コズミック・イラ のコンスコン!   作:おゆ

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第十一話 スピット・ブレイク

 

 

 アーク・エンジェルはまたしても連合軍上層部に振り回される羽目になっている。

 

「暗号解読、終了しました。新たな軍令です」

「また? どういうものなの、ナタル」

「今度は…… 厳しいものです。パナマ基地に寄らず、可及的速やかにアラスカ基地に来るように、しかもアラスカでは査問会が予定されるので出頭せよと」

「アラスカ基地へ直ぐに!? そして査問会とは……」

 

 これには戸惑うしかない。

 上層部からの命令がコロコロ変わっている。しかも今度は査問会までちらつかせているとは!

 マリュー・ラミアスは正直いえば査問についてはある程度覚悟していた。

 思い当たる節が多すぎる。最大のものは、コーディネイターであるキラ・ヤマトを連合軍最高機密ストライクガンダムのパイロットに据えていることだ。他にもアルテミス基地陥落の経緯について、あるいは第八艦隊壊滅について、いちゃもんを付ける気ならばいくらでもできるだろう。

 

「ナタル、二人の捕虜を降ろすことも、補給を完全にすることもできないのね……」

「残念ですがこれは軍令ですので、艦長。それに当初予定していたアラスカ基地降下よりかなり遅れているのも事実です」

 

 

 しかしながら補給についてだけは目途が立った。

 何とパナマ基地から巡洋艦一隻、駆逐艦一隻がアラスカ基地まで随伴してくれることになったのだ。

 

 アーク・エンジェルは飛び立ち、上空からパナマ基地を横目に見つつ一路北を目指す。ここまで来て、という思いもあるが軍令であれば仕方がない。

 途中で随伴艦と合流し、補給物資の受け渡しが行われる。しかし不思議なことにそういう物資のこと以外では随伴艦は一切交流を持とうとしなかったのだ。

 

「これじゃ、護衛じゃなくて護送、だな。囚人のようなものさ。ご丁寧にもアーク・エンジェルが余計なことをしないように見張りを付けたんだ。上層部は」

「そうかもしれないわね。仕方ないと思うけれど」

 

 ムウ・ラ・フラガと艦長がそんな会話をしている。

 聞いている俺としては、今一つこの艦の経歴が分からないために不思議に思ってしまうが、そういうものなのか? 艦もクルーもとてもいいのに上から疎まれているとは。

 

 

 

 そして結局アーク・エンジェルはアラスカ基地に辿り着けない。

 

「ザフト艦発見! 進路方向に二隻!」

「向こうはまだこちらに気付いていない。対艦ミサイルスレッジハマー用意! 先制攻撃をかける」

 

 不意にザフト戦力と遭遇戦になってしまう!

 ナタル中尉やキラ君の頑張りにより、そう大事にならないうちに対処はできるのだが……

 それが一回では済まなかったのだ!

 遭遇戦が二回、三回と続いていく。

 パナマ基地からの随伴艦は戦闘になれば弱く、ザフトのMSジンによりどちらもあっさり沈められてしまった。

 MSを考慮していない時代に造られた艦はあまりに脆い。

 直線的に動く戦闘機には自動で弾幕を張れても、高機動のMSには何もできない。火器管制OSがそれに対応していないからだ。対空防御は無きが如しになり、戦闘にならない。乗員が脱出できたのはせめてもの救いである。

 

 図らずもアーク・エンジェルとストライクガンダムの強さを再確認する結果になり、再びアーク・エンジェルは単艦に戻ってしまった。

 しかしここで考えるべきは遭遇戦の多さだ。尋常なものではない。

 

「妙だ…… 遭遇戦が一回ならまだしもこう続くだろうか」

 

 ナタル中尉がそう漏らすが、俺もそう思う。

 もちろん艦長マリュー・ラミアスも同意見だ。

 

「ナタル、確かに妙ね。これは、もしかするとザフトが大作戦を行おうとしているのかしら。それで部隊を多数動かしている……」

「艦長、とすればザフトの狙いはアラスカ本部かも知れません。そこに備えて集結しつつある可能性が」

「アーク・エンジェルもアラスカに向かう以上、このままだと敵中に突っ込み、無理やり通らなくてはいけなくなるわね。少し様子を見なければ危ない」

「いえそれでも時間を置くことはできません。軍令はあくまで速やかな到着、これに背けば更に問題になります」

「ナタル……」

 

 これには正解はない。

 自分の命が危険なのに軍令を順守するナタル中尉は立派だ。

 しかし現実的に無理なことを避ける艦長もまた正しい。

 結局アーク・エンジェルは様子見をすることになった。ザフトの動きを見て、通りやすいところを見極めてから突破することを選んだのだ。アラスカ手前の太平洋上でぐっとスピードを落とし、索敵を充分にする。むろん通信傍受も最大限だ。

 

 

 

 すると…… 電波妨害の厳しい中、一つの通信が入ってきた。それは意外にも連合軍回線の緊急用のものだった。

 

「……至急来援を乞う!! 傍受した連合艦は発信地点へ来援を! こちら連合軍参謀本部、ザフトに襲撃された! 発信地点へ直ちに来援を!」

 

 それはもはや悲鳴に近いものだ。緊急回線とはいえ、もしも解読されたら余計にザフトを呼び寄せる結果にもなりかねない。それでも発信するからには直面している戦況が末期的であることを如実に表している。

 

「発信地点の特定を急げ! そこへ向け、アーク・エンジェル発進! 機関最大戦速へ!」

 

 ナタル中尉が即断し、そこへ向かおうとする。もちろんラミアス艦長もうなずいている。

 今、味方の危機に駆け付けるのは当然だ。

 それに…… 発信源は連合軍の参謀本部と言っている。それが本当なら連合の中枢ではないか。

 

「発信地点出ました! それが……アラスカ基地近辺ではなく…… 洋上です! ここから至近!」

「何だと! 有り得ん! 参謀本部がアラスカ基地付近の偵察ならまだしも、どうしてこんなところに! ザフトが多数接近する中、自分で出てきたとでもいうのか!」

 

 ミリアリアの報告に対し、ナタル中尉が叫ぶのは尤もなことである。

 まるで意味が分からない。

 思わずザフトの謀略を疑いたくなる。しかしアーク・エンジェルが通信傍受を強化したのは自分たちで決めたことであり、偶然に過ぎず、謀略の線は有り得ない。

 アーク・エンジェルは戸惑いながらも急行する。

 

 

 

 

 その少し前のことだ。

 アラスカ基地を出て、太平洋上を南下している一団がいた。

 タラワ級、デモイン級の水上艦艇が密集し、全速力で航行している。総数は十二隻という数だったが……出発時においては。

 しかし途中ザフトの哨戒に引っ掛かり、たちまち有力部隊と交戦する羽目になっている。

 ザフトの快進撃の原動力である量産型MSジンの猛攻を受けているのだ。連合軍初の量産型MSストライクダガーはようやく部品生産を始めたばかり、とうてい間に合っていない。

 

「右舷より敵MS五機急速接近! 更に後方より五機!」

「撃ち墜とせ! 何をしている!」

「し、しかし至難の業かと……」

 

 艦橋に連合軍本部参謀のお偉方がいるのだが、オペレーターに向かって声を上げているのはその中の一人、ウィリアム・サザーランド大佐である。

 

「犠牲はやむを得ん! この艦だけ守ればいいんだ! この艦だけ! それと最大出力で救援信号を出せ」

「……」

 

 そんな自分勝手な命令をオペレーターは伝えざるを得ない。

 しかしそれでも逃げ切れるだろうか。

 

「し、進路はこのままでしょうか? 安全を考えればアラスカ基地へ引き返すべきでは……」

「それだけは絶対にできん!」

 

 余計にオペレーターは当惑する。

 そもそも敵の多い中、どうしてこのタイミングでアラスカ基地を出てきたのか。

 おまけに絶対戻らないと言い切る理由は何なのか……

 サザーランド大佐を始めとした参謀たちの行動はおかしい。

 

 

 そのサザーランド大佐の方では、そんなオペレーターたちを見ながら苦り切った表情だ。

 むろん、心中はそれ以上に焦りがあり、呟きとなって漏れてしまう。

 

「くそッ! こうなったのもアーク・エンジェルのせいだ! あれがもっと早くアラスカに来ていれば問題なかったはずが……」

 

 

 

 

 

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