コズミック・イラ のコンスコン!   作:おゆ

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第十二話 裏切り

 

 

 サザーランド大佐はアーク・エンジェルに悪態をつく。それがまだアラスカ基地に到着していないからだ。

 

 しかし、それは筋違いとしか言いようがない。

 アーク・エンジェルに対する命令が二転三転したのは主にサザーランド大佐のせいなのである。

 

 極秘開発のガンダムを奪われ、ヘリオポリス崩壊のきっかけを作ってしまったアーク・エンジェルの存在を初め疎んじていた。当初はアラスカ基地へ呼ぶ気もなく、どこかで撃破されれてしまえば都合がいいとまで考えていたのだ。

 しかし詳細を知り、機密兵器をコーディネイターの民間人に任せていることを知ると、むしろ査問をするために呼ぶ気になった。勝手なものだ。

 ところが、アラスカ基地にジェラード・ガルシア少将がやってくるとまた様相が変わる。

 ガルシア少将は自分のいたアルテミス基地が損壊したので、その修理の間地表に降りてこのアラスカ本部にいる。重要なのはそこではなくガルシア少将がユーラシア閥の筆頭だということだ。そんな折に大西洋連邦で建造したアーク・エンジェルを改めて問題視するのはいかにもまずい。問題を大きくすれば大西洋連邦の失点になるし、逆に問題をもみ消せばユーラシア閥が黙っておらず、いかにも都合が悪い。大西洋連邦閥の中心であるサザーランド大佐にとっては。

 

 そのためにアーク・エンジェルへの軍令が変わった。

 つまり軍令がころころ変わったのは連合軍内部の派閥争いという下らないことが原因だったのだ。

 

 しかし、大至急アラスカ基地に来いという最後の軍令だけは、絶対に必要なものであった!

 

「アーク・エンジェルが来ていればもっとザフトを引き付けられていたはずだ! このままでは中途半端になる。しかもこんなところで哨戒に引っ掛かったのも、全部あの艦のせいだ」

 

 ザフトが目の仇にするアーク・エンジェルは格好の囮になる。それを利用すればザフトをきっちりアラスカ基地に集めておける、そういう目算があった。

 サザーランド大佐はザフトがスピット・ブレイクという作戦を発動させ、アラスカ本部を大部隊で攻めることを知っている。

 しかし、それを完全にする最後の一ピースがアーク・エンジェルだったのだ。

 

 

 アーク・エンジェルは結局間に合わない。

 ザフトのスピット・ブレイクにも、それを利用した連合のサイクロプスによるザフト殲滅にも。

 

 アラスカ基地にいるはずのガルシア少将は死んでくれるだろう。ほとんどユーラシア閥で構成される本部守備戦力も同様である。彼らは基地を離れられないからだ。

 しかし、大西洋連邦の方も犠牲を被ったと言い訳するためのアーク・エンジェルはいない。そして何よりザフトの完全殲滅は難しくなった。

 

 いや、もっと重大な問題がある!

 自分たちだけでとっととアラスカ基地を脱出にかかったのに、途中でザフトと戦う羽目になったとは。

 そんなはずではなかった。

 ザフトがもっと基地へ集中していれば……

 おまけに本当なら自分たちのアラスカ基地脱出に潜水艦を使う予定だった。それが最もザフトに見つけられにくい。ミサイル一発でお終いになる航空機は使えないし、水上艦は哨戒に引っ掛かる可能性がある。しかし潜水艦はどうしても船足が遅い。アーク・エンジェルの到着を待っていたために脱出のタイミングが遅くなり、その点を思案した結果水上艦を使ったのだが……却って仇となったとは。

 

 

 

 アーク・エンジェルはそのサザーランド大佐たちの戦闘には間に合った。

 

「交戦位置に間もなく到達! 連合の残存艦、二隻のみ。他は沈没寸前、あるいは操舵不能のようです! その周囲にザフトMS多数!」

「状況は良くないけれど…… 対空ミサイルウォンバット用意! そしてストライク及びスカイグラスパー発進! ザフトMSを排除し、友軍を救い出して!」

 

 通常なら戦力的に見て無茶な介入ともいえる。

 だが、救援信号では確かに参謀本部と言っていた。それならアーク・エンジェルとしては多少のリスクを負ってでも救援の責務を果たすべきである。

 

 

 しかし、ここで何とザフトに新手が加わった!!

 

「ふふ、足付きを追ってくれば面白いことになった。これに乗じて撃破しよう。アスラン、ニコル、行ってくれ」

 

 それはクルーゼ隊だ!

 彼等はアーク・エンジェルを密かに追ってきていた。

 ザフトのカーペンタリア基地を出たところでアーク・エンジェルの情報が入っていた。遭遇戦でアーク・エンジェルに叩かれたザフト部隊は、せめてその位置ぐらいは発信していたからだ。

 それを掴んだクルーゼ隊は密かに追尾し、襲撃するタイミングを図っていたところだった。

 この混戦で戦力を分散させたアーク・エンジェルを叩けるのは実に都合がいい。

 

 今、この戦場は連合首脳部、それを囲むザフト部隊、アーク・エンジェル、クルーゼ隊が会している。

 

 

 

 ザフトのジンたちを墜としていたストライクガンダムは、アーク・エンジェルに慌てて引き返す。クルーゼ隊から発進したイージスが取り付きそうになっているからだ。

 

「やめろアスラン! アーク・エンジェルには大事な仲間たちがいるんだ!」

「キラ! お前の方こそ! バスターとデュエルはどうした! 墜としたのはお前か!?」

「いや、それは違う! そしてパイロット二人のことを言ってるのなら艦にいる」

 

 これにアスランは驚く。やはりディアッカとイザークは生きていた!

 それはいいが、捕虜として乗せられている!? こうなるとアーク・エンジェルを下手に攻撃できない。

 

 普通だったらそれでも命令として遂行しなければならないが…… アスランはそれをできるわけがなく、まるでごまかしのようにストライクガンダムに立ち向かう。

 ストライクとイージスが互いに見合う。

 しかしキラとアスランはどうしても本気で戦うことはできない。どちらにも恨む理由はない。大切な友達なのだ。斬り合いは浅く、そこに殺気はない。

 

 

 

 そんなところへ通信が入る。

 何と一般回線であり、その発信元は壊滅に瀕している連合軍首脳部だった。

 

「サザーランド大佐だ! 協力者C、何をしている! 早く救え!」

 

 これを聞いたラウ・ル・クルーゼは仮面の奥で呟く。

 

「ふむ、やはり愚物は放置できんな……」

 

 そしてイージスとブリッツに新たな命令を伝える。

 

「アスラン、ニコル、足付きは後でいい。あの連合艦へ向かえ。そして必ず沈めてくれ」

 

 むろんこの命令にアスランは喜んで従う。もうキラと戦わず、ディアッカとイザークの乗っているだろうアーク・エンジェルを攻撃しないで済むからだ。急に命令が変更されたことについて深く考えることはない。

 だが…… もう一人のニコルの方は動けなかった。

 

 その様子を見たラウ・ル・クルーゼは「私もシグーで出る」と言い残し、戦場へと向かう。

 

 

 

「クルーゼ隊長! 協力者とは何です! それは隊長のことですよね。まさか隊長は…… ザフトを」

「勘がいいな。ニコル・アマルフィ、とても残念だ。そして少しだけ認識を正しておきたいが私は裏切ってなどいない。地球連合を潰したいのは本当だ。ただし、ザフトともども」

 

 ニコル・アマルフィは信じたくないものを聞いてしまう。

 だが、ニコルは心が優し過ぎて、それで戦闘行動に出ることはなかった。

 

「分かりたくありません。どうして…… 隊長は」

「人というものはとても業が深いものだよ。それを知るにはニコル、君は今まで幸せ過ぎたのだ」

 

 そしていきなりだった!

 クルーゼのシグーがニコルのブリッツを斬り払った!

 このタイミングではブリッツのミラージュコロイドも使っておらず、それ以前に戦闘態勢に入ってもいない。

 斬られたブリッツは空中から転げるように落ちていく。システムは完全にダウン、推進装置も何も働かない。

 

 ニコルを乗せたまま、海中に没した。

 

 

 

 その頃、アスランのイージスはサザーランド大佐の艦にとどめを刺している。

 

「こんなところで、私が、なぜだ!」

 

 この言葉を残し、脱出途中で艦の轟沈に巻き込まれ、サザーランド大佐は戦死した。

 

 

 それを見届けてアスランが帰投にかかるが、なぜかクルーゼ隊長のシグーが出ている。

 逆にニコルのブリッツが見当たらないではないか。

 

「アスラン、ご苦労だった。見事に連合艦を沈めたな」

「隊長、ニコルは? どこに?」

「…… 私にとっても意外なのだよ。ニコル・アマルフィは敵の謀略に引っ掛かり、裏切る行動を見せた。そのため反逆罪で私自ら討伐せざるを得なかった」

 

 この言葉にアスランの思考は停止した。

 何を言っているのか分からない。

 分かることはニコルがここにいないという事実だけだ。

 

「ニコルが…… ニコルがどうして……」

「アスラン、足付きを追うのはいったん中止だ。実はカーペンタリア基地に補充要員を待機させてある。先ずはその顔合わせとなるな」

「訳がわからない…… ニコルが、なぜいないんです? 裏切るって、そんなことあるわけないじゃないですか。ニコルですよ、隊長」

 

 どうしてもアスランには受け止められない。

 ニコルこそ、アスランにとってかけがえのない友、ザフトで唯一親しくしている者なのだ。

 戦いに向かないほど心穏やかなニコル、彼と裏切りという言葉とどうしても結びつかない。

 

 絶対に……そんなことがあるはずがない! という思いしかない。

 

 

 

 

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