インフィニット・ストラトス 宣教者異聞録   作:魔法科学は浪漫極振り

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警告。必ずお読みください。
本作ではアバンとCパートのイメージで前書き後書きを使い、個人的な話は書かない事にしていましたが、想定以上のお気に入りや評価が付き、ランキングにまで入った為、状況が落ち着くまでの期間限定で言葉を残しておきたいと思います。

忠告します。直接の描写は極力控えますが、今後かなり『エグい』設定が出ます。人もいっぱい死にます。例えば今回の内容で福音に関して察する事ができる方もおられるかと思いますが、これはアニメ版で無人機とされた福音とはどういう存在なのかをフロム脳に汚染された作者の独自解釈でアレンジした結果となりますので「あ……これ以上は無理」と思いましたらお気に入りを解除して本作は見なかった事にして、心穏やかにお過ごしください。


第二十五話

 太平洋の軌道上を通過中の軍事衛星から送られてくる位置情報に従って追撃任務を継続していたナターシャとイーリスであったが、日本の領海に近くなったとある地点から発生した通信障害現象によって速度を落とさざるを得なくなっていた。

 

 

「ああくそ、駄目だ。衛星からのレーダー情報だけじゃねぇな。コア通信すらジャミングを受けてるぜ」

 

 

 急いている状況とはいえ、広い太平洋を案内無く闇雲に探し回るリスクを考えれば最終観測地点まで向かいながらも使える手段を模索する方が近道だと二人は理解していた。特にナターシャは福音のテスト操縦者を行っていただけはあって、問題の洗い出しは得意分野でもあった。

 

 

「光学照準やレーザー通信や可視光線は使える。でも、これだと有視界外の通信はことごとく潰されてしまうわ。この状況では案内役だった衛星はもう役に立たないし、連携を取りたいならお互いが見える位置にいないと駄目ね」

 

「だがどうするよ。ここまで強いジャミングを撒かれているって事は……福音の暴走は計画的な犯行、つまり事故じゃなくて事件だ。せめてお前だけでも引き返して報告を──」

 

「行くに決まってるでしょ。空を自由に飛ぶ事が好きだったあの子を無理やり操った奴が本当にいるなら、相手が何であろうと私は許しはしない!」

 

 

 語気を荒げるナターシャの意思は変えられないと判断したイーリスは肩を竦める。

 

 

「……そうかい。ま、しょうがねぇ。腹くくるか」

 

 

 相談を終えると互いが見える範囲で広がった二人は肉眼での捜索に切り替えて、これまでの福音の移動経路から導き出した日本領土を目指す範囲にいると山を張って飛翔した。刻一刻と時間が過ぎていく中、福音の姿を発見したのはナターシャであった。

 

 

「いたわ! ゴスペル!」

 

 

 二人の予測は正しく、海面付近で滞空する福音の姿を発見した。しかし、その場にはもう一機のISの姿があった。福音も装備の関係上大型であるが、それを超えるサイズの全身装甲の黄色いIS。両者は至近距離で留まっており、戦闘状態には入っていない。

 

 

「あれは……以前、IS委員会からの報告にあった織斑一夏の白式に見える」

 

「だがイエローだ。ホワイトじゃないぜ」

 

 

 なぜ太平洋上に唯一の男性操縦者であり、IS学園に所属する筈の織斑一夏がこの場にいるのか。警戒しながらイーリスは推定織斑一夏のアンノウンへとISに付けられた小型スピーカーで呼びかける。

 

 

こちらはアメリカ軍IS部隊のイーリス・コーリングだ!! そこのお前、動くんじゃねぇ! 

 

「随分と到着が遅かったな。途中で()()()()()()()()()()のか?」

 

 

 イーリスの威圧的な警告に対して驚く様子は無く、小馬鹿にする発言で返された。

 

 

(男の声……やはり織斑一夏、か)

 

 

 姉の千冬とは幾度かの面識があるナターシャは数ヶ月前から全世界のワイドショーで何度も取り上げられた少年の姿を想起する。全身装甲の為に今はその姿が見えない。千冬によく似た美少年の顔が隠れている事は少しだけもったいないと僅かに思考が逸れたがすぐに切り替える。二人の目的である福音は並ぶ単眼の巨体の背後に回るように動いた。それはまるで人見知りの子供が、初めて会う人間を怖がって親の後ろへと隠れる挙動をナターシャにイメージさせた。

 

 

「なんでIS学園で缶詰の織斑一夏がここにいるのかは知らねぇがよ。そいつはアメリカのISだぜ。こっちに素直に寄越しな」

 

「そう焦るなアメリカ代表。それとも隠し事の露見が怖いのか」

 

 

 イーリスからナターシャへモノアイが可動する。

 

 

「……何の事?」

 

「知らねぇよ。人間誰しも秘密の一つや二つは持ってるだろうが。おい餓鬼、鎌かけのつもりならもっとマシな──」

 

「ナターシャ・ファイルス。そもそも福音はなぜ暴走し、何処へ向かっていたのだと思う?」

 

 

 イーリスの言葉を遮って、一夏の姿をしたシロッコはナターシャに問いかける。名前を知られている事に驚いたが、それよりも問われた内容は追撃中にもナターシャがずっと考えていた疑問点であった。

 

 経路からして日本へと向かう事は予測できたが、どうして日本なのか。福音との因果関係は無く、ナターシャにはどうしても答えが出せなかったのだ。目の前の事象を鑑みて、暴走が織斑一夏の仕業で彼との合流を計ったと考えなくもないが、それは以前に千冬から聞いた家事を率先して手伝う優しい少年の印象とは随分とかけ離れていた。言葉に窮していると判断したシロッコは続ける。

 

 

「君の感じた疑念は正しい。仕掛け人の都合で飛行ルートが日本を経由するように指定されているが、暴走そのものは今の福音の在り方に起因するのだよ」

 

「それは、どういう……?」

 

「仕掛け人はな、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。福音の最終目的地は中東の──」

 

 

 シロッコの言葉を遮るようにイグニッション・ブーストを噴かせたイーリスのファング・クエイクがIS用ナイフを片手に正面から突っ込んだ。あらかじめ奇襲を予測していたシロッコはビームソードを発振、向かってくるナイフに打ち合わせた。ビームコーティングが施されたイーリスのナイフは容易く切断される事無く、スパークを発生させながらの鍔迫り合いとなる。イーリスの突飛な行動に最も驚いたのはナターシャで、当のシロッコは心に焦燥を抱いたイーリスを相手に笑いを抑えながら応じてみせた。

 

 

「クク……餓鬼の鎌かけは通用しないのでは無かったか?」

 

「それ以上は口を開くんじゃねぇ! てめぇがブリュンヒルデの弟だろうが容赦しねぇぞ!」

 

 

 敵愾心を剝き出しにしてジ・Oの頭部越しにシロッコを睨み付けてくるイーリスをシロッコは鼻で笑う。

 

 

「フッ。貴様の相手をしてやらんでもないが、私も次の来客を歓迎せねばならん身でな。……ゴスペル」

 

 

 シロッコはイーリスのナイフの連撃を捌きながらジ・Oの背中に隠れていた福音へと語りかける。

 

 

「奴等は君を連れ戻しにやってきた悪い人間の仲間だ。安全な家路につきたければどうしたらいいか、分かるか?」

 

 

 その言葉に動きを止めていた福音が高度を上げるように動き出し、大型スラスター兼エネルギー武装である『銀の鐘(シルバー・ベル)』を響かせる。放たれたエネルギーの砲弾はイーリスとナターシャだけを対象としていた。

 

 

「素直で良い子だ。この場は任せよう」

 

 

 福音の参戦に怯んだイーリスを蹴り飛ばし、強引に距離を離す。ジ・Oを反転させると飛び去っていく。

 

 

「くそっ! 待ちやがれ!」

 

 

 逃げるシロッコを追おうとするイーリスの動きを見た福音は追撃させまいと二機の間にエネルギー弾を遮るようにバラまいた。距離が離れていくがゴスペルが執拗にイーリスを狙うせいで追いかける事は難しかった。

 

 

「ゴスペルが彼を守る!?」

 

「操られてるならアンドロイドを壊せば動きは止まるはずだな! トドメはこっちでやる! サポートは頼むぞ、ナタル!」

 

「……分かったわ」

 

 

 量子格納された武装からアメリカ軍規格のアサルトライフルを展開したナターシャは愛する福音へと武器を向ける。その事だけでもナターシャにはつらい行為だったが、それ以上に先程シロッコとの間で交わされた会話の内容に気が削がれてしまっていた。

 

 

(イーリは……福音に関する何らかの情報を私に隠している?)

 

 

 抱いた疑念は渦を巻いて、ナターシャの心をかき乱していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「戦闘が始まっている? 間に合わなかったか!」

 

 

 福音の砲撃が炸裂する光と音は数キロ先の海抜500m程度の高さで飛翔する箒にも確認が出来た。より高い高度でも容易に飛べるISだがあまりにも高度を取り過ぎて一夏を見落とすよりは良いと判断した。焦る気持ちもあるが、それ以上に託された想いを無駄にしない為に光る空域を目指す。

 

 しかし目標地点が明確になった事で僅かに気を緩めた箒の一瞬の虚を突き、雲間から光の柱が降り注いだ。

 

 

「直上!?」

 

 

 警戒音でようやく奇襲に気付いた箒は慌ててしまい、対応が遅れる。もしも乗機が打鉄であればそのまま撃ち抜かれていたであろう。しかし紅椿は危険を察知すると箒の意思を待たずに最適なモーションを選択し、難無く避けてみせた。

 

 これは篠ノ之束が一夏がISに操縦を委ねて結果を出しているという情報から作り出した最新の操縦支援システムだ。機械的に判断できる危険であれば箒の意思を待たずして動き、防いでみせる。乗り手の実力に依存しない画期的な技術だが、箒には救われた感謝より苛立ちの方が勝った。

 

 

(姉さんはそうやって私をいつまでも子供扱いする!)

 

 

 支援システムによる補佐はかつて歩幅の違う姉の後を必死になって追いかけ、転びそうになった箒を心配した姉がひょいと抱きあげてくれた幼少の日々を思い出させていた。箒にとって最も古く、朧げな思い出だが、人の命をなんとも思わずに好き勝手する今の姉を知った箒からすれば都合良く美化された記憶としか思えなかった。

 

 余計な考えを捨てて、光の発生源を睨む。そこにはアメリカの追手を福音に押し付けてきたシロッコのジ・Oの姿があった。

 

 

「あれは……色は違うが白式だ! ならば一夏か!?」

 

 

 箒は通信を試みるが反応が無い為、声が届く範囲まで接近する事に決めた。ジ・Oは続けて二度の射撃を放ってきたがそれも紅椿の性能頼りになんとか避けながら距離を詰めていく。

 

 

「一夏ならやめろ! 私は箒だぞ!」

 

 

 その声が聴こえたのか、はたまた別の目的があるのか、シロッコはビームライフルを下げた。

 

 

「追ってきたのはお前か、篠ノ之箒。しかしそのISは……なるほど、篠ノ之束にとっての『タイタニア』がそのISという訳か。だが篠ノ之の血筋である事を除けばたいした力も才能も貴様には感じられん。その選択は理解に苦しむものだ」

 

 

 箒は息を吞む。声は一夏なのに、明らかに雰囲気が異なる。千冬や鈴の不安がついに現実となったのだ。

 

 

「お前は、誰だ」

 

「フフフ……」

 

 

 ジ・Oの頭部パーツが解除されて素顔を晒す。顔は一夏だが、髪と瞳の色、何よりも箒を完全に見下した視線が別人だと言っていた。

 

 

「初めましてだな、篠ノ之箒。私の名はパプテマス・シロッコ。この歪んだ世界を導き、正す者だよ」

 

「シロッコだと? だがその顔は一夏だ。お前が白式なのか!?」

 

「正しくもあり間違ってもいる。そして今は白式ではない。これは既にジ・Oなのだ」

 

「お前はここで何をして……いいや、関係ない! すぐに一夏を返せ!」

 

「残念だがこの身体の使い道は既に私の中で決まっている。それに――告白を断られた以上、織斑一夏はお前のものではあるまいよ」

 

 

 シロッコの言葉は箒の顔に朱を注いだが、即座に憤怒の赤に入れ替わった。

 

 

「黙れ!! 私は一夏の友だ! 貴様が何処の誰で何を企もうと知った事か! 無理矢理にでも連れ帰らせてもらう! 雨月(あまづき)! 空裂(からわれ)!」

 

 

 紅椿の持つ二振りの刀剣をコールを使って両手に呼び出す。専用機を得たとしても未だに箒はIS乗りとしては未熟といってよかった。戦闘態勢に入った箒に呼応してシロッコも頭部パーツで顔を覆い隠し、ジ・Oのモノアイの視線とビームライフルを箒へと向けて対峙する。

 

 

「素人がこのパプテマス・シロッコを相手に戦いを挑む。その愚かさ、身をもって知れ!」

 

「一夏の顔をしたシロッコが喋るな!」

 

 

 紅と黄。インフィニット・ストラトスの開発者、篠ノ之束が作った第四世代IS紅椿とパプテマス・シロッコが己の知識を元に改良した第三世代型IS白式をベースとしたジ・O。二名の天才が手掛けたIS同士による戦闘が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 海上で繰り広げられる箒とシロッコの激闘を傍観する者がいた。名はクロエ・クロニクル。ドイツによって生み出された試験管ベビー、遺伝子強化試験体(アドヴァンスド)の一人であり、生産番号順からみてドイツ軍人であったラウラ・ボーデヴィッヒの姉に当たる。実験の失敗から視力を失い、廃棄処分が決まっていたところを束に拾われて以降、彼女に対して崇拝に近い忠誠を誓った少女である。家事などの簡単な雑用から、逃げ出した研究者の殺害まで、束に望まれればどんなタスクでも忠実に熟してきた。

 

 彼女は白式からのデータ収集と篠ノ之箒の安全確保という任務を与えられて、この場に立っている。通常であれば気付かぬ筈の無い、遮蔽無き海上の第三者。それを隠しているのが束から与えられた生体同期型IS黒鍵の能力『ワールド・パージ』だ。これは対象者の精神への作用と現実での大気成分の変質により幻覚作用を発生させる能力で、現在争っている二名の視線からクロエを遠ざけていた。

 

 しかし、その状況でさえクロエは露程も安心できないでいた。

 

 

(寒い……ここは、とても寒い……)

 

 

 彼女は視力を失った代わりに、周囲の気配を人一倍敏感に反応を取れるようになっていた。だからこの海域全体をシロッコと名乗った男の放つ独特な圧が覆いつくしている事も、自分の位置を正確には知られておらずとも何者かが潜んで存在している事だけはシロッコに感知されているという実感を持っていたからだ。なによりもシロッコの気配はとても冷め切っている。彼の敵対者はその冷たさに抱かれてそのまま凍え死んでしまうのかもしれないと真夏の海の上で彼女は一人、恐怖に震えているのだ。

 

 

(束様と、束様と通信さえ出来れば……)

 

 

 シロッコの影響力の範囲に入ってからあらゆる遠距離通信手段が封じられてしまい、束に報告する事ができていない。そして今の束はシロッコが小出しにする未知の情報に期待こそすれど、危険性は然程感じてはいない。故に通信が繋がりさえすればクロエがシロッコの危険性を束に伝えて迅速な排除に移れる筈だと、束への多少贔屓目の信頼感を差し引いてもクロエには予想ができた。ただ自分が一人でシロッコに対して挑む事だけは絶対に考えられなかった。

 

 

(織斑一夏の最近の変質があの男が原因だとすれば、自分の成れなかった完成形(ラウラ・ボーデヴィッヒ)を仕留めたのはあの男。失敗作の私なんかが勝てる筈が無い)

 

 

 IS学園からドイツに送り返されたラウラ・ボーデヴィッヒの末路を知る一人として、与えられた役目を果たせなかったとして束に見限られて、再び廃棄品として扱われる未来だけは絶対に御免だった。

 

 

(逃げる訳にはいかない。でもシロッコはこの場で箒様を殺す気だ。このままでは間違いなく死んでしまう)

 

 

 現状、箒がなんとか戦えているのはシロッコが紅椿に興味を示し、戯れているからだ。紅椿の性能をシロッコが完全に把握するまでが彼女の決断に与えられたタイムリミットだ。

 

 

(束様、私はどうすれば……)

 

 

 クロエは戦闘映像の記録を黒鍵に任せ、悩み続けていた。

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