インフィニット・ストラトス 宣教者異聞録   作:魔法科学は浪漫極振り

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「ねえねえ、セッシー」

「なんでしょうか布仏さん」

「セッシーはなんで浮いてるの?」

「訓練ですわ」

「クラゲみたいに浮かぶのが~?」

「ええ」

「楽しい?」

「……やってみますか?」

「いいの~?」

「武装未展開状態なら人ひとりにPICの演算を割り当てるくらいは余裕ですわ。……はい、どうぞ」

「お、お~!」

「あー!なんか面白そうな事してる!」

「私もやりたーい!」

「い、一度に全員は無理ですわ。順番でしてよ?」


第四話

 入れ替わりで一夏の幼馴染ポジションに収まった凰鈴音という恋敵の登場は箒を焦らせたものの、そこは天然記念物並みの朴念仁、織斑一夏。一年前、別れ際に残した彼女の遠回しな告白の台詞はただの奢りの約束として記憶していた。あまりにも女心を理解していない、理解しようとしない一夏の愚鈍さに鈴が彼の頬を引っ叩き、理由を尋ねられた箒が罵倒してしまうのも無理ない話だ。そして一夏は彼女達の怒りが意味する事を分からずにそこで思考を停止して、いつも通りの日常に戻る。

 

 ……はずであったのだが。

 

 

 

 

 口論の末、気まずいまま一日を終えた鈴は一夏の鈍感さを改めて痛感し、迎えた翌日の放課後、その一夏からの呼び出しで人気の無い踊り場を訪れていた。呼び出した本人は待ち合わせ場所に既に待機しており、鈴が到着した後も一言だけ声をかけた後は右手首に巻いたヘアバンドを弄りながら、ずっとだんまりを続けていた。その不明瞭な態度に鈴は徐々に苛立ちを感じていた。

 

 彼女はもしかしたら、なんて期待は微塵も抱えていない。目の前にいる男は中学時代、様々な女子学生達による一世一代の告白を受け続け、その全てを勘違いで無自覚に斬り捨てていった筋金入りの盆暗だ。勿論、鈴はまだ一夏を諦めてはいないが、彼が意図に気付く可能性は男がISに乗れる確率よりも低く、より直接的なアプローチで自覚させる以外に攻略方法は無いと昨日のやり取りで再確認していた。後の問題は、ぬるま湯のような友人関係を続ける事を止め、彼との縁が完全に断られる覚悟を持って鈴が告白に挑めるかどうか、それだけであった。

 

 

「ねぇ、用事があるなら早くしてくれない?」

 

「あ、ああ。……なぁ、鈴。もし、もしも俺の勘違いだったら悪いけどさ。いや、そんな事はあり得ないとは思ってるんだけど……」

 

 

 促されてようやく話をする気になったようだが、前置きばかりで本題に入ろうとしない。

 

 

「まどろっこしいわね。なにが言いたいのよ」

 

「毎日酢豚を作ってくれるって……あれか? 古めかしい表現でアレンジされてるけど、その、毎日味噌汁的な」

 

 

 数秒、鈴は息を吸う事すら忘れてしまった。男がISに乗れる確率レベルの極低確率事象が発生した。いや、確かに目の前の男は世界唯一の男性IS操縦者ではあるのだが、遠回しの告白に気付くという、織斑一夏という生物としては絶対にあり得ない奇跡が起こっていた。

 

 

「そ、そそそそんな訳無いでしょッ!?」

 

 

 突然の出来事に思考が歓喜と羞恥と困惑でぐちゃぐちゃになった鈴は反射的に照れ隠しで自分の恋心を否定してしまう。

 

 

「……そっか、やっぱり俺の勘違いだったか。悪かったな、鈴。変な事で呼び出して」

 

 

 鈴の返答で答えは得られたと判断した一夏は、自分の浅慮で時間を取らせてしまった鈴に謝罪し、踊り場を後にしようとする。

 

 

「……ッ! 待って!」

 

 

 一夏の後ろ姿を見た鈴は羞恥だとか、理性だとか、心の中にあった余計なモノを全部かなぐり捨てた。ここを逃せば二度目のチャンスは絶対に訪れないと、直感的に判断したのだ。一夏の後を追って腕を掴み、強引に振り向かせる。

 

 

「駄目! 違う、そうじゃない! ア、アンタはアタシの初恋! ずっと好きだった!」

 

 

 遂に本心を伝えてしまった。先程捨てたばかりの羞恥と理性が一瞬で舞い戻り、鈴の顔を真っ赤に染め上げる。その姿を見た一夏は喜びよりも先に、女の子に無理をさせてしまった己の不甲斐なさを恥じていた。だからせめて、互いの顔を見ないで済むように、鈴を抱き寄せた。鈴もまた、されるがままで一夏の制服に顔を埋めている。

 

 

「鈴」

 

「……なによ」

 

「ありがとうな」

 

「一年間気付いてなかった癖に、昨日の今日でなんで気付いたの」

 

「あの後、箒から馬に蹴られて死ねって言われて、そこから気付けた。馬鹿過ぎるよな、俺」

 

「……捻くれた言い方しかできなかったアタシも悪いから」

 

「それはそうだな」

 

「そこはそんな事無いっていうとこでしょ、この馬鹿」

 

「酢豚が味噌汁だったら、たぶん気付けたと思うぞ」

 

「どうだか。鈍感や朴念仁って文字が人の形をとったような一夏の察しが良くなるなんて、これは世界の破滅の予兆よ」

 

「お、おい。言い過ぎだろ」

 

 

 ようやく気持ちが落ち着いた鈴は一夏から離れ、ハンカチで目元を拭ってから顔を見上げる。

 

 

「それで、返事は?」

 

「俺は、鈴の事をこれまで友人として好きだった。でも俺は男女の付き合いって奴はよく分かってないんだ。だから、もしかしたらお前が望む形とは少し違うかもしれない」

 

「……うん」

 

「だから、これまでの関係を少しずつ深める形で進めたいと思ってる。それでも良ければ、付き合うか?」

 

 

 嬉しい。長年の恋が実り、嬉しいはずだが、鈴は同時に不安にもなった。一夏は女性によく好かれる。これだけ簡単に収まると、ちょっとした出来事で自分から離れてしまうのではないかと危惧してしまう。だから、懸念を潰したくもなる。

 

 

「ほ、本当にアタシで、いいの? もう一人の幼馴染だっているじゃない」

 

「箒とは家族ぐるみの付き合いはしてたが、結局はそれだけだぞ。お前みたいに告白された訳じゃないからな」

 

「でも体付きはあっちの方が女らしいでしょ……」

 

「千冬姉の痴態を長年見てきた俺としては、外見より内面重視だと思う。たぶんだけど」

 

「む、むぅ」

 

「まだ何かあるか?」

 

「今は特に無い、わ」

 

「じゃあ、改めてよろしくな。鈴」

 

「よ、よろしく」

 

 

 こうして再開したばかりの一夏と鈴は奇跡的に結ばれた。今、この関係を知る者は二人だけだが、しばらくすれば、学園中に広まる事だろう。

 

その夜、相部屋のティナ・ハミルトンは昨夜の不機嫌さとは真逆のご機嫌具合を見せながら、時折自分の頬を抓る鈴に対して躁鬱病の可能性を見たが、疑われた本人は全く気付いていなかった。

 

 

「え、えへへへ。痛いから夢じゃない。これ、夢じゃない! やったあぁぁぁぁぁぁあぁッ!!」




「ビットをスムーズに動かせるようになったか」

「ええ、本体とビットの同時稼働も少しずつですが光明が見えています。これまでの停滞が噓のように順調ですわ。無重力訓練にここまで効果があるとは思いませんでした」

「重力の楔が無くなれば、人は簡単に解脱できるということさ」

「あとはフレキシブルを会得できれば……」

「そう焦る必要は無い。今は下地を整える段階だ」

「はい!」

「それと。最近は訓練に付き添いがいるようだな」

「あ、はい。布仏本音さん達が……駄目でしたか?」

「彼女にも微弱だが才能は感じられる。君が傍に置いても良いと判断したのであれば、その意思は尊重されるべきだろう」

「あ、ありがとうございます」

「今後も関わった方が良いと見極めた相手には私の指導方法を教授させても構わない。勿論、出所は伏せてもらうが」

「よろしいのですか?」

「言っただろう。今は下地を整える段階だよ」
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