コズミック・イラ のコンスコン!   作:おゆ

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第十三話 パナマ基地

 

 

 しかし、ニコルは死んだわけではなかった。

 

 ブリッツガンダムの高性能に救われる形となった。深く斬られ、海中に落ちてはいるが、自動で回復シークエンスが発動している。再起動後に補助推進装置くらいは息を吹き返したのだ。ただし飛び立つほどの力はなく、海上を進む。

 ただしその行き先は……カーペンタリア基地に戻るわけにいかない。

 おそらく何を訴えても聞いてもらえず、かえって処罰対象にされるだけだ。濡れ衣は晴らせない。クルーゼ隊長とでは信用のされ方がまるで違うだろう。

 

 とすれば行くべき場所はたった一ヵ所しかない。

 

 ここは太平洋上なのだから、南に行けば中立国オーブがある!

 むろんザフトがニコルを脱走と認定すれば政治的問題でオーブは受け入れないかもしれないが……どのみちそこしか行き場がない。

 

 そこまで行くにも一苦労で、実際ニコルとブリッツはオーブに到着する寸前に力尽きた。そこを救助という形でオーブが拾い上げていたのだ。

 

 ニコルが目を開けると、栗色の髪をした大人の女が見えた。

 

「ここは……」

「気が付いた? ここはオーブのオノゴロ島よ。正確に言えばそこのモルゲンレーテ社の病院ね」

「僕は、クルーゼ隊長に! このことをアスランに知らせないと」

 

 しかし女は慌てるニコルに構わず、というかそういうところに興味も見せない。

 

「さて、ブリッツは里帰りというところかしら。救助の見返りにデータは頂くわ。ブリッツの登録パイロット、ニコル・アマルフィ君」

「……」

「私はモルゲンレーテの開発主任、エリカ・シモンズ。どうしてもオーブ独自のMSを作りたいの。M1アストレイの完成まであと一歩、いいえ半歩なのよ。協力、よろしくね」

 

 

 

 

 

 同じ時、アーク・エンジェルの全クルーが愕然としている!

 

 やっとのことでアラスカ基地に到着したはずが……

 そこには何もなかった。

 

 死の静寂が支配している。

 基地があったはずの中心部は陥没し、まるで湖だ。ここであまりにも大きなカタストロフィがあったのだろう。

 基地守備隊の残骸も、ザフトMSの残骸も数多く転がっている。

 それら全ては動くことがない。戦いが終わり、しかし勝者は存在しない。いるのは死者だけだ。

 

 しかもその死者の姿は、ただの戦闘とは思えないほど酷いものだった。人間の形を……まるでとどめていない。探索したクルーは例外なく吐いている。連合兵もザフト兵も死の間際にどれほど苦しかったのだろうか。

 

「どういうこと…… これは……」

 

 マリュー・ラミアス艦長の問いに誰も答えることはない。

 

 

 だが長居はできないのだ。

 これでは補給もなにもやりようがなく、アーク・エンジェルは仕方なくパナマ基地に向かって引き返す。

 その途上で連合兵のわずかな生き残りを拾ったのだが、彼らは異口同音に驚くべきことを言っている。

 

「基地は中心から溶けた…… ザフトの攻撃じゃない! 味方がやったんだ!」

 

 もしそうなら恐ろしい結論が導き出される。

 連合軍はザフトの部隊を全滅させるために基地を囮にして引き付けた。それだけならいい。だが実際は基地に連合の守備隊もいたのだ! それら勇敢に戦う連合軍兵たちはこともあろうに味方に殺された。ただの捨て石、いや餌として。

 そしてアーク・エンジェルも……おそらく餌にされていたはずだ!

 急にアラスカ基地に呼ばれたのはそれ以外に有り得ない。

 

 首脳部から疎まれていたのは分かっていたが、まさか味方に殺されるところだったとは。余りに衝撃的である。

 アーク・エンジェルは不穏な空気に包まれる。

 マリュー・ラミアス艦長はいつも通りに振る舞っているようだが、やはり心中の動揺は隠せない。唯一いつも通りに見えるにはナタル・バジルール中尉くらいなものだ。

 

 

 

 しかし、アーク・エンジェルの過酷な試練はまだこれからだった。

 

 パナマ基地に到着し、補給を済ませてわずか三日後、ここにザフト軍が攻め寄せる!

 

「パナマ基地にザフトが! アーク・エンジェルも支援しなくては」

 

 当然のようにマリュー・ラミアス艦長がそう言ったのだが、基地の方からすげなく断ってきた。

 厄介ものの艦の支援など必要ない、ということだ。

 

「言い方は悔しいけれど基地の判断がそうであれば、従うしかないわね。ナタル、アーク・エンジェルを最前線から後退させて」

「艦長、基地の判断は決して悪くありません。ここではアーク・エンジェルは部外者であり、守備の統率のためには下手に手を出させない方がいいと考えたのでしょう。それにこの程度のザフトの部隊に基地は陥落させられませんし」

「大丈夫かしら…… 連合軍にとって、アラスカ基地を失った今、パナマ基地の存在は大きいわ」

「ザフトの戦力は艦数八隻、MSは六十機というところです。パナマ基地の堡塁を抜けるほどとは思えません」

 

 ザフトの戦力は決して少ないとも言えないが、一気呵成にパナマ基地を攻略できるほどのものではない。

 連合は量産型MSの生産を始めたばかりでパナマ基地に配備されたのは僅かしかない。しかしさすがに主要基地だけあり、幾重もの頑強な堡塁と多数のミサイル発射台、装甲車両によって守られている。

 

 アーク・エンジェルは後方に下がり、待機の姿勢を取った。

 これが幸運だったのか……

 

 

「あっ、回路に異常!」

 

 激戦が繰り広げられる戦場で異変が生じた。

 ザフトの新兵器、グングニルが牙を剥いたのだ!

 それは電磁波兵器であり、強力な電磁波が連合の守備戦力に襲い掛かる。

 人体に影響するほどではなく、ミサイルなども爆破されることはない。ただし、それを制御する装置を無力化したのだ。回路を巡る過電圧がたちまちのうちに部品を焼くか、安全装置を働かせてシャットダウンさせる。

 この瞬間、連合軍パナマ基地は無力化された。

 いくら兵器があっても動かなければどうにもならない。

 

「アーク・エンジェルCIC、シャットダウン! 再起動利きません!」

 

 CICのミリアリア・ハウが悲鳴を上げる。

 この異常は、彼女の目の前の管制装置だけの問題ではなかった。アーク・エンジェルはザフトの電磁波攻撃によって広い範囲で被害を被ってしまったのだ。

 

「ザフトの電磁波兵器…… アーク・エンジェル、どこまで稼働できるの!? ナタル!」

「兵器管制、全て落ちています! ミサイル、砲撃とも不能。しかし艦長、エンジン稼働だけは落ちておらず、マニュアル操舵で航行可能と思われます」

「そう、それは良かったわ。ならパナマ基地の様子は? スクリーンを上げて、光学投影に変えて」

 

 幸いにも後方に移動していたおかげでアーク・エンジェルは最悪の事態は避けられていた。戦う力は全くないが、移動はできる。

 ならば成すべきことは味方の撤退支援ではないか。

 本当ならパナマ基地はザフトの攻勢を撃退できるはずが、戦況は一気に暗転した。

 基地は…… もう保たない公算が高い。見える様子では基地からの砲撃もミサイルも全て沈黙している。おそらく連合軍兵士たちは突然の事態にあわてふためいているのだろう。

 その逆にザフトのMSジンは動けている! むろん、電磁波兵器を使うと分かっているので事前に防護措置をしていたのに決まっている。それらジンたちは今、思うさま猛威を振るっているのだ。

 張り子の虎になった連合装甲車や砲台を破壊しまくっている。

 

 

「ストライク、動けます!」

 

 ここで艦橋にMSカタパルトから通信が届いた。

 

「えっ? キラ君、ストライクが動けるって、OSは?」

「OSは落ちてます。起動は物理階層だけです。武装は何も使えませんが、ゆっくり動くだけならなんとか」

「そんなわけがないわ! OSの支援がなくて、姿勢制御できるはずがない」

 

 思いがけないことにマリュー・ラミアスもナタル中尉も驚く。むろん根拠があり、MSというものは各種駆動装置が連携し、完全な姿勢制御プログラムに沿ってこそ稼働できるのだ。OSがなければMSは立つこともできない。むろん技術畑のマリュー・ラミアスはそれを熟知しているから言っている。

 

 しかし、現実的にキラ・ヤマトは動けると言っているのだ。

 やはり違う…… 改めてコーディネイターというものの力を思い知る。

 

「だったら、味方の撤退支援をお願い。でも、決して無理しないで」

 

 

 

 その間にもザフトは侵攻を続けている。連合兵は命からがら逃げるばかりだ。

 

 そこへストライクガンダムが降り立つ。

 むろんザフト側は驚く他ない。電磁波兵器で敵戦力はもう完全に無くなったと思っていたのに、あのストライクが出現したのだから。クルーゼ隊をも退け続ける恐るべき難敵ストライク、ここは退いて警戒態勢に移る。

 

 こうしてストライクガンダムはザフトの目を引き、連合兵の後方移動を助ける…… だがそれなのに、連合兵は心無い言葉を言ったのだ!

 

「化け物!」

 

 連合兵の少なくない数がストライクに助けられておきながら、この言葉を言った。ストライクの動きは本来のものではなく、そのギクシャクした感じから電磁波兵器にやられたことが分かる。本来なら自分たちの扱う兵器同様、何も動けないはずなのに…… 化け物が動かしているのか。

 

 この言葉がキラ・ヤマトに届いた。

 

「僕が…… 化け物だって……」

 

 

 

 

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