緑谷出久と直死の魔眼 作:けし
書きたかったシーンの一つですが、思った通りかどうかは分かりません。
あと短編でランキング入り&赤いバーとかちょっと麦茶吹きました。
出久君は直死の魔眼について、死が視える程度にしか考えてません。使いこなすとかそんなこともありません。使い手としては志貴以下です。躊躇う殺人者、在り方は式寄りです。
あとデフォで梅雨ちゃん呼びします。キャラ崩壊がえげつないので、合わない方はブラウザバック推奨です。
やってきました救助訓練。新調したコスチュームは様々な耐性を持っていて、接近戦メインの僕には都合のいいつくり。拳や脚部には厚めのプロテクターが仕込んであって、ありがたいとも思う。少し洋服調で、カジュアルにした。緑色だったけど。腰の部分には、校長先生の許可の下にナイフを仕込んだ。
──という要望を出して、現在製作中とのことだ。前回ボロボロになったコスチュームは母親からのをベースにしたある種の一点モノだったから、改めてその手の会社に依頼した。被服控除ということで費用もろもろは雄英持ちの便利なシステムだ。
なので僕は普通のジャージだ。まあデザインはともかく、機動性には問題ないからまあいい。ナイフはとりあえずズボンに鞘ごと配置した。
これにいつもの革ジャンを羽織って臨むというわけだ。多少不似合いの革ジャンは、やっぱり注目の的である。仕方ないけど、まあ気持ちの問題だ。
「デクくん、その上着はコスチュームなん?」
そら、こんな質問が来るとは思ってた。麗日さんが訝しげに見るので少し居心地悪いよ。
「いや、これは私物。というか、試験でも着てたじゃん」
革ジャンだけに。……などという下らない駄洒落は内心で殺しておいて、そもそもこの革ジャンは試験でも着ていたのだ。一部の人は見慣れないわけない。
諸々の違和感を飲み込んで、みんなで前を見据える。相澤先生と、その横に立つ13号先生。別に人造人間とかいうんじゃなくて、ただのヒーローネームだ。
USJなるこの場所──『
そんなことを考えながらも、13号先生はお小言を増やしていき、さて訓練開始──というところで、悪寒が走った。
「──何か、来る」
「デクくん?」
電気が落ち、室内が不安に揺れる。中央で水を吐き出す噴水の前で、空間が揺らいだ。レンズ越しに、黒く揺らぐ何かを見た。
「ひとかたまりになって動くな! 13号、生徒を守れ!」
相澤先生が明らかに予定外だという雰囲気を漏らす。
校風も先生も自由な雄英だ、すでに訓練が始まってるのか──という人たちもいたが。
「──
相澤先生が、そう口にした。黒いモヤから、不気味な瞳が僕らを見据えた。
用意周到なる奇策。外部から遮断し、僕ら全員を人質にとった、計算高い悪意。
皆が、放たれる悪意に体を震わせる。一般人ではなく、ヒーローとして相対するのは、いきなりで初めて。
「異形型が多いけど、統一性がない。大半は多分、ただのチンピラだ」
13号先生も頷く。間違ってはいないらしい。切島君が横で目を見開いているが、それは置いとく。
そしてあいにく、僕は悪意には慣れちゃっている。真っ当な対人戦闘はこの前のかっちゃんが初めてみたいなものだったけど、無差別無法な戦闘は、いくらか経験済みだ。いや、ほんと死ぬかと思った。あの人はサディストの気があるから、こうしたチンピラを生け捕りにしろとかいって、当時まだ無個性の僕を放り込んだ。当然死にかけた。
まあそんな経験があるので、苦にはならないのだけど。
とはいえ、今は相澤先生──イレイザーヘッドの独壇場。とにかく避難が優先……なのだけど。
『逃しませんよ』
面倒そうな黒モヤのヴィランが立ち塞がる。逃してはくれないらしい。
移動が不自然かつ速すぎる。跳ぶ──、恐らくは転移系。なんて厄介な。この前の騒動も、先生たちの言葉を聞いた限りだと主犯格だ。
さっきの様子から、この黒モヤを介して転移を行なっているはず。
『平和の象徴──オールマイトに、息絶えて頂きたいと思ってのことでして』
期せずして、目的ははっきりした。今のオールマイトならば、まあ苦労するだろうが可能性はある。そう易々とやられはしないけども。
13号先生が、その指を敵に向けた。けどそれより少し早く、かっちゃんと切島君が飛び出した。
攻撃力ピカイチの2人の攻撃、多少は──などという甘い希望は、流石に許されなかった。
『学生とはいえ、金の卵でしたね』
僕はレンズをずらして、世界を変えた。今のは実体を持たないゆえの透過だ。けれど生きているからには、どこかにモヤにできない箇所がある……かもしれない。
死が世界に張り付く。脳が発熱し、視神経も熱を持つ。モヤにすらも死が絡まるが、それは殺しても意味はない。ヴィランの正中線に沿って上から下まで見て、その中央部に、固定した死を見た。
「退きなさい君たち!」
13号先生はブラックホールを扱う。無限に吸い込み、削る。その気になれば簡単に人を殺せる個性。特に、眼前に味方がいる状況では使えない。そうして躊躇った時間は、ヴィランにとってカードを切るに余りある。
『私の役目は、あなたたちは散らして、嬲り殺す!』
黒いモヤが僕たちを覆う。実戦から遠ざかっていたせいか、僕も一歩動き出しが遅かった。モヤに飲み込まれ、どこかへ分断されてしまった。
いきなりの水責め。アトランダムだとは思うが、これも計画のうちならサディストの素質ありだ。
「っ!」
これまた異形型の、恐らくサメをベースにした個性。すでに仕込みはしてあったわけだ。
そういえば水中でOFAは使ったことないな。逃げられないし、いっちょ試すか。などと考えたところで、そのサメヴィランの背中を、蛙吹さんが蹴り飛ばしていた。そういえば個性『蛙』だったっけ。自然界の尺度だと逆なはずだけど、まあ練度の差かな。
伸ばした舌の先には、峰田くんが捕まえられていた。
「っは、助かったよ蛙吹さん」
「ケロ、梅雨ちゃんと呼んで」
ふむ、苗字は嫌いなのかな。まあいいや。
「うん、梅雨ちゃん」
「ケロッ」
さて、峰田くんは相変わらずの助平魂で梅雨ちゃんに甲板に叩きつけられ呻いていた。ある意味の平常心、敬服はできないけど。
「ケロ、ヴィランには、オールマイトを殺す手立てがあると考えるべきだわ」
「ひっ!? う、ウソだろ…?」
「妥当なラインだと思う。まあ問題はそこじゃないんだけど」
「はぁ!? 大問題だろ緑谷!!」
ちゃうねん。おっと思わず関西弁出てきた。
「問題は、そんなヴィランに嬲り殺すって私たちが言われたってことよ」
梅雨ちゃんが、正確に問題を明示した。
そう、所詮は卵である僕たちも含めて、皆を殺そうとしているということ。まあ、チンピラどもの拙い殺意じゃ何ともないのだけれど。この2人は別だ。
峰田くんは震えているし、梅雨ちゃんも図太い節はあるのだけれど、恐いという気持ちは隠せてない。
「ケロッ」
うわ、囲まれた。しかも殺意高いし。あー、木刀持ってくればよかった。
「緑谷ちゃん、大物ね。まったく動揺してないわ」
「み、みみ、み、緑谷ぁ〜」
地の利がない。船の上じゃあ逃げ場がない。幸いにも陸地は遠くないが、飛べるか?
2人は軽いけど、果たして。スライダーを経由すれば、余裕がある。蛙は両生類だし、陸地でも十分なはず。
「とりあえず移動するよ。ここじゃまず死ぬ」
「ひっ、やめろそんなこと言うな!」
「どうする気なの?」
脚部集中、10%。峰田君と梅雨ちゃんを抱えて、スライダーの縁目掛けて、助走もつけて、──跳ぶ!!
爆発するかの如き推進力。人を2人抱えていてすらも、尋常ならざる怪力。
縁が頑丈で良かった。着地の衝撃で割れはしたものの、ここは見逃してほしい。そのまま岩場へと方向転換し、なんとか陸地へとたどり着いた。
「と、はぁ〜〜、なんとか着いたぁ」
「ケロ、すごいわ緑谷ちゃん」
振り返ると、なんらかの個性で船が真っ二つになっていた。
──うわ、強すぎる。船の上から逃げて正解だ。
「とにかく、さっきも言った通り僕たちの個性は知られてないはず。初見殺し、出来なきゃ死ぬだけ!」
「でも、どうするの?」
うむ、まあここじゃあもぎもぎも蛙の個性もぶっちゃけ辛い。
というわけで、矢面に立つのは僕しかいない。
逃げるのも手だが、例えば轟君あたりに凍らせてもらえば解決だったりする。今は無理なアイデアだ。大ピンチ。
「さっさと殺してしまおうぜ!」
おっと、ヴィランも痺れをきらしたな。とにかくはぐれないように3人固まって動くのが最善。
水から飛び出した奴らは──!
「OFA、
──
空気を殴りつけ、その衝撃で叩き落とす。ぶっつけだったけど意外になんとかなるものだ。まあかっちゃんの奥の手かき消したくらいだし、当然といえば当然かもしれない。
「すげぇぇぇ!!」
「これなら……!」
「ごめん、そんなに乱発してたら僕が詰むから期待しないで!」
体への負担は少なくない。体力消耗も割と馬鹿にならない。
それに、先鋒を潰しても次鋒がいるのは見てわかる。やはり今の限界は25%で、瞬間限界で30%か。ああ、十分に不十分。
その力で津波でも起こして押し流す──のは水中には届かない。
上から殴れば、水中にも流れを作れる。渦流れのように、中心に集まるはず。──集まる?
──よし、ちょうどいい。
「峰田君、梅雨ちゃん、作戦がある」
──25%のOFAで上から水をぶん殴り、生じた流れの中でもぎもぎがくっついた敵が渦の中心でくっつく。僕は落下前に梅雨ちゃんに回収。
という作戦はなんとかうまくいき、思った以上に激しい流れは、幸運にも敵を陸地へ打ち上げてくれた。
大した怪我もなく、なんとか切り抜けられたわけだが、果たして他のみんなはどうだろう。チンピラ相手なら、とは思うけど、状況が状況。数で上回られて、地の利もほとんどない。連絡も取れない。
「っ、相澤先生!」
とりあえず噴水の方、相澤先生に群がるチンピラの一部でも、という話だが、まあ見向いてもくれない。
戦況は互角なようで、相澤先生が押され気味。峰田君も梅雨ちゃんもすごいというが、不利な状況になりつつあるのだ。
しかし、それでもチンピラ全員を倒したのは流石というべき。
「あ、あぁ……」
でも、それは不気味な絶望として立ちはだかった。右腕の肘部分が崩れ、肉が露出している相澤先生を潰した。右腕を折り、潰し、頭を叩きつけた。ついでにもう片方の腕も潰していた。いくら先生が頑丈にしたって、あれは無茶だ!
次は、こっちに来る。背部のナイフに手をかけるのを、自制する。僕は今ヒーローの卵としてここにいて、決して殺人鬼ではないのだ。ヒーローへの憧憬は、間違いなく心の中にある。
白髪の、死柄木と呼ばれた男が。平和の象徴の矜持をへし折ると言って、相澤先生の腕を壊した掌を向けた。
触れることが条件なのは間違いない。掌だけなのか、それとも。
思考が深化し、自己暗示が深く嵌まる。視界が狭くなる──ことはなく。余計な情報が排されて、死の無い正しい世界がスローに見える。
そんな世界で、死柄木がその掌を梅雨ちゃんに伸ばした。殺意が見えた。純粋で無知な、赤子のような。
「痛いなぁ。……はなせよ」
「断る。とりあえずスタート地点に、ね」
伸ばした腕の、手首を掴んだ。破壊が起きないとすると、多分掌が効果範囲。
掴んだ腕を振り回して、とりあえず投げ戻した。怪物が動かないままなのは、アレ自体が自立思考するものではないから?
「いてて……、あぁ、脳無、殺れ」
沸点はかっちゃん以下か!?
「梅雨ちゃん、峰田君離れて!!」
咄嗟に水から出て、陸地で構えた。奇怪な怪物が、その手を伸ばした。有機的なその姿から、無機的な殺意を受けた。
咄嗟の呼びかけに、梅雨ちゃんがなんとか反応してくれた。峰田君を抱えて水中を飛んだ。さすが、まさに蛙さながらだ。
腕を突き出して猛突進してくる怪物。体格差を見ると、殴打の類は悪手になるだろうか。
遅滞した世界において、このスピードならば対処は可能だ。きっと側からみれば恐ろしいまでのスピードなのだろう。
「せー、の!」
突き出した腕を抱え込み、勢いそのままに水中に投げ込んだ。
盛大な水飛沫を上げて叩きつけられた怪物は、声の一つも上げていない。
「そいつはあらゆる衝撃を吸収するんだ、そんなもんじゃビクともしないぜ」
「……なるほど」
物理攻撃がほぼ無効化される、大半の攻撃が通じないも同然か。電気ショックや窒息、酸欠などはどうだろうか。こんなナリでも生物であるからには是非効いてほしいところだ。
しかし、今の僕にはまともな攻撃手段が無いことになるわけだから、逃げ回るという選択肢に追い込まれた。そもそも勝てるとは思ってないけども。というより、その選択肢すらも行き止まりなまである。OFA有りでも逃げ切れる気がしない。
その時、何かが来た。それは、眩いまでにあって。
「──もう大丈夫。私が、来た」
オールマイトだ。途端に安堵の空気が流れ、誰もが涙を浮かべた。これでなんとかなる、終わりだ、というような。
ネクタイをちぎり捨てたオールマイトは、チンピラ共を一瞬で薙ぎ払い、相澤先生を助け出した。
「緑谷少年、下がってなさい」
僕も、これで眼を使わずに済む、くらいには考えた。衝撃吸収の話をすると、それでもオールマイトはグーサインを見せた。相澤先生を預けられた僕は、梅雨ちゃんたちと合流してこの空間の入口に向かった。
振り返ると、バックドロップでとんでもない音を立てて怪物を沈ませていた。アメリカのヒーローコミックスの中の方が、オールマイトは映えそうだ。超人の中の超人、狂人に紙一重の、だからこそ背負える平和の象徴という重石。残り火だとしても、それは余りあるパワーだ。
「っ!?」
オールマイトが、追い詰められている。かつての古傷を無理矢理開かれ、血が滲んでいる。
「……梅雨ちゃん、先生を頼む」
「ケロッ、だめよ緑谷ちゃん!」
「あぁ、分かってる。だから、僕も本気でいく」
ヒーローの卵としてではなく。なりふり構っていられないのだから。
自制していたはずの意識は、もういなかった。背部の鞘から、使い込んだナイフを引き抜く。
「緑谷ちゃん、それは」
「それと梅雨ちゃん、これを預かってて」
かけていたメガネを、梅雨ちゃんへ渡す。ただの伊達メガネで、魔眼殺しのそれを外せば、僕の世界は変わっていく。
「大事なモノだから、壊さないでね」
脆く、壊れやすいガラス細工の小世界。視界に点と、それをつなぐかのような線。まるで蜘蛛の糸だ。
人間は言うに及ばず、植物にも大気にも、時間にも。当然、あの怪物にも。
脳が発熱する。視神経が過熱する。血管と神経が電熱線になったかのような熱量に、身体が強張った。
OFA・5%の脚部強化。腕力なんて不要だ。死は不可逆で、死に強度などないのだから。
オールマイトを締め殺そうとしたヴィラン、黒霧と呼ばれていただろうか。それが目の前に現れた。転移系の個性はこれが出来るから厄介なんだ。
だけど。だけど、コレは生きている。既に死は視た。躊躇うな。今の僕は、殺人に手を伸ばす、殺せない殺人鬼。
「どけデク!!」
「っ、」
声が聞こえ、反射で横に跳ねる。瞬間、OFAの加速を追い抜いたかっちゃんが、その掌を黒霧なるヴィランに叩きつけた。固定された死の線に覆われた、おそらく霧に出来ない本体部。流石にかっちゃんも気付いていたらしい。
「思った通りだ」
この眼が無ければ、その場所は分からなかっただろう。やはり才能の塊というに相応しい。僕のこのろくでもない才能とは大違いだな。
その横から切島君がやってきて、轟君が怪物を凍らせていた。繊細なコントロールを苦もなくこなすその様子は、どこか手慣れているようにも見えた。
それを好機と、オールマイトが辛くも拘束から逃れた。突き立てられた爪は違うことなく古傷を貫通し、痛みに耐える表情をしていた。
「Shit! ショック吸収だけじゃないのか!?」
「それだけと言ったつもりはないぜ?」
死柄木が笑う。ギチギチと再生する肉体が気味悪い。あり得ざる光景に周りが驚いたように動きを止める。
オールマイトの100%以上に耐えられる、不死身の怪物。それが脳無だと。
「まずは出入り口を確保しなくちゃな。……やれ、脳無」
怪物が突進する。オールマイトが出遅れる。──予見できたことだ。
再生? ショック吸収? ──関係ない。
オールマイトを殺すと宣う稚拙な敵を、僕が嘲笑おう。
「っ、爆豪少年!!」
「爆豪ぉ!!」
土煙が晴れる。僕が振り上げたナイフが、寸分違わず線をなぞり上げて腕を切り飛ばした。
「正当防衛だ。だから、殺されても文句はないよね?」
「……テメェ」
「おいおい、物騒なこと言うヒーローだなぁ。本当に雄英生か?」
パチリと、足下から緑電が弾ける。OFA・25%の脚部強化だ。それでも十分に間に合った。
「……おい」
脳無が、不恰好な大口を開けていた。失った右腕を見つめ、何も起こらないことに何も感じていなかった。意思のない、ただの人形か。
「なんで再生しないんだよ。超再生の個性だぞ、腕の一本や二本、直ぐに生やせるだろ。……何をした、オマエ?」
「答える義理はないよ。でも、殺したんだから戻らないのは当然でしょ」
「緑谷少年……?」
そういうと、死柄木は首を掻きむしりながら、苛立った声を上げた。オールマイトも知らない、矛盾した殺人鬼が顔を見せる。
「なんだよコイツ……、反則じゃねえか」
ふと視界が赤く滲んだ。目元を拭うと、血涙が流れていたらしい。
その様子を見ると、ヴィランは笑った。
「物騒で、ぶっ飛んでるなぁオマエ。『殺す』だなんて、ヒーローの台詞かよ」
「殺人鬼なら、問題はないよ。なるつもりはないけどね。それに今日日よく聞くよ。言われてる側だけど」
「残念。仲良くなれそうだったのに」
「奇遇だね、僕もだよ」
直死の魔眼。最高位の魔眼とされるこれは、対峙した人間の恐怖を煽る、一種の魅了に近い催眠をもたらすらしい。あの人がそう言っていた。死柄木はコレを見て、一歩後ずさった。どうやら効果はあるようだ。
「やれ、脳無」
聞き飽きた命令調に従い、怪物が牙を剥いた。友人が、オールマイトが名を呼ぶが、耳から耳へと流れていく。
「まだ何も知らない君に、──教えてやる」
片腕を喪って、なお衰えない無機殺意。しかし。
──死は、避けられない。点と線は、これ以上なく明確に。
「これが、モノを殺すってことだ」
瞬間、振り回す腕力を強化。1秒を刻み、怪物に17回の死を与えた。
かつてこれを成したという人間はただの技量のみでやり遂げたというが、どんな化け物だったのだろうか。
「……は?」
怪物が、息絶えた。再生など不可能。死んだモノは再生しない。
そんな中で平静を取り戻したのは、敵が早かった。黒霧という敵が呆然としていたかっちゃんの隙を突いて、自身を転移。拙い憎悪と笑みを漏らした死柄木を連れて、闇の中へと消えた。
脳や視神経が過熱した。赤化した鉄棒を突き込まれたかのような、不快で激しい痛み。意識が、漂白されていく。繋ぎ止めていた糸が切れ、血涙が溢れる。実は怪物の爪先が僅かに触れていた脇腹からも、血が溢れていく。
「緑谷少年ッ!!」
前のめりに倒れた僕は、事後報告の形で事の詳細を聞くことになった。
まあその中で僕の力のことを問われると、なんと答えるべきか。到底理解の及ばない、死を視る力だ。そんなことを、まだ動けないらしい相澤先生の代わりにと言って、校長先生が訪ねてきた。目に包帯を巻きつけられたままなので、声だけでの判断。
はて、どう説明したものか。逡巡していると、これ自体でどうこうと言う話ではなく、あくまで知りたいだけだという。僕は紛れもないヒーローの卵であり、雄英が守るべきものだと。なので、まあ、どうにも引き下がってはくれなさそうなので。
「はぁ。これは母さんにも話してないので、内密にお願いします」
眼を覆う包帯を解き、光の中に死を視る瞳で校長先生の姿を捉えた。その時、果たして校長先生は何を感じたのだろうか。
なにはともあれ、とりあえず僕はいつも通りの日常に戻ることが出来た。
別作品にて両儀式ベースのオリ主を書いたので、この出久君は遠野志貴ベースに(今更ながら)しました。式の要素もちょくちょく混じってますが、その辺は勘弁してください。