インフィニット・ストラトス 宣教者異聞録   作:魔法科学は浪漫極振り

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第五話

《IS学園唯一の男子生徒、中国からの転入生と恋仲になる!》

 

 新聞部部長である二年生の黛薫子の情報収集能力はとても高かった。二人の馴れ初めから始まり、中学時代の嬉し恥ずかしエピソード、学園での再会から結ばれる経緯まで、見事にすっぱ抜いて一大ニュースとして学校内新聞を発行したのだ。

 

 ……だいたいは鈴の惚気話に付き合わされた同室のティナ・ハミルトンからの提供であった為、お得意の捏造や改竄は最小限で済ませられたとかなんとか。それはともかく。この情報は流れ出した途端に学園は想像以上に荒れた。考えてみれば当然である。IS学園始まって以来、初となる黒一点。イケメンで、あの織斑千冬の弟である。学年問わず、かなりの人数が密かに織斑一夏の隣を狙っていたのだ。だが()()()()()()()()()()()()()()年頃の娘達が集う狭い社会で、衆目を避けて抜け駆けをするなど出来るようはずも無く、互いが互いを牽制し合い、身動きが取れずにいたところをポッと出の転入生に掻っ攫われてしまったのだから、彼女達の悔しさも一入であろう。現にショックのあまり、体調を崩して授業を休む生徒も何人か出ている程だ。

 

 この事態に一番頭を悩ませたのは千冬であろう。千冬から見ても女心に疎い朴念仁であった愚弟が真っ当な男子として一歩先を歩めた事を喜ぶべきか、周囲への影響を考慮しない浅慮さを叱るべきか。少なくとも現時点でのIS学園規則に男女の仲に関する要項は存在しない為、とりあえずは当事者二名を知る者として不純異性交遊は慎むように厳命するだけで済ませるしかなかった。

 

 

 

 

「はい、約束の酢豚よ。食べてみて」

 

 

 昼休み。屋上に揃って出てきた二人の間に鈴お手製の酢豚を詰めたタッパーが差し出された。それを一夏が受け取り、実食。鈴はその様子を固唾を呑んで見守っている。

 

 実は中学時代の鈴は料理が苦手であり、一夏との再会に備えて代表候補生の訓練に加えて料理の特訓も続けていたのだ。おかげで中華料理は味、見た目共に良好。それ以外の料理も見た目はともかく、味は及第点レベルまで上がっている。それでも織斑家の炊事を長年こなしてきた一夏に認めてもらえる味になったかどうか、緊張しているのである。

 

 

「どう、かな……?」

 

「おっ、美味い。餡の味も弁当用に濃い目に作ってるし、野菜も火が通った上でシャキシャキしたままだ。これなら親父さんの味にもすぐに追いつけるんじゃないか」

 

「そ、そっか!」

 

 

 自信作の酢豚を好きな人に美味しい美味しいと食べて貰えて鈴はご満悦である。一夏もお手製の弁当を取り出して、二人でおかずを交換し、仲良く食べ進めていく。張り切り過ぎた鈴の用意した酢豚はそれなりの量があったが、育ち盛りの二人の前に全滅は必至だったようだ。

 

 食後の一服を満喫しながら、二人は雑談に花を咲かせている。一年間の空白期間の事、IS学園外の旧友の事、授業の事、話題はコロコロと代わり、間もなく行われるクラス対抗戦へと流れた。

 

 

「もうすぐクラス対抗戦ね。一夏は準備万端かしら」

 

「おう。一応言っておくが、試合は試合だ。お前相手でも手加減する気は無いからな」

 

「アタシだって無理言ってクラス代表を代わってもらったんだもの。加減なんてしないわよ」

 

「勉強はまだ追いつけないけど、ISの操縦なら俺だって結構やれるんだぜ」

 

「へぇー。じゃあ、あの噂本当なんだ」

 

「噂?」

 

「イギリスの代表候補生を泣いて謝らせたって奴」

 

「うっ」

 

「ふふん。そいつがどの程度の腕か知らないけど、アタシにまで勝てると思わない事ね」

 

「なら、賭けでもするか?」

 

「賭けぇ?」

 

 

 賭けをしようと言われた鈴は少し考えて、ひとつの案を思いついた。

 

 

「じゃ、じゃあさ。負けた方が勝った方をデートに誘う、とかどうかな?」

 

「……どっちが勝ってもデートには行くんだよな」

 

「それでいいのよ! モチベーションの問題なの!」

 

 

 付き合いを始める為の告白は鈴からだった。ならば初デートくらいは一夏から誘ってもらいたい。そう思っての提案だった。一夏からデートに誘われる事を考えると鈴のやる気がドンドン溢れてくる。

 

 

「そんなもんかぁ? いいぜ、それでいこう」

 

 

 双方が試合への戦意を高めていると、一夏の前より鋭敏になった感覚が自分の背中を見る誰かの視線を捉えた。咄嗟に振り返ってみたが、視線の先には別の校舎の屋上が映るのみ。人の姿は何処にも見えない。

 

 

「どうしたの?」

 

「いや、誰かの視線を感じたんだけど」

 

「そりゃあ見るでしょ、アタシなんて関係が露見してから妬みの視線を四六時中ずーっと感じてるわ。身の危険を感じる時もある」

 

「……鈴、大丈夫なのか?」

 

「平気よ、中国の代表候補生に闇討ち仕掛けようものならどう考えたって国際問題待ったなしだもの。それにIS学園は日本にあっても半分は国際機関だから、イジメ問題への対応はかなり厳しいわ。一時の感情でやらかして今後の人生を棒に振るような大間抜けはそうそういないわよ。それに……」

 

「それに?」

 

「ア、アンタの隣にいれるなら十分、御釣りが来るから」

 

「お、おう」

 

 

 二人して顔を赤らめる初々しい様を、別々の場所から二人の少女が見つめていた。

 

 

(我ながら未練がましい。同室の優位性と幼馴染の関係に甘えて動かなかった私の自業自得じゃないか。それなのに、先んじた凰がいなくなればいいのに、なんて……。恥を知れよ篠ノ之箒)

 

(一夏さんと凰鈴音さん。表立ってお付き合いできる事が羨ましくないと言えば嘘になりますが。……どうにも凰さんは表向きの一夏さんしかご存じない様子。中学時代も親しくされていたとお聞きしましたし、つまり彼にとって凰さんは体のいい虫除け扱いという事でしょうか。可哀想ですが、わたくしとしては好都合。今後も密会の目をそらす為の傘になっていただきましょう)

 

 

 片や安泰だと考えていた愛する男の隣を奪われてしまった少女、片や本当の彼を自分だけが知っていると思い込んでいる少女。全員が織斑一夏という存在を中心に回っているように見えるが、はたしてそれが正しいものの見方であるのか。それを知る者はこの世界にはまだいない。




「ねえねえクーちゃん、見てよこれぇ!」

「IS学園唯一の男子生徒、中国からの転入生と恋仲になる……ですか」

「ふざけてるよ。いっくんの隣に箒ちゃん以外の女とかいらないから」

「束様がそうおっしゃられるのであれば、その通りなのでしょう」

「だよねー!よし、いっくんを本気にさせる為の生贄はコイツで決まり。良い夢見れただろうし、人生に未練も無いよね!」
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