インフィニット・ストラトス 宣教者異聞録   作:魔法科学は浪漫極振り

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「織斑先生。呼ばれて参りましたが、どのようなご用件でしょうか」

「オルコット、単刀直入に聞こう。お前は織斑と何をしている」

「どういう意味でしょうか」

「奴を寮室に迎え入れたり、アリーナで訓練をやっているそうじゃないか。……凰にも秘密でな」

「防犯カメラの記録でもご覧になりました?痛くない腹とはいえ、探られるのはあまり気持ちの良い扱いではございませんわね」

「会っていた事は認めるんだな」

「ええ、別に異性の同級生と隠れて交流してはいけない、なんて規則はございませんもの」

「織斑とお前、どういう関係だ」

「学友です。クラス代表を賭けた試合以降、よくお相手させていただいておりますわ」

「本当に、それだけか」

「彼が信用できないとおっしゃる?」

「……そうは言っていない」

「織斑先生、若輩ながら一つだけご忠告させていただきます。たとえ肉親であったとしても、人の中にずけずけと入り込むのは俗が過ぎると思いますわ」


第十一話

 教室の空気が重い。理由はクラスの最前列に不機嫌さを隠そうともしない織斑一夏がいるからだ。普段であればそのような態度には出席簿を叩き付け、体罰的指導を施す担任の織斑千冬はこれに対して無視を貫いている。

 

 発端は凰鈴音に一夏との関係解消を申し付けた後、千冬は同じ内容を一夏にも伝えた事だ。その本人達の意思を無視した、一方的な通達に理解も納得もできなかった彼は、内側から生じる強い不快感によって遅い反抗期に目覚めたのか、姉に対する強い反発心を芽生えさせていた。また、体調の芳しくなかった鈴が千冬との面談後に寝込む事になった点も話が拗れた要因の一つであろう。念の為に救護室へ移された鈴を一夏は連日見舞いに訪れた事である程度は持ち直したが、まだ精神的に不安定なところが見られる為、授業への復帰せず、静養に努めていた。

 

 こうした事情もあり、一夏は尊敬する姉に対して心の壁を作って拒絶し、千冬は弟の反抗期に対する対応に苦慮していた。結果的に千冬が試みた関係解消によるリスク回避という本来の目的は達成できずに問題は先送り。セシリアとの関係についても追及を行うべきタイミングを見失って、織斑家に家庭内不和が発生しただけであった。その余波に巻き込まれる周囲の人間こそが一番の被害者であろう。

 

 

「……山田先生、ホームルームを」

 

 

 いつも通りの、しかし更に幾分か硬く感じられる声で千冬は山田真耶に朝のショートホームルームの仕切りを任せた。挨拶と点呼、連絡事項というルーチンワーク。しかし今日は一つ大きな報告があった。

 

 

「転校生を紹介します! しかも二名です!」

 

 

 クラスに漂う空気を変える為にも努めて明るく、山田真耶は欧州から送り込まれてきた二人の転校生を紹介する。

 

 フランスからは二人目の男性操縦者としてシャルル・デュノア。名前の通りデュノア社の現社長アルベール・デュノアの実子である。貴公子然としたブロンドの美少年に、九割近いクラスメイト達が黄色い声で歓迎の意を示す。学生達にとって黒一点であった織斑一夏に交際相手が出来てしまったので、新たな男子生徒シャルルは必然的に中心存在と祭り上げられる運命であった。女学生達の熱気にタジタジとなりながらも笑顔は絶やさないでいられる辺り、顔に表情を張り付ける事には慣れているようだ。

 

 ドイツからは見た目は幼いながらもドイツ軍内にて佐官階級を有するラウラ・ボーデヴィッヒ。銀髪赤目の整った外見だが左目に付けた眼帯と右目の鋭い眼差しが排他的な印象を与えていた。ラウラは簡潔な自己紹介とその後の行動でクラス内の盛り上がった空気を一気に引き締めた。彼女は織斑一夏の前に立つと突如として彼にビンタを見舞ったのだ。もっとも、明らかに敵意を感じていた一夏はその手を防いでいたが、だからといって仲良く話が終わるはずも無かった。

 

 

「いきなりなんだよ」

 

「私は貴様があの人の弟だなどとは認めない!」

 

「お前に認めてもらう必要性を微塵も感じないぞ、ボーデヴィッヒ。俺の周りにはお前みたいな奴はよくいたぜ、姉に擦り寄る為に平然と馬鹿をやらかす勘違い女」

 

「貴様は私を侮辱するか!」

 

「それはお前が先に……ってなんかこのパターンは前にもあったぞ」

 

 

 後方から金髪縦ロールのお嬢様の空咳が聴こえたが、安易に眼前の敵から目を逸らす事はしない。次はどちらが先に動くか、固唾を呑んで周囲が見守る中、だんまりを続けていた千冬が割って入った。

 

 

「そこまでにしろ、ボーデヴィッヒ」

 

「……はっ!」

 

「次の授業は二組との合同でIS実機訓練だ。織斑はデュノアの面倒を見てやれ。同じ男子だろう」

 

「……わかりました、織斑先生」

 

 

 双方、不満を残しながらもその場は収まったが燻った火は残っている。遅かれ早かれ爆発する予感は誰もが抱いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 合同授業での実演の為に山田真耶は教員用ISであるラファール・リヴァイヴを纏っていた。普段の大人になり切れない態度から生徒達に舐められっぱなしの彼女ではあるが、かつて『銃央矛塵(キリング・シールド)』の名で呼ばれたIS操縦の技術に衰えは見られない。だからこそ今回の授業で彼女のIS学園教師としての実力を見せ付け、生徒達からの信頼回復を図る目的もあった。故に墜落事故など起こしてはいないし、有り得てはならない事である。当初の予定であれば代表候補生のセシリアと鈴の二人を同時に相手にする事でそれを証明する予定であったのだが。

 

 

「引き立て役はご遠慮させていただきますわ」

 

 

 当て馬にされる意図を察したセシリアが模擬戦を拒否。鈴も授業に復帰していない為、仕方なく千冬は新入生二名に声をかける。

 

 

「デュノア、ボーデヴィッヒ。いきなりだが──」

 

「待った」

 

 

 千冬の発言を遮ったのは一夏である。彼はクラス代表。本来であればこういう場で最初に活動するべき立場だ。

 

 

「織斑先生、俺がやる……いえ、やりましょうか」

 

「今は代表候補生として国家に認められている明確な実力者の相手が欲しい。次の機会を待て」

 

「……そうですか」

 

 

 この時の千冬は生徒達への模範として言葉通りの意味で言ったのだが、一夏からしてみれば、初対面で敵対してきたラウラよりも自分が軽んじられているようで不快であった。そして何より、彼自身が白式に乗りたがっていた。ISを展開した時の何でも出来そうな全能感は癖になる。クラス対抗戦での戦闘以降、その衝動は顕著になっていた。

 

 そんな裏の事情を知らない転校生二人は実力を見せる良い機会とばかりに千冬からの要請に応じる。

 

 

「分かりました」

 

「教官のご指示であれば従います。しかし、足手纏いは不要です」

 

「ボーデヴィッヒ。私は友軍との連携も満足にとれない教導を施した覚えは無いが?」

 

「はっ! 失礼いたしました!」

 

 

 ラウラは千冬の声に即答したが完全に納得した訳ではなかった。最良の結果さえもぎ取れば良いと考えた彼女は、模擬戦の為にアリーナの中央付近へと二人で並んで進む最中、シャルルに対して牽制を加えていた。

 

 

「フランスのアンティーク使い。私の邪魔はするな」

 

「……極力、横槍は入れないから好きにすればいいよ」

 

 

 シャルルとしても、この七面倒な同期にはあまり関わり合いになりたくなかった。ここで手を抜く事は悪目立ちするだろうが、彼がデュノア社からIS学園に送り込まれた本来の任務の性質を考えれば、面倒事は避ける方が良策と判断した。結論から言えば、それは全くもって正しかった。

 

 模擬戦開始と共にラウラのシュヴァルツェア・レーゲンと真耶のラファール・リヴァイヴが砲火を交え始めたが、シャルルのラファール・リヴァイヴカスタムⅡはIS用のマークスマンライフルを装備した状態で後方に下がり、待機していた。最初こそラウラはアクティブ・イナーシャル・キャンセラーを駆使して、真耶からの銃撃を無効化。一方的にハントしようと追いかけ回していたが、AICで止められる事を見越して時限信管で放たれたグレネードランチャーを受けた事でAIC発動に必要な集中力と視界を封じられ、真耶お得意の弾幕に打ち据えられていた。

 

 

「ああもう。全く、ドイツの候補生はなにをやってるのさ」

 

 

 自尊心の割に猪突気味であまりにも簡単にあしらわれるラウラを見兼ねたシャルルが摩耶の妨害、ラウラへの支援射撃を行う為に近付いた際にそれは起きた。

 

 

「うわッ!?」

 

 

 レーゲンの右肩に備え付けられたレールカノンの一撃がシャルルを直撃したのである。まさかの味方撃ち。この状況で仕掛けられるとは思っていなかったシャルルは体勢を崩して大きく吹き飛ばされた。

 

 

「ボーデヴィッヒさんは何をやって──!?」

 

 

 目の前で発生したフレンドリーファイアに驚いて真耶が動きが鈍ったタイミングを狙い、レーゲンのワイヤーブレードの一本が摩耶の脚部を絡め取った。そのままラファールとレーゲンの出力差を活かして強引に接近戦へ引きずり込んでいく。

 

 

「ハハハ! 捕まえたぞ!」

 

 

 力負けした摩耶のラファールはAICの射程内に捉えられて動きを封じられた。目論見が成功したラウラは舞い上がり、プラズマ手刀を発動して、勝負を決める為に突進する。しかし摩耶の目にはまだ諦めの文字は無い。

 

 

「そんなふざけた連携がありますか!?」

 

 

 摩耶は量子格納からハンドグレネードをレーゲンとの間に展開。ラグ無しで起爆する事でダメージと引き換えとしてAICの解除と距離取りに費やした。即座に防御姿勢を取れたレーゲンよりも無防備に受けた爆風でダメージは大きいが、まだ十分に戦える範囲だ。小手先の技ではあるが、何事も使い方次第だと観戦している生徒達には伝わった事だろう。

 

 

「チッ! ロートルが猪口才な真似を!」

 

「なんてことを言うんです!?」

 

 

 ラウラの罵声に温厚な真耶も眉間に皺を寄せる。摩耶の現役引退はほんの一、二年前である。それでロートル扱いはあまりにも酷い言い草だ。そもそも彼女がロートルならラウラが尊敬する千冬は──

 

 

「そこまでッ!!」

 

 

 通信越しの凄まじい剣幕で摩耶とラウラは同時に動きを止めた。

 

 

「山田先生はデュノアの状態を確認! ボーデヴィッヒは今すぐ降りてこい! この大馬鹿者が!!」

 

 

 有無を言わせない千冬の圧に二人は冷静さを取り戻し、言葉に従った。シャルルは味方であったはずのラウラの奇襲で装甲の一部がひしゃげたものの、本人には異常無し。当たり所が良かった為、待機状態での自動修復で事足りる。ラウラは学生の模範となるべき模擬戦において味方への作為的な誤射で対戦相手の相手の隙を作り出すという、ろくでもない戦法をしでかした為、授業初日から反省文の提出を命じられた。千冬の指示である以上、彼女は反省文は素直に提出するつもりではあるようだが、それが本当に彼女の反省へ繋がるとは誰にも思えなかった。

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