インフィニット・ストラトス 宣教者異聞録 作:魔法科学は浪漫極振り
空から落ちてきた光はアリーナ周囲に展開されていた対IS用の頑強なシールドバリアーを容易く貫き、一夏と鈴の傍から少し離れた地表部分へ着弾、爆発を引き起こす。爆発は大量の土砂と土煙を空へと舞い上げ、赤熱化した地面と土煙で満たされた空間の隙間から砲撃に紛れて侵入してきたひとつの人型が立ち上がる。軽量化の為に軽装甲の多い昨今のISには珍しい全身を装甲で覆う機種。黒灰色のカラーリング、左右非対称のシルエット。カスタムウイングは無く、両腕部は肥大化している。これまでに確認されたどんなISとも異なる形のIS、アンノウンだ。
このイレギュラーの出現に対して管制室は生徒達を守る為に観客席前面の防御隔壁を緊急展開する。もっとも、高出力のシールドバリア―を一撃で貫通できる相手にどれほどの効果が期待できるかは疑問であるが、無いよりはマシと言うところか。だが管制室が事態に対して出来た事はそこまでであった。なぜならば外部からのあり得ない程に精確で迅速なクラッキングにより管制室が持つ施設のコントロール権限を根こそぎ奪われ、アリーナの出入口や観客席が封鎖される事で生徒達は閉じ込められてしまったからだ。
勿論、全ての出入口が電子ロックで機能しなくなった、などという事は無い。電子制御は便利だが、機器の故障で突如使えなくなる可能性は当然考慮されている。万が一の事故に備えてアリーナ各所で待機していた教員達は二手に分かれ、片方は手動で開閉を行える連絡通路を解放、パニックに陥って我先に逃げ出そうとする一年生達を少しずつ外へと誘導し、残りは教員用にカスタムされているラファール・リヴァイヴや打鉄などの量産型ISを身に纏い、クラッキングによって再展開されたシールドバリアー周辺でいつでも内部へ突入できるように準備を進めていた。もっとも、所属不明勢力に悪用されているシールドバリアーをどうにか出来なければ彼女達に出来る事は無いのだが。
そう、最後にして一番の問題、再展開されたシールドバリアーによって、逃げ道を封じられた二人の学生の安全確保であった。
「なによコイツ……?」
鈴の直感が突如現れたアンノウンに対して最大限の警戒を促した事が功を奏した。アンノウンは甲龍を視認後、同時に背面の大型バーニアを点火、勢い良く飛び出した。一瞬の溜めこそあったが、カスタムウイングの無い全身装甲のISにあるまじき加速性能だ。巨大な腕を真っ直ぐに伸ばして殴りかかるつもりだ。
「あぶなぁ!?」
当然、鈴はその突撃を最小限の動きで回避する。しかし、すれ違いざま、鈴の回避へ合わせるかのようにアンノウンの腰から下が動き、L字型に曲がったボディの先、つまり脚部が蹴りを放ってきた。
「……チッ!」
人ではあり得ない曲がり方に咄嗟の回避を試みたが、掠ってしまう。どうやら脚部先端には暗器としてブレードが仕込まれており、不意打ち直前に延伸させたようだ。直撃ではないが、右腕に痛みを感じる。
(……痛み?)
後退しつつ痛む腕を確認すると、僅かに掠った部分が切り裂かれて血が流れている。これが意味する事に即座に気付いた鈴は進路を再転換して突っ込んでくるアンノウンを近付ける事を嫌った。
「離れろぉぉ!」
龍砲を威力重視の集束式で連射。見えない砲弾の連撃に対してアンノウンは強引に突撃する愚を犯さず、距離を離して威力を減衰させる事にしたようだ。その隙に鈴は距離を更に取り、一夏と合流を果たす。乱入者に驚いていた一夏も既に相手を敵と認識したようだ。負傷している鈴を見て、血相を変えている。
「おい鈴、血が出ているじゃないか!」
「かすり傷だから平気よ。問題なのは理屈こそ分かんないけど、アイツが『絶対防御』を抜いてくるって事」
「それって……」
現代兵器を過去のものとしたISが表向き、スポーツとして扱う事が認められている最大の理由こそ『絶対防御』である。全てのISに備わっている操縦者の死亡を防ぐ機能。シールドバリアーが破壊され、操縦者本人に攻撃が通ることになってもこの能力があらゆる攻撃を受け止めてくれる。故に公式の試合では死者は出ず、デザイン重視の生身を大きく晒した姿がISの主流なのだ。だが、それが十全に機能しないという事は操縦者は文字通り、命懸けで戦う事になる。
「一夏。アンタの『零落白夜』なら再展開されたシールドを破壊して外へ逃げられるわ。アイツの情報を持って先生達を連れてきなさい」
「お前はどうするんだ」
「生徒の避難が完了していない。アタシまで逃げたら、アイツがそっちに狙いを定めるかもしれないでしょ」
「だからってお前を一人で置いていけるかよ!」
「アタシは中国の代表候補生。責任があるのよ、責任が」
「だったら俺も残る。……それとも、お前が惚れた俺は恋人を敵前に置いて逃げ出す情けない奴なのか?」
「そっ……それもそうね! じゃあここは二人で協力して」
「「アイツをぶっ飛ばす!」」
まるで二人の会話を聞くように動きを止めていたアンノウンは両腕からレーザーを撃ち出した。外からアリーナのシールドを貫通させた程の威力は無い。あれはもう撃てないのか、それとも温存しているのか。ともかく、二手に分かれて相手の弾を散らせる事にする。
「レーザーも貫通してくると思いなさい! 直撃は死と同義、絶対に気を抜かないで!」
「分かってる!」
誰かを守る為に戦う。ISという力を得た一夏はその願いを胸に意気揚々とアンノウンと戦う決心をしたが、その想いは時間の経過と共に困惑へと切り替わっていた。それは鈴との戦闘まで冴えていたはずの白式の『先読み』が機能していない事に起因する。あの力が二手三手先を教えてくれていたからこそ、一夏は強敵であるセシリアや鈴を相手に戦えていた。しかし今の白式は辛うじて相手の動きに追いつけているに過ぎない。差し向けられるレーザーを回避し、間合いを維持するだけで精一杯となっている。
(くそっ、なんでだ!? なんでいつもみたいに動かないんだよ、白式!)
「埒が明かないわね。アタシが正面で相手をするわ! 一夏はアタシが作る隙を狙って!」
中距離を維持したままの長期戦は不利と判断した鈴が一方的に一夏に言い放つ。彼女は敵に全神経を集中させている為、一夏の不調に気付けていなかった。
「はぁッ!!」
レーザーの弾幕を潜り抜けた鈴は腕部のレーザーを撃たせないように分離させた青龍刀で両手を内側から打ち払う。続けて放った衝撃砲で直撃を与え、アンノウンの体勢を更に崩す。
「今よ!」
「ッ! う、おぉぉおぉぉッ!!」
鈴の合図に一夏はワンテンポ遅れてイグニッションブーストを使い、白式を突進させた。しかし、その一拍が致命的であった。
アンノウンはバク転をするように後ろに倒れ込む形で体勢を整え、脚部で鈴の右手を蹴り上げる。衝撃で甲龍のマニュピレーターが破損し、そのまま片手の青龍刀を取り落とす。流れる動作で真っ直ぐに突撃してきた白式を躱し、腕部レーザーで目の前を通過する白式のカスタムウイングを破壊する。
「うぐぁッ!?」
「一夏!?」
エネルギーがまだ十分に残っていたスラスターに直撃弾を受けた一夏は、爆風を諸に受けて衝撃で気絶。そのまま高度を落としていく。目の前でやられた一夏に気を取られてアンノウンに割かれていた鈴の集中が切れる。その隙を逃さず、アンノウンはここまで温存していた高出力チャージビームを鈴へと向ける。
「あ……」
回避、妨害は間に合わない。防御は片手が破損した為に不完全。しかし他に選択肢は無く、左手に残った双天牙月の側面を前に向け、盾とする。直後、光が奔った。
一夏が目を開けるとガラス越しに巨大な球体が見えた。オレンジ色と形状を変える白が斑を作っている。周辺は暗く、大小様々な岩石が浮かんでいる。
「うおッ!? なんだあれ……。いや待った、そもそも俺はなんでこんなところに!?」
腰掛けていた座席や目の前にたくさん並ぶ計器類は見た事が無い。IS学園にいたはずだが、一体全体どうなっているというのか。
「あれは木星だ。そしてこの場所は木星船団の旗艦『ジュピトリス』の艦橋を模した、私が内に秘める原風景だよ、少年」
聞き覚えがある男の声がして、座席ごと後ろへと振り返る。
自分が座る座席を含めた周囲よりも僅かに高い位置に置かれたシートに足を組んで腰掛ける人物がいた。紫髪に黒いヘアバンド、白い制服を纏った二十代半ばの白人系の男性。顔も整っているが、何よりも惹かれるのは薄い紫の瞳だ。正面から見つめられると自分という存在を丸裸にされ、全てが見透かされている気分になってくる。その感覚は恥ずかしさと不安で綯い交ぜとなり、気圧された一夏は彼から視線を逸らせた。たった数秒の言葉を介さないやり取りに関わらず、自分と相手が格付けが敗北で終わったような不快さを覚えたが、なんとか一息だけ呼吸を整えて男に話しかける。
「……貴方は、誰ですか?」
「パプテマス・シロッコ。世界を超え、人類を導く存在だ」
本作の更新速度と文章量について。
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トロッコに乗ったシロッコのシロップ!