インフィニット・ストラトス 宣教者異聞録   作:魔法科学は浪漫極振り

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第八話

 パプテマス・シロッコ。そう名乗った男は、一夏を高所から一方的に見下ろしている。品定めしていると言い換えても良い。そして状況を未だ理解し切れていない一夏もまた、男がどういう存在か掴みかね、警戒心を露わにしていた。どちらも今の位置から距離を詰めず、離れる事なく。状況を先に動かしたのはシロッコだ。

 

 

「そう怖がる必要は無い。君は私を知っているはずだ」

 

 

 尊大な態度を解き、艦長席から一夏が座る座席とは同じ高さにある別のクルー用の座席へと飛び移った。これ以降はあくまで対等。言外のアピールではあるのだが、まだ若く、経験が乏しい一夏にそれを理解するには難しい話である。それよりもシロッコの語った自分が知っているという内容に意識を奪われていた。知人に目の前の男のような独特の雰囲気を持つ人物がいればそう簡単に忘れたりはできないだろうが、一夏にはまるで心当たりが思い浮かばずにいた。答えに辿り着けず、混乱する一夏へシロッコは助け舟を出す。

 

 

「無論、私と君は今回が初対面だ。しかしセシリア・オルコットとの試合から始まり、凰鈴音の試合に至るまで。君は幾度となく私の声に導かれてきたと思う」

 

 

 シロッコの導き。それが時折聴こえていた謎の声や白式から伝わる『読み』の事を言っていると、ようやく察せたようだ。

 

 

「……つまり、アンタは白式なのか?」

 

「その認識は正しくもあり、間違ってもいる」

 

 

 不明瞭な回答に一夏は首を傾げる。シロッコは口角を僅かにあげて、笑みをみせた。

 

 

「私は肉体を失ったゴーストなのだよ」

 

「それは、幽霊って事か……?」

 

「死者が世界に残した影法師をそう呼称するのであれば、それで間違いはない。本来、歴史の流れに消えゆく定めであった私はとあるISに引き寄せられ、そのコアと同化した。その後、私を宿したコアは誰に気付かれる事なく、白式のコアとして再利用されてここにいる」

 

「……なぁ、幽霊のアンタはなんで俺に力を貸してくれるんだ?」

 

 

 見知らぬ幽霊が自分に力を貸す理由がさっぱり分からない。純粋な善意であれば助かるが、シロッコは初対面の一夏の目からしてもボランティアを喜んで行うタイプではなさそうだ。故に彼の狙いが気になってしまうのも仕方のない事だろう。

 

 

「私の使命は、重力に魂を引かれた人々を開放することだと思っている」

 

「えっと……どういう意味?」

 

「地球という惑星は人類にとって幼年期を過ごす為の揺り籠だ。しかし巣立つべき時と手段を得てもこの世界の人類は一向に外へと目を向けず、汚染を続けている。それは地球に対して恩知らずで、とても不義理な事だとは思わないかね?」

 

 

 独特な言い回しにどう答えてよいか分からず、沈黙を続ける一夏に対してシロッコは諭すように言葉を続けていく。

 

 

「そう深く考えなくても良い。宇宙への切符を手にしながらも地球にしがみつき離れる気の無い大人が頼りにならないからこそ、私は次の時代を築く子供の君達に期待を寄せている、そういう話だ」

 

「俺に力を貸すのもアンタが期待しているからだって事か?」

 

「そうだ。所詮ゴーストでしかない私が望む未来を実現する為には君という存在が必要不可欠であるからだと考えてもらいたいな」

 

「……なるほど」

 

 

 シロッコの語った理想の一端は真実だろうが、一夏に手を貸す事がどう彼の使命や望む未来に繋がるかは明言されていない。しかし一夏は漠然とした内容ながらも堂々としたシロッコの言葉とこれまでの支援への感謝から煙に巻かれた事に気付けなかった。

 

 

「さて、そろそろ君をここに呼び込んだ本題に入るとしよう。君は試合中に乱入者に撃墜され、気を失った。覚えているかな」

 

 

 シロッコから言われて、一夏は自分が目覚める前の出来事を思い出した。攻めるタイミングを逃し、カウンターを受けてカスタムウイングのスラスターをやられ、衝撃で意識を失ったのだと伝えられた。同時にここは夢の世界のようなもので現実時間の経過はほぼ無い、戻ろうと思えばいつでも戻る事が出来るとも教えられた。

 

 

「なんで急にISの操縦が上手くいかなくなったんだ」

 

「これまで君が実戦で上手く行っていたのは、私が相手の敵意や攻撃意思を先読みして、白式経由で君に伝えていたからだが……今回の相手は無人機だ。攻撃意思など存在しないが故にどうしても反応が遅れてしまう。苦戦は必至だったという事だ」

 

 

 シロッコはこれまでの戦い方では勝ちの目が薄いと言う。しかし、一夏に諦めの文字は無い。

 

 

「……それでも俺は戦う」

 

「勝利への算段が無いのにかね」

 

「それは、行かない理由にならない。女一人を戦わせられるかよ」

 

 

 そう、彼が諦めてしまえば、必然的に一人残された鈴に危険が及ぶ。一夏に撤退の選択は無かった。

 

 

「若いな。しかし威勢だけでは戦いには勝てんよ。それでは凰鈴音の死も不可避となる」

 

「ッ……! だったらどうしろって言うんだ!?」

 

「そう焦るな。その解決法を授ける為に私は君をここに呼んだのだから」

 

 

 シロッコがコンソールを弄ると一夏の近くのモニターにISの設計図らしき映像が現れる。形状からすると白式だ。

 

 

「白式のままでは私の力は十全に発揮できない。ならば適性に合わせて改良すればいい。君が受け入れるのであれば私にはそれが可能だ」

 

 

 白式ともう一つ、白式の図面より大きな人型が映り、重なった。

 

 

「しかし、この力を授ける前にひとつ覚悟を問いたい。君は大事なモノを守る為ならば、自分の全てを投げ打つ覚悟はあるか」

 

 

 姉に守られ続けてきた織斑一夏にとって、自分以外の誰かを守る事は何よりも重要な要素である。しかし、鍛錬の時間は無い。結果を早急に求められる以上、シロッコの挑発的な問いに対する答えは、一つしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 不完全な防御姿勢を取った鈴の前で光が迸る。

 

 ただしそれは、アンノウンから防御姿勢をとった鈴に対する赤みがかった白光線ではなく、地表からアンノウンの両腕目掛けた黄色の光線であった。地から天へと昇った光線はチャージビーム発射直前の、堅牢なアンノウンの両腕を容易く融解、爆散させてそのまま天井のシールドバリアーまでも撃ち貫いてみせた。

 

 

「な、なに……?」

 

 

 死を覚悟していた鈴と撃たれて姿勢を崩したアンノウンは発生源にセンサーを向ける。射撃位置に存在するISは一夏の白式以外にはいないはずだ。しかし、かのISには射撃武装は搭載されていない。故に、その答えは明白であった。

 

 白式は、白式で無くなっていた。

 

 元の白式よりも二回りほど大きくなった重厚な全身装甲は淡い黄色の光を薄く発しており、まるでエネルギー体が形を作ったかのような姿だ。頭部も縦長のヘッドパーツで覆われ、赤い単眼型のカメラアイが上空のアンノウンに睨みを聞かせている。右腕には全長の半分を優に超える厚みある長方形に近い形状の大型ビームライフルを片手で保持。その出力は先程、最高強度に設定されたシールドバリアーを障害物越しに撃ち貫いた事で証明してみせた。

 

 腰部にはスカートアーマーが取り付けられ、機体背部には加速用の高出力スラスターを搭載したバックパックを持つ。また全身で五十箇所を超える穴が見受けられるが、配置的に姿勢制御用のサブスラスターだろう。それらを加味すれば全身がスラスターで出来た機体と言ってもいい。

 

 

「展開装甲による白式の強化アーマーの構築を完了。あとは人形の排除か」

 

 

 重装甲の内から一夏が漏らした呟きは誰にも届かなかった。しかしその声音は、普段の一夏を知る人間が聞けば、十人中十人が彼だとは思わないであろう冷やかさを宿していた。

 

 一夏の不意打ちにより、両腕を損失したアンノウンは外部からのオーダーに従い、鈴の排除を諦めて本来の役目を果たすべく白式へと矛先を変えた。残る武装は脚部の仕込みブレードと肩部の低出力レーザー砲だけであるが、目的のデータ収集の為にレーザーをバラまきながら、文字通りに捨て身でかかっていく。

 

 

「相打ち狙いか? ……まるで子供みたいだな!」

 

 

 白式は天から放たれるレーザーの弾幕をハイパーセンサーで解析。抜け穴を見つけ出すと機体各所のサブスラスターを噴かせて被弾無しでくぐり抜け、右手に持ったビームライフルを落ちるように突き進んでくるアンノウンに向ける。

 

 

「落ちろ!カトンボ!」

 

 

 射撃などこれまで一度たりとも経験の無い一夏が左肩、続けて右肩のレーザー砲を的確に撃ち抜く。光学兵器に分類されながら質量を有しているライフルのエネルギー弾が、アンノウンを被弾の衝撃でのけぞらせる。出力を絞ったのか、今回は天井のシールドバリアーを貫通していない。しかしアンノウンは姿勢を崩しながらも減速はせず、重力と生きているスラスターを強引にすり合わせ、脚部のブレードによる蹴撃を白式に放った。その最後の抵抗を一夏は鼻で笑い、白式の空いた左手で楽々と止めてスラスター推力に任せて機体ごと振り回す。IS二機分の質量を振り回せるパワーを見せ付けるように二回転ののち、アンノウンを地面に叩きつけて自身も大地へと降り立った。

 

 二人がかりで抑える事がやっとであったアンノウンは既に死に体であり、それでもまだ一矢報いる為にあちこちからスパークを生じさせながらも蠢いていた。機械の持つ忠実さ、執念深さに呆れて残っていた頭部と脚部をビームライフルで破壊する。達磨にして身動きを封じたところで鈴の甲龍も白式の傍に降りてきたようだ。

 

 

「一夏! アンタはなにやってるのよ!」

 

「見れば分かるだろ、解体だよ。相手は無人機だ、下手に近付いて自爆でもされたらたまらないからな」

 

「そ、それはそうだけど……もう十分でしょ!」

 

「鈴、戦いにやり過ぎなどというものはないよ。俺は、俺の大事なモノを守る為なら、どんな奴が相手だって徹底的に叩いてやる。このISならそれが出来るんだ」

 

「い、一夏……?」

 

 

 長い付き合いの中で今まで見た事が無い、一夏が放つ攻撃性に中てられて、鈴は無意識に一歩下がっていた。それに気付かぬまま、一夏は機能を停止したアンノウンの胴体部を蹴りつけ、剥き出しになった内部構造からコアの位置を特定し、引き抜いた。これによりクラス対抗戦の所属不明機乱入事件は幕を引く事となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 管制室のモニターで白式を見ていた織斑千冬には目の前の現実が信じられなかった。ISとはパイロットの癖稼働時間と戦闘経験が蓄積される事でISコアや機体その物との同調が高まり、単一仕様能力を発現する第二形態『セカンドシフト』、さらなる進化である第三形態への『サードシフト』と呼ばれるフォームシフト現象が発生するが、両手で数えられる程度の訓練と二度の実戦だけでISがセカンドシフトが発現するなど、ISが世に出てからの十年間で一度たりとも聞いたことが無い。

 

 

「山田先生、白式はどうなっている……」

 

「そ、それが……機体名以外完全にロックされていて情報の開示を受け付けません」

 

 

 山田真耶が、現場の異常を察知して手元のディスプレイに表示した白式のデータを千冬も確認する。

 

 

『PMX-003IS 白式 Theology』

 

 

 見知らぬ型式番号と白式の後に記載された追加名称。

 

 

「Theology。意味はキリストの神学だったか?」

 

「それに準じて()()()()とも言われていたような……」

 

「…………はっ、この世界に神なぞいるものか」

 

 

 先程から嫌な予感がしてたまらない。千冬はブリュンヒルデだとか、IS学園の教師だとか、これまで築き上げてきた様々なしがらみをかなぐり捨てて、今すぐにでも弟とあのISを切り離したい。そして二度とISに近付けたくなかった。しかし、織斑姉弟を取り巻く環境が、世界がそれを許さない。世界最強の姉は、変貌した弟のISが一切の躊躇いなく敵機を解体する姿をモニター越しに見守る事しかできなかった。




「他者への滅私でのみ充足感を得る、か。やはり凡人共に利用される姉と等しく愚かな小僧だ。しかし時として、突き抜けた愚かさが世を動かす要因ともなる。いずれ来たる時まで、私の与える力に頼り、溺れるがいい、織斑一夏」
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