だが、俺たちはここで気付いた。
言動も行動も激しいフレイにばかり囚われ、キラ君の方を見ていなかったことに。
そもそもここに来たのは、キラ君を抑えるためだったのだ。キラ君は…… ザフトの銀髪のパイロットを殺したりしていないだろうか。
慌てて目をやると、やはりキラ君は銀髪のパイロットのところにいたのだ。
早く抑えなければ…… しかしキラ君の動きはとてもゆっくりしたものだった。
「また俺を殴りたいのか? さっき貴様は避難民がどうとか言ってたが。ああ、そうさ、シャトルに乗っていた避難民は俺が殺した」
「…………」
「俺が撃ったんだ。ナチュラルなんてゴミくず、撃って当たり前だ。どうだ、これで殺したくなったか!」
「殺してやりたい。しかし、それであの子は戻ってこない。これを見るんだ」
「何だと……」
キラ君は殴ることも殺すこともせず、手に持ったものをザフトのパイロットに見せる。
それは、風車の形をした折り紙だった!
「これは、避難民の女の子が僕にくれたものだ。別れ際に」
「避難民の、子供……」
「いつもストライクに置いてるんだ。その女の子はとっても明るくて、元気で、いい子だったよ。殺した者のことは知りたくないか? いや、知っておくべきだ」
「俺が殺した、子供。俺が……」
銀髪のパイロットはそれでも謝罪や後悔の言葉を言ったりしない。
だが、泣いていたのだ!
「ナチュラルの避難民なんて…… どうして戦闘の最中に…… だったら艦隊のお偉方が逃げたと思っても仕方ないじゃないか。あの時は、そんな余裕なんてなかったんだ!」
「でも、武装のないシャトルをわざわざ撃たなくてもよかったよね。僕と戦っていたんだから」
「し、しかし」
「どうして泣くの、今さら」
これを見て俺は理解する。
銀髪のパイロットは強がっているが、とても後悔しているのだ。
心に傷を負ってしまっている。それこそ顔の傷の比ではないくらいに、深く。
キラ君は自然と追い詰める形になってしまったが、それは意図してのものではなく、どうしても伝えたいことを伝えたのだろう。
俺はやはりこの戦争は悪だと思う。
どちらの立場の若者たちも悩み苦しんでいるのだ。
ならば俺もまた伝えるべき言葉がある。
「君が避難民を殺したパイロットかな。一つ話しておきたいことがある。いや、偉そうな説教じゃない。俺がかつて知っているパイロット、シーマ・ガラハウ中佐の話だ。彼女は軍の命令に従い、自分が何をしているのかも分からず作戦を行った。それは民間人の虐殺だった」
「なんのことだ……」
「住民を虐殺した彼女は、それでどんなに苦しんだことか! 苦しみ続け、心の痛みに耐えかね、夜も眠れず…… 最後は亡霊を見るまでになった。宇宙の闇の中、自分の乗るMSを数えきれない恨みの目玉が取り囲んでいるということだった。しかし、彼女は立ち直ったのだ。いや、立ち直らずにはいられなかった。死者に対する贖罪は死ぬことではなく、正しい道を歩むことしかない。いくら苦しくとも、まっすぐに」
「…… 俺は……」
「今はよく考え、そして生き方を決めろ」
そう、これはシーマ・ガラハウの物語だ。
彼女は立派に立ち直り、再建したマハル・コロニーをついに守り通したんだ。
どうかそれと同じようになってほしい。
そして崩れ落ちる銀髪のパイロットを置き、俺はもう一人の短髪のパイロットに向かう。
「別の者の話もしておこう。アナベル・ガトーという者の話だ。彼は誰よりも強く、戦い続けるパイロットだった。信念があったんだ。それは差別も搾取もない社会を目指すことだ。しかし彼は決して敵を無駄に殺すことはせず、逃げ遅れた整備兵がいたので敵MSを見逃すことすらあった。つまり大事なことは理想であって殺すことじゃない」
「お前はいったい、何だ」
「俺か、俺はコンスコンだ」
「…………」
「別にナチュラルにもコーディネイターにも与する気はない。この体はナチュラルというものらしいが、俺は宇宙の民の方が近いから複雑だな。しかし、この戦争を止めさせたい。ナチュラルもコーディネイターも人間だろう。違うか」
俺の言葉が通じただろうか。
まあ難しいが…… 少しだけでも心に残ればいい。
その頃、俺の知らないところでわずかな事件があった。
「ディアッカとイザークがMIA!? そんなことって…… クルーゼ隊長、それは何かの間違いでは!」
「アスラン、事実だから仕方がない。ジブラルタル基地がそう言っているのだからな。突出しすぎて見失い、回収できなかったらしい。もちろん私も残念に思っているのだ」
「いえしかし、まさかあの二人が…… それに二人が撃破されたところを見たのではないんでしょう? だったら今からでも捜索して」
「そんなことはできない。冷静になれ、アスラン。そういう気持ちがあるなら足付きにいずれ仇討ちをするんだ」
ザフトのカーペンタリア基地においてアスラン、ニコル、そしてラウ・ル・クルーゼがそういう話をしている。
むろん、話題はMIA認定をされたディアッカとイザークについてである。
地表上でやっと皆が合流し、クルーゼ隊として態勢を整えるはずだったのにまさかの事態だ。
クルーゼは冷静にその事実を伝えるが、聞いているアスランやニコルは動揺せざるを得ない。
決してまとまりがいいとはいえないクルーゼ隊ではあるが、お互いの力量は知っている。おまけに乗っている機体は連合とオーブが作り上げた最新鋭MSデュエルとバスターなのである。簡単に撃破されるはずがない。
この事態に際し、とりわけアスラン・ザラには後悔がある。
アーク・エンジェルのストライクには親友キラ・ヤマトが乗っている。そのキラに対し、幾度もコーディネイターとしてザフト側に来るよう呼びかけたが、それはいつも無駄に終わっている。お互いに守るものができ、立場はもう乗り越えられないものになっていたのだ。しかしアスランはどうしても諦めることができず、ストライクを自分のイージスで冷酷に葬ることができないでいた…… その結果、ディアッカとイザークの二人が失われたのではないだろうか。
しかし問題はその後だった。
クルーゼ隊の中でもニコル・アマルフィは心優しい少年である。その心の通りに優しくピアノを弾けるくらいだ。
そしてクルーゼ隊の中でもアスランの悩みを理解している者だった。
自然、もう一度探索をクルーゼ隊長にお願いする気になった。ディアッカとイザークの探索を気の済むまでやり切らなければ、アスランにいつまでも心残りが存在し続ける。
数日間逡巡した挙句、無駄でもいいから言うべきだと思い、クルーゼ隊長のオフィスに向かう。軍令時間外の夜半だ。
そしてノックしようと息を止めた瞬間、かすかに声を聞いてしまう。
「オペレーション・スピットブレイクは間違いなく発動される。いや、パトリック・ザラはどうしてもやらざるを得ない。クライン派を追い落としたばかりで、その反撃を断つためには自らの勝利が欲しいところだ」
「…… 狙いどころはアラスカ基地か。なるほど分かった、協力者C。こちらもそれに対応して考えよう」
この会話は何だ!!
ニコルは驚きながら考える。
クルーゼ隊長が何かを語っている。その内容は分からないが、プラントの動きであることだけは間違いない。
話している相手は分からない。たぶん通話なのだが……
それにしても協力者というのがとてつもなく嫌な響きに感じるではないか。
突き止めるよりもとにかく離れた方がいい。予感がそう告げる。
ニコルは後ずさり、来た通路を急いで帰る。
角を曲がって消える瞬間、その緑髪をオフィスから出てきたクルーゼが見てしまった。
「今のはニコル・アマルフィか? さて……」