イナイレ世界に転生したら女子だったんですが   作:マルメロ

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伝説のイナズマイレブン

「悪いな2人共。手伝ってもらって」

 

 帝国戦から2日、地区大会優勝記念の祝勝会が雷々軒を貸し切って行われた。

 

「これくらい当然ですよ!な、羽花」

「はい、たくさんご馳走になりましたし」

 

 会もお開きになりみんなが帰宅した後、俺と円堂は片付けを手伝っていた。

 その時ガラガラと音をたて、店の引き戸が開いた。

 

「すみませんねぇ、今日はもう……浮島!?」

 

 入ってきたのは放浪者風の男性だった。

 

「雷門中が帝国学園を倒したって聞いてな、なんだかお前の顔が見たくなったんだ」

「そうか。こいつがそのサッカー部のキャプテン、円堂守だ」

「円堂…!?まさか大介さんの…」

 

 なんだか響監督と親しそうだ。会話の内容から察するに響監督の元チームメイト、もしくは近しい関係なのだろうか?

 

「監督、もしかしてこの人」

「ああ、イナズマイレブンの1人だ」

 

 円堂も気づいていたようで響監督に尋ねた。どうやら当たりのようだ。すると円堂が瞳を輝かせて浮島さんに飛びつくように話しかけた。

 

「俺、じいちゃんとイナズマイレブンの話を知ってからずっと憧れてたんです!伝説のイナズマイレブンに!」

「…知ってるのか?イナズマイレブンの悲劇は」

「もちろんです。だけどイナズマイレブンが強かったことに変わりはない!あんな事故さえなければもっともっと勝ち続けたはずです!俺達も強くなりたいんです!イナズマイレブンみたいに!」

 

 ものすごい勢いで喋る円堂とは対照的に浮島さんの表情は暗い。長い髪と髭でほとんど見えないがそれでもわかるくらいだ。

 

「…やっぱり来るんじゃなかったな」

 

 ぽつりと静かにつぶやくと浮島さんは店を出ていってしまった。

 

「え?おじさん、待ってよ!」

「守君!?片付けがまだ…」

 

 それを追いかけるように円堂も飛び出していってしまった。

 

「悪いな天川、俺も少し出てくる」

 

 少し考え込んだ後、そう言い残して響監督も出ていってしまった。…いやだから

 

「片付けがまだ終わってないんだけどなぁ…」

 

 振り向くとそこにはシンクに溜まった大量の皿と食べかすで汚れた机と床。

 俺はため息をつくとそれらを1つずつ片付け始めた。

 

 ♦♦♦♦♦

 

 

 

 

 それから1週間程経った日曜日、俺達は雷門中ではなく河川敷のグラウンドにいた。

 

「楽しみだな!みんな、今日は胸を借りる気持ちで行くぞ!」

「「おう!!」」

 

 今日は元イナズマイレブンのOBとの練習試合。あの時店を飛び出した円堂が浮島さんを説得して決めたらしい。

 だからって片付けを放り出して飛び出すのはやめて欲しいものだ。

 

 そして試合が始まった。…のだがOBのプレーは拍子抜けもいいところだった。みんな高齢なうえ40年のブランクがあるので仕方ないとは思うがまずやる気が無かった。

 しかしそれを見かねた響監督の一喝で彼らのプレーが変わった。

 

「天川!」

 

 染岡からのパスを受け取る。だがすぐに囲まれてしまった。さっきまでとは段違いのスピードだ。

 

「ブレードアタック!!」

 

 ジャンプで飛び越えようした瞬間、衝撃波で弾き飛ばされてしまった。それを繰り出したのはバトラーさん。夏美の執事の人だ。

 

 そしてボールは浮島さんへ、彼はボールを高く蹴り上げると、フォワードの備流田さんと共に落ちてきたボールを天に蹴りこんだ。

 

「ビルダァァァ!!」

「おう!!」

 

 ボールを最高点で同時に蹴ると炎を纏った鳥となりゴールへ襲いかかる。円堂は反応こそしたものの届かずにゴールを許してしまった。

 

「今の…審判さん、タイムお願いします!」

 

 審判に頼み込み、タイムをとった円堂を囲むように集まる。大介さんノートによるとさっきの技は炎の風見鶏というらしい。相変わらず読めないので円堂に通訳してもらってるが。

 

「今日はお手本がいるんだ。絶対マスターしようぜ!」

「で、誰がやるの?」

「えっと…この技はスピードがビューン、ジャンプ力がビヨヨーンか」

「相変わらずの宇宙語ですね…」

 

 字が汚いのは仕方ないにしても語彙力はもうちょっと何とかならなかったのだろうか?

 

 

「スピードとジャンプか、陸上部の出番だな」

「ああ、この技は風丸が適任だな」

 

 風丸が名乗りでると全員が納得したように頷いた。スピードで彼に勝てる人はこのチームにはいないだろう。

 

「あと一人…ジャンプ力といえば羽花だな」

「へ?私ですか?」

 

 突然の指名に戸惑う。というか俺より豪炎寺の方が適任だと思うのだけれど。

 

「いいんじゃないか?ジャンプ力で天川に適う奴はいないだろ」

「…わかりました、やってみます」

 

 豪炎寺の援護射撃をくらい、しょうがないなと了承した。

 そして試合再開、何度も試してみるがなかなかタイミングが合わずに上手くいかない。

 

「浮島、もう一度見せてやるか」

「ああ、しっかりとな」

 

 そんな俺達を見かねてかもう一度炎の風見鶏が撃ち込まれた。円堂がゴッドハンドで応戦するが徐々にひび割れて崩れてしまった。

 

「風丸くん、わかりましたか?」

「いや、どうすれば成功するんだ…」

 

 もう一度見てもタイミングの合わせ方がわからない。ゴッドハンドを破るだけあって難易度もかなりのものだ。

 

「この技の鍵は2人の距離だよ!」

 

 ふとゴールの方から声が聞こえた。その主は影野、彼は俺と風丸の方に歩いてくると語りだした。

 

「2人がボールを中心に同じ距離、同じスピードで合わせなきゃダメなんだ」

「なるほど!」

「そういう事だったんですね」

「よく気づいたな、影野!!」

 

 確か今までは距離とスピードが微妙にズレていた。だからタイミングを合わせることが出来なかったのか。

 

「よし、頼んだぜ!風丸、羽花!」

「「おう!/はい!」」

 

 

 影野のアドバイスを受けてもう一度試してみることに。

 ボールを宙に浮かすとそこを中心に接近する。今度は距離、スピード共に完璧だ。そうして同時にボールを蹴り上げ、風丸が上、俺が下からオーバーヘッドで蹴り込む。

 

「「炎の風見鶏!!」」

 

 炎に身を包んだ鳥は響監督の横をすり抜け、ゴールに突き刺さった。

 

「やった、できたぞ!」

「はい、やりましたね!」

 

 ハイタッチして喜びあう俺達、そして試合は雷門の勝利で幕を閉じた。

 

「さあみんな!次は全国大会だ!」

「「「おう!」」」

 

 ♦♦♦♦♦

 

 

 

 

「「炎の風見鶏!!」」

 

 OBとの試合から俺達は連日、炎の風見鶏の練習をしていた。特訓の成果もあってだいぶ精度は高まってきている。

 するとグラウンドの横に見覚えのある黒塗りの高級車が停まった。雷門家の車だ。

 しかし中から出てきたのは夏美ではなくメガネをかけた中年の男性。夏美のお父さん、つまり雷門中の理事長だ。

 

「ねえ、あのおじさん誰?」

「この学校の理事長さん、つまり雷門さんのお父さんですよ」

 

 

 隣にいた土門が聞いてきた。どうやら理事長の顔を見たことがないらしい。俺は転入する際に顔を合わせたけど転入生全員がそうではないのか。

 

「おいおい、理事長の顔知らねえのか?」

「そんなこと言っても俺転校生だし」

「天川は知ってたじゃねえか」

「う、痛いとこ突いてくるね…」

 

 染岡と土門の不毛なやり取りを横目に理事長の方に視線をむける。見た目は怖そうに見えるが結構気さくでいい人だ。少し円堂に似ているかもしれない。

 理事長の要望で部室を見に行くことになった。夏美からある程度話は聞いていた様子で、新しい部室を用意すると提案してくれた。

 

 

「俺、このままでいい」

 

 1年生組が歓喜の声をあげる中、口を開いたのはやはり円堂。そんな彼の発言にみんな賛同し、結局今の部室を使い続けることになった。

 

「ではお父様、私から1つお願いが。天川さんも入部したことだし、そろそろ女子用の更衣室が必要かと。彼女、毎日トイレで着替えてるんですよ」

 

「そうなのか…確かにそれは必要かもしれないな。よし、早速手配しよう」

 

「え?私は別にトイレでも…それに私のためだけにそんなことしてもらう訳には…」

 

「何言ってるの!女の子がいつまでもそんなところで着替えるなんてダメよ!それに私達も使うからあなただけってことはないわ。受け入れなさい!」

 

「あ、はい…ありがとうございます」

 

 夏美のあまりの剣幕に怖気付いてしまった。やはり彼女は怒らせてはいけないな。まぁ俺のためにしてくれるのは嬉しいけど。

 

 その後、練習を再開したが何故か炎の風見鶏が決まらなくなってしまった。さっきまでは10回中10回全部決まっていたのに…

 よく見ると風丸の動きがどこかぎこちない。体調でも悪いのだろうか?

 

「風丸くん、大丈夫ですか?」

「ああ、すまない。次は決めるよ」

 

 しかし、この日は結局1度も成功することはなかった。

 

 ♦♦♦♦♦

 

 

 

 

 次の日の朝、俺と円堂は朝練に向かうために河川敷を歩いていた。

 まだ朝日が登りっていないような時間なので歩いているのは俺達だけだ。

 

「あれは…」

 

 円堂がなにか見つけたのか視線を落とす。そちらを見ると風丸と昨日彼と話していた陸上部の後輩がいた。

 

「陸上部に戻ってきてください!また一緒に走りましょう!」

 

 近づいてみるとそんな声が聞こえてきた。

 

「風丸、陸上部に戻って欲しいって言われてたのか…」

「それで昨日様子がおかしかったんですね」

 

 昨日の風丸の不調の原因はこれなようだ。サッカー部と陸上部の板挟みで悩んでいたのだ。

 

「風丸君が陸上部に戻るって言ったら、守君はどうするんですか?」

「あいつがそう決めたなら俺はそれを尊重するよ、仲間だからな」

「でも、本当はサッカー部に残って欲しいんですよね?」

「へへ、まあな」

 

 円堂が少しカッコつけ気味に言ったのでからかってみたのだが普通に返されてしまった。本当に純粋というかまっすぐだ。

 そんな間に話が終わったのは風丸の後輩が俺達の隣を通り過ぎていった。円堂が挨拶したが返答はない。

 

「聞いちゃった」

「円堂、天川…」

「ごめんなさい、盗み聞きするつもりはなかったんですけど」

 

 そう言って手に持っていたボールの上に座った円堂の隣に腰掛ける。

 

「あいつ、宮坂っていうんだ」

「あの1年に悪いことしちゃったかな」

「いや、悪いのは俺さ」

 

 自虐的に笑う風丸。そんな彼を見て、円堂が言葉を紡ぐ。

 

「俺さ、お前はもうサッカーのメンバーのつもりだった。でもそうか、助っ人で頼んだんだよな」

「お前のめちゃくちゃな練習と、熱さに惹かれてな」

「あの時はさ、必死だったからさ」

「最初は本当に助っ人のつもりだった。でもいつの間にかいつもサッカーのこと考えてる。なんて言うかさ、楽しいんだよ」

「戻るのか?」

「わからない。どっちを選んでも、もう片方を裏切るみたいでさ」

 

 前に聞いた話だと彼らは幼馴染らしい。だから余計に迷ってるのだろう、俺が口を挟める問題じゃない。なので思ってることだけ言うことにした。

 

「凄いですね風丸君は。サッカー部と陸上部、両方から必要とされてて」

「ボソ………俺とは大違い」

「え?」

「とにかく、決めるのは風丸君です。私はそれを尊重します。でもみんな風丸君に残って欲しいって思ってますよ。もちろん私も」

「羽花の言う通りだ。お前の決めた答えが正解だって俺は信じてる。だから納得できるまでいっぱい考えとけ」

「円堂、天川…ありがとう」

 

 これで正解なのかはわからない。だけどこれで少しでも迷いが吹っ切れてくれたらいいな。

 

「なあ、まだ少し時間あるよな!炎の風見鶏を見せてくれよ!今度は止めてみせる!」

「ふ、相変わらずだな。やるか、天川!」

「はい!」

 

 朝の光がくっきりと見えてきた頃、河川敷のグラウンドに炎鳥の鳴き声が響き渡った。

 




というわけで羽花が炎の風見鶏を習得しました。原作だと豪炎寺なんですけどさすがに豪炎寺が参加する連携技が多すぎるのとジャンプ力がいるって点が羽花に合うと思ったので。

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