉を思い出す。
「不要な人間」
…やめろ
「お前も両親と一緒に死ねばよかった。そうすれば簡単に会社を手に入れることが出来たのに」
…そんなのわかってる。言われなくても。
「早く死んでくれないかしら?この役立たず」
「やめろ!!」
怒号と共にシュートを放つがゴールを大きく外れあらぬ方向に飛んでいってしまった。
何やってるんだろう…あんな過去早く忘れたいのに…
「このボール、君のだろ?」
ふと話しかけられ声がした方向を見る。
そこには緑色の髪をツインテールのようにした少年?が立っていた。脇にはさっき俺が蹴ったボールを抱えている。
「はい、ボールは大切にしないとダメだよ?」
「ありがとうございます」
少年からボールを受け取る。外国の人だろうか?見慣れない服装をしている。
「僕はフェイ。フェイ・ルーン、よろしく」
ニコッと陽気に笑う少年。突然の自己紹介に戸惑ったが俺も言葉を返す。
「あ、私は天川…」
「知ってる。天川羽花だろ?君のプレイは見させてもらったよ」
そう言うと少年…フェイは近くにあったボールを足に乗せリフティングを始めた。
「フェイさん、尾刈斗中との試合見ててくれたんですか?」
「フェイでいいよ。雷門の試合に興味があってさ。この前初めて見たけどいいね!サッカーへの熱さを感じたよ」
そこまで言うとリフティングをやめて、ボールを手に持ち彼は続けた。
「ねぇ、僕と1対1で勝負しようよ。君がオフェンスで僕がディフェンス。シュートを決めたら君の勝ち。決められる前にボールを奪ったら僕の勝ちだ」
君はドリブルが得意なんだろ?と微笑み問いかけるフェイ。だが今はとてもそんな気にはなれない。
「ごめんなさい。今はそんな気分じゃないんです」
「1回だけでいいからさ、ね!」
「…わかりました。1回だけなら」
フェイの気迫に押され渋々了承する。こうなったら早く終わらせよう。
「よし、いつでもいいよ」
フェイが位置についたのを確認してドリブルを始める。そのままフェイに接近し
「アグレッシブ…ッッッ!?」
必殺技で一気に抜こうとしたがいつの間にか足元のボールが無くなっていた。
ぎょっとし前を向くとフェイの姿もどこにもなかった。
「こっちだよ」
声を聞いて後ろに振り向くとボールを足元に携えたフェイが立っていた。
「…いつのまに」
動きが全く見えなかった。なんてスピードだろう、俺とは明らかにレベルが違う。
「次は僕がオフェンスだ!いいだろ?」
フェイの問いかけにコクリと頷く。さっきのがまぐれではなかったとしたらドリブルも…
向かってくるフェイにこちらからも接近しボールを奪おうとする。しかしその瞬間、フェイは天に向かって高く高く跳躍し、俺の頭上を飛び越えた。
そのまま着地した彼は再度ボールと共に2回、3回と跳躍。最後に満月を背景にオーバーヘッドキック。
「バウンサーラビット!!」
地面に叩きつけられたボールはものすごい速度とバウンドでゴールに突き刺さった。
「ふう、やっぱりゴールを決めると楽しいね!」
…完敗だ。まさかここまで圧倒的にやられるとは。
「フェイ、あなたはいったい…」
「僕は明日もここにいる、またサッカーしようね!」
何者なんですか?と聞く前にフェイは去っていってしまった。
俺はその背中をただぼーっと眺めることしかできなかった。
化身は出した方がいい?
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出した方がいい
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出さない方がいい