インフィニット・ストラトス 宣教者異聞録 作:魔法科学は浪漫極振り
クラス対抗戦当日、試合の組み合わせが発表された会場は既に熱気へ包まれている。なぜならば、初戦から一組代表の織斑一夏の『白式』と二組代表の凰鈴音の『甲龍』、希少な第三世代ISの専用機持ち同士の対戦であり、今最も話題のIS学園初の異性カップルだからだ。一夏はIS操縦がほぼ未経験でありながらイギリスの代表候補相手に完璧な黒星を付け、鈴はISに関わって僅か一年で専用機持ちとなった俊才である。双方が接近戦を主体としたISを用いるという事もあって、激しいぶつかり合いが期待されていた。
そんな周囲の期待と羨望、嫉妬の視線を受けながら二人はアリーナの空で対峙していた。
「鈴、俺の得物はこれだけだ」
拡張領域から唯一の武装である刀剣、『雪片弐型』を取り出す。セシリアとの戦闘では結局抜かずに終わり、千冬の個人指導を除いて他人には初めて見せる事になる。鈴とはISの基本操縦訓練こそ幾度か行ったものの、武装に関する手札は今日の一戦まで互いに見せずにいようと決めていたからだ。
「こいつは『零落白夜』ってワンオフアビリティーを発動できる。当たれば相手の絶対防御を強制的に発動させて、ごっそりシールドエネルギーにダメージを与えるんだ。当たり所が悪ければ一発で試合を終わらせられる必殺剣さ」
「それ駆け引きのつもり? 似合わないわよ」
「まあな。でもこれでお前はこの剣を嫌でも警戒しないといけない。そうだろ?」
確かに鈴は、一夏の説明で、彼の一挙手一投足よりも手元の刀剣に意識を割かれている。初動への対応が僅かに遅れる可能性がある。
「ふーん、確かに面倒ね」
逆に言えばあの剣を封じれば他の負け筋は無いとも言える。その封じ込めが成功するかどうかが鈴の勝利の決め手であろう。シンプル故に互いの操縦技術が試される戦いとなるだろう。
試合前の短いやり取りから間を置かず、試合開始の合図がアリーナ内に鳴り響いた。
「行くぜッ!」
一夏はスラスターを噴かせて正面から鈴の甲龍へ突撃する。様子見無しの馬鹿正直な直線的な攻撃。口先で警戒を促した直後のこの行動。確かに意表は突けるだろうが、そんな安直な攻撃が通用する者に代表候補生が勤まるはずも無い。
「嘗めんじゃないわよ!」
手痛い反撃で一夏の愚行の代価を支払わせるべく、甲龍の両肩に備わった非固定武装が咆哮を奏でた。その名は『龍咆』。空間自体に圧力をかけて見えない砲身を作り出し、左右の翼から衝撃を砲身同様に見えない弾として打ち出すインパクトキャノンだ。相手は真っ直ぐ突っ込んでくる。照準は容易であり、直撃すれば白式はダメージと共に派手に吹き飛ぶ事だろう。
無論、当たればの話である。発射直前に白式のスラスターが稼働して攻撃の置かれた場所を避ける。必然的に甲龍への攻撃は中断されてしまうが、それでも鈴は驚嘆せざるを得なかった。
「初見で衝撃砲を見切った!?」
相手に見えない、何処から撃たれるかが認識できない事がウリの衝撃砲だ。何らかの手段で衝撃砲についての情報を持っていたとしても、早々に対処できる代物ではない。
「見えなくてもお前が有効打を狙ってる事くらいは分かったぜ!」
イギリス代表候補生が試合中に心を折られたと聞いて、随分と軟弱だとは思えど、そこまで気にしていなかったが、この読みの精確さは厄介だ。相手は己が好きな男だというのに、どうにも薄気味悪いさを感じてしまう。嫌な気を払うように衝撃砲を連射するが、これも一夏はその悉くを慌てた様子も無しで切り抜けてしまう。まるでこちらの考えを見透かされている気分だ。龍砲はイメージ・インターフェイスによって砲身を成形しなければならない。もしも思考を読まれているのであれば、どれだけ撃っても成果は無いであろう。
「だったら! こっちも真っ正面から斬り伏せるまで!」
拡張領域から『双天牙月』と呼ばれる大型の青龍刀を二本取り出す。個別に使う事も連結して薙刀のように、または投擲武器としても使用できる。この武装は思考力を龍砲の制御に回さなければならない為、ある程度は身体に扱い方を馴染ませている。鈴が甲龍を得てから二、三ヶ月程度である為、まだ無心で振るう事はできないが、龍砲単体で挑むよりは有効であろう。問題は一夏の雪片弐式のリーチ内へ入らざるを得ない点だ。ならばどうするか。攻めて攻めて攻めまくる。反撃の一手を打つ暇を与えない。青龍刀二本で切り込み、龍砲が時折咆哮を挙げる。一夏は念願のインファイトに持ち込めたものの、反撃の機会を見出せずにいた。
「チィッ! 手数が多いな!」
「そのほとんどを捌けてる奴が言うんじゃないわよ!」
拡散方式に切り替えた衝撃砲が僅かに白式の装甲を掠るが、有効打にはなっていない。ただ、攻めが続く事に一夏を纏う薄気味悪さが増してくる。それが何かは分からない。だが、鈴には試合を早めに切り上げなければ、一夏が危ない。そう感じる『何か』を見た気がした。鈴はあれこれと理屈で考えない感覚派の人間だ。本能とも言うべき勘が働いたのだ。故に気が急いて攻撃に隙が生まれてしまった。
(今……!)
一夏は鈴の隙を見逃さず、教えられたばかりのイグニッションブーストで勝負をかける。
その瞬間、光が空から降り注いだ。