インフィニット・ストラトス 宣教者異聞録   作:魔法科学は浪漫極振り

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第三話

 試合終了後、一夏とセシリアの試合に関するデータを携帯端末に手早くコピーした千冬は試合に関する事後処理を副担任の山田真耶に任せ、白式の調整に関与したと思われる篠ノ之束に連絡を入れていた。

 

 

「えー? 束さんは知らないよー?」

 

 

 千冬からの久方振りの着信に嬉々として応じた束だったが、内容が終えたばかりの仕事に関する追及だった為、若干不貞腐れていた。もっとも、不満を垂れながらも手を休める事なく、千冬の携帯端末から白式に関するデータを抜き出しているあたり、興味関心は十分あるようだ。

 

 

「本当にお前は白式に何も仕掛けを施していないのか?」

 

「そもそも白式の開発は倉持技研が凍結してた奴を束さんが回収して未完成な部分を調整しただけ。あとは白騎士のコアが使われてたり、束さんお手製の展開装甲を雪片弐型にちょこーっと使ってるぐらいで、他の第三世代型と大きな違いは無いよ」

 

「ならば一夏のあの動きはどう説明する」

 

「さあー? ちーちゃんにも心当たりが無いんじゃ、束さんもわっかんないなー」

 

 

 吸い出した様々なデータを全てモニターに表示してチェックを入れていく。特筆すべき箇所は脳に微弱な負荷がかかっている点だろうか。戦闘映像と合わせると、負荷がかかった直後に一夏が身体を動かしているように見える。言わば思考と反射にほぼラグが無い状態だ。しかし、この程度の反応ならば反射神経の良い普通の人間でも類似するパターンは時折見受けられるし、異常な操縦能力についての関連としては薄い。つまり、判断を下すにはデータが圧倒的に足りていない。

 

 

「でもまぁ、そんなに気になるなら調べてみようか。よし予定変更。ちょっちド派手にやりますかー!」

 

「何をする気だ。……おい聞いてるのか、たば」

 

 

 千冬との回線を一方的に切断した後、束は後日IS学園に送り込む『ゴーレムⅠ』を再調整する事に決めた。一夏の今後を考えて機械的で動作の分かりやすい、実戦のならし相手とする予定だったが、既に彼が千冬が危惧するほどに動けているのであれば手加減なんてさせていては底を知ることができない。

 

 故に。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と決めた。もしかすると妹の箒を除いた周囲の人間が死んでしまうかもしれないが、束にとって有象無象の生死など考慮に値しない。

 

 

「ふむふむ。ちーちゃんにはああ言ったけど、白式のコアがネットワークから遮断されてる。いや、これは白式のコアが閉じた訳じゃない。他のISコアが白式を切り離した、が正解かな?」

 

 

 しかし、白式側もまた、こちらからのアプローチは完全に無視している。コアになんらかの異常があったのは間違いないだろう。それが良い事か悪い事かは束にも今の段階では判断が付かない。

 

 

「あとはこの独特な回避モーション。無重力空間でスラスターを使わない姿勢制御方法としてNASAで研究されていたActive Mass Balance Auto Control(能動的質量移動による自動姿勢制御)の理論に動きが似てる気がする」

 

 

 これは宇宙に興味関心を持っていない一夏には絶対に無い知識のはずだ。だが動きを見れば彼の動作に迷いは無く、実に手慣れているようにも見える。

 

 

「くふふ。これでちょっとは面白くなると良いなぁ!」

 

 

 束は白式に秘められた『()()』が世界を動かす波紋となる事を望んでいた。それが世界の破滅に繋がるとしても彼女は喜んで歓迎するだろう。なぜならば篠ノ之束という女にとって、退屈や停滞とは己を腐らせる毒素であり、生き死に以上に嫌う存在であるからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「この度は皆様に多大なご迷惑をおかけいたしました。織斑さんや日本に対する数々の暴言や試合の途中放棄など、イギリスの国家代表候補生としては元より、人として恥ずべき行為を繰り返してしまいました事を深くお詫び申し上げます」

 

 

 翌日、セシリアは朝一でクラスメイト達の前にて謝罪を行った。一組は日本人生徒の割合が多い事もあり、入学当初のセシリアの暴言には内心不満を抱えていた者も多かったが、昨日の悲惨過ぎる試合内容もあり、同情的な部分も相俟って謝意は受け入れられた。

 

 

「織斑さんがクラス代表になる事に最早異存は御座いません。よろしくお願いいたしますわ」

 

「あ、ああ。俺で良ければやってみるよ」

 

 

 クラス代表など欠片も興味が無かった一夏だが、流石に昨日泣かせた挙句、()()()()()()()()()()()()()()()()()()セシリアへ仕事を押し付ける気には到底なれず、甘んじて立場を受け入れた。謝罪の為に一夏を正面から見つめていた彼女は視線を彼の右手首に巻かれたヘアバンドに一瞬だけ移したが、何も言わずに着席する。一夏にはその所作の意味が分からず、ヘアバンドを手首に巻くのは変だと思われたのか、でも頭に物を付けるのは性に合わないからなと考えた一夏は、結局そのままで行く事したようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……これも正解。なんだ、やればできるじゃないか」

 

 

 クラス代表就任記念のパーティなどの出来事を経て、一夏は遅れ気味だったISに関する勉学に日夜励んでいた。今日はこれまでの学習のまとめとして箒に出題内容を任せる簡単なテスト形式を試していた。結果は全問正解。あえて学習範囲外の問題も含めてみたが予習もそつなくこなしていたのかスラスラと答えていた。これでは剣術はともかくとして勉強面では箒はもうすぐお役御免になりそうであった。

 

 

「なんか最近は頭が冴え渡ってるんだ。覚えないといけない事が多いからさ、我ながら助かってるぜ」

 

「無理はしてないよな」

 

「無い無い。同室なんだから知ってるだろ?」

 

 

 確かに一夏は睡眠時間を削るなどの無理な時間捻出はしていない。箒が部活動でいない時に時々出掛けているようだが、それでも寮の門限を超えて帰らない事は無い。彼がどこで何をしているのか、箒にも気にならないでは無かったが流石に意中の相手とはいえ行動を常に監視したり、プライベートを聞き出そうとするなどのストーカーの如き真似だけはしまいと決めていた。過敏になり過ぎて、一夏に嫌われでもしたらそれこそ耐えられない。それにクラス代表決定戦以降、一夏に近付こうと考える女子が減ったのもある。クラスメイト達は表面上は普段通りだが、他クラスともなると一夏の試合での行動に対しての陰口も少なくない。同時にセシリアの不甲斐なさを嘲笑う声もあるが、彼女も気にしていないようだった。

 

 

「IS操縦の練習はどうだ?」

 

「ん? 基礎的な事はすんなり出来たから、今度千冬姉からイグニッションブーストについて教えてもらう予定だよ」

 

「それもそうか……」

 

 

 試合であれだけ動かせる一夏が基礎操作程度に躓く訳も無い。授業の実機訓練でも完璧な操縦を見せていた。近付けたと思った幼馴染との間に再び差が開いてしまう事実に気が急くものの、訓練機の貸出順番を待たなければいけない箒にはどうしようもなかった。

 

 

「俺が箒に教えてやれたらいいんだけど、どうも他の人達とは感覚が違うみたいでなぁ……」

 

「感覚が違う?」

 

「言葉では言い表しにくいんだけど、俺はISが発する情報をそのまま活かして動いてるんだ。でも他の人達はそのまま活かすって部分がよく分からないみたいでさ」

 

「……ISが最適な行動を事前に選んでお前に伝えているという事か?」

 

「そうそう、そんな感じ」

 

「それは……大丈夫なのか?」

 

 

 人間が機械を動かすならともかく、機械が人間を動かすと聞くとサイエンスフィクション的なデメリットがありそうなものだが。

 

 

「千冬姉にも言われたけど、そこまで危機感は感じないな。白式本体の点検や起動時の状態まで徹底的にしてもらったけど、何も問題は出なかったぞ?」

 

 

 試合以降、教員や研究者、技師に至るまで様々な大人達から機体のチェックや様々なデータ取りに一昼夜丸々付き合わされた結果、白式の安全性を疑われる事に対して一夏はだいぶ辟易していた。

 

 

「ま、専用機を実戦で使える奴は他にいないらしいし、これならクラス対抗戦は楽勝だな!」

 

「慢心するな。油断大敵だぞ一夏」

 

 

 昔から変わらない、調子に乗ると無意識に左手を開け閉めする癖を目の前で見せる一夏に対して口では苦言を吐いたが、現状は一夏のライバルとなり得る相手がいないのもまた事実であった為、それ以上は何も言わなかった。

 

 ……それにライバルとはお互いを意識し合う間柄という訳であり、IS学園の生徒である以上、その相手は必然的に女性となる。一夏が己以外の女に気を払う姿はあまり好ましくない為、これはこれで良いかと箒は割り切る事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「その情報、古いよ! 二組も専用機持ちがクラス代表になったの。そう簡単に勝てるとは思わないことね!」

 

 

 翌朝、一組の雑談中に現れた中国代表候補生。一夏のセカンド幼馴染を称する少女、凰鈴音。その登場は箒の内面の欲を見抜いたかの如きタイミング。まさしく見事なフラグ回収であった。




「どうして一夏さんはブルー・ティアーズの包囲攻撃をあれほど的確に回避できたのですか?」

「君の攻撃を行うという意思は素直で直線的だ。狙われた私には空間に張り巡らせた意識野で君がこれからどこに攻撃を加えるのかが手に取るように感じ取れた。木を隠すなら森の中というが、それと同じように攻撃の意思を隠すならばそれをより広い意思で包み込む事だ」

「感覚派の理屈ですか?……理論派のわたくしには難しいですわ」

「そのような言葉遊びではないよ。君はビット兵器を稼働させている時点で意識野を外に広げる為の素質があり、己に秘められた力を自覚する入り口には立てている。後は拘泥している二次元的な物の捉え方を三次元的に切り替えればすぐにでも次のステージへと進めるだろう」

「その、具体的にはどうすれば……」

「パッシブ・イナーシャル・キャンセラーを使う」

「PICを?」

「セシリア、君はこれから毎日無重力を疑似体験するといい。魂が重力の束縛から解放されたならば、私の言う意識野を周囲に張り巡らせる感覚も掴みやすくなるさ」
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