インフィニット・ストラトス 宣教者異聞録   作:魔法科学は浪漫極振り

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インターミッション
No.1 凰鈴音


 アタシはIS学園を離れる千冬さんの説得に成功した。行方知れずとなった一夏と箒を探す為、そして何よりも強くなって、大事なモノを二度と失わない為に。

 

 日本の情報はIS学園や更識会長の伝手から得られると国外――イタリアへ早々に飛び出す事を決めた千冬さんの思い切りの良さはかつて一夏がISを動かしてIS学園へ入学する事が決まったと知って即座に編入手続きを済ませたあの時の事を思い出させた。

 

 それと連鎖するように一夏との再会、箒との出会いも引き出されたが、泣く事はしなかった。

 

 国を発つ前に一本の電話をかけた千冬さんに促されるままにイタリアへと赴いたアタシ達は空港で待機していた政府関係者によって、スイスとの国境付近にある避暑地として有名なコモ湖の近く、人里離れた山の斜面に立てられた別荘風の建物に案内された。

 

 別荘風、というのは全くその通りで、外見こそ周囲のリゾート地に似つかわしい家屋の形をしているが、地下はISを取り扱う為の設備が設けられており、飛行以外のテストなら十分に使えるだろう。明らかに普通の住宅では無い。流石はブリュンヒルデ、VIP待遇だった。

 

 案内人に聞くところによると、来年イタリアのミラノで開催されるモンドグロッソに出場する選手を迎える為に用意された施設の一つらしい。逆説的に言えば、来年訪れる国家代表に使われるまでここの使用予定が無い事から、人知れず自己鍛錬に勤しみたい千冬さんの要望に応えて急遽手配されたとか。

 

 

 

 

 

 そしてイタリアに到着して早二週間、そんな環境に付いてきたアタシが何をしているかと言えば。

 

 

「お、終わりました。……今日の課題は、疲れましたよ」

 

 

 大量のテキスト、そして課題レポートに囲まれていた。内容は高等学校相当の教材やISに関するあれこれ。

 

 そう、アタシは千冬さんの指示でIS学園が恋しくなる程にハードスケジュールでありとあらゆる勉強を叩き込まれていたのである。どんな厳しく辛い訓練にも付いていくつもりだったが、まさか座学漬けにされるとは思わなかった。軽いストレッチや体力作りのランニングを除いて、ずっと机で教材と睨めっこしている状態は流石に辛い。

 

 

「確認する。お前は休憩に入れ」

 

 

 リビングで端末へ届いた様々な情報に目を通していた千冬さんの休憩の許しを得て、アタシは力尽きるようにリビングの高級ソファへと転がった。その柔らかさとフィッティングに凄まじい眠気を覚えながらも、今の指導内容について千冬さんがどのような考えを持っているのかに声をかける。

 

 

「あの、千冬さん」

 

「なんだ?」

 

「アタシ、強くなりたいという動機で付いてきた訳ですけど。……ずっと勉強ばかりなのは、その~、どうなんでしょうか?」

 

 

 控えめに尋ねたつもりだったのだが、端末からジロリと睨み付けられてしまった。

 

 

「お前の最終学歴を高等学校中退で終わらせるなど、親御さん達に申し訳が立たんだろう。私についてくると言った以上は通信制高校の卒業単位に加えて私が徹底したカリキュラムを組んで一年間でIS学園卒業レベルの知識とIS技術も仕込んでやる。かつて似たような指導を施してやったドイツ軍人共は()()()()()()()()ぞ、どうだ嬉しいか鈴音?」

 

「ひぇっ」

 

 

 IS学園を放り出して実質的な放浪の旅に付いてきたアタシが悪いとは思うが、一年間で相当な量の詰め込み教育を施されるようだ。座学漬けでさえグロッキー状態なのに、ここから更に追加される、と。あれ、アタシ死ぬのでは……‥? 

 

 自身の選択を若干、後悔しながら震えていると一匹の白猫がアタシが転がるソファに飛び乗ってきた。唐突に現れた猫は、野良猫が紛れ込んできたのでは無い。この二週間、頻繫に会っている猫で、名前はシャイニィ。

 

 近寄ってきたシャイニィを抱き止めて膝に乗せる。ふかふかの毛と生き物特有の命が持つ暖かさを感じてホッとする。嫌がったり、動く気配が無いところをみるとアタシの不調を察してきてくれたように思える。賢くて優しい子だ

 

 そして彼女が現れたという事は、必然的にあの人が来た証拠でもあった。

 

 

「やれやれ、鈴が怖がってるじゃないサ。千冬はサディストの気があるね」

 

 

 シャイニィに続いて現れたのは元イタリア国家代表にして第二回モンドグロッソ総合部門優勝者のアリーシャ・ジョセスターフさん。本来部外者であるアタシ達がこの施設を借りていられる理由は彼女がイタリア政府に口添えしてくれたからだ。

 

 彼女はイタリアが開発した新型ISの起動実験で右腕と右目を失った彼女は国家代表を引退する事となったが、未だに自国内を中心にIS関連の活動は続けており、その影響力は大きい。

 

 その彼女が何故アタシ達を受け入れるように取り計らってくれたかと言えば、第二回モンドグロッソの決勝でライバル視していた千冬さんとの決着が流れた事を不満に思い、再戦を望んでいるからだそうだ。千冬さんは再戦を受ける事を条件に気兼ねなく活動できる拠点を借り受けた訳である。

 

 

「イタリア政府の要請は?」

 

「ずっと籠らせる訳にはいかないってサ。時々公式のイベントに顔出ししてくれれば、それで良い事になったよ。モンドグロッソ開催前までならイタリアは千冬を歓迎するだろうね。……ま、テンペスタⅡの失敗で評判が落ちてるところを千冬の人気を利用してでも大会前までにもう一度盛り上げておきたいのが本音かな」

 

「ああ、それくらいならば引き受けよう」

 

 

 一応ここはイタリアの税金で作られている施設な訳で、一方的な高待遇はイタリア政府や千冬さんにとっても望ましくないという事だろう。

 

 

「礼を言いたいのはこっちだよ。IS学園に入って動かなかった千冬が、条件付きの非公式とはいえリベンジマッチに応じてくれるとは思わなかったからね。今から楽しみサ」

 

「私は現役を離れて久しいんだぞ。多少は加減しろ」

 

「ハハッ、面白い事言う。オーバーホールあがりの訓練機を無茶苦茶なマニューバで御釈迦にして整備班を泣かせた非常識な女の台詞じゃないサ」

 

 

 二、三日前にイタリアのIS運用試験場で千冬さんがイタリアの訓練機であるテンペスタを借りて動かした時の出来事が思い返される。IS学園で幾度か見た千冬さんの操縦は、あそこまで荒々しいモノでは無かったのだが。

 

 

「む。好きに動かしてみろと言ったのはそちらではないか。あとお前にだけは常識をとやかく言われたくないぞ。勝負を断り続けていた私に挑戦状をイタリアから有形無形問わずに送り続けてくる執念深さで人の事を言えるのか?」

 

 

「「……」」

 

 

 この話の流れは二週間で何度か経験している。アタシはシャイニィを抱きかかえたまま、そっとソファから離れてリビングから出ていった。背後から二人の言葉の応酬が繰り広げられている。

 

 

「まあ、千冬の新しい専用機が完成するまでやり合うのは控えるサ、適当な訓練機に乗った千冬を倒したら、せっかくに勝利の美酒が台無しになるもの」

 

「私は別に訓練機でも構わんぞ。機体の性能差がISの決定的な差では無いと教えてやろう」

 

 

「「アハハハハハハ!!」」

 

 

 いつもの流れだと、備え付けのトレーニングルームで二人は生身での格闘戦を繰り広げるのだ。一度見学して酷い目にあったアタシは同じ過ちは繰り返さない。

 

 当然だが、お互い嫌っている訳ではない。千冬さんはアタシの前では誤魔化しているが、一夏と箒の痕跡が一向に見つからない事に強い焦燥感を抱いている。それをアリーシャさんは察して発散に付き合っているのだ。……もっとも、そういう理由であっても本気で勝ちに行ってる辺り、お互い負けず嫌いではあるのだろう。

 

 初代と二代目のブリュンヒルデ、とんでもない二人の間に挟まれたアタシの新生活の今後を考えると暢気に欠伸するシャイニィの毛並みを愛でながら、嘆息するしかなかった。

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