インフィニット・ストラトス 宣教者異聞録   作:魔法科学は浪漫極振り

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第十話

 時は一日遡り、鈴と箒が食堂で会話をしていた頃。アリーナの通常開放時間の終了後を利用する人物達がいた。セシリアと一夏である。密会を続けていた二人が何故、アリーナという場所で堂々と交流していられるのかを語ろう。

 

 IS学園の教師は日本の国家代表や代表候補生であった織斑千冬や山田真耶のように、過去にIS関連の実績を持つ者を中心として世界中から集められている。当然ながらその国籍は様々であるが一貫している事実として、皆それぞれが国の名誉や利益の為にIS部門の最前線で活動してきたプロフェッショナル達である。故に教師が同郷の生徒の要請に応え、他の生徒達に知られたくない秘密特訓の為にアリーナ管制当直日の、通常開放時間終了後に場を提供する程度の忖度はそう珍しい話では無く、学園も問題行動を起こさない事、寮の門限を守る事などを最低条件として黙認されている。

 

 これはその事例の一つである。イギリス出身の教師に依頼して、セシリアが代表候補生として、BTシステム技術の訓練名義でアリーナを一時借り受けているのだ。当然だが、一夏が共に活動している事までは教師に伝えられてはいない。

 

 二人はISを展開し、天地逆さまの状態での模擬戦を行っていた。セシリアは自慢の長いブロンドヘアーを一纏めとし、戦闘機動の邪魔にならないよう固定、ミサイルビットの代わりにレーザービット六機をドライブするブルー・ティアーズ、対する一夏はクラス対抗戦時の発光現象が収まり、赤い単眼の白き巨体が圧倒的な存在感を見せ付ける白式に大型ビームライフル一丁だ。天地逆転状態での戦闘は空間認知力をより高める為のトレーニングを兼ねている。

 

 連日無重力状態を維持する訓練を続けていたセシリアは天地が逆転した状態でも脳に混乱を生じさせず、弱点であったビットと本体の同時動作を達成していた。特にビットはクラス代表決定戦の時の直線的で型通りの配置と動かし方から、不規則ながらも流動的で相手の行動予測を誤らせるジグザグ移動などの複雑な挙動を多分に含めていた。

 

 

「よくも動くな!」

 

 

 一夏が右手に構えたビームライフルで牽制射の為にトリガーを引くが弾は出ていない。これは整備不良では無く、弾の代わりに放たれている赤外線センサーによるダメージ判定で模擬戦を進行しているのだ。ISの装備弾薬各種は非常に単価が高く、練習の一回一回で装備や機体を破損させる訳にはいかないからだ。特に量産機ではない特殊な専用機は修理も容易ではない為、実弾演習を滅多に行わない。勿論、公式戦やデータ取りに必要な時は別である。

 

 

「ふふっ、おかげ様ですわ!」

 

 

 撃墜判定無しでビットを展開させ終えたセシリアは的の大きくなった白式をスターライトmkⅢで回避行動に移らせながら、ビットで取り囲む。お得意の包囲攻撃網である。ビット四機操作が限界であった以前とは異なり、レーザービット二機と本体の狙撃も加わって密度を増した容赦の無い射撃を加えていく。相変わらずの先読みで、回避を続けていくが、やはり二回り近く大きなサイズの機体では逃げ道は少なく、遂に一発のビットの攻撃が白式の肩を掠める事となった。

 

 

「む……!」

 

「あ、当たった!?」

 

 

 外見通りの重装甲は伊達ではない、カス当たりで2%のシールドエネルギー低下にもならなかったが、それでも一発は一発である。セシリアは大喜びだ。しかし被弾した一夏に焦りはない。

 

 

「しかし、まだ素直さが見えるからこうもなるな!」

 

 

 歓喜で精度が甘くなったセシリアのビットの一撃を持ち前のスラスター群による瞬発力で軽やかに躱してみせる。その攻撃はちょうど反対側に陣取っていたビットの移動先であった。十字砲火は味方と重ならずに動く事が大原則ではあるが、どうやら常に機動させる事へ重きを置き過ぎて、射線が被ってしまったようだ。

 

 

「え……あ……!?」

 

 

 セシリアは自分のビット攻撃で撃墜判定を出してしまった事で、思考制御が途切れて足も動きを止まってしまう。その隙が見逃される筈も無く、生身部分へのビームライフルのヒット判定が表示された。当然ながら絶対防御の発動判定でもあり、推定火力から計算して、八割近く残っていたシールドエネルギーが一発でゼロとなっている。アリーナのバリアーを貫ける威力を持つと聞いていたが、流石に一撃でここまで減らされるとはセシリアも思わなかった。

 

 無念ではあるが、隔絶した実力差は既に知っている。それが先日、装備まで一新されたのだから、追いつくまでの道のりは容易くはない。それでも彼は自分を見限らず教導してくれるのだから期待に応えて、追いかけ続けるとセシリアは心に決めていた。

 

 体勢を上下逆さまから戻して、地に足をつけてISを解除。セシリアは離れた位置へ降り立った、ISを解除してヘアバンドを頭部に巻いた一夏に歩み寄っていく。

 

 

「遂に当たりましたわ!」

 

「ああ、素晴らしい。やはり才能を見込んだだけはある。……だからこそ、これを授けたい」

 

 

 そう言って一夏は拡張領域からひとつ、銀細工のアクセサリーを取り出した。簡素な小箱に入っているが、悪目立ちしないシンプルなデザインの銀の十字架(クルス)と黒革の首掛け紐だ。

 

 

「まぁ、ネックレス! プレゼントですの!?」

 

「これは君の願いを叶える為のまじないが掛けてある。肌身離さずに持っているといい」

 

「ふふ、相変わらずロマンチックな御方で……あら? 見た目とは違ってシルバーでは無いのですね」

 

 

 外観は銀だが、重みが純銀とは違う。

 

 

「やはり分かるか。白式の増加装甲の破片から削り出した品だ」

 

「えっ、それは……よろしいのですか?」

 

「確かにイギリスに研究試料として送られると私が少々困った事になるな」

 

「そんな事は致しませんわ! 大切にさせていただきます!」

 

 

 誰にも渡す気は無いとばかりに即、首に掛ける。うっとりと渡されたプレゼントを眺めるセシリアに一夏が声をかけて現実に戻した。

 

 

「では早速、君の願いであったフレキシブルを試してみようか」

 

「え……そんな、申し訳ないですわ。練習こそ続けていますがBTシステム適性最高値のわたくしさえまだ一度も成功しておりません。機体調整も不十分で、無駄なお時間を取らせる訳には」

 

「セシリア、君はひとつ勘違いをしている」

 

「勘違い?」

 

「ああ、ブルー・ティアーズはいつでもフレキシブルを使用できる状態にある。ストッパーになっているのは君自身だ」

 

「わたくしが止めている……?」

 

「インフィニット・ストラトスは搭乗者の意思を反映する装備だ。君が無意識下でも可能性を否定していては先には進めない」

 

「可能性を……否定、ですか」

 

 

 言いたい事を伝え終えた一夏はアリーナの機能で空中にターゲットマーカーを出現させる。セシリアにはビット一機展開させた。照準はターゲットマーカーより下。レーザーを上に曲げなければ当たらない状態だ。難しい顔をするセシリアに一夏は寄り添い、手を握る。想い人に手を握られたセシリアはテンパるが、握った本人はターゲットマーカーを見つめたままだ。

 

 

「な、ななんですの!?」

 

「セシリア、心を平静に。先程渡したクルスを握ると良い」

 

 

 新たな教えの時間だ。浮ついた気持ちを抑え、空いた手でクルスを掴み、高鳴る心臓の上へ。酸素を吸って、吐いて、無理やり落ち着かせる。それでもセシリアの胸中には失敗続きだったこの訓練への不安が残る。

 

 

「私に身を委ねるように」

 

 

 だが、彼の指針に従う事でビットと本体の同時制御は進んだ。ならば、もしかしたら、フレキシブルもまた。

 

 

「練習通りに思惟を広げろ。目標を範囲に入れて心で捕捉だ」

 

 

 言われた通りに無重力訓練で得た感覚を思い出し、ビットと同調する。心の眼で目標を感じる。クルスを握る手が熱を感じている。

 

 

「放て!」

 

「……いけッ!」

 

 

 一夏の号令と共に発射。結果は、逸れた。ブルーティアーズのレーザーが、予定の射線よりも上方へ。

 

 

「ま、まがっ、た……?」

 

 

 目標の中央とはいかなかったが、歪曲してターゲットマーカーを貫いていたようだ。

 

 

「し、信じられませんわ!? わたくし、フレキシブルまでッ!?」

 

 

 セシリアは感極まって一夏へ抱き着いてしまう。淑女にあるまじき行為だが、冷静になれない。机上の空論とまで呼ばれた技術を実現した事で、完全に冷静さを見失っていた。セシリアの身体を支えながら一夏は彼女の頭を撫でて落ち着かせる。

 

 

「よくやった。コツは掴んだはずだ。あとは戦闘時でもこなせるように自己鍛錬を続けていくだけだ」

 

 

「はいッ! お任せください!」

 

 

 満面の笑みで一夏に抱きつくセシリアの、首に掛けられたクルスがアリーナの照明に照らされて、緑色の輝きを放っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 篠ノ之束は一夏に撃破されたアンノウン──ゴーレムⅠ──から送信されてきた記録映像を見返していた。何度も、何度も何度も繰り返し。瞬きすら忘れ、一コマ一コマを舐めるように。

 

 白式を包み込んだ単眼の大型外装は、クラッキングしたカメラから拾った音声では、セカンドシフトだと認知されているようだが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 展開装甲。白式の唯一の武装である雪片弐型へ試験的に組み込まれた、まだ世に広まってはいない第四世代ISの基礎となる予定の技術だ。それを白式に内在する『何か』が解析して、独自に実用化した姿こそがアレ(ジ・O)だと束は見抜いていた。

 

 そして武装、スラスターやセンサーといった、各種精密機器に至るまで展開装甲の応用で自己精製してあれだけの物を作り上げている。これは最終調整中である第四世代IS紅椿に搭載した『シームレスシフト』の完成形と言っても良い。

 

 シームレスシフトとは蓄積経験値により性能強化やパーツ単位での自己開発が随時行われ、高度な操縦支援システムを備えた操縦者に依存しない、ISが自己判断で取捨選択する、束が開発した時代を展開装甲以上に数世代は先取りした最新技術。つまり、蓄積経験値の謎を除けば今の白式そのものだった。

 

 何よりも、初期の白式はワンオフアビリティーを搭載した影響で拡張領域が圧迫され、新たな機能を追加する余剰は無かったはずだが、この装備が量子格納されている事実を考えるとそちらにも改良が施されていると見るべきだ。……そう、篠ノ之束にすら出来なかった事を白式の中の存在はやってのけたという訳である。

 

 

「あはっ」

 

 

 この事実に篠ノ之束は笑みを漏らす。妹の愛する男に集る塵芥を処理出来なかった事は悔やまれるが、そちらは今後どうとでもなる。白式が優先事項だ。出来れば自ら接触を試みたいところだが、今の千冬はゴーレムⅠの襲撃と白式の変質の影響で神経過敏になっている。ここで束が無理な行動をすれば二人の関係に罅が入りかねない。極々狭い交友関係しか持たない束にとって、千冬という友人は貴重な存在だ。ならばどうするか。ここは第三者に任せよう。決めてしまえば後の行動は迅速だった。

 

 

「もすもすひねもす?」

 

 

 以前、束にI()S()()()()()()()()()()()()()()()()へと連絡を入れる。所詮は凡人連中の寄り合い所帯だが、使い捨ての道具としては都合がいい。あの白式から更なる情報を得られるならば、御の字だ。仕事の成果に満足出来たならば、第三世代機ぐらいならば提供してやるのも、やぶさかではなかった。

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